東方紫瑛界   作:澪海

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父親の名前は西行寺歌聖という


第23話 反魂蝶 -八分咲-

丘の上にある一本の桜の木の下

 

白い着物を身にまとう一人の女性が立っていた。

 

彼女は春風で散っていく桜をただ悲しそうに見上げていた。

 

そこに一人の男が走ってくる。

 

「幽々子っ!お前は何をしていたんだ!」

 

「…………別に…………ただ桜を見ていただけよ。」

 

「…………」

 

「ねぇ…………。紫をここに連れてきてくれないかしら。一緒に花見をしたいのよ。」

 

「…………わかった。あとこれ、待ってる間に読んどけよ!」

 

 

手渡したのは、父親が書いた文だ。これを幽々子に渡して全力で屋敷に戻った。

 

 

 

しばらくして界は紫を運んできた。紫はまだ目覚めないが、心臓は刻一刻と弱くなるばかりだ。

 

「あら遅かったわね。父上の本音が聞けて嬉しかったわ。」

 

ちゃんと幽々子は文を読んでくれたみたいだ。幽々子の顔に少し明るみが戻った気がした。

 

 

しかし、タイムリミットはあと僅かしかない。

 

 

幽々子と界は桜の木の下で座っていた。界はいつでも能力を使えるよう準備をする。

 

だが幽々子が言った。

 

「生きていることを説明するには、死んでいるものが必要なのよ。

だから、死なない生き物は存在し得ない。生きていなければ死ねないし、死なない生き物は生きてもいない。

生命は生死の境界によって成り立っているのよ。」

 

「お前は正気なのか?紫を見殺しにするのか?」

 

「いいえ。事はすべて私が悪いの。私の責任だわ。だからこそ今回は私が何とかして紫を助ける!」

 

「…………わかった。すべてお前に任せる。」

 

 

桜の花びらが散るなか、幽々子は紫の側に座り、精神を統一する。

 

しばらくのあいだ閑散とした時間が流れる。

 

 

 

そして運命の死の時間帯が始まる。

 

 

ドクン!

 

紫の体が一度痙攣を起こし、心臓が止まった。

 

幽々子は頭の中で祈った。

 

(生命をつくりだすことは神への冒涜(ぼうとく)。そして今からその禁忌を破る。ただし、私の命と引き換えに、この術を確実に成功させる!)

 

「禁呪『反魂の術』」

 

幽々子は感情をむき出しにし、

目を閉じたまま両手を握りしめ、祈りを捧げる

 

すると幽々子の体から青白いモヤモヤした光が現れ、幽々子の流す涙と合わさり、

彼女の胸の辺りに青き玉を形成する。

この涙の青き玉は祈りを表すもの。

 

それを紫の体にそっと入れる。

 

そして、紫の胸の辺りから赤く輝く玉が現れる。

この赤き玉は禁忌を破った代償を表すもの。

つまりは死。

 

これを手に取り、幽々子はその玉を受け入れようとする。

 

 

 

その時、誰かが彼女の腕を掴んだ。

 

それは、紫だった。

 

紫の顔は笑顔に満ちた顔をしている。

だけどその顔には涙があった。

 

「ありがとう…………幽々子。あなたは……私の最高の友達だわ……。」

 

「いいえ。私は貴方に助けられた恩を返しただけだもの。

そして……私はその代償を受けなくてはいけないの………」

 

「あなたと別れたくない…………あなたとずっといたい……。まだ会ったばかりなのに…………。一緒にお茶してないのに…………。もっとお喋りしたかったのに…………」

 

幽々子は静かに紫を介抱した。

 

「ごめんね……紫……。あなたを裏切るような形になって…………だけど、あなたと一生の友になれて本当に嬉しかった…………貴方のことは絶対に忘れないわ……。

私の能力がある限り、幽霊になってもまたきっとどこかで会えるから……。」

 

 

幽々子は泣きながら紫から離れると、自らの体に赤く輝く玉を入れる。幽々子は赤く輝き苦しむ。それは、痛く、辛く、悲しく、色んな不の感情が混ざった玉。

 

界はただそれを見てることしかできなかった。

いや、何もできなかった。

 

そうして、彼女は足から順に、キラキラと消滅していく。

 

 

「幽々子…………」

 

界は泣くのを堪えながら幽々子の名を懸命に叫ぶ。

それを見て、微笑んだ彼女の最後の言葉は

 

「紫、界……さようなら…………また会いましょ……」

 

であった。

 

 

桜の木は風に揺られ、花びらを散らつかせている。

 

若くしてある一つの命が生死の境界の境目を通り抜けたのである。

 

 

 

 

 

 

しばらく時間が過ぎた

 

 

 

「ねぇ…………界? 幽々子ってこれからどこにいくのかなぁ?」

 

「さぁな。だが俺らの近くにいて見守っているんじゃないか!」

 

「そうね。そうだといいわね…………。あと、界。一つお願いがあるの。」

 

「なんだい?」

 

 

 

 

界は紫を振り向いて言った。界の顔も、紫の顔も笑顔に染まっていた。その裏にはまだ未練はあるように見える。

 

 

 

「私を妖怪にしてほしいの。」

 

 

 

紫はぽつりと言った。

界は見抜いていたように問い返す。

 

 

「ふふっ……どうせ長生きしたいとか考えてるんだろ?」

 

 

界は煽りながら紫の返事を待った。

 

 

「まぁ……それもあるんだけど、一番の理由は……幽々子が帰ってくるのを待ちたい…………かな。」

 

「おいおい。本気か?」

(まぁ実際に再会するのがオチなんだがな)

 

「えぇ……もちろんよ。」

 

「妖怪になったらもう人間とは別の道へ行くのが妖怪の掟だ。そして妖怪は人間を襲い、人間を食べる妖怪もいる。お前の未来の宇佐見蓮子という友達を捨て、二度と会わない決心をするなら、妖怪にしてあげなくもないが。」

 

「…………」

 

「まぁ時間はまだある。ゆっくり考えるといいよ。」

 

 

 

 

それから西行寺家に戻った。幽々子の訃報を聞いて、父親は泣きわめいた。

 

文を幽々子は喜んで読んでましたと伝えると、父親は自分の気持ちが伝わったとわかると、幽々子の形見の丘の桜を守っていく決意をした。

 

そうこの地を人々はこういうようになった 。

桜花爛漫な街 桜町 と。

 

 

新緑の葉が生え揃う頃、界と紫がこの街を去った。

 

 

 

そう再びこの地に災厄が訪れるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 




反魂の術

これは西行法師が編み出した、死体から人間を蘇生させる禁忌の術。だが、神への冒涜となるため、神の操作で失敗するのがほとんど。地獄先生ぬ~べ~でも登場した術で、一時的に成功するが、最後には失敗するのがオチである。

実際に西行法師は今回よりあとの時代に生きる人物のため、これは西行寺幽々子が独自に編み出した反魂の術と言ってもいい。だが反魂の術は失敗する確率が高いため、自分の命を犠牲にし、蘇生を行い成功した。
ちなみに、紫は自害した幽々子の元の寿命を引き継いだ。





次回からは何編にしようかなぁ~
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