問題児たちが本気で缶蹴りをするようです。 作:朧気だんぼーる@受験
~草原~
十六夜(一番最初の奇襲攻撃の位置から推測してサンドラと黒い風を操る斑ロリの居場所は南方向の森林に違いない)
十六夜(まだ遠くには動いていないだろうから、早いとこあいつらが隠れてる茂みに特効してまとめて殴り飛ばすのもアリか……?)
十六夜(かなり癪だが……今の攻防を見るに缶の防衛に関しては白夜叉さえいれば俺は必要無い。
白夜叉のあの謎ギフトがあれば遠距離攻撃で缶が倒されることはまず無いはずだ。
だったら今俺にできる事はズバリ『攻め』!)
十六夜(よし、そうと決まったら……)
十六夜「……白夜叉。缶の護衛を頼めるか。俺は今からサンドラとペストをぶっ飛ばしに行きたいんだが」
白夜叉「彼女らをぶっ飛ばすのは構わんが鎖で縛るの忘れないようにの」
十六夜「分かってる分かってる」
十六夜は腰を屈めて最初に熱線が放出された方向に頭を向ける。
※※※
~北西の森林の中~
レティシア(計画通り)ニヤリ
レティシア(混世殿の能力を確かめずに安易な行動に走ったのが仇になったな主殿!!)
レティシアが草原から十六夜の姿が無くなったのを確認して背後を振り向くと、さっきまでペストと一緒にいたサンドラを連れた混世魔王の姿があった。
レティシア「うまくいったようだな混世殿」
混世魔王「おいおい俺は神隠しが専門だぜ?甘く見てもらっちゃ困る」
サンドラ「今のところ作戦通りですね!」
レティシア(そう、ゲーム開始時の配置はまずペストとサンドラ、私と混世殿の二手に分かれて遠距離攻撃で缶の狙撃を試みた)
レティシア(私は全包囲から攻撃をすることで自身の居場所をカモフラージュし、サンドラとペストには敢えて主殿に居場所が割れさせるように仕向けたのだ)
レティシア(主殿の性格からして居場所さえ分かれば攻撃を仕掛けてくるのは分かっていた。そこで姿を消す恩恵を持つ混世殿にサンドラをここまで拉致ってもらった)
レティシア(つまりあそこで主殿を待ち構えているのは神霊ペストのみ!いやはや魔王とはいえど神霊が味方なのは実に心強い)
レティシア(そして、ペストに時間を稼いでもらっているうちに3人がかりで白夜叉殿を叩く!)
レティシア(完璧だ。これぞ名付けて『陽動作戦』!!)
※※※
~草原~
足場を炸裂させ、十六夜が森林へと跳躍する。
ペスト(来た!)
十六夜「隠れてねえでお兄さんと遊ぼうぜロリ共ッ!!」
ドガンと大木をクッションにして跳躍の勢いを殺し、十六夜がペストの目の前に現れた。
十六夜「……あれ、お前1人か?」
ペスト「ええ、そうよ。私の役目は時間稼ぎ。他の人達には缶を攻めに行って貰ったわ」
十六夜「“攻めに行った”?……てことは遠距離攻撃が通用しないと踏んで残りの3人は直々に缶を殴りに行ったってことだよな。だったらてめえは後回しだ。じゃあな」
ペスト「行かせないわ、言ったでしょう?私の役目はあなたの足止めなのよ」
ペストがぶんっと片手を振るうと、たちまち十六夜は黒い風に呑み込まれ、数多の木々を薙ぎ倒しながら森林の奥へと吹き飛ばされた。
十六夜「…………テメェ」
学ランに付着した土埃を払いながら十六夜は立ち上がり、ペストを睨む。
ペスト「あら、貴方の身体結構丈夫なのね。缶蹴りをやっていなければ私の駒にしてあげたのに」
十六夜「面白ぇ、即効で縛り上げてやっからそこに直れクソ斑ロリ────!!」
十六夜はポケットから封印の鎖を1本取り出し、白黒斑の少女目掛けて駆け出した。
※※※
~草原~
一方レティシア、サンドラ、混世魔王の3人は一気に缶へと特効を仕掛けるべく森林から飛び出していた。
レティシア「白夜叉殿覚悟ッ!!」
白夜叉「おやおや、雁首揃えて大きく出たなおんしら。神格を持たず、力も補正されている今の私になら3人でかかれば何とかなるという算段か?」
白夜叉は特に臆する様子もなく、雅に扇子を開いた。
サンドラ「いくら白夜叉様とはいえ、缶を庇いながらでは上手く動けないはず!!──はっ!!」
混世魔王「覚悟するんだなァッ!!おりゃあ!!」
サンドラは炎の熱線を、混世魔王は絶対零度の吹雪を白夜叉に向けて発射した。
白夜叉「やれやれ、この白夜王も随分と舐められたものだの」
白夜叉は足元の缶を踏んで倒れないように固定すると、扇子を振って2人の攻撃を容易く霧散させる。
白夜叉相手に並大抵の飛び道具ではまるで歯が立たないというのは先ほどの立合いで分かっているはず。
なら何故真っ正面から遠距離攻撃を仕掛けてきたのか。
白夜叉「──まあ、概ね死角からの奇襲を成功させるためのブラフじゃろうなぁ。吸血鬼?」クルリ
レティシア「ッ!?」
首だけ後ろを向いて白夜叉が笑う。
強襲を狙い、背後から槍を構えて接近していたレティシアはゾクリと冷たい汗を流すが、構わず突進した。
レティシア「────ハッ!」
白夜叉「ぐは。やられた」
ドスッと白夜叉の背中に槍が直撃する。
避けるか受け止めると読んでいたレティシアの瞳が驚愕に揺れた。
レティシア「なっ!?どうして避けずに……!!」
白夜叉「なんちゃって」
レティシア「え」
白夜叉「こんな生っちょろいの避けるまでも無い。殺す気で来なければ私の相手は務まらんぞレティシア」
槍を受けたまま白夜叉が苦笑する。
よく見たら槍の先は白夜叉の着物を貫通しただけに留まっていた。
レティシア「……はは、それは手厳しい。結構本気でやったのですがね」
これにはレティシアも苦笑で返すしかない。
音速を超える速度で刺突したにも拘わらず、白夜叉は全くの無傷どころか踏んだままの缶を倒してすらいないのだ。
改めて目の前の敵の強大さにレティシアは舌を巻く。
白夜叉はその隙を見逃さなかった。
背中に突き付けられた槍を引っ張ってレティシアを手繰り寄せ、胸元を掴み上げる。
レティシア「うっ!?」
白夜叉「つかまえたぞ♪」
白夜叉は笑いながら懐から1本の鎖を取り出した。
レティシアは慌てて白夜叉の腕を引き離そうとするが、まるで微動だにしない。
レティシア(何て馬鹿力……!)
混世魔王「ったく世話が焼けるぜ姉ちゃん」
今にもレティシアが鎖に捕らわれそうなのを見かねた混世魔王は背中の“混”の一文字を靡かせ、麻布のローブから巻物とおぼしき紙を取り出す。
結びを解かれた巻物から“虚度光陰”の文字が顕現する。
途端、緑豊かなステージは白黒のモノクロームによって色が奪われた。
さらに自分以外の動きも全て制止してしまった。
混世魔王「よし時が止まった。さっさとやんねえと……」
二次的な補正による影響か、時間を止めてから早くも術を維持するのが辛くなってきた。
恐らく5秒持たないだろう。
混世魔王は急いで爪でレティシアの胸元を裂き、抱き抱えるとすぐにその場から離れて虚度光陰の術を解除した。
白夜叉「!?消えた!?」
混世魔王「はあ……はあ……クソッ、マジで疲れた……」
レティシア「!?……た、助かったぞ混世殿……」
混世魔王「礼なんざどうでもいい。これで白夜叉の奴にこっちの種がバレたわけだ……どうするか……」
※※※
~南の森のなか~
十六夜「……何だったんだ今のは……」
ペスト「ッ!!?」
呆然とあたりを見回す十六夜の側で、ペストは声にならない悲鳴をあげた。
無理もないだろう。
気がついたら自分の身体が鎖に捕らわれていたのだ。
ペスト「これは……!貴方一体何を……!?」
十六夜「こっちが聞きてえよ。いきなり辺りの景色の色が消えたと思ったら時間が止まったみてえにお前の動きが制止したんだ。だからその隙に捕縛した」
ペスト「は……?」
混世魔王が虚度光陰を展開している間、他人のギフトの効力を受けない十六夜だけは体感時間停止の対象から外されていた。
そういうわけでものの数秒ではあったが、十六夜の辺りの景色からは色が消失し、十六夜以外の動作はその時全て制止していたのだ。
前提としてギフトゲームは能力不足、知識不足を不備としない。
「空を飛べ」「不死を殺せ」と書いてあろうが、飛べぬ方が悪く、殺せぬ方が悪い。
つまり体感時間を止められても動けぬ方が悪いのだ。
それを踏まえて時間が止まっている間に十六夜がペストを捕らえたのは至極全うなものであった。あったのだが。
──自ら快楽主義を謳う十六夜はそんなつまらない幕切れを良しとはしなかった。
十六夜「……」
十六夜はペストの背後に回ると、カチャカチャとペストの鎖をほどき始める。
まさか助けられるとは想像だにしていなかったペストは若干目を見開いて十六夜の顔を見つめた。
ペスト「……どういうつもり」
十六夜「なに、俺はこんな勝ち方をしたくなかっただけだ。せっかくこうして魔王様に相手してもらってるってのにこんなグダった終わりかたじゃお互い絶対悔いが残るだろうからな」
ペスト「……ふん。かっこつけちゃって。二度とこんなチャンスは来ないわよ」
十六夜「チャンス?笑わせんなよクソ斑。俺は真っ正面からてめえを縛って悔しそうに唇を噛むお前の顔を見てどや顔したいだけだ。ただ捕まえるだけなら10秒かからねえよ」
ペスト「あら、ならやってみるといいわ。ヘッドホンの人」
十六夜「上等だ2秒待ってやっから逃げられるもんなら逃げてみろ魔王様────!!」