放課後。その日の放課後。
小泉花陽は迷っているようだった。
今日は朝からそわそわしていたし、緊張もしていたし「朝何食べた?」と聞いても小さい声で「ごはん……」と人の話も聞いているのかいないのか心ここにあらずだった。
何に対して何をどう迷っているのか、全くもって俺や凛の前ではなかなか口に出してはくれなかったが、それは彼女にとってみればとても勇気がいることなのだろうと思った。
例えば俺が、あの子と上手く思ったことを十分の1も口に出せないように。
だけれど、出会ってひと月の付き合いならつゆしらず、俺や凛と花陽は10年にも及ぶ幼馴染なわけで、思っていることを何を大事にしまい込んで内緒にする必要があるのだろうかと困ってしまう。
それが花陽であると言われればその通りだけれど、花陽は優しいし恥ずかしがり屋だから、結局放課後になるまで秘めたままだった。
帰り際。
教室で俺は帰り支度をしている花陽に声を掛けた。
「花陽」
「はっはいっ!?」と花陽は気付いてなかったのか驚いて俺を見た。
「ナ、ナオくん。ど、どうしたの?」
「ん。今日の放課後ライブだったなと思って。スクールアイドルの」
「ナオくん覚えてたんだ……」と花陽は恥ずかしそうな顔で俺を見た。
「覚えてるよ。前に花陽、電話で話してたし」
「そ、そうだったね……」
「観に行くんだろ?」
「う、うんっ、ずっと、楽しみにしてたから……」と花陽ははにかみながらも嬉しそうに答えた。
「時間何時から?」と訊く。
「あっ、もう少ししたら始まっちゃうね」
「そっか。じゃあ行かないとな。前から楽しみにしてたんだし楽しんできなよ」と俺は軽く手を上げて「またな」と言った。
「ナ、ナオくんは見に行かないの?」
呼び止められて少し考えたけれど、家に帰ってゲームをしなくちゃいけなかったし、花陽がちゃんとライブを観に行くと答えたから俺はもうそれで充分だった。
「A-RISEくらい人気出たら観に行こうかな」
「む、難しいんじゃ、ないかな……」と花陽は言った。
「だったら人気出るように花陽がしっかり応援してあげなきゃな」
と言うと花陽は「う、うん!」と力強く答えたが、最後の俺の一言は、本当は違うことを言うべきだったかと少し後悔した。
………。
教室を出ると、廊下のロッカーのところで凛が隠れているのを発見した。
隠れているつもりのようだったがそれが凛であることは明白だった。
「何をしているんだ」と俺が先に声を出すと「ニャ!」と凛が鳴いた。
「どうしてわかったの〜!?」
「頭かくして尻隠さずだ」
「お尻!? 凛はちゃんとお尻は壁にくっつけて隠してたよ! 何で凛のお尻ってわかったの!?」と凛が怒ってきた。
「何言ってんのかさっぱりだが、例えだよ。別に凛の尻を見たわけじゃないよ」と答える。
「じゃあなんでわかったニャ!」と馬鹿にされたのが分かったのか俺を引っ掻こうとした。
シャ〜ッ!とか本当の猫みたいに威嚇し今にも俺に襲いかからんとしていた。
「やめろ。凛、お前の鞄が見えたんだよ。猫の変なストラップつけてるから……」
「変じゃないニャー!可愛い猫ちゃんのなんだニャ!」
猫パンチの様なものをパシパシと受けて俺は正気に戻る。それで凛も満足したのか正気に戻った。
「なにしてたんだよ」
「なにって決まってるよー。かよちん驚かそうと思ったの。かよちん可愛いから」
なるほどわからん、と俺は思った。
「あと部活一緒に見学行こうと思って」
「部活?」
「うん。陸上とかー。かよちん体動かしたいって言ってたし」
「花陽が陸上……。うーん。行かないだろ」
「どうしてー?」
ってやっぱり今日のことは花陽から聞いていないようだった。花陽がそうしたなら俺が言う必要もないと思った。
それか凛がただ忘れているだけかもしれないが。
「花陽が出てきたら聞いてみたらいい。 俺は帰るよ」と凛を横切る。
「ナオくんも部活入ろー?」と言われたが俺は手を振って入らない意思表示をした。
「もおー、ナオくんは相変わらずなんだにゃー」
「相変わらずが一番だ」と俺は言った。
それから、そのまま帰る筈だった。
鞄の中は読書の本1冊だけでいつも空っぽで忘れものもなく、直帰直行のつもりだった。
下駄箱の前まで来ていた。
ただ、声が聞こえてきた。
「ダレカタスケテエェェェェ」
花陽の声だった。
ライブを観に行くと言っていたのになぜ助けを求めているのだろうか。
凛か。強引に陸上部にでも連れて行こうとしているのだろうか。
「やれやれ」と言って仕方なく俺は声のする方へ向かった。
お久しぶりです。
色んなものが変わってしまうかもしれませんが
ちまちま書いていこうと思います。
ではまた