「おっじゃまするにゃー!!」
凛は勢いよく俺の部屋の扉を開ける。
時刻はとうに夜10時を回り、あと数時間も経てば新しい年が始まってしまうというのに、俺は相変わらずにゲームに没頭していた。
勢いよく開け放たれた扉からヒヤリとした新鮮な空気が入り込み、たまらず俺はスタートボタンを押して袖を指の付け根まで引っ張って手を潜す。
指先を冷やすことはゲームの死をも意味する。
そう言えば寒い。エアコンの設定温度を上げる為にリモコンへと視線を移す際、
オーバーコートに身を包んで現れた凛の顔を少し見た。
夜も遅いのに、昼間に会った時と同じ様に口角を上げて笑みを浮かべていた。
それは少し頭の弱い子に見えてしまう。が事実なので仕方がない。
「あったかいにゃー」
「寒いよ」
真逆な会話をして、俺は何事もなかったようにモニターに目線を戻してゲームを再開させる。
「もぉー! 何してるニャ!」
凛はすぐさまに隣のソファーに座り込むと俺のコントローラーを無理やりに奪い取った。
俺は、同じく無理やりには凛の手に収まったコントローラーを奪うことは出来ない。
幼馴染とは言え、相手は女子。力付くでは奪えない。
いや違う、本気でやったら俺が負けてしまうかもしれないからだ。
幼い頃は、そうだった。
俺は軽く引っ張った真似をする。
「いいの! ここは凛にまかせるにゃ!」
凛は自信満々な表情を浮かべ、そう言い放った。
言い放ち、最高難度に設定された難攻不落のステージへと無謀にも嬉々として挑んでいく。
「そこ。右から出てくるからな」
仕方なく、ボソリと俺は凛に助言をする。
「それくらい凛は分かってるにゃ!」
凛はそう言った。分かっていないくせに、おかまいなしだ。
案の定、右から突如として襲いかかってきた敵に無残にもやられてしまう。ゲームオーバー。
ここまで進めるのに何分かかったと思っているのだろうか。
凛を見る。「あちゃちゃー」とか言っている。
「だから言ったのに」と怒ってみる。今一俺の怒り方は弱い。やはり女の子には、というよりあまりにこの幼馴染には悪げが全く無いので本気ではどうしても怒れずにいる。
「つめたくて手が動かなかったんだもん!!」
と今度は凛が怒り始める。悪いのは凛じゃなくて手が冷えたことのせいにしたいらしい。
凛の腕前ではどちらでも結果は同じだったと断言出来るが「外そんなに寒かったのか?」と俺は訊いてやる。
「北極くらい寒いニャ」と凛は意味不明なことを口走り、あろうことか「ほらね」と俺の手を握ってきた。
「わっ」と俺は思わず声を上げてしまう。
何をビビっているんだろうか俺は。
というかそんなに冷たくない。むしろ温かい。どころか俺の体温を上回っているようで凛が掴んだ手から俺の手へと体温がじわじわと移ってくる。
やはりゲームオーバーになったのは手が冷たくなったせいではないことが証明された。
だと言うのに凛は握ったまま「ねっ?」とかまだ訊いている。
というか柔らかい。なんだこの手。
小さくて、酷く柔らかい。
エアコンの設定を上げたこともあって、急になんだか熱くなった俺は「分かった」と言って手を解いた。
「なにしにきたんだよ」と訊く。
「あっ! そうだったにゃ!!」
凛は叫ぶ。煩い。すぐ隣に座っているのに声が大きい。なんなんだろうか。
「ねえねえ!! ナオくんナオくん!!」
そして俺の名を、二回呼ぶ。なぜ二回も呼ぶんだろうか。足同士が触れているほど近いと言うのに。分かっているのだろうか。さっき俺の足を踏んだ。二回も踏んだ。
たまらず「うるさい」と言って片耳を手で押さえる真似をする。
「うるさくないニャ!!」
「何時だと思ってるんだよ。10時過ぎてんだぞ。なんでそんな元気なんだ」
「凛はいつでも張り切りマックスなんだにゃ!!」とまた意味不明なことを言う。
「と言うか門限」
「今日はいいの! 今日はナオくんと年を越すんだにゃ!」
と突然言い放った。
俺の予定も聞かずに。まあ答えるまでもなく予定など入れてないが。
じゃなきゃこんな時間にまで一人ゲームなんてしていない。
知ってか知らずだろうか。
だいたい年が変わることに対してそんなに思うことはない。
きっと家庭のせいだ。
今日もいつもと同じ……。
「かよちんも誘って神田明神に二年参りに行きたいニャ」
「めんどくさいニャ……」と俺は稀に語尾を真似てそう答えた。
「ニャじゃないニャ!」と凛は言い、続ける。
「もうかよちんにも連絡済みだし!!」
「なんて?」
「凛とナオくんと一緒に、お参りしに行こうって」
「俺の是非を先に聞いておいてくれないか」
「かよちんすっごく喜んでるよ!!」
「聞けよ」
「うるさいニャ!!」
うるさいのはどっちだろうか。溜め息が出る。新年から溜め息をしてしまいそうだ。
新年か……。さっきは新年など関係ないと言ったけど、ちょっとは関係なくはないようだ。
自分でもよくわからない。体の隅っこの方で何かが浮ついている。
「かよちんをがっかりさせたらダメなんだからねっ!!」
と凛が隣で怒鳴った。耳元で。声の大きさを絞れないと言うならソファをもっと大きいヤツに変えないとダメなようだ。
「……分かったよ」と俺は言う。だいたいそう俺がいつも折れている気がする。
来年は折れない心を持とう。
神社にお願いごとが決まったところで、俺は今更初めからゲームを再スタートさせる気ももう起こらず電源を落とす。
チャンネルを変えた番組には、年末の恒例行事か5人のお笑い芸人がなにか言っては笑って尻を叩かれる、ということを永遠繰り返していた。
何も喋らなきゃ叩かれる回数も減るだろうに、と思ったが隣で凛がそれを見ていちいちキャッキャと笑い声を上げるので、それでいいんだな、と思った。
「まだ時間早いけどたーくさんお参りする人がいるから早めに行こ」と凛が言った。
時刻は夜11時。
変わらずに日は過ぎて、年も過ぎていく。
年が変わってしまいました。
相変わらずなラブライバーで、変わらずに、書けたらいいなあ。
と言う思いで書いてみました。
ではまた。