ホテルのある一室。
テーブルに置かれた十字型の将棋盤に、それぞれ東西南北の位置から向き合う様に座る俺達。東側に座っていた俺から始めに喋り出す。
「エウロス!」
「ゼピュロス!」
「ノトス!」
「ボレアス」
「「「「ヒュペリオン!!」」」」
宣言と共に俺達は駒を配置し、各々独自の陣形を組み上げる。
「俺のエクスカリバーの陣の前では、お前たちのちゃちな防御は意味を成さねえ」
「そして吾輩のアイギスの陣は、鉄壁の防御を誇る。これで守りは万全だ」
攻防共に完璧な布陣を組む俺たちを前に、しかしサマエルは不敵に嗤った。
「くっくっく、その程度の策で勝ったつもりか?」
「何?」
「ククッ見るがいい、俺の敷いた布陣を!」
「な!?こ、これは……ソドムとゴモラの陣!?」
「バカな!?あんなピーキーな陣を使う奴がまだ居たのか!?」
「フッ、そして見るがいい!オーフィスたんの陣を!」
オーフィスの敷いた布陣。それは本来守るべき王を前面に押し出し、切り込み隊長を後衛にするというまるで勝つことを考えていないかのような布陣。
「「バカな!?ウロボロスの陣だと!?」」
「ありえんぞ!それは敢えて王将を突出させることで相手の攻撃誘い、反撃を行うという上級者用の布陣!」
「しかもその布陣をする=カウンター狙いという策がバレバレとなる故に、生半なヒュペリオラーは使わない代物だぞ!?」
「我、ヒュペリオンは得意」
そう無表情に、しかし自身気に告げるオーフィス。
まさかオーフィスが上級者だったとはな。意外な伏兵だ。
「気を付けろよフェンリル」
「ああ分かっている。だが、吾輩たちのコンビは最強だ。そうだろう?」
「ああ!行くぜぇぇぇぇ!」
「お前らいい加減にしろよ!」
俺達が熱い展開を繰り広げていると、アザゼルが怒鳴りつけて来た。
「今は緊急事態なんだ真面目にやれ!そしてなぜサマエルがそこに居る!?あとオーフィスまで何で参加しているんだ!?」
言い終わった後、ぜぇぜぇ、と息を切らしながら近くにあった椅子に座りこむアザゼル。
「アザゼル」
「何だ?」
「あんまり叫ぶと傷が開くぞ」
「誰のせいだ!!」
「「「俺ら」」」
「くっそぉぉぉぉぉぉ!!」
俺達のあまりのウザさに、頭を掻きむしり始めるアザゼル。すると治療した傷が開いたのか腹を押さえて痛がり出し、アルジェントが駆け寄ってきて治療する。
「だいたいお前らは何をやっていたんだ?」
「何って、ヒュペリオンだよ」
「ヒュペリオン?」
その単語に聞き覚えが無かったのか、それともギリシャ神話の神と勘違いしたのか、オウム返しで言葉を返すアザゼル。仕方ないので俺は説明してやる。
「ああ。いいか、ヒュペリオンってのはな―――」
~~10分後~~
説明の結果。
「んでこれが、親を討たれた子の嘆きが敵を討つ、『デッドエクストリームアタック』だ」
「うおぉぉぉぉ!すげぇ!すげぇぞ!このゲームは最高だ!」
アザゼルもドハマりした。
「我、飽きた」
んでもってオーフィスが飽きた。
オーフィスと交代したアザゼルを交えてヒュペっていると、今度はグレモリーが怒鳴ってきた。
「アザゼル先生まで、何をやっているんですか!偵察に行った祐斗が、死神の一団を確認しました。作戦会議をしますから、すぐにその訳の分からないゲームを止めてください」
「…訳の分からない…だと?リアス!お前はヒュペリオンをバカにするのか!?こんなにも面白いゲームを!なぁお前ら!?」
「「「いや、俺(吾輩)達は別に」」」
「え…いや、でも、さっきまでお前らもノリノリに……」
さっきまで凄い気迫だったアザゼルだが、急速に萎えていく。
「もう飽きかけてたし」
「ていうか今ハマってるのって、アザゼルだけだろう?」
「敵が来てるなら遊んでいる暇はないぞ。さっさと片付けろアザゼル」
「え、えぇー……」
何とも言えない表情のアザゼルを残し、俺達はオーフィスを連れて他の面々の居る部屋へ移動する。部屋の中では皆、深刻そうな顔をして話している。
「おーう、今どんな感じだー?」
「……あ、先生。外に死神の大群が現れたので、今は対処法を考案してたところです。それで、ゼノヴィアさんは……」
「まだ眠ったまま、か」
塔城は無言で頷いた。
ゼノヴィアは曹操の攻撃を受けて気絶した後、そのまま眠り続けている。ゼノヴィアはいくら強くても、この場の面々の中ではルフェイに次いで打たれ弱い純粋な人間。致命傷ではないとはいえ、流石にダメージがデカかったか。
ゼノヴィアについて考えているといつ間にかアザゼルが来ており、全員が集まったのを見計らって、ルフェイが嘆息しながら言った。
「本部から正式に通達が来たようです。砕いて説明しますと―――『ヴァーリチームはクーデターを企て、オーフィスを騙して組織を自分のものにしようとした。オーフィスは英雄派が無事救出。残ったヴァーリチームは見つけしだい始末せよ』だそうです」
「力を奪われたここに居るオーフィスは偽物で、奪われた力の方が本物だと、そういうことになったのか」
今アザゼル言った奪われた力というのは、サマエルによって削がれたオーフィスの力の事だ。サマエルの龍殺しの力は絶大で、龍王までなら瞬殺。全盛期の二天龍でも十数秒で殺せ、さらにはオーフィスやグレートレッドにも有効だが、世界最強である二匹は簡単には殺せないらしい。そこでまずは殺さずに力を徹底的に削ぎ落し、奪って、弱った所で一息に仕留めに掛かるのだという。
しかしオーフィスの力は、奪った先からどこか別のところへと送られてしまい、恐らくは英雄派の基地にあるという。因みに以上の事はサマエル本人に吐かせた。
どうやらサマエルは生粋のロリコンだったらしく、塔城とオーフィスにお願いさせたら、アッサリと自白した。
「あ、そうだオーフィスたん。はいこれ」
サマエルが何かを思い出したかのように、ポケットの中から何かを取りだし、オーフィスへと差し出した。
「ん?おまそれ、オーフィスの蛇じゃねえか!」
「まぁ、奪った力の絞り滓だけどな。それでも二天龍より二周り上程度の力は戻るから、自衛くらいはできるだろ」
「ん」
蛇を受け取ったオーフィスは、そのまま蛇を口に含み、よく噛んでから飲み込んだ。……蛇ってそうやって取り込むんだ。
「二天龍より二周りか。随分と弱くなったな、オーフィス」
「え、でも先生、封印される前のドライグよりも強いのに、弱いんですか?」
「当たり前だぞ兵藤。完全なオーフィスは、単独で全神話を丸ごと相手取っても尚上回る存在だ。全盛期の聖書の陣営と同等止まりだった二天龍では、歯牙にも掛けられん」
『言ってくれるな』
「だが事実だ」
その後アザゼルが真面目に作戦を練っていたので、俺達はオーフィスを交えてゲームをし始めた。某配管工のオッサンが主人公のレースゲームだ。
「そういえば気になっていたが、あの金髪ドリルは誰だ?あっ汚ねぇぞモードレッド!」
サマエルが作戦会議をしている方をチラリと見て言った。視線の先には先程のロビーでの戦闘には居なかった、悪魔の少女がいる。
「あの子はレイヴェル・フェニックス。悪魔のフェニックスの一族の一人で、ここに居る理由は知らん。さっきのロビーでの戦闘の時に居なかったのは、単に戦闘能力が低くて邪魔だから。汚いは正義だ」
「フェニックスならそこそこ強い…って聖槍があるから、再生能力は無意味か」
「そ。どんなに耐久性が高くても、悪魔なら聖槍でほぼワンパンだからな。後衛要員として期待できないのに戦線に出るには、槍が当たっても平気なルーク状態の兵藤並みの頑丈さか、槍を躱わせる純粋な戦闘力だ。あのお嬢様にはそのどっちも無い。食らえサンダー!」
「あまい、キラー」
「あ、吾輩はスター」
「なん…だと…」
「ッしゃ、パワフルキノコォ!キノキノキノキノキノキノキノコォ!」
「赤甲羅」
「あべしっ!」
やべぇ、フェンリルとオーフィスが鉄壁すぎる。出すアイテムを尽く無効化されてる上にプレイテクも高けえ。こうなったら……!
「…サマエル」
「…おう」
「俺が連中を潰す!お前が先にゴールしろ!」
「任せろ!」
オーフィスとフェンリルに集中攻撃し、徹底的に妨害する。しかしフェンリルは不敵に笑う。
「甘いぞモードレッド。その程度の考え、吾輩が読めないとでも?」
「何?まさか!?」
「準備はいいなオーフィス?」
「ん。スター」
「死ねい!サンダー!」
「「アッバー!」」
「そしてゴール!」
「ぶい」
「「む、無念……」」
何この人達、アイテム運強すぎでしょ。なんでそんなにポンポンとスターとか出るの?
そしてゲームに集中してたら、いつの間にか会議は終わっており、紫藤とルフェイと塔城が居なかった。紫藤は塔城を護衛に、ルフェイと共にこの空間から脱出。この事態を三勢力のお偉方に伝えに行ったらしい。
そしてこの結界空間を破壊する方法は、屋上、駐車場、二階ホールの三ヶ所に存在する結界装置を破壊する必要があるという。
「「「へーそれで?」」」
やる気のない顔で鼻をほじりながら、どうでもよさげに答える俺ら。それを見てアザゼルは、額に青筋を浮かべながら話を続ける。
「そこで、それぞれの結界装置の破壊を誰が担当するかだが―――」
「アザゼル、それならいい方法がある」
「……何だ?」
アザゼルが『また碌でもねぇ事考えてんだろうなぁ』という表情でこちらを見て来た。腹が立ったので後でアザゼルに生え際後退の呪いをかけておく事を心に誓いつつ、考えを話す。
「いいか、ようは結界装置を壊せばいい訳だから―――」
俺の案を聞き、アザゼル達は顔を引き攣らせた。
「いけ、オーフィス!りゅうのいかり!」
「えい」
オーフィスの気の抜けた掛け声と共に放たれた一撃は、ホテルを結界装置ごと纏めて消し飛ばした。
「うわぁ、人がゴミの様だぁ……」
「人じゃなくて死神な」
なんとか生き残ったホテルだった物の中に居た死神たちは、阿鼻叫喚といった様子で逃げまどっている。駐車場の死神達も似たような状況だ。これはもう勝ったな。
俺が考えた作戦はこうだ。結界から外への転移は阻害されているが、結界内で内部のどこかへ転移するのは阻害されないことは分かっていたので、ホテルの遥か上空に全員で転移し、オーフィスの一撃で丸ごと消し飛ばすというものだ。ちなみに気絶してるゼノヴィアは俺が背負っている。
ホテルが消し飛んだのを確認した後、俺達は駐車場へと降り立った。そこには最後の結界装置とそれを守る死神達。それと初めて見る六本の剣を腰に差した青年が居た。
「やあ。久しぶりな者もいるけど、初めましての方には初めまして。英雄派の幹部が一人、ジークフリートだ。僕の相手をする前に、彼等の相手をしてもらえるかな?」
ジークフリートの言葉と同時に死神達がワラワラと寄って来て攻撃を仕掛けて来たので迎撃に移るが、何故かフェンリルとサマエルの方には誰も行かない。フェンリルはその強さが世界規模で知れ渡っているからいいとして、何故サマエルも?
《ひぃぃぃぃ!さ、サマエルだぁ!?》
《お、おい、お前先に行けよ!》
《やだよ!お前こそ先に行けよ!》
《俺だって嫌だよ!アイツと関わりになったら碌な事ねーもん!》
お前滅茶苦茶ビビられてんじゃん。コキュートスに居た時何してたんだよ。
俺は片手でゼノヴィアをおんぶしながら、もう片手でイタクァを撃ち、近づいて来た奴は蹴り飛ばして迎撃していく。手応えからいって大体中級死神程度だが、他の連中も問題なく対処できている模様だ。それを見ていると、アザゼルが自慢気に言う。
「今のこいつ等は相当に強くなってんだ、これくらいの死神じゃ束になっても勝ち目はねぇよ。ま、それは俺も同じだがな」
《死神を舐めて貰っては困ります》
空間に歪みが生じ、一人の道化師の仮面を被った死神が現れた。たしかコイツは……。
《初めまして、堕天使の総督殿。私はハーデスさまに仕える死神の一人。プルートと申します》
「最上級死神のプルートかッ!伝説にも残る死神を寄越すなんて、ハーデスのジジイも本気の様だなっ!!」
《あなた方はテロリストの首領オーフィスと結託して、他勢力を滅ぼそうとしました。それは万死に値します。同盟を訴えたあなたがこのようなことをするとは》
「……なるほど、今回はそういうことにするつもりか」
《ええ。いずれそんな理由付けもいらなくなりますが、今回は一応の理由を立てさせて頂いただけです》
そう言い終えたプルートは、仮面の下で苦虫を噛み潰したような表情でもしているのではないかという雰囲気でサマエル見た。
《サマエル。貴方にはもう一度コキュートスに戻ってもらいます》
「やなこった!コキュートスから脱走しようとして死神に捕まる事539回。脱走に成功し、現世を謳歌していたところを捕まる事1025回。死神どもをはっ倒して逃げ、ハーデスにぬっ殺されかける事666回!漸く手に入れた自由だ、手放してなるものか!」
「お前そんなにコキュートスから脱走してんの?」
「おう。俺程脱獄脱走に精通した者は居るまい」
サマエルの言葉に、プルートは肩を震わせながら怒鳴った。
《貴方が脱走する度に探し出すこちらの身にもなりなさい!その上貴方は脱走の度に他の囚人を大量に脱走させるから、仕事が増えて増えて追いつかないんですよ!!》
「ちなみにこの間脱走するときはコカビー誘ったけど、アイツ直ぐ捕まるからもう誘うの止めた」
お前はマジで何をやっているんだ。
《貴方は瀕死にしてから引きずってでも連れて帰ります!ハーデス様の一撃を受けて瀕死となっても数分後には復活している貴方になら、多少どころか殺す気でやっても問題はありませんからね!》
「ハッ、テメェ如きがこのサマエル様を捕らえられると思うなよ!」
戦意満々に戦闘へと突入する二人。だが槍を構えてプルートの一挙手一投足を警戒するサマエルとは逆に、プルートは武器を構えもせずにただ立っているだけ。それをサマエルは怪訝な表情で見る。するとプルートは懐から一枚の写真を取り出し言った。
《貴方の攻略法はとっくに出来ています。……すみませんオルクスッ!》
プルートは写真を見て一瞬躊躇した後、あらぬ方向へぶん投げた。
《その写真は、オルクスの娘ベンニーアの幼少期の写真!》
「幼女prprーーー!!」
《そこだぁ!!》
「ぐっばぁっ!!」
「瞬殺じゃねぇか」
プルートが投げた写真の内容を言った瞬間、サマエルは写真へと全力で飛びかかった。サマエルの意識が写真へと移り、隙を見せたと同時にプルートは動きだし、写真を掴んだタイミングで背後から鎌でバッサリと切り裂いた。しかし上級悪魔でも一撃で殺せる程のクリーンヒットをしたにも拘らず、サマエルの手は掴んだ写真を放しておらず、その表情はだらしなく弛んでいた。テラきめぇ。
プルートはぶっ倒れたサマエルの両手を切り飛ばした後、尻尾へとどこからか取り出した巨大な十字架を、思い切り突き立てた。
「ギャアアアアア!!」
《逃げられないように動きを止めておきませんと、貴方相手には安心できませんからね》
逆にあそこまでやらないと安心できないサマエルって一体?プルートはサマエルを倒した後、今度はアザゼルとの戦闘を開始した。
俺は死神を迎撃しながら、突っ立ったままのフェンリルに話しかけた。
「おいフェンリル。お前も何かやれよ」
「無理」
即答かよ。
「…何で?」
「だって吾輩がこいつらに手ぇ出したら、北欧とギリシャで戦争になるし」
「……あー」
そういや忘れてたけど、こいつ一応北欧神話の一員だっけ。もう殆ど脱退してるみたいなもんだけど。それでも一応は所属してるから、手は出せないと。お前もお前でメンドくせーなー。じゃあさっき死神が寄って来なかったのは、強さ云々じゃなくてフェンリルと同じ理由か?
「リアス!頼みがあります!」
「いいけれど、突然どうしたのイッセー?」
死神達と戦っていた兵藤が、突然大声でグレモリーを呼んだ。
「そのおっぱいに、赤龍帝の力を譲渡しても良いですか?」
「……正直、貴方が何を考えているのか、私には理解出来ない。でも、私はイッセーを信じるわ!イッセー、私の胸に譲渡なさい!」
「はい!いくぜッ
「ん、はあぁん!」
グレモリーの胸を鷲掴みにして、赤龍帝の力を流し込む兵藤。おいお前等何やってんだ。周り見てみろ。「何やってんだコイツ……」みたいな目で皆見てっぞ。
『BustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBustBust!!!』
「うおぉぉぉぉ!!みなぎってきたーー!!」
兵藤がグレモリーの胸に譲渡すると、グレモリーの胸が紅く輝きだし、ビームとなって兵藤を包み込んだ。すると兵藤のオーラが急速に回復し、僧侶形態に変化して砲撃を行った。
兵藤のオーラが無くなると、即座にグレモリーの胸からビームが撃たれ、兵藤のオーラが回復する。グレモリーの胸は後付けのエネルギータンクか何かなのか?
『うわへへへへ、おっぱいはたのちーなー』
『しっかりしろ、正気を保てドライグ!ドライグゥゥゥゥゥゥーーー!!』
あ、ドライグの精神が死んだ。アルビオンにまで心配されるとは、相当追い詰められてたんだろうなぁ。
兵藤の砲撃によって死神達は次々と消滅していき、最後に残ったのはジークフリートとプルートのみ。しかし回復の代償はタダという訳もなく、対価は確りと支払われる事となった。
「あ、あああああぁぁっ!!リアスのおっぱいが、縮んでいく!?」
何故かビームを撃てば撃つほどに、グレモリーの胸が縮んでいった。マジでどういう原理だ?
死神が消し飛ばされた光景を見ながら、ジークフリートは落ち着いた表情で言った。
「これ程とは…真に恐るべしは、不確定要素過ぎる赤龍帝の性欲、ということかな?」
「うわあああああん!リアスのおっぱいがああああああ!」
話聞いてやれよ。ていうかお前もお前で大分余裕そうだな。何か秘策でも持ってんのか?一人でこの状況を打破できるような何かが…?
「禁手、
ジークフリートの背中から六本の龍の手が生えて来て、全ての手が剣を持ち始めた。さっさと終わらせてこの空間から出ようとした時、霧が立ち込めて大量の魔獣が現れ、襲い掛かって来た。何かコイツ等全部から龍殺しの力を感じる上に、サマエルの気配も僅かに感じるんだが?
「これは……!成る程、曹操か。…まったく、あれほど僕の事は気にするなと言ったのに」
「魔獣創造かッ!」
OK兵藤。お前のその一言で全て把握した。連中、サマエルの血か何かを使って、魔獣に龍殺しを持たせやがったな。なんて面倒くせぇ。ゼノヴィア背負いながらだと動きが制限されて戦い辛えし、ここで俺の選択肢は逃げ一択か。しゃあねぇ。
「フェンリル!」
「ぐわぁあああぁぁぁ!!鼻がっ!鼻がぁっ!!」
「いきなりどうしたし…?」
フェンリルは両前足で鼻を押さえて、地面をゴロゴロと転がって悶えている。そういえば、さっきから何か異臭が…………あ。あの魔獣が持ってる缶詰、シュールストレミングじゃね?
「んぬあぁぁああぁああぁあぁ!!ノォォォォォォォ!!」
ダメだ、フェンリルが使い物にならねぇ。肝心な時使えねぇなコイツ。こうなりゃ龍殺しには龍殺しだ、サマエルを助け…出し……て…………。
「よっこいせっと」
ズルッ!という音を立てながら、サマエルが下半身の蛇の部分を、ズボンを脱ぐみたいな感覚で脱いで出て来た。さらには蛇の部分を脱いだ下半身には普通の人間の下半身があり、確りズボンまで穿いてた。それ、脱げたんだ……っていやそれよりも!
「おま、斬り落とされた両腕はどうした!?」
「ん?ああ。再生した」
ケロッとそんな事を言ってのけたサマエル。再生するとか不死身かコイツ、お前はどこのヒュドラだよ。不死の権能でも持ってんのか。……まぁ、今は丁度良いや。
「おい、サマエル。ちょっとあの魔獣を何とかしてくれ。お前の龍殺しの力の劣化コピーを持ってるみたいで、俺が相手するのはちとヤベーんだわ」
「おーう良いぞー。あ、でも条件があるわ」
「何だ?幼女をくれ以外なら、何とかするが」
「いや幼女なら自力で手に入れるし。そうじゃなくて、住む場所無いからお前ん家住ませてくれ」
「別にそれくらいなら構わねぇぞ」
「うし!衣食住ゲット!」
金は払えよ?
サマエルは殺る気満々に魔獣へ向かって行く。光の槍を大量に空中に作り出し、それを射出して魔獣の虐殺を始める。なんだあの戦いかた、どこの無限の剣製だよ。
しかしサマエルの参戦によって大分魔獣が減ったので、俺も攻撃に参加しようと思う。
「ハァッ!」
「おっと危ねぇ」
突如斬り掛かって来たジークフリートの剣を躱わし、反撃にクトゥグアの弾丸をプレゼントした。
「ぐぅッ!だけどこの程度で!」
クトゥグアの爆炎に包まれながらも、真っ直ぐ俺の方へ突っ込んでくるジークフリート。
「セイヤァッ!」
「よっ!ほっ!はっ!」
距離を詰めて振るわれる六刀流は、逃げ道を塞ぎつつ的確に急所を狙ってくる。ゼノヴィアを背負っている事もあってか、非常に避けづらい。バックステップで距離を取って躱しながら銃を撃ち、偶に当たりかける剣を足で蹴って逸らしていく。
「ほいさっ!」
「ッがっ!?」
振り抜かれた剣の上に跳び乗り、ジークフリートの顔面を思い切りある方向へ蹴り飛ばした。
その後銃から手榴弾に持ち替えて、それを投げつける。盛大な轟音と共に爆炎が撒き散らされ、ジークフリートを包み込んだ。しかしクトゥグアの焔を受けても倒れなかった男がこの程度で倒れるとはカケラも思えないので、追加でバズーカでも撃ち込んでおく事にする。
「……堅いな。お前ホントに人間か?英霊か何かじゃねぇよな」
「ええ、人間ですよ。ただ、ちょっと特別な体をしているだけです」
ちとアイツの体を調べてみたくなったな。
「ふーん、けどまっチェックメイトだな。後ろ」
「?…ッ!」
振り返ったジークフリートの後ろには、結界装置があった。俺は魔獣が粗方殲滅されたのを見計らって、結界装置の方へとジークフリートを動かした。魔獣を相手にする必要が無くなり、余裕が出来た他の奴等の攻撃準備は万端だ。
「合わせろ、お前等!」
拳銃をジークフリートを巻き込む軌道で結界装置に向け、他の者に声を掛ける。それに応じて、皆結界装置へと攻撃を集中させる。
「イア・クトゥグア!」
「ドラゴンブラスター!」
「聖魔剣!」
「雷光よ!」
その他諸々様々な技が一斉に結界装置とそれを守るジークフリート目掛けて叩き込まれた。今の攻撃で結界装置は壊れたものの、ジークフリートは未だ生きている。こんだけ攻撃を喰らっても死なないとか、どんな耐久力してんだコイツ。
しかしダメージは大きい様で、ジークフリートの禁手が解けて剣を落とし、膝を着く。それでも両手の剣は離さないのは、剣士としての意地か。
「……ここまでは、計画通りかな?」
「何?どういう意味だ?」
「……ふふ、君達が……この結界空間に捕らわ…れてから、どれくらい経った?…数時間?違うね、外では既に…数日が経過している。今頃は、冥界を、大量のアンチモンスターが…襲っている頃さ」
「どういう事だテメェ!?」
兵藤に胸倉を掴み上げられたジークフリートは、息も絶え絶えに、しかし勝ち誇った様子で計画を語り出す。
「……僕の役目は、君達の足止め。強力なアンチモンスターは…生半可な者では足止めもできず、悪魔と堕天使の、主要都市を襲う。……アンチモンスターを…倒しうる魔王は……その立場から簡単には動けず、曹操の持つ槍が、ある限りは……他の神話の神による助力も…期待できない」
「だ、だけどいざとなればサーゼクス様達なら!」
「無駄さ。……紫藤イリナが、情報を持ち帰った事で…サーゼクス・ルシファーは、ハーデスの牽制に……冥府へ行っている。…もう一人の超越者である、アジュカ・ベルゼブブも……今は人間界に出向いていて、冥界には…いない」
やられたな。こっちが外に仲間を逃がす事すら計算に入れた計画か。ここまで周到な奴等だ、ベルゼブブが冥界に戻るにも時間が掛かるように、何かしらの手を打っているだろう。語り終えたジークフリートは、勝利を確信した様子で笑いながら事切れた。
プルートはジークフリートが語っている最中に、撤退していった。
やがて結界装置が壊れた事でこの空間が崩壊を始め、俺達はその綻びから結界空間を脱出した。