吾輩はフェンリルである。名前はもうある。というか、フェンリルが種族名であり、個人名でもあるのだ。
さて、今回の事の顛末等を語る前に、少し吾輩の事を話しておこう。
吾輩は悪神であるロキと、女巨人アングルボザとの間に生まれた三兄弟の長子であり、ラグナロクに於いて主神であるオーディンを喰い殺すとされる狼だ。
そんな吾輩がネットを知り、その存在にハマったのは少し前の事。
北欧神話は慢性的な英雄不足だが、だからといって英雄が全く入って来ないというわけでもない。毎年新しく入って来たであろう者をチラホラと見かけるし、父であるロキに挨拶に来ると、序でに吾輩の事を見ようとする者も居るからな。
ある日の事。
偶然すれ違った新入の事務仕事担当の英雄が言っていた愚痴が聞こえた。「パソコンやネットを使えば速いのに、なんで態々紙媒体を使うんだ……」と。
後日パソコンを本格的に導入したことで、事務仕事の作業効率が上がったとかなんとか聞いたが、今はそんなことはどうでも良い。
パソコン。
人間が作った科学技術の結晶の一つ。そしてそれらを使って作られる、情報共有を行う為のシステム。それがネットワーク。
人間はこれを軍事に利用するらしいが、幾ら情報を共有しようと、我々人外の者共には無駄であるのによくやると、当時の吾輩は思っていた。
まぁ、元々人間同士で戦う為の物なのだから、よくよく考えてみればかなり利便性が有るのに気付いたが…。
パソコンの存在を思い出した吾輩は、どうせ暇なのだからと、ネットをやってみる事にしたのだ。
ラグナロクが起きない限りは、基本的に吾輩、仕事無いし。あるとしても侵入者を自主的に殺すだけだし。
準備するのに手間こそかかったものの、始めて直ぐに吾輩はパソコンにハマっていった。
四六時中マウスをクリックし、動画サイトを巡り、スコップを振るう日々。ハマりすぎて息子たちの相手をするのを忘れてしまったほどだ。(その後一週間口を利いて貰えなかった)
嗚呼、素晴らしい物だな。2ちゃんねるやニコニコ動画。youtube。そしてネトゲ。これほどの物を創るとは、人間とは侮れんな。
そしてなによりも、吾輩が得た物の中で至高とも言える物がある。それはエロゲーだ。
話は変わるが、吾輩には子供がいる。息子のスコルと娘のハティだ。二匹は、吾輩が
北欧神話の戦力強化の為に吾輩の子を欲していた親父が進めてきたものだったが、巨人の女と子を作るのに反対は無かった。美女であれば最高だが、多少ブサイクだろうと文句は言わんし愛す気も有った。だが流石に老婆とかはあんまりじゃないか!?
相手の巨人の女を紹介すると言われて待っていたら、老婆連れてこられて、お前の子を産む女だ。とか言われても困るわ!
ああそうさ!吾輩だって少しは期待したよ!美人の奥さん貰って幸せになりたいとは思ったよ!でも流石に老婆は予想外だったよ!?思わず父に相談したら「より優秀な血を持つものを選んだまでだ」とか抜かしやがったよ!ざっけんな!吾輩にだって好みくらいあるわ!
吾輩が渋っているのを見た父は、何とグレイプニルまで取り出して縛り付けてきた。そのせいで吾輩は抵抗も出来ず………。老婆に逆レされて童貞喪失とか、トラウマもんだわ!そのせいで吾輩、EDになったんだからな!ついでに火事場の馬鹿力で、グレイプニルを引きちぎれるように成ったけど!
EDになった吾輩は、最早性欲とは無縁となった。いや、性的興奮は覚えるのだが、吾輩のマイサンが反応しかける度にあの時の光景が脳裏を駆け巡るのだ。そして次の瞬間には、色々と速攻で萎える。
だがしかし!エロゲーは、そんな吾輩に希望を与えてくれたのだ!
初めてプレイしたエロゲーで、主人公がヒロインとハッピーエンドになった時などは、感動のあまり号泣してしまった。
中でも日本のエロゲーは質が高い。吾輩では想像もつかないような内容の物が沢山ある。
親父には悪いが、今回のオーディンの日本神話との会談は個人的には嬉しかった。なにせ今回の会談で正式に同盟が結ばれれば、大手を振って日本で買い物ができる。
今まではネットで発注するか、北欧神話の勢力圏内で発売されるのを待たねばならんかったし、そもそも日本にしか売ってない物もあるからな。
親子としての義理で親父に付いてきたが、実を言うと良いタイミングで裏切る算段だった。オーディンを殺したら神話としてかなり弱体化するし、日本に居られなくなってしまう。
まぁ、吾輩と張り合える友。モードレッドと会った事で、その考えは無くなったがな。
本気ではなかったとはいえ、吾輩の動きに反応し、あまつさえ反撃までしてくるとは。そんな事ができる人間は、英雄達の中にさえ一人としていなかったというのに。あの戦いは本当に楽しかった。それだけに戦いに横やりを入れてくれた白龍皇には怒りを禁じえなかったが。今度会ったらボコボコにしてやる。
オーディンと日本神話との会談当日に、モードレッドと再び対峙した。まさか奥の手である界王犬を使わされ、あまつさえあそこまで追いつめられるとは思わなかった。…………分ってる。皆まで言うな。
吾輩は吹っ飛んできた親父にぶつかって、そのまま気絶。目が覚めたら見覚えの無いベッドで寝かされていた。そして起きて直ぐの吾輩を襲ったのは、途轍もない虚しさだった。
…………あそこで……あのタイミングで……。
吾輩の目が覚めて直ぐ、モードレッドが部屋に入ってに来た。吾輩が居たのはモードレッドの自宅らしく、倒れた吾輩を確保、治療したらしい。
あの傷で15倍界王犬を使ったのだから、さすがに死を覚悟していたのだが、いったいどんな治療をしたのやら。吾輩が咬み千切った筈の腕が付いていた事も含めて訊いたが、モードレッドの使い魔の中に途轍もない医療技術をもった種族がおり、そいつらに治療させたのだとか。あの状態から治せるとか、そいつら凄いな。
あの戦いの後、親父は拘束されアースガルズに護送された。ラグナロクの開始まで蛇の毒が滴る洞窟へ幽閉される事となった。奇しくも神話と同じ形になったな。
吾輩は責任の大半を親父に押し付けて言い逃れをしたのだが、誰も追及しないどころか寧ろ進んで親父に罪を着せていく光景を見て改めて思う。どんだけ嫌われてるんだ、親父。ヘラですら庇おうとしなかったぞ。
娘のハティが白龍皇の率いるヴァーリチームなる面々に連れていかれたそうだが、そんなに心配はしていない。あの子は
寧ろ吾輩としてはスコルの方が心配だ。
子供たちは親父に無理矢理やらされたという事にしてお咎めは無くなった為、吾輩の後釜として今、あの子が期待されている。素質としては申し分無いし、真面目な子だから実力が付いたら吾輩の立場を譲ろうかと思っていた程だ。
ただ真面目だからこそ、勝手気ままな神々に振り回されないか心配だ。良くも悪くも、神は欲望に忠実だからな。スコルが日本で見つけた奥さんが、上手く支えてくれるといいが。
御相手は白狼天狗の椛という子で、東方projectの犬走椛にそっくりな子だった。初めて会った際にモードレッドと一緒に「「リアル椛キタ――(゚∀゚)――!!」」と叫んでしまった吾輩たちは悪くないはずだ。そのせいで凄く警戒されたが……。
椛は北欧と日本交流の一環として北欧に迎え入れる事となる。白狼天狗は天狗の一種であり、天狗はれっきとした山神の一種。フェンリルの血統を産む母体としても問題は無かったしな。
今回の会談によって、北欧神話と日本神話は本格的に交流を持つこととなった。
主な内容としては、北欧神話からはユグドラシルの情報を、日本神話からは神道や後天的に神を産む方法を。日本には八百万の神が居るからな、多少なら神にも替えがきくというのは凄いことだ。
交流の一環として、スコルが産んだ子を日本神話が一匹貰い受ける事にもなっているが、そんなことは些細な問題だ。どうせ温厚な日本神話と争うことなんてそうそうないし、ラグナロクにならない限りは基本的に仕事がない吾輩の一族なら、会おうと思えばいつでも会いに行けるからな。
次はオーディンについてだ。
最近のオーディンの行動に首を傾げる者が多いが、奴を詳しく知る者なら直ぐに分かる。オーディンの奴の目的は、十中八九他神話の知識だろう。奴は知識に対して貪欲だからな。ある意味、親父よりも質が悪い。
ミミルの泉によってこの世界に関する膨大な量の知識を手に入れたオーディンだが、それにも例外はある。他の神話の魔術や魔法とは違う技術の知識や、神秘の関わらない科学文明。そしてこの世界以外の知識だ。奴は万知ではあっても全知ではないからな。
恐らくはだが、三大勢力と同盟を結んでいるのもそれが目的だ。北欧神話は禍の団との和睦の条件として、死後に英雄派の人間の中から有望な者を引き入れる契約をしている。それゆえ連中は我々の勢力に手出しをしてこない。後に自分が属す事になる場所に攻撃する馬鹿はいないだろう。
だからこそ北欧神話は、安心して三大勢力と同盟が組める。
これからも英雄派による三大勢力への襲撃へ続くだろう。英雄派が無差別に各勢力を狙えば話は別だったが、三大勢力を集中的に攻撃し続ければ、その被害は無視できない程大きなものになる。それこそ、他の勢力に頼らなければならない程に。
そして三大勢力は、数少ない同盟勢力として北欧を頼る事が多くなるだろう。そうなればオーディンの思う壺だ。
多少の支援ならば同盟勢力としての義理立てという事で済ませられるが、それ以上は相手に借りを作る事になる。そして借りが多くなり過ぎると、相手の要求を断りづらくなる。
それによって奴は堂々と三大勢力の持つ知識を手に入れられる。それこそ、他の神話には隠しておきたい様な物までな。
三大勢力はかつて聖書の神が生きていたころ、最強を誇った神話だ。連中に滅ぼされた神話も数多くある。そして、そんな滅ぼされた神話しか知り得ない様な知識も、三大勢力は持っている可能性がある。
以上の事から、オーディンは英雄派を利用して三大勢力から搾り取る気なのだろうと吾輩は予測する。
魔王の中には優秀な戦略家が居るらしいので、オーディンの考えが読まれている可能性もある。しかしこればかりは、読めていたとしても防げる事ではない。
三大勢力は組織として数が少なくなり過ぎた。英雄派が数を頼りに戦略的に行動する以上は、三大勢力は対処を仕切れない。
対処仕切れない故に、勢力としての更なる弱体化は避けられず、他勢力からの助力が必要になる。
ここまで語ったが、吾輩は別にこの事をモードレッドにも、それ以外にも教える気はない。
結局の所、三大勢力が被害を被るのは自業自得の結果だ。英雄派が三大勢力の被害者の集まりなら、連中は今までやってきたことの報復を受けたに過ぎないのだから。
寧ろ北欧神話の利益となるのなら、進んで黙っておくさ。
最後に吾輩の処遇について語ろう。
スコルは結婚、ハティは自立(職業:テロリスト)したし、吾輩はそろそろ隠居することに決めた。といっても本格的に隠居するのはスコルが吾輩の後を継いでからだが。それまではモードレッドの所でやっかいになる事にしたのだ。気の合う友人として迎え入れてくれたが、生活費を入れることを要求された。
貯蓄はスコルとハティのために残しておく分を除いても一生遊んで暮らせるくらい貯まっていたので、晴れて素晴らしきニート生活のスタートという訳だ。
エロゲ三昧の日々が、吾輩を待ってるぜ!
そういえばどうでもいいので忘れていたが、オーディンの御付きだったロスヴァイセとかいうヴァルキリーが、日本神話との交渉役兼吾輩の監視員として日本に残るらしい。本当にどうでもいいがな。