今日はセンター試験1日目。高校での最大の壁にして、運命の分かれ道である。
これに成功するか失敗するかによって、二次試験の難易度が一段と変わってくるのは言うまでもない。
3年の夏、剣道地方大会の準決勝戦のこと。
二位以上は全国大会に駒を進めることができる試合。これに勝てば全国大会という大一番。
しかし、相手は全国大会二位の強者。そう易々と勝たせてくれなかった。開始から全力を出した。だが、二位の相手は冷静だった。自分は焦っていたのかもしれない、それが油断につながった。
それから、数日後剣道部を引退した。地方大会3位の賞状を片手に涙ながらの引退だった。彼には未練はあった。だけど実力が足りなかった。そう自分で言い聞かせて、剣道という舞台から降りて行ったのだった。
そして、彼は受験勉強へと切り替えた。高校での順位は依然5位以内をキープ。センター過去問や模試もかなりの良い点数をとれていた。彼にとって文武両道は得意中の得意だった。彼は剣道のように今度こそ途中で負けないと心に誓っていたのだった。
彼の性格は何でも放ったらかしにはしない。生徒会の元一員でもあり、よく後輩の生徒会から手伝いをお願いされるほど周りからも人気があった。髪は少し癖があるストレート。ルックスもまずまずだった。
彼の高校生活はいかにも普通だった。勉強と部活を両立し、家ではアニメやゲーム。そして東方project。
東方はPC用シューティングゲームで神主のZUN氏が作ったゲームである。その人気ぶりはたくさんの若者を魅了し、二次創作やニコニコ動画などジャンルは様々である。そして彼の推しキャラは魂魄妖夢と東風谷早苗。妖夢の剣術に一目惚れしてしまったこと、早苗はゲームでとてもお世話になって馴染み深いからである。ちなみに彼はハードシューターだったりする。
趣味は音楽を弾くこと。彼はピアノやシンセサイザ(少し)とギターを弾くことができる。だが基本東方を弾くためだけにあるようなもの。その他の曲はほとんど弾かなかった。
彼がこれだけ音楽ができるのはすべて愛する妹の影響だった。言ってしまえば"シスコン"なのだが、妹も妹でブラコンで本当に仲の良すぎる兄妹だった。
そんなこんなで、彼
今日 センター試験を迎えた。
20XX年1月17日α 晴れ 東京
その日、朝はとても寒く乾燥していた。
そんな朝に、伸びる餅を箸でつかみ口に入れる界の姿があった。その前には一家の主である父親、父親の隣には母親、そして界の隣には妹が座り朝御飯を食べていた。
さすがに毎朝、朝食に雑煮は飽きてきた。母が正月にスーパーで安売りの餅を大量に買ったのが悪かった。
「はぁ――また雑煮かよ。餅買いすぎだわ!」
「まぁあと少しで無くなるから頑張りなさい!」
頑張れと言われてもどうにもならない。母親の
界は渋々雑煮を食べていると、母は唐突に言った。
「ほら、界!何ゆっくり食べてるの!センター遅刻するわよ。」
「そうそう!お兄ちゃんが遅刻したら私たち家族の恥だからね!」
「わかってるよ。もう行くな!」
どうもこうも今日は急かしてくる。
おまけに妹の|美海〈みうな〉までも……
そう……やはりセンターでみんな緊張しているのだろうか。だがそんなことはわかっている。
界は急いで口の中に餅を詰め込み飲み込むと、歯を磨き、玄関に置いてある鞄を開け、受験票を確認した。
すると、玄関に香澄がやってきた。
「頑張りなさいよ! あとね、古神家に伝わる秘伝の勾玉、これ持っていきなさい」
「いいのか?母さん。家宝だろ?」
「無くさなければ大丈夫よ。この勾玉はあなたに力を与えてくれるはずよ。記憶の中の秘めたる力を解き放つって話よ!」
「それ何度も聞いた!どうせ迷信迷信~!」
「そんなこと無いわよ~!私だってかなり助けてもらったんだから。代々実家に置いてあったやつだからね。」
母 香澄は自慢気に勾玉を褒めている。
ただでさえ、時間がないと言っていたのにだ。
ただ、母親いわく古神家の勾玉は歴代実家に置いてある謎の勾玉だ。翡翠の色をしており、よくわからないが、スゴい力を持っているらしいと聞いた。ただ今の世の中、勾玉にすがるなんて馬鹿にもほどがあると界は心の中で思うのだ。
だが界は勾玉を何も言わず受けとると、首に掛けて制服の中に入れて見えないようにする。
「それじゃあ、行ってきます。」
界は玄関を開け放ち、外へと飛び出して行った。
「「行ってらっしゃい」」
界はゆっくり振り返ると、閉まりゆくドアの奥に家族のみんながいるのが見えた。香澄 美海 そして父親の雅人。
彼女たちの見送りを背に界は閉まりゆくドアから一歩また一歩と遠ざかっていく。
"これが最後になる"とは思いも知らずに……
界は、そばに置いてある自転車に股がるといつも通りの坂を下っていった。
平凡な光景、いつも見慣れた光景。
それが普通だと思っていた。
界は近くの駅まで急ごうとペダルに足をかけて、団地の下り坂を速いスピードで下っていく。
だが……
(ドクッッ!?)
界は自転車に乗りながら突然、胸と頭に違和感を覚えた。
「ぐぅ……なんだ…………?」
界の頭の中にはキーンという締め付けるような音が鳴り響き、胸の鼓動も急に荒くなる。
「――うぐっ……ッ」
界は息が苦しくなり一瞬目を瞑った。
だが、再び目を開けて前を見る。
すると、住宅街の道の真ん中に巨大な空間が現れていた。それは、空間をネジ曲げ、空間が水面の波紋のように浮き出ていた。
その"何か"、ネジ曲がった空間は段々黒くなり、真っ暗の塊となる。その空間は道をすっぽりと覆うように渦をまいて近くの木葉を吸い込み続けていた。
吸い込んだ葉は見るも無惨に消滅し彼の眼前へと広がっている。
(これはヤバイ……)
とっさに界は自己防衛で咄嗟にブレーキをかける。
だが、なぜかブレーキをかけているのに、止まる気配がない。界は何度もブレーキをかけるが全く効く様子がない。何か見えない吸い込む力が止まる力より大きく働いていた。
さらに彼の頭と胸に痛みが走る。
(ぐぅっ……逃げないと……ッ。だけど……。誰か……誰か助けてくれ……)
界は必死に叫ぼうとするがまるで声が出てこない。そういう間に暗闇の中に自転車ごと吸い込まれていく。誰も助けるものは居らずして、真っ暗な空間、いや穴へと落下していった。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
界は絶叫しながら深い深い暗闇へと落ちていき気を失った。そんな中、胸元がうっすら光り輝いていたことを界は知るよしもなかった。
XXXX年1月17日 晴れ 不明
(うっ………ッ 俺は…生きてる?)
気がついて目を開けると、坂道の下に自転車ごと倒れていた。手足は擦りむいていて、少し血が滲んで痛かった。
(あれは一体なんだったんだろう?だが、あれは見た目があれにそっくりだったな)
界はアニメ好きだ。物語シリーズの鬼物語を見ていればわかるのだが。例えるなら見た目はあの暗闇だった。だが、あれはあくまでアニメの中の話だ。現実にあるはずもない。ましてや、自分は幽霊でもないただの人間だ。世の中に不条理な者でもないはずである。
(しかし、なぜまだ生きているんだ? あのアニメの暗闇とは似ていて非なるものなのか?普通は吸いこまれれば、あとかたもなく消滅しているはずなんだが。)
界はなぜこんなことになったのか理解できずにいた。
だが、生きていたことが奇跡だった。それが現状だった。今のは幻覚が見えたのだろう。そう思いたかった。
だが、周りを見てその考えがすべて否定された。
「――ここは……どこだ……ッ?」
周りを見ると四方が山に囲まれた町の中にいた。詳しくいうと住宅地。電線があり、周りにはお寺や木造建築物が目立っている。家から見える湾岸の海景色とはうって変わっている。
自分の知らない土地。自分に何がおきたのかわからなかった。
(俺は夢を見てるのか?……古神 界……高校3年……大丈夫だ記憶はあるし、擦り傷がまだ痛いから現実だ。じゃあここはどこだ?)
界はスマホを取り出すと電源をつけた。
しかし、スマホの右上の表示にはアンテナは一つも立ってない。
(見た感じ内陸だからか?いや今の世の中、洞窟以外圏外なんてありえない。じゃあスマホが壊れたからか?いやそうではない……。)
界は仕方なく再起動してみるがそれも何も意味がなかった。ちゃんと中身は普通に動いているのだから。
じゃあ自分に何が起こったのだろう。ここは何処なのだろう。なんとかして、自分の世界と共通するものを探したかった。いや探さないと自分は脱出不可能の大迷宮に迷い混んだことになる。
(まっ……まぁ……、何か目印のある所を探しつつ、駅を探せばわかるはず。大丈夫だ。自分しっかりしろ。)
界は取り合えず、ここが何処だか探すことにした。駅を見つけるのを目標に、界は街を徘徊することにした。
この土地が内陸だからかまだ雪は融けておらず、歩道の端にはまだ雪が積もっており肌寒い。道は細く融雪は所々で人の姿も全くない。
そんな中を、擦り傷のまま15分ゆっくりと自転車を押しながら歩いていた、そんな時、目の前を小学校低学年くらいの少女が泣きながら歩いていた。
界にとって初めての人だった。このよく分からない場所に来て、周辺を歩いて回ったが、街人が全くいないのである。そんな中たった一人で泣いている少女を見つけたら助けてあげない訳がなかった。
だが、界は急いでいる。早く場所が知りたいし、試験にだって遅れたくない。だが、他に誰も人がいない中、誰が少女を助けるのだろうか。そう思うと界は決心した。
界は少女に近づいて話しかける。
「お嬢ちゃん。どうしたの?」
「うぅ……ッ……ぐッ……おうちどこ……?」
「あー……」
自分も迷子なのに、泣いている少女の方も迷子であったとなると正直なところどうしようもない。ここがどこかも分からないのに、迷子探しができるか!と思ったほどだ。だが界はほったらかしにはしない。
「それじゃあ、一緒におうち探そうか」
界はしゃがみこむと少女の頭を撫でながら話しかけた。よくみると少女は長いロングヘアーの女の子だった。それも見た目は成長したら美少女になりそうな顔つきをしている。
「――ありがとう……うぅ……ッ…… お兄ちゃん」
少女は安心したようで、少し笑顔が戻ってきた。
界は実はロリコンなのかもしれない。少女の笑顔を見るとなぜか助けたいという意思しか湧いてこなかった。
それから、界は自転車を押しながら、少女と二人で街中を歩いていた。周りには昔ながらの古い木造の家が並んでいた。界は少女に尋ねた。
「お名前はなんて言うのかな?」
すると少女は唐突に、こう答えた。
「さーちゃんだよ」
「えっ?」
ニコニコしながら答える少女。可愛らしい笑顔は界の胸にぐさりと刺さる。界はそれに突っ込みをいれた。
「それ名前じゃないじゃん。」
「いいもん。友達みんなさーちゃんってよぶから。」
そうかそうかと界はうなずいている。まぁ知らない人に名前を言わないのは先生に言われてるからなのかもなと思った。
「俺は"界"お兄さんだ!」
「かい???へんな名前だねお兄ちゃん!」
界は自分の名前が小学生の女の子に変だと言われ、少し心にグサりと刺さる。別に今流行りのDQNネームじゃないし……と思う。逆に古そうな名前なんじゃないかと思うくらいだ。
だがそんな、楽しい時間もすぐに消えてしまった。
しばらく古い住宅地の中を歩くと"さーちゃん"と呼ばれる少女は目を丸くした。
「ここ見たことある。たぶん、ここ通学路……。もうひとりでかえれるかも!」
「そうか。じゃあ一人で帰れるな。気をつけて帰れよ!おうちの人が心配してるかもだからな。」
界は少し安心しながら、少女を見送った。もうお別れかと界は少し寂しく感じた。謎の場所で出会った少女は元気そうに後ろを振り向いた。
「お兄ちゃんバイバ~イ♪」
女の子は界に挨拶をすると、背中を向けて、歩いて帰っていく。それを界は最後まで見守っていた。結局ここが何処だか分からなかった。
だがようやく、少女のいる道の向こう側から犬を連れたおばさんがやってくるのが見える。どうやら本当に田舎の田舎だったようだ。
(あの人に駅の場所でも聞くとするか……)
そんなことをふと思った時だった……
ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ ガタ
一瞬何が起きたのかは分からない。
だが、上下左右に強い揺れを感じた。周りの物がすべて音をたて揺れている。そしてそれがすぐに地震だということに気づいた。
(やばいこれっ……でかい!あの子はどこだ?)
ふっと、見ると少女は道に座り込んで動けないでいる。
多分恐怖で動けないのだと界は感じた。
だが、それだけではなかった。
ガラン ガラン ガラン
少女がいた上を見ると、道端のアパートの建築現場の骨組みが今にも崩れそうだった。
「なっ……やばい!」
界は揺れている中、自転車を手放すと全速力で走った。揺れていると、こんなにも走るのが遅くなってしまうのだと感じていたが、そんなことはどうでも良い。ただ目の前にいる小さな少女を助けたい一心で走った。すると、骨組みがついに耐えられなくなり、鉄の塊が少女の真上に落下していく。
「くそっ…………間に合えぇぇぇぇぇぇ」
界は少女の元へたどり着くと、頭を押さえ丸まった少女を、できるだけ遠くに投げ飛ばす。界はただ無我夢中だった。
少女は投げ飛ばされ、地面を転がっていった。
幸い、女の子は擦り傷を負ったくらいに見える。
「へっ……」
しかし、界が少女を投げ飛ばした直後、鉄の骨組みのとがってる部分は界の体に突き刺さり、鉄の板やパイプは彼の頭や体を容赦なく押し潰し、彼は鉄の塊の下敷きとなった。
「うぐっ……」
さらに上から上へ鉄片が降り注ぎ、界の体へと落ちていく。鉄の尖った部分が界の背骨に刺さり血が流れ出す。
界は上からの圧力と刺さった痛みで倒れた。そしてその上に鉄片が散乱した。
「あぅ……がぅあ……ぐふ……」
だがなんとか界はまだ生きていた。いや彼の気力の問題だった。必死に骨組みを手でつかみ、頭をだす。
頭に鉄骨があたり、血が流れ落ちて朦朧としていた。
いつのまにか、地震の揺れは止まっていた。
周りに建った家は倒壊していないことから震度は6くらいと考えていいだろう。
そして……目の前には、先程助けた少女が立っていた。彼女は揺れがおさまると、鉄の塊の方を向いていた。少女は立ちすくみ、目からは涙がこぼれていた。さっきまで、仲良くしてくれていたお兄さんが血まみれだったことを考えると、とても恐怖としか言い表せれない様子だった。
「……だ……いじょう……ぶか………。お兄……ちゃんは…………もう……」
今にも意識がやられそうで、悶え苦しみ、必死に生きようとすると涙が溢れだしてくる。界は少女を気遣い声をかけた。というより、意識を失えば、死ぬのは確定だとわかっていた。死にたくなかった。必死に声をだし意識を保とうとする。だが、痛みで力が入らない。どんどん力が抜けていくのがわかる。
だがなんとか、生きた証を残さないとと、力を振り絞り首にかかった勾玉を掴むと、歯で紐を食いちぎり少女へ差し出した。
「――これは……奇跡の…勾玉だ……」
「これをお前に……あっ……預かってほしいん……だ……。これの……持ち主がくるまで……大事に……持っててくれ……」
界の手は少女に希望を求めるようだった。少女は泣きながら、恐る恐る界の血だらけの手にある血で染まった勾玉をゆっくり受けとった。
「ありがと……」
勾玉が手から離れた瞬間、界の意識は一瞬で途切れ、腕がそっと地面に落ちていく。それを目の前に少女は静かに立ちすくんでいた。彼女は何を思ったのだろうか。それはわからない。
だがそんな中、界は力尽きたように目を閉じて動かなくなっていた。
それから数分後救急車が到着して運ばれて行った。誰が呼んだのかは分からない。多分あそこにいたおばさんが呼んだのだろう。
少女はからっと晴れた空の下、手に持った勾玉を握りしめていた。少女は何も言わない。ただ泣いているだけ。この出来事はまだ小さい少女の頭にしっかりと刻みこまれることとなった。
「かい……お兄ちゃん……」
それから彼は二度と目を覚ますことはなかった。少女の涙を奪いこの世を去ったあの日からは。
享年 18歳 古神 界
2015年1月18日α 曇のち雪
「界は無事なんだろうか……」
古神家では昨夜から帰ってこない界を心配して雅人が一人呟いていた。知り合いに片っ端から電話をかけ続けたが、全く目撃がなかった。
香澄は心配そうに外を見ながら俯いていた。
その結果、わかったことがいくつかあった。
彼はセンター会場に来ていないこと。
駅で待ち合わせた友達にも会ってないこと。
よって駅につくまでに彼の身に何かあったことがわかったのだ。
雅人はついに警察に失踪届けをだし、町中で捜索が始まった。それはニュースとして流れ、それを知った友達は皆心配していた。
だが、時として現実は残酷だった。
それから数日後、手がかりなく捜索は打ち切られた。
それを聞き多くの友達や後輩が警察に問い詰める事態となった。しかし、結果は変わらなかった。
外はしんしんと雪が降っている。だが、ただ一人静かに「ふふっ」と微笑んでいるものがいた。
手に落ちた雪が溶けるように、その微笑みもまた溶けて消えていった。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
私は理系なので基本文章力ないですが読んでくれる方は本当に感謝感激です。