丘の上にある一本の桜の木の下
白い着物を身にまとう一人の女性が立っていた。
彼女は春風で散っていく桜をただ悲しそうに見上げていた。
そこに一人の男が走ってくる。
「幽々子っ!お前は何をしていたんだ!」
「…………別に…………ただ桜を見ていただけよ。」
「…………」
「ねぇ…………。紫をここに連れてきてくれないかしら。一緒に花見をしたいのよ。」
「…………わかった。あとこれ、待ってる間に読んどけよ!」
手渡したのは、父親が書いた文だ。これを幽々子に渡して全力で屋敷に戻った。
しばらくして界は紫を運んできた。紫はまだ目覚めないが、心臓は刻一刻と弱くなるばかりだ。
「あら遅かったわね。父上の本音が聞けて嬉しかったわ。」
ちゃんと幽々子は文を読んでくれたみたいだ。幽々子の顔に少し明るみが戻った気がした。
しかし、タイムリミットはあと僅かしかない。
幽々子と界は桜の木の下で座っていた。界はいつでも能力を使えるよう準備をする。
だが幽々子が言った。
「生きていることを説明するには、死んでいるものが必要なのよ。
だから、死なない生き物は存在し得ない。生きていなければ死ねないし、死なない生き物は生きてもいない。
生命は生死の境界によって成り立っているのよ。」
「お前は正気なのか?紫を見殺しにするのか?」
「いいえ。事はすべて私が悪いの。私の責任だわ。だからこそ今回は私が何とかして紫を助ける!」
「…………わかった。すべてお前に任せる。」
桜の花びらが散るなか、幽々子は紫の側に座り、精神を統一する。
しばらくのあいだ閑散とした時間が流れる。
そして運命の死の時間帯が始まる。
ドクン!
紫の体が一度痙攣を起こし、心臓が止まった。
幽々子は頭の中で祈った。
(生命をつくりだすことは神への
「禁呪『反魂の術』」
幽々子は感情をむき出しにし、
目を閉じたまま両手を握りしめ、祈りを捧げる
すると幽々子の体から青白いモヤモヤした光が現れ、幽々子の流す涙と合わさり、
彼女の胸の辺りに青き玉を形成する。
この涙の青き玉は祈りを表すもの。
それを紫の体にそっと入れる。
そして、紫の胸の辺りから赤く輝く玉が現れる。
この赤き玉は禁忌を破った代償を表すもの。
つまりは死。
これを手に取り、幽々子はその玉を受け入れようとする。
その時、誰かが彼女の腕を掴んだ。
それは、紫だった。
紫の顔は笑顔に満ちた顔をしている。
だけどその顔には涙があった。
「ありがとう…………幽々子。あなたは……私の最高の友達だわ……。」
「いいえ。私は貴方に助けられた恩を返しただけだもの。
そして……私はその代償を受けなくてはいけないの………」
「あなたと別れたくない…………あなたとずっといたい……。まだ会ったばかりなのに…………。一緒にお茶してないのに…………。もっとお喋りしたかったのに…………」
幽々子は静かに紫を介抱した。
「ごめんね……紫……。あなたを裏切るような形になって…………だけど、あなたと一生の友になれて本当に嬉しかった…………貴方のことは絶対に忘れないわ……。
私の能力がある限り、幽霊になってもまたきっとどこかで会えるから……。」
幽々子は泣きながら紫から離れると、自らの体に赤く輝く玉を入れる。幽々子は赤く輝き苦しむ。それは、痛く、辛く、悲しく、色んな不の感情が混ざった玉。
界はただそれを見てることしかできなかった。
いや、何もできなかった。
そうして、彼女は足から順に、キラキラと消滅していく。
「幽々子…………」
界は泣くのを堪えながら幽々子の名を懸命に叫ぶ。
それを見て、微笑んだ彼女の最後の言葉は
「紫、界……さようなら…………また会いましょ……」
であった。
桜の木は風に揺られ、花びらを散らつかせている。
若くしてある一つの命が生死の境界の境目を通り抜けたのである。
しばらく時間が過ぎた
「ねぇ…………界? 幽々子ってこれからどこにいくのかなぁ?」
「さぁな。だが俺らの近くにいて見守っているんじゃないか!」
「そうね。そうだといいわね…………。あと、界。一つお願いがあるの。」
「なんだい?」
界は紫を振り向いて言った。界の顔も、紫の顔も笑顔に染まっていた。その裏にはまだ未練はあるように見える。
「私を妖怪にしてほしいの。」
紫はぽつりと言った。
界は見抜いていたように問い返す。
「ふふっ……どうせ長生きしたいとか考えてるんだろ?」
界は煽りながら紫の返事を待った。
「まぁ……それもあるんだけど、一番の理由は……幽々子が帰ってくるのを待ちたい…………かな。」
「おいおい。本気か?」
(まぁ実際に再会するのがオチなんだがな)
「えぇ……もちろんよ。」
「妖怪になったらもう人間とは別の道へ行くのが妖怪の掟だ。そして妖怪は人間を襲い、人間を食べる妖怪もいる。お前の未来の宇佐見蓮子という友達を捨て、二度と会わない決心をするなら、妖怪にしてあげなくもないが。」
「…………」
「まぁ時間はまだある。ゆっくり考えるといいよ。」
それから西行寺家に戻った。幽々子の訃報を聞いて、父親は泣きわめいた。
文を幽々子は喜んで読んでましたと伝えると、父親は自分の気持ちが伝わったとわかると、幽々子の形見の丘の桜を守っていく決意をした。
そうこの地を人々はこういうようになった 。
桜花爛漫な街 桜町 と。
新緑の葉が生え揃う頃、界と紫がこの街を去った。
そう再びこの地に災厄が訪れるとも知らずに。
反魂の術
これは西行法師が編み出した、死体から人間を蘇生させる禁忌の術。だが、神への冒涜となるため、神の操作で失敗するのがほとんど。地獄先生ぬ~べ~でも登場した術で、一時的に成功するが、最後には失敗するのがオチである。
実際に西行法師は今回よりあとの時代に生きる人物のため、これは西行寺幽々子が独自に編み出した反魂の術と言ってもいい。だが反魂の術は失敗する確率が高いため、自分の命を犠牲にし、蘇生を行い成功した。
ちなみに、紫は自害した幽々子の元の寿命を引き継いだ。
次回からは何編にしようかなぁ~