叛逆の騎士ですがなにか?【永久凍結】   作:くずもち

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第50話 モーさん、セイバーを奪還する

深夜。冬木教会の直ぐ前に俺たちは来ていた。メンバーは俺にマスターに衛宮士郎と遠坂凛。以上の四名。ちなみにここまでは、俺直々に改造を施した高級車、メルセデス・ベンツェに乗ってきた。遠坂凛は最初見たとき、心の贅肉とか言ってたな。代わりに「貧乏人乙!」って、煽っといたけど。

 

「さて、俺らは今教会の前に居る訳だが。どうやって侵入する?」

 

「どうやってって。正面から以外にあるのか?」

 

俺の問いかけに衛宮士郎が疑問を口にするが、俺は尤もだと思い答えた。

 

「そうだな。正面から行くのはそうだが、トラップが仕掛けられてるかもしれない建物に、馬鹿正直に入るのはどうかと思ってな」

 

「それは……そうだな。でもどうするんだ?」

 

「ふむ……よし。じゃあ、こんなんでどうだろう?」

 

俺が取り出したのは、マウスという名の超デカいドイツ製の戦車。それを召喚と同時に即ぶっぱし、教会の一部が音をたてて崩れる。

 

「拠点攻めに攻城兵器は基本」

 

「「やりすぎだ(よ)!!」」

 

「サーヴァントには効かんから大丈夫だろ」

 

崩れた教会の瓦礫の山の上に、アーチャーが姿を見せる。

 

「まったく、いきなりコレとはご挨拶だな」

 

「俺は敵には情け容赦はしない主義でな。別にセイバーが居る地下へ繋がる道は崩してないんだから、派手にやっても問題ねぇだろ」

 

「大有りよ!」

 

「えぇー、うるせぇなー。もうお前ら先に行けよ」

 

俺に言われて二人は、今さっき壊した教会の中へ入っていく。アーチャーはそれを止めずに、こちらを警戒している。

 

「兜はどうしたバーサーカー?いまさらになって、素顔を晒さないのは騎士道に反する。とでも言うつもりかね?」

 

「いんやまったく。兜はギルガメッシュにぶっ壊されてな。対価として野郎には死んで貰ったが」

 

「…アレを倒したのか。成る程、一筋縄ではいかなそうだ」

 

「慢心王が慢心を突かれて死ぬのは当然のことです」

 

「……バーサーカー」

 

「分ーてるよ、マスター。殺さねぇように手加減する」

 

マスターにはアーチャーの正体を教えている。魔術回路や魂の質と形状から、摩耗していても同一人物だとは分かるからな。

大凡その目的も知っているマスターは、アーチャーを殺すことを良しとしなかった。決着は、衛宮士郎自身に着けさせる気だろう。

 

俺は剣を地面に突き刺して、前に出る。それを見てアーチャーは、訝し気に眉を顰める。

 

「何の真似だバーサーカー。自ら武器を放棄するなど、殺してくれと言わんばかりじゃないか」

 

「なぁに、お前を殺すなとマスターに命じられてるからな。武器を持たないのは加減の為だ」

 

俺はアーチャーに接近して、真っ直ぐに拳を突き出す。アーチャーは身を翻して横に躱すが、拳圧だけで正面にあった教会の扉が吹っ飛ぶ。

 

「行くぞアーチャー。本気で掛からねば、こっちが手加減しても死ぬぞ?」

 

アーチャーは白と黒の双剣を投影し、構えた。俺はそれを見てから近づいて殴りかかる。左のジャブを連続で打つと双剣で受け流されたが、続けて右でアッパーカットを繰り出す。アーチャーは一歩下がって躱すが、拳に纏っていた赤雷が攻撃範囲を広め、アーチャーを掠る。

出した腕を引き戻す勢いで半回転しながら回し蹴りを出すが、しゃがんで躱される。俺はそのままの勢いに任せて体勢を崩し、手を地面に着いてブレイクダンスの要領で連続蹴りを繰り出す。幾つかの蹴りは防がれたが、最後には腹部を蹴とばして吹っ飛ばした。

 

アーチャーが立ち上がる前にこちらが立ち上がり、アーチャーに向かって駆けだす。距離を詰める途中で跳躍し、強烈な飛び蹴りを叩き込むが、立ち上がったアーチャーは双剣をクロスさせて受け止めた。

だが俺はアーチャーが蹴りを受け止めたタイミングで開脚し、腕を強引に広げさせる。そしてそのまま十字に腕をクロスさせて、手刀を叩き込んだ。

 

稲妻十字空裂刃(サンダークロススプリットアタック)!」

 

「が、はっ!」

 

対処できなかったアーチャーの胸に、✖字の傷が付く。俺はアーチャーの胸を蹴ってバク転。

着地と同時に右手の剣で攻撃してきたので、左手で剣を殴って破壊する。直ぐに拳を引き戻し、続けざまに右拳で左の剣も破壊する。

劣化コピーとはいえ、普通ならこんな簡単に宝具を破壊するのは不可能だが、純粋なスペック差と魔術及び魔力放出による瞬間的な強化によって可能となっていた。

 

武器を壊した後、右ストレートで追撃を加えたが、アーチャーは再び双剣を投影して盾代わりに使った。

バキッと、音を立てながら双剣は砕け、多少威力は削がれたものの、拳はそのままアーチャーに迫る。しかし、その僅かに稼いだ時間をもってアーチャーは後ろに飛んで距離を取り、弓を番えて射った。

 

「手緩いぞ、アーチャー!」

 

アーチャーから放たれた矢の数は五本。俺は掌から雷撃を飛ばして迎撃する。

アーチャーが着地する前に地面を踏み砕き、こぶし大の大きさの石を拾って雷撃を纏わせ、タイミングを合わせて着地点に向かって投擲する。

 

「くっ!」

 

石が来るタイミングで着地したアーチャーは、壁の様に大きな剣を投影し、それを地面に突き刺して盾代わりにして防いだ。

 

「追加だ。貰っていけ」

 

先程よりも強く地面を踏み砕き、衝撃で多量の礫が宙に浮く。俺は礫を連続で殴り飛ばして攻撃する。もちろん全てに赤雷を纏わせている。耐久の低いサーヴァントを殺傷するのには充分な威力だ。

 

「オラオラオラオラオラァッ!!」

 

多量の礫は徐々に剣に罅を入れていき、遂には破壊した。

剣が破壊されることを悟っていたアーチャーは、壊れる直前にその場を離脱していた。追撃を加えようとした時、風切り音が聞こえたため、そちらに集中する。

 

「四…いや、六か」

 

白三本に黒三本。合計六本の剣が、左右と前後、それから上方から飛んでくる同時攻撃。剣の盾に隠れている間に投影して投げた様だ。

まず上方の二本に対処する。上空に片手ずつ雷撃を放って撃墜し、次に足元にある石ころを蹴り上げて裏拳で飛ばし、後ろから来る剣にぶつけて弾く。直ぐ近くに来ている三本は、左右からのは素手で掴んで止め、前方の物を蹴り飛ばす。最後に両手の剣を爆破される前に握り潰して破壊。

アーチャーの方を見れば、アーチャーが此方に強力な宝具を放とうとしているのが見える。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

アレは素手ではキツイか。

 

「ならば。奥義、部下ガード!」

 

「「「ギャアアアアアアアア!!召喚早々この扱いぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」

 

召喚した部下たちに盾を持たせて前に突き出し、時間を稼がせる。この間に剣を手元に戻して迎撃態勢を整える。そして勢い余ってアーチャーを殺さないように加減して…………。

 

「前見えねぇんだよ、邪魔じゃボケェェェェェェェ!!」

 

「「「アンタの指示でしょうがーーー!」」」

 

部下が邪魔で前が見えなかったので、部下諸共クラレントで増幅した斬撃でアーチャーの宝具を掻き消した。部下達の悲鳴?聞こえませんね。

 

「まったく、つくづく規格外だな君は。あんな方法で今の一撃を防がれたのは初めてだよ」

 

「だろうな。寧ろ居たとしたらこっちが驚きだよ。……んでだ、キャスターの奴は随分と苦戦してるみたいだな。こっちにしていた監視が止んだぞ?見に行かなくていいのか?」

 

「…………どういうつもりだ?」

 

「どうもこうも、こちとらお前が獅子身中の虫をやってる事なんて御見通しなんだよ。ホラ行くぞ」

 

「そーいうこと。私たちを騙そうなんて甘いわね、アーチャー」

 

俺とマスターが悪戯が成功した悪ガキみたいに笑って教会に歩いて行くのを見たアーチャーは、思わずといった感じで言葉を漏らした。

 

「……なんでさ」

 

 

 

 

 

教会内では、既に決着がついていた。キャスターは満身創痍で倒れておりもう数秒と持つまい。既に消えかかっている。そのマスターと思われる男も、俺たちは直ぐにでも始末できる。

 

「こっちも終わったみたいね」

 

「イリヤスフィール、それにアーチャー!」

 

俺はマスター連れて階段を降り、キャスターのマスターと相対した。

 

「待ってくれバーサーカー!もうキャスターは倒した、殺す必要は無い筈だ!」

 

「…だそうだが?」

 

俺はキャスターのマスターの発言を促した。

 

「これは私が始めた事だ。善悪を省みずに良しとした事だ。途中で止める事はできない」

 

キャスターのマスターは独特の歩法でこちらに接近してくる。これは初見では対処しずらいかもな。だが。

 

タァン!タァン!

 

俺は何の神秘も籠っていないただの銃で、キャスターのマスターを撃ち殺した。

 

「英霊を殺せる程の武芸を持っていようと、銃弾を捌ける訳じゃねぇ。魔術師なら、話は違ったかもだがな」

 

キャスターのマスターの死を看取った後、衛宮士郎は倒れているセイバーに近付く。衛宮士郎に上体を起こされたセイバーは、突如衛宮士郎を突き飛ばす。

突き飛ばされた衛宮士郎が居た場所には、アーチャーが投影した剣が突き刺さっていた。

 

「アーチャー、何のつもり!?キャアッ!」

 

アーチャーは、うるさく吼える遠坂凛を囲う様に剣を降らせ、身動きを取れない様にした。

 

「私は、私自身の目的の為に動くだけだ」

 

「アンタ、まだ士郎を殺す気なの!?」

 

「あぁそうだ。衛宮士郎を殺す事こそが、守護者と成り果てた俺の唯一の望み」

 

「アンタ……バーサーカー、お願い!」

 

「断る」

 

「なっ!?」

 

にべもなく断りの言葉を返した俺に、驚きの声をあげる遠坂凛。

 

「当然よ、リン。私達が協力するのはセイバーを取り戻すまで。それ以降は関係無いわ」

 

「そんなっ……」

 

衛宮士郎を殺そうとするアーチャーを止めようと、セイバーが立ちはだかる。

 

退()くが良いセイバー。マスターの居ない身で無茶をすれば、直ぐに消えてしまうぞ」

 

「私は彼を守り、剣になると誓った。たとえ契約が無かろうと、この制約に変わりはありません」

 

「そうか。ならば、ここで消えろ」

 

双剣を投影したアーチャーに対し、セイバーは聖剣を構えて迎え撃とうとする。しかし魔力不足が激しいのか、剣を不可視にしている風の鞘が消えてしまっている。

 

「ハァっ!」

 

「くっ、ぐぅ!」

 

単独行動スキルによってまだ魔力に余裕があるアーチャーと違い、魔力切れ寸前のセイバーは、防戦一方となっている。どう足掻いてもセイバーに勝ち目はない。それでもなお戦うが、遂には魔力切れで膝を着いてしまう。

 

「終わりだな。では、偽りの主共々、ここで消えろ」

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

アーチャーがセイバーに止めを刺そうとした時、衛宮士郎がアーチャーに突っ込んでいく。投影したアーチャーと同じ双剣で切り結ぶが、投影の精度の差から容易く壊れてしまう。

アーチャーが武器を失った衛宮士郎を殺そうとした時、遠坂凛が呪文を唱えだす。

 

「―――告げる!」

 

何事かとアーチャーも手を止め、この場の全員が遠坂凛の方を向く。見る限り、遠坂凛はセイバーと再契約しようとしているらしい。

 

「汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」

 

「させn「させるか!」チィ!」

 

セイバーとの再契約を阻止しようとアーチャーが動き出そうとするのを、再び投影を行った衛宮士郎が止めにかかる。

 

「―――我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」

 

「セイバーの名に懸け誓いを受ける…!貴方を我が主として認めよう、凛!」

 

セイバーの再契約が完了し、形勢が逆転した。

 

「どうするセイバー。凛と契約した以上、本当に衛宮士郎とは無関係になったわけだが?」

 

「言った筈ですアーチャー。士郎との誓いは無くならないと」

 

先程とは違い、今度はセイバーの方からアーチャーに対して仕掛けていく。魔力供給の無いアーチャーでは、セイバーを相手にするには無理がある。魔力の潤沢なセイバーの剣に対して、魔力のないアーチャーの投影した剣は脆すぎた。先程の衛宮士郎と打ち合いとは逆に、数回打ち合っただけでアーチャーの剣は砕けてしまった。

 

「ここまでです、アーチャー。先程私の身を案じていた貴方ですが、それは貴方にも言える事だ。マスターの居ない今の貴方に、何ができる」

 

「アーチャーのサーヴァントには、単独行動の技能が与えられている。マスターを失ったとしても、二日は存命できよう。それだけあれば、小僧を仕留めるには充分だ」

 

セイバーの説得に対し、アーチャーはそっけなく返した。

 

「まだそんな事を言うのですか…!アーチャー、貴方の望みは間違っている!そんな事をしても、貴方は……!」

 

「間違っている、か……。ならばセイバー。逆に問うが、君こそいつまで間違った望みを抱いている!」

 

「っ!」

 

アーチャーの言葉にセイバーがショックを受けている間に、アーチャーは両手の剣を捨てて詠唱を始めた。

 

「I am the bone of my sword」

 

「止めろアーチャー!私は貴方とは……!」

 

「Unknown to Death.Nor known to Life」

 

セイバーの制止の声を無視して、アーチャーは詠唱を続けていく。

 

「unlimited blade works!」

 

アーチャーから円状に炎が広がっていき、炎を境目として世界が切り替わっていく。視界に移る世界は、延々と続く不毛の荒野と、そこに突き刺さった無数の剣群。そして空に浮かぶ巨大な歯車たち。なんともまぁ、虚しい世界だな。

 

「固有結界……現実を侵食して心象風景を具現化する大禁呪…!」

 

固有結界を見て驚いていたマスターだが、その内容を見て複雑な表情をしている。なぜならこれが、義弟である衛宮士郎が、未来で至る結末なのだから。

 

「躱すのもいいが、その場合、背後の男は諦めろ」

 

俺が固有結界を観察していると、話が大分進んでいたらしい。アーチャーが手を上げると、周囲の剣が宙に浮きだし、一斉にセイバーと衛宮士郎に向けて降り注いだ。

剣を迎撃しようとしたセイバーだが、突如として衛宮士郎が前に出て、投影で剣を創りだして防ぎ始めた。防いで破壊されては投影しなおし、次々と打ち落としていく。そして徐々にだが、投影の精度が上がっていく。

 

「ふざけてんじゃねぇ!テメェェェ!!」

 

一際大きな一本が衛宮士郎に迫り、それを衛宮士郎は受け止めた。鍔競り合いから剣が爆発し、辺りを閃光が覆った。

光が収まるとそこは元の教会の地下に戻っていた。衛宮士郎は倒れて気を失っており、遠坂凛が元の居場所に居ないのに気が付く。

 

「ちょ、アーチャー!離しなさいよッ!」

 

遠坂凛はアーチャーの腕に抱えられており、それが原因でセイバーは手が出せない模様だ。アーチャーが騒ぎ立てる遠坂凛の首筋に手を当てると、気を失って静かになった。アーチャーは遠坂凛を抱えたまま、地下から出ようとする。

 

「どこへ行く!?」

 

「何、仕切り直しだよ。俺は今ので魔力切れでな、万全になったお前の相手はしていられない。これはあくまで保険だ」

 

そう言ったアーチャーに、マスターは声をかけた。

 

「アーチャー。決着をつけるなら、アインツベルンの城に行きなさい。あそこなら人目に付かないし、セラとリズには事前に言ってあるわ」

 

「感謝する、イリヤスフィール」

 

アーチャーはマスターに一言感謝の言葉を述べた後、遠坂凛を連れて出て行った。

俺は衛宮士郎とセイバーに向かって問い掛ける。

 

「それで、お前らはどうするんだ?俺はマスターを連れて帰るが、アーチャーは討たん。アレはお前が倒すべき相手だからな」

 

「あぁ。分かってる」

 

「ならいい」

 

衛宮士郎は躊躇いなく頷く。その眼には、確固たる決意が籠っていた。

 

「……シロウ。ずっと疑問に思っていたのですが、なぜバーサーカーがここに?」

 

「バーサーカーには、セイバーを取り戻すために手伝って貰ったんだ」

 

「あくまで手伝うのはセイバーの奪還だから、それ以降は手伝わなかったがな。それでマスター、セイバーはここで討つか?それとも放置か?」

 

俺の言葉にずっとこちらを警戒していたセイバーはさらに警戒を強めるが、マスターは興味も無さげに言った。

 

「別にいいわ。どうせセイバーを倒しても、聖杯は手に入らないんだから」

 

「了解だ」

 

セイバーは普通のサーヴァントと違って、英霊の座から呼び出された分霊じゃない。死の直前に世界と取引して、魂だけが時空を超えて聖杯戦争に参加している身だ。たとえ脱落しても、聖杯にくべられる訳じゃない。そして聖杯は俺達の陣営が持っている以上、俺が倒されない限りは聖杯はこちらの物だ。後々邪魔になっても、その時に殺してしまえばいい。

 

「待ってくれ!城に帰るなら、俺達も連れて行って欲しい」

 

衛宮士郎の頼みに、マスターは少し考えてから答えた。

 

「良いわ、シロウの頼みだもの。特別にセイバーも一緒に連れてってあげる。でも道中での戦闘はダメよ」

 

俺達は、乗ってきたメルセデス・ベンツェに乗って城へと帰還する。

 

 

 

 

 

アインツベルン城に帰って来た俺達は、城門から城内へと入っていく。エントランスホールではセラとリーゼリットが出迎えてくれる。

エントランス奥の階段の上でアーチャーが立っており、こちらを待ち構えていた。衛宮士郎が前に出て問い掛ける。

 

「遠坂はどこにいる?」

 

「彼女なら奥で椅子に縛り付けている。そちらの二人が事前に準備を済ませておいてくれたのでね、スムーズに事が運んだよ」

 

「……セイバー、遠坂を助けに行ってくれ」

 

「……分かりました。リンを助けた後、直ぐにこちらに戻ります。シロウ、どうか御武運を」

 

衛宮士郎の言葉にセイバーは少し逡巡した後、ここは衛宮士郎に任せるべきだと判断したのか、遠坂凛を助けに向かう。

セイバーを見送った後、アーチャーが此方に視線を向けて来る。こちらがどうするのかを問うているのだろう。視線を受けたマスターは迷わずに言った。

 

「私達は邪魔にならないように見守ってるわ。貴方の正体は知っているもの」

 

「そうか……ありがとう、イリヤ」

 

「いいのよ。弟の面倒を見るのは、姉の役目だもの」

 

アーチャーはマスターに笑い掛けた後、衛宮士郎に敵意を向ける。俺達はエントランスの隅に移動し、そこで静かに事の成り行きを見守った。

 

英霊エミヤ。

 

いっそ狂気的とも言える程、正義の味方を目指して人々を救い続けた男の成れの果て。自分以外を助ける為に、自らの死後すら売り渡した男。そんな男が最後に願ったのは、過去の自分を殺すことによる現在の否定。それによる抑止力からの解放だ。

だがそれは決して叶わない、叶えられない願いだ。世界との契約は、たかが自分殺し程度で破れるほど甘くは無い。世界と契約した時点で、その者は物へと変貌する。世界に使われ続けるだけの人形に。

 

そんな現実を直視しても尚、衛宮士郎は折れなかった。アーチャーに打ちのめされる度に立ち上がり、愚直に前へと進んでいく。倒れても、倒れても、倒れても。何度も、何度も、何度も。

 

そして最後には、衛宮士郎の信念(理想)が、英霊エミヤの信念(現実)に打ち勝った。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー」

 

「あぁ。そして私の……敗北だ」

 

アーチャーが負けを認めると、衛宮士郎は尻餅をついて倒れる。マスターが心配そうに衛宮士郎を見ているのを確認した俺は、衛宮士郎に近付いて治療をしてやる。

 

「痛っつ!」

 

「動くな。全身裂傷だらけで死んでもおかしくねぇんだ。治療しなきゃマジで死ぬぞ」

 

「っ……ありがとう、バーサーカー」

 

「気にすんな。お前が死んでしまわないか、マスターは心配で心配でしょうがねぇみたいだからな」

 

「ちょっとバーサーカー!?何勝手に言ってるのよ!?」

 

「おーこわ」

 

怒ったマスターに俺がお道化た調子で揶揄うと、マスターはさらに怒って頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 

「ありゃ、ちとやりすぎたかな?」

 

「士郎!アーチャー!」

 

声のした方向を見れば、遠坂凛とセイバーがエントランスに入って来る。

 

「士郎、無事?ってアーチャー!アンタどうしたのよその傷?」

 

「…ハァ。まったく、彼女がもう少し非道な人間なら、私もかつての自分に戻らなかったものを……ともあれ、決着は着いた。お前を認めてしまった以上、エミヤなどどいう英霊は、ここには居られない。敗者は早々に立ち去るとしよう」

 

「アーチャー、でも……」

 

泣きそうな顔でアーチャーを思い留まらせようとする遠坂凛に、アーチャーは純粋な笑顔で応えて消えていく。

 

「大丈夫だよ遠坂。俺はもう、答えを得たから」

 

 

 

アーチャーの消滅後、三人は帰っていった。ここで戦うか否かで一悶着あったが、マスターが不戦の意を示したので、そのままお流れとなったのだ。まぁ、セイバーを倒しても、こちらには何の旨味も無いからなぁ。

 

アーチャーが聖杯にくべられたことで、これでサーヴァント六騎分の魂が揃った。後一騎、ランサーかアサシンを仕留めればそれで聖杯は完成する。完成の余波で溢れる泥は、俺の宝具で押し留めることが可能だ。願望器としてでなく、根源に至るための装置としてならそれで充分だろう。

 

聖杯が完成しかかっているため、不測の事態が起こる事を考慮し、明日にでも七騎目の魂を回収する事にした。

狙いは柳洞寺のアサシンで、あらかじめ柳洞寺に聖杯降誕とそれに伴って空く穴を閉じる準備をしてから、門から動けないアサシンを殺す。

奴なら交渉しだいで、聖杯に関する準備をしてから戦う様にできるだろう。

 

 

 

あと少し、あと少しで聖杯は完成する。完成した聖杯を持ってアインツベルンに帰れば、晴れてマスターは自由の身になれる。

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