昨晩キャスターを見逃してやった後、俺はマスターを連れてアインツベルンの城に戻った。
翌日の予定を詰めた後(といっても何処を散策するかだが)マスターが寝てる間に使い魔を使って町を見回す。金ぴかの野郎が居たら、念のためマークしておこう。今回の敵の中では、奴が唯一の鬼門だからな。
「ねぇねぇバーサーカー!アレは何!?」
「アレはたい焼きだな。魚の鯛を焼いた物じゃなく、中にあんこが入っている、魚の形に生地を焼いたお菓子だ。食うか?」
「うん!」
昨日は深山町の方を散策していたので、今日は昼間から新都の方を見て回っている。
一応教会の方には近付かない様に気を付けよう。マスターが居る状況で金ぴかと戦うのは不味い。
「あむ、もぐ…もぐ…んぐ。美味しい!」
「そうか。良かったな」
マスターが興味を示した物は取りあえず片っ端から買っているが、かわいい物に浮かれて、甘い物を食べて喜ぶ。こうして見ると、マジで普通の女の子にしか見えんな。
衛宮切嗣を憎む気持ちと、父として慕う気持ち。
その息子であり、自身には無かった親の愛をもって育てられた衛宮士郎への嫉妬にも似た感情。
そして、そんな複雑な事情にあっても、もう家族を失いたくないという思い。
今回のマスターも、大概面倒な事情を抱えてんなぁ。
こんなシリアスは、どうにかしてぶち壊してやりたくなる。
「バーサーカー!次はアレよ!あの白くて丸いの!」
「はいはい。ああ、あとそれ団子だから。ちゃんと噛まないと危ないから!それに人混みで走んな、危ないから!」
女子のエスコートって大変でござる。
時刻は変わって夜。教会近くの森の中に、俺とマスターは気配を消す魔術を使って隠れていた。
実は今日一日、俺はマスターの意向で、マスターのエスコートをしながら、使い魔越しに衛宮士郎の観察していた。
衛宮士郎の人となりや日常生活を見ながら、思ったことは、兎に角御人好しな奴だった。自己犠牲精神が強いというかなんというか、俺とは別の意味で精神が歪な奴だ。
そんな衛宮士郎を見て、マスターは一喜一憂していた。多分そうとうエグいこと考えてるんだと思う。
そんなマスターだが、遠坂凛が呼び出したアーチャーと、昨晩のランサーが学校で戦っている所に衛宮士郎が巻き込まれてランサーに殺された時には、キレてランサーを殺しに行こうとした。
直ぐに遠坂が衛宮士郎を蘇生したことで、なんとか押し留まったが。
その後死んだ場所で目覚めた衛宮士郎は家に帰るも、目撃者をランサーが見逃す筈もなく追撃。あと一歩で殺される所で、衛宮士郎がセイバーを召喚した。セイバーが召喚されなかったら、俺が助けに入ってたけど。
召喚されたセイバーは、案の定というか父さんだった。雰囲気から平行世界の別人だと分かったけど。
マスターは複雑な表情でセイバー(父さんと紛らわしいので、以降セイバーと呼称)を見ていたな。まぁ、四次の事もあるから、仕方の無い事か。
聖杯戦争の知識を持たない衛宮士郎は、遠坂凛に連れられて、監督役がいる冬木教会へと向かった。
そこで聖杯戦争に関する一通りの説明を受けて、衛宮士郎は聖杯戦争への参加を承諾した。
教会からの帰り道で遠坂凛と諸共に襲う事にしたため、彼等が通り掛かるのを待っているのだ。
そして二人が道を通り過ぎ、交差点で二組が別れようとしたところで出て行き、魔術を解く。そしてマスターが話しかけた。
「ねぇ、お話は終った?」
「「「「!!」」」」
サーヴァントを含め、彼等は全員驚愕の表情でこちらを振り向く。驚愕の理由はこれだけ近くに居ながら、まったく気付かなかったからだろう。約一名、別の驚きも混じっているだろうが。
「こんばんはお兄ちゃん、リン。こうして会うのは初めてになるね。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「アインツベルン……!」
遠坂凛が呟いた後、俺を見て息を呑んだのが分かった。恐らく俺のステータスを見たのだろう。今の俺はセイバーの完全な上位互換。直感を除けばスペックも技量も宝具も俺の方が上だ。
「ねぇ、バーサーカー?」
「何だ?マスター」
あっちが俺対策に相談している間、暇なマスターは俺と会話している事にした様だ。
「セイバーは、貴方のお父さん何だよね?」
「あぁそうだ。といっても平行世界の別人だがな。父さんは死後、妖精郷に行くことが決まってるから、聖杯を求めて世界と契約しない限りは聖杯戦争には出られない。代わりに割と頻繁に妖精郷を抜け出して、現代の食を謳歌してるらしいけど」
「…………」
父さんの現状を聞いて、マスターは「それは英雄としてどうなの」といった、何とも言えない表情をしている。
ふと彼等の方を見れば、アーチャーがいなくなっている。恐らくは狙撃に適した場所に向かったのだろう。マスターが狙撃されない様に、保険を掛けておくか。
「相談は済んだ?なら、始めちゃっていい?」
マスターの言葉に反応して、各々構えだす。俺はマスターよりも前に出て、何時でも突撃できるように準備しておく。今回はクラレントの力も使ってステを上げて行こう。
「やっちゃえ、バーサーカー」
「シャアァ!!」
手始めにセイバーに突進し、打ち上げる様に剣を振り上げる。セイバーはレインコートを脱いで剣で防ぐが、勢いのままに吹っ飛んでいく。追撃の為に跳躍し、セイバーの上を取って斬ろうとしたが、上を取った所で横合いからアーチャーの矢が飛んできたため断念する。
カァン!カァン!カァン!
矢を弾いてその反動で落下、地面に着地すると同時に再びセイバーに斬り掛かる。
ガキィン!
セイバーは魔力放出を使ってか、俺の筋力と一時拮抗し、受け止めたセイバーと鍔迫り合いになる。このまま力ずくで押し切っても良いが、それでは芸が無いので、俺は少し遊ぶことにした。
俺は片手で剣を持って鍔迫り合いを維持し、もう片手で、セイバーの
「なっ!?」
「ラァ!!」
俺は再び飛んできたアーチャーの矢に当たる軌道に、セイバーを投げつける。俺に当たる筈だった矢はセイバーに着弾。その身に少なくないダメージを負わせた。
未だ空中に居るセイバーに向かって跳躍し、剣で斬り掛かるフェイントを見せてそれに反応した直後に右脇腹に痛烈な回し蹴りを叩き込んだ。しかし直感でフェイントだと判断したのか、ギリギリのところで剣を引き戻されて防がれるも、蹴りの体勢から勢いで体を一回転させて、セイバーの心臓目掛けて赤雷を纏った左拳を叩き込んだ。
「が、ぁ…っ」
胸当てが砕ける程の力で殴られ、凄まじい勢いで地面に叩きつけられたセイバーは盛大に吐血した。セイバーが落ちた地点の地面は粉々に砕け、衝撃で周囲に罅が入っている。落ちたセイバーは無理を押して体を起こし、上空の俺に対応しようとしている。
今の一撃でまだ動けるとは。心臓を狙った筈だが、僅かに狙いが逸れてしまったようだ。それでも肺は潰れただろうが。
「
俺は魔術で足場を形成し、それを蹴ってセイバーに接近。今度こそ殺す為に心臓に剣を突き立てんとしたその時、またアーチャーによる邪魔が入った。
これ以上邪魔されるのも面倒だったので、飛んできたの内一本に狙いを定めてそれ以外を叩き落とし、それを掴み取って空中で投げ返してやろうとした。だが投げる直前、矢から嫌な予感がしたので即座に手放し、たたっ斬った。斬られた矢は空中で光となって消え去る直前に膨大な魔力を発していたので、斬って正解だった。
矢を迎撃する為に取った体勢を戻し、セイバーの近くに地面に着地。するとセイバーが、こちらに対し突きを放つ構えを取っていた。近距離とはいえ突きが届く距離ではないにも関わらずのこの構え、放たれる技は恐らく。
「
「嘘!?バーサーカーが喋った!?」
「!ストライクッエアッッッ!!」
遠坂凛が驚愕の声をあげ、セイバーも俺が普通に喋った事に驚いた様だが、そのまま風王鉄槌を解き放った。そして俺は、真正面から風王鉄槌に突っ込む。
大地を削りながら迫っていた風王鉄槌は、俺に触れた瞬間に、先程の威力が嘘の様に消え去った。
「っ!?」
セイバーへ下段から剣を振り上げ、防御を弾いた後に振り下ろす。半身になって躱されるが、反撃に出て来る前に避けたセイバーへと連続で追撃を加える。後退しながら追撃を捌いていくセイバーだが、捌き切れずに裂傷を負っていく。
俺はセイバーの剣を鎧の肩の部分で滑らせて受け流し、そのままタックルを仕掛け、距離を詰めて肘打ちを胸当ての壊れた部分へ当てる。痛みで呻いた一瞬の内に頭突き、髪を掴んで引き寄せて腹部に膝蹴りを浴びせ、反撃に振るわれた剣を飛んで回避し、空中で一回転。
「チョイサァー!!」
「…ぁっ!」
踵落としを後頭部に叩き込む。するとセイバーは前に倒れこみ、そのまま動かなくなった。まだ息はしている様だが、このまま治療せずに放置していれば、そのうちくたばるだろう。
俺はセイバーを捨て置いて、アーチャーを仕留める為に意識を向けた。その瞬間、こちらに高速で強大な力が迫っているのに気付く。
「宝具か…」
俺は力の軌道上に虚数空間の入り口を展開、出口を宝具が飛んできた方向へと向けて展開する。
「生憎と俺に飛び道具は効きづらくてな。対処は割と簡単にできる」
進行方向を変更された矢が、再び飛んできた矢によって撃墜され、爆発する。
あそこがアーチャーが居る場所か。俺は二発目の矢を見た直後に拳銃を二丁呼び出し、アーチャーの居る方向へ構え、連続で引鉄を引く。
「イア・イタクァ!」
弾丸が切れると同時に別の拳銃に持ち替え、絶え間なく銃を撃ち続ける。対してアーチャーは大量の矢で弾丸を打ち落としていくが、何度も軌道を変えて迫る弾丸を完全に落としきれずにいた。しかし矢の数はあちらが多いようで、弾丸を落とす矢以外にも数十本の矢が此方に迫っている。
俺は一本の矢を弾いて他の矢にぶつけ、連鎖的に複数の矢の軌道をずらしていき、何本か同じ事をして俺に当たる物を無くした。
ドスッ
「ん?」
何かが刺さる音が聞こえた為そちらに視線をやると、地面に穴が開いていた。近づいて見てみれば、大きさは丁度片手剣を突き刺した程度の物で……ッ!まさかッ!
「野郎ッ!」
直感と同時に頭にある考えが浮かび、それと同時に防御の構えを取る。直後。
ドガァァァァァン!!
穴の開いた場所にあった何かが、大爆発を引き起こした。
「チッ、鎧がなければ危なかったかもな。ちと、あの野郎を舐めすぎてたぜ。まさか、透明の矢を時間差で爆発させるとは…」
その爆発の威力は凄まじく、周囲の地面が丸ごと抉れている。先程の高威力の矢とは違う透明の宝具。爆発の直前までたいした力を感じなかった透明なだけの剣が、ここまでの破壊力を持つとは考えにくい。とすると壊れた幻想を使ったのだと考えられる。無限の剣製、王の財宝とは違った意味で面倒な魔術だ。
セイバーの方を見れば、遠坂凛が宝石魔術でセイバーの身を守っていた。恐らく事前にこの攻撃を伝えておき、セイバーを俺の側から回収するつもりだったのだろう。
「ふーん、やるじゃない、リン。セイバーはどうでもいいけど、貴女のアーチャーには興味が湧いたわ……良いわ、戻りなさい、バーサーカー」
マスターの命に従って、俺はマスターの側へと移動する。
「何よ、見逃すってわけ?」
「ええ、つまらない事は早く済まそうと思ったけど、気が変わったの。だから、もう暫く生かしておいてあげる」
俺はマスターを連れて、D×D世界で学んだ転移術の行使をしようとしたが、ふと思い出したことがあったので、中断した。
「マスター、ちょっと忘れ物があった。少し待ってくれ」
「えー、折角カッコよく去るところだったのにー」
「ごめんって、帰ったら好きなお菓子を作るからさ、な?」
「もう。じゃあ、ショートケーキね!」
「了解」
マスターの了承を取った後、俺は動かないセイバーに寄り添っている衛宮士郎に近付いた。
「ちょっと!衛宮君になにをする気!」
「安心しろ、殺しゃしねーよ。お前もジッとしてりゃ、直ぐに済む。セイバーにも手は出さん」
「……本当だな?」
「ああ」
俺は衛宮士郎の腹に手を当て、かつて父さんを倒す為に使った魔術を行使する。
「
バチッ!
「うわっ!」
衛宮士郎の中からセイバーの聖剣の鞘、
「その…鞘、は!」
「そう、アンタの鞘だ。まさか、何の触媒も無しに同じ英霊が同じ聖杯戦争に二度も呼ばれるとでも?」
俺の場合は平行世界だから、今回はノーカンな!
「流石の俺も、この鞘を持ったアンタを相手にするのは面倒だからな、アンタが気付くよりも先に盗らせて貰った」
俺は鞘を持ってマスターの方へ歩いて行く。傍に来た所で、転移術の行使を始める。
「じゃあね。また遊んでね、お兄ちゃん」
一瞬で視界が切り替わり、次の瞬間にはアインツベルンの城の前に居た。
「さっ、バーサーカー。約束通りショートケーキを作ってよね!」
「ああ、でも夜も遅いから、食べるのは明日な」
「えー、私は今食べたいのにー」
「太るぞ」
ゲシッ
蹴られた。でも鎧着てるから痛いのはマスターだが。
「~~~ッ!もう!レディにそんなこと言っちゃダメなんだから!」
それは良いがマスターよ、足押さえながらながら言っても格好がつかないぞ。
「ほら、足見せてみな。治療するから」
「……うん」
なんともまぁ、締まらねぇなぁ。