グレモリーとアスタロトの試合当日。
俺は現在、テロリスト共と交戦していた。
「ギガブレイク!ギガブレイク!!ギガブレイクゥゥゥ!!!」
「うわあああああ!」
「何だあのバケモノはぁぁぁ!」
「今日は良い日だ、いくら殺してもお咎めナッシング!しかも獲物がいっぱいだぜぇぇ!!」
「「さぁ!パーティの時間だ!!Are you ready?」」
「「「OK!!!」」」
いや、正確には蹂躙だな。内の部下たちにどんどん始末されていく。
レーティングゲームに罠を仕掛けていた禍の団だったが、魔王の一人である現アスモデウスによって連中の動きは読まれており、逆に万全の態勢で迎え撃つ事になった。
ゲーム会場に結界で閉じ込められたグレモリーへの救援には何故か自主的に動いたオーディンとゼノヴィアが向かったが、オーディンの奴が態々たかが一悪魔を助けに行くなんて、何か狙いが有るのか?
「まぁ、今は兎に角斬り殺すか。念のためゼノヴィアをあっちに向かわせてるし……でも、なーんか嫌な予感がするのよねー。俺の勘はよく当たるからなぁ、良い意味でも、悪い意味でも」
目の前の悪魔を千切りにしながら、俺はそんな事を呟いた。
どうも、過去は気にせず未来に生きる女、ゼノヴィアだ。
私は今、モードレッドさんの指示でオーディン殿と共にグレモリー眷族の救援に向かっている。
しかしオーディン殿は凄いな、流石は北欧神話の主神だ。ゲーム会場を覆っていたテロリストの張った結界は相当に強力な物で、最上級悪魔クラスの攻撃でも壊れない強度がある。私だけでは結界内に入る事ができなかった所を、結界を容易く解除して内部に入れる様にするとは。
「アーシアァァァァァァァァァ!!!」
私達がゲーム会場に転移した時に見た光景は、グレモリー達が大勢の旧魔王派の悪魔たちに包囲され、ディオドラにアーシアが連れ去られる瞬間だった。
「イッセー、今はどんな状況だ?それから姫島、後ろからオーディン殿がセクハラしようとしているから気を付けろ」
「え?キャッ!」
「うーむ、良い尻じゃな。何よりも若さ故の張りがたまらんわい」
「オーディン様!どうして此処へ?」
グレモリーが驚きながらオーディン殿に問い掛けると、オーディン様は長い髭をさすりながら言う。
「うむ。話すと長くなるがのぅ、簡潔に言うと、禍の団にゲームを乗っ取られたんじゃよ。いま、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたのまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワーの向上も、オーフィスに蛇でも貰い受けたのじゃろう。だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ?救援が必要だったわけじゃ。しかしの、このゲームフィールドごと、強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。特に破壊は厳しいのぅ。内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんじゃよ」
「じゃあ、爺さんはどうやって入ってきたんだよ?」
「ミーミルの泉に片方の目を差しだしたとき、わしはこの手の魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなってのぅ。結界に関しても同様」
そう言うオーディン殿の瞳には、ルーン文字と思われる物が浮かび上がっていた。
「相手は北欧の主神だ!討ち取れば名が揚がるぞ!」
旧魔王派の悪魔たちが一斉に魔力弾を放ってくるが、オーディン殿が一度だけ杖をトンッと突くと、魔力弾が全て弾けて消える。流石は北欧の主神だ、たったあれだけの動作で攻撃を防ぐとは。私では今の攻撃を防ぎきる自信は無い。モードレッドさんだったら……そもそも防がないかもしれないな。ノーガードで受けて、対魔力で無効化。それから相手を挑発する光景がありありと浮かぶ。
「これを渡すようにアザゼルの小僧から頼まれてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとは、あの若造はどうしてくれるものか……」
オーディン殿はグレモリー眷属の人数分、耳に着けるタイプの小型通信機を渡す。私はもう着けているから必要ない。
「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿の方まで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
オーディン殿が杖を私達に向けると、薄く輝くオーラが全身を覆う。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ」
「でも爺さん!一人で大丈夫なのかよ!」
「イッセー、問題無い。オーディン殿は北欧の主神。この場に居る全ての旧魔王派の悪魔が一斉にかかった所で、勝ち目は無い」
「そうじゃぞ、まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ―――」
そう言いながらオーディン殿の左手に槍らしきものが出現し、
「―――グングニル」
その槍から放たれた極大のオーラが、数十人の悪魔の命を一瞬で刈り取った。……これが神の力か。今の一撃だって相当に手加減しているだろうに、アレを防げるイメージがまるでしない。
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」
「すみません!ここをお願いします!」
グレモリーがオーディン殿に一礼した後、私達はゲームフィールドである神殿へと走って行く。
神殿に入ると、通信機からアザゼルの声が聞こえる。
『無事か? こちらアザゼルだ。無事にオーディンの爺さんから渡されたみたいだな。言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは禍の団の旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』
アザゼルの予測していたという言葉に、私以外の面々は首を傾げる。
『最近、現魔王に関与する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは禍の団旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも、実際は旧魔王派の連中が手にかけてたってわけだ。首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。モードレッドが倒したカテレア・レヴィアタンといい、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。このゲームにテロを仕掛けることで世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。ちょうど、現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。襲撃するのにこれほど好都合なものもない。先日のアスタロト対大公アガレスの一戦から今回の件を予想できる疑惑は生じていたんだよ』
今回の試合はそれそのものが禍の団に対する囮であり、見事に連中は引っ掛かったというわけだ。
「では、あのディオドラの魔力が以前よりも上がったのは?」
グレモリーがアザゼルに問い掛ける。
『オーフィスの力を借りたんだろう。ディオドラがそれをゲームで使ったことは奴らも計算外だったろうな。それゆえ、グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何かが起こるかもしれないと予見できたんだ。しかし、奴らは作戦を途中で覆さなかった』
無限の龍神。世界のパワーバランスを崩しうるモードレッドさんですらも、戦いたくないと言う存在。奴のドーピングはそこまで凄いのか。
『あっちにしてみれば、こちらを始末できればどちらでもいいんだろうが。俺たちとしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を潰すには丁度いい。現魔王、天界の熾天使たち、オーディンのジジイ、ギリシャの神、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリストどもを一網打尽にする寸法だ。事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。いま全員、旧魔王の悪魔相手に暴れているぜ』
三勢力は大半の神話勢力から恨みを買っているからな。誰にも文句を言われずに暴れられる大義名分があるんだ、憂さ晴らしには丁度良いのだろう。
「……このゲームはご破算ってわけね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんなことになっちまっている。今回、お前たちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。奴らもそこまで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定、その通りになったが、お前たちを危ないところに転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
「もし、俺たちが万が一…死んでしまったらどうしたんですか?」
イッセーが何気なく聞くと、アザゼルは真剣な声音で言った。
『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首でことが済むならそうした』
万が一の時は自刃する覚悟だったのか。まぁ私達が居るからその万が一もそうそう起こらんとは思うが。
「先生、アーシアがディオドラに連れ去られたんです!」
『――っ。そうか。どちらにしてもお前たちをこれ以上危険なところに置いておくわけにはいかない。アーシアは俺たちに任せておけ。そこは戦場になる。どんどん旧魔王派の連中が魔方陣で転送されてきているからな。その神殿には隠し地下室が設けられている。戦闘が静まるまでそこに隠れていてくれ。あとは俺たちがテロリストを始末する。このフィールドを覆っていた結界はもう無いが、万が一って事はあり得るからな』
「アザゼル。私はグレモリー達を避難させた後、アーシアの救出に向かうぞ」
『分かった』
「待ってくれゼノヴィア。アーシアの救出には俺達も行く」
「……一応警告しておくが、これはゲームじゃなく本物の殺し合いだ。リタイア転送なんて無いから、負ければほぼ確実に死ぬぞ」
「それでも、俺はアーシアの仲間だ!家族なんだ!助けたいんだ!俺はもう二度とアーシアを失いたくない!」
イッセーの想いを支援するように、グレモリーが不敵な笑みを浮かべて私とアザゼルに言う。
「ゼノヴィア、アザゼル先生、悪いけれど私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。私の眷属を奪うと言う事がどれ程愚かな事か、教え込まないといけないのよ!」
「アザゼル先生?私達、三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使する権限があるのでしょう?今がそれを使う時では?ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」
「……だそうだぞ?アザゼル」
『……ったく、頑固なガキどもだ……。ま、いい。今回は限定条件なんて一切ない。だからこそ、おまえたちのパワーを抑えるものなんて何もない。――存分に暴れてこい!特にイッセー!赤龍帝の力を裏切り小僧のディオドラに見せつけてこいッ!』
「オッス!」
「……アーシア先輩は神殿の最奥に居ます。そこに、ディオドラとアーシア先輩の気配を感じますから」
「そこに行くまでの道に複数の気配があるな。恐らくはディオドラの眷族だろう」
私は亜空間からデュランダルを取り出して上段に構える。私の動きを見て、小猫も構えだした。アレは確か、かめはめ波だったか?
「ライザァァァ」
デュランダルから極大のオーラが噴出し、全長数百メートルにも及ぶ巨大な剣の形になる。
「か~め~は~め~!」
腰の辺りで構えられた小猫の両手に膨大な氣が集まっていく。これほどの仙術が使えるのは、少し羨ましく思うな。
「ソォォォド!!」
「波ぁぁぁ!!」
ドォォォォォォォォォォォォン!!
私達の攻撃により、神殿の一部が消し飛んだ。アーシアには当ててないし、大丈夫だろう。
「ちょ、ちょっと!?小猫もゼノヴィアも、貴女達何をやっているのよ!?」
「「何ってグレモリー/部長、こうした方が速いだろ?/です」」
「そうじゃなくて!アーシアにもしもの事が有ったらどうするの!?」
「大丈夫だ。アーシアの気配を見つけて、そこに当たらない様にやったからな」
「……です」
「……もう、いいわ」
グレモリーが何かを堪える様に頭を抱えているが、どうかしたのか?
「まだ少し敵は残っている。早く行ってアーシアを助けよう」
元神殿だった瓦礫の山を駆け抜け、比較的破損の少ない神殿に入った時だった。私達の前に見覚えのある人物が現れた。
「や、おひさ~」
「フリード、お前か」
「まだ生きていたんだなって、思ったっしょ?イエスイエス。僕ちん、しぶといからキッチリキッカリ生きてござんすよ?」
私はフリードを警戒しながら辺りを見渡す。ライザーソードをぶっ放した直後には有ったディオドラの眷族の気配が今は感じられず、姿も見えない事に違和感を感じていた。
「おんや~、もしかして他の奴等をお探しで?」
私の様子に気付いたフリードは、嫌な笑みを浮かべると、モゴモゴと口を動かして何かを吐き出した。
「俺さまが食ったよ」
それは、人の指だった。
「……その人、人間を辞めてます」
鼻を押さえながら言い放った小猫の言葉を聞いたフリードは、ニンマリと口の端を吊り上げて人間とは思えない形相で哄笑をあげる。
「ヒャハハハハハハハハハハッハハハハハッ!てめえらに切り刻まれたあと、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁぁっ!腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉぉぉおおっ!」
ボコッ!ボコッ!と、フリードの体の様々な部位が不気味な音を立てて膨らんでいく。
「行き場無くした俺を拾ったのが禍の団の連中さ!奴ら!俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよォォォォオオっ!ぎゃははははは!合成獣だとよっ! ふははははははっははははっ!」
ドラゴン、悪魔、堕天使、ケルベロス、獅子、鷲、その他様々な生物の特徴が体の各所に現れ、異形の存在へと変貌していく。…………合成獣よりショゴスの方が強い気がする。物理攻撃が効かないし、今のフリードどころか、もっと多くの生物の特徴を真似られるし。
「ヒャハハハハハハハッ! ところで知ってたかい?
ディオドラ・アスタロトの趣味をさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキだぜ!」
突然、フリードがディオドラについて語り出す。
「ディオドラの女の趣味さ。あのお坊っちゃん、教会に通じた女が好みなんだって!そ、シスターとかそう言うのさ!」
フリードの話を聞いて、私の中である事実に思い至った。
「そうか、そういうことか……よくよく考えれば、妙だとは思っていた。何故、グレモリーの様に人間界に住んでいる訳でもないのに、ディオドラの様な上級悪魔が、人間界の教会の勢力圏に居たのかが。眷族集めのためだとしても、わざわざ敵対組織に近付く必要は無い。だがアーシアを教会から追放するためだと考えれば、全て納得がいく」
「ピンポンピンポ~ン!だ~いせ~いか~い。シナリオはこうさ。あるところに、シスターとセッ◯スするのが大好きな悪魔がおり、チョー好みの美少女聖女さまを見つけました。その日からエッチしたくてたまりません。 でも、教会から連れ出すにはちょいと骨が折れそうと判断して、他の方法で彼女を自分のものにする作戦にしました。 聖女さまはとてもとてもお優しい娘さんです。神器に詳しい者から『あの聖女さまは悪魔をも治す神器を持っているぞ』と言うアドバイスを貰いました。そこに目をつけたお坊っちゃんは作戦を立てます。『ケガした僕を治すところを他の聖職者に見つかれば、聖女さまは教会から追放されるかも☆』と! 傷痕が多少残ってもエッチ出来りゃバッチリOK!それがお坊っちゃんの生きる道!信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生を狂わされたら、簡単に僕のもとに来るだろう、と!」
心底愉快そうに、フリードは嗤いながら話し続ける。
「ヒャハハハハ!聖女さまの苦しみも、坊っちゃんにとってみれば最高のスパイスなのさ!最底辺まで堕ちたところを掬い上げて犯す!心身共に犯す!それが坊っちゃんの最高最大のお楽しみなのでした!今までもそうして教会の女を犯して自分のものにしたのです!それはこれからも変わりません!ディオドラ・アスタロトくんは教会信者の女の子を抱くのが大好きな悪魔さんなのでした!最っ高にイカれてるだろ?笑っちまうぜヒャッハハハハハハハッ!」
「もういい」
斬ッ!
「ハハハハ……あ?」
「貴様は永遠に、その汚い口を閉じていろ」
私は、自分が出せる限りの最高の速度で、フリードをバラバラに切り刻んだ。
「んだよ…そりゃぁ……強すぎんだろ……」
そう言ってフリードは事切れた。私はフリードの死体を一瞥し、呟く。
「アーシアには、改めて謝罪しなければならないな。教会の警備がもっと強固なら、彼女がディオドラの謀略にかかる事も無かった」
私は決意を新たに、歩を進めた。