By the way(ジョジョの奇妙な冒険)   作:白争雄

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袋男②

日が沈んであたりは薄暗くなり、それに応じるように周りの電灯がポツポツと灯りはじめた。

 

「康一くん!康一くんッ!」

 

僕は頭から、血を流す康一くんに必死に語りかけた。

 

「楓くん、『油断しちゃダメだ』……」

 

康一くんは、そう言い残すと静かに目を閉じた。

 

『袋男』が膝についた土をぱっぱっとはらう。

 

「俺はちゃんと言ったよなぁ『俺に危害を加えることは出来ない』ってよぉ。たとえ『直接的』にだろうが『関節的』にだろうが関係ねぇんだよぉッ!」

 

康一くんはかろうじで意識はあるようだったが、「うぅ…」と小さく唸り声をあげるばかりだ。

 

「お前ぇ!康一くんに何をした!?」

 

『袋男』は、再び頭のぶつけたあたりを撫でると、面倒くさそうに答えた。

 

「お前、生まれたての赤ん坊をおもいっきりブン殴れるかぁ? できねぇよなぁ? その行為自体は誰でもできるはずなのに、誰もやらねぇ。本能的にそれをやることに『危険』がともなうってわかってるからだ。『無力な者には手を出さない』それが動物とは違う、人間様のルールなのさ。人間として大事なものを失わないように、理性が赤信号出してるってわけだ。俺の能力はその理性に訴えかけるだけ、ただその『ルール』を守らせるだけの弱い能力よぉ……だが、もしそのルールを破り、弱いものに手を出せば…… 」

 

『袋男』はトントンと自分の頭を指差した。

 

「『危険』が一気に自分に跳ね返ってくるわけよぉ。それも、何倍にも膨れ上がってなッ! つまり、『弱いものイジメしたヤツにはバチが当たりますよ』ってことさぁ。直接攻撃できないから、先生にばれないように間接的にいじめましょう。そんな奴にはやられた側よりも重い罰が下って当然だよなぁ。ごくごく当たり前の世の中の摂理を再現しているのが、俺の能力【マーシー・マーシー】! 俺はせいぜい頭にコブができたくらいだろうが、そのガキは鉄パイプで思いきり殴られたような衝撃だったろうよ」

 

よく見ると、『袋男』が地面にぶつけたところと、康一くんが血を流しているところは一致していた。

 

「今までもいたよ。直接攻撃しようとしなくても、バイクで突っ込んできたやつや、仲間や手下を使って俺を攻撃しようとしたやつが。だけど、ダメージは全部俺に攻撃しようとした本人に返る。今頃、そいつら全員病院でおねんねしてるだろうぜ。」

 

向こうに危害を加えれば、その何倍ものダメージとなって跳ね返ってくる。

そんなやつ、倒せっこない。

 

 

「おおっと、ひとつ言っておくが、一度俺を『ナメた』らそれでおしまい。失恋の傷がなかなか癒えないように、罪悪感がなかなか拭い去れないように、人間の心ってのはそう簡単に切り替えられないからなぁ。今さら『油断しない』とか考えても手遅れだぜ」

 

紙袋で男の表情はわからなかったが、醜い笑みを浮かべているのが僕には透けてみえた。

 

これが、スタンド使いの戦い……

一歩間違えれば、康一くんは命を落としていたかもしれない。

康一くんや仗助くんたちから話は聞いていたけど、いざ現実を目のあたりすると…僕は怖くてたまらなかった。

 

「まったく、お前らからは俺とおんなじ臭いがしたから警告してやったっていうのによぉ。わかったら、そいつを病院にでも連れて行くんだなぁ」

 

『袋男』はそういって僕らに背を向けた。

 

こいつを倒す方法がわからない。

勝てる気がしない。

それに、とても恐ろしい……

逃げ出したい気持ちが僕の背中を引っ張った。

でも、ここで逃げたら……

 

「それじゃダメだッ!それじゃあ今までの僕と変わらないッ!!」

 

もしこいつをここで逃がせば、また誰かがこいつの被害に遭う。

もしかしたら、死人が出るかもしれない。

それは、こいつのことを知っていながら逃がした僕のせいでもある。

それが……力をもつ者の『責任』

僕がやるしかないッ!

 

「待てッ!」

 

僕は震える膝を押さえ込んで、逃げようとする男に向かって叫んだ。

『袋男』は、気だるそうに振り返る。

 

「おいおいお前、俺の話聞いてたのか?それとも、今の話が理解できないほど頭脳がマヌケかぁ?」

 

『袋男』は、目だし穴がずれた紙袋をグシャリとなおす。

 

僕に何ができるかはわからない、でも……

 

「お前は僕が捕まえるッ!」

 

僕は学生服の袖を捲り上げ、左手に力を込めた。

重厚な篭手が僕の手を包む。

そして、そこから放たれたテントウムシが『袋男』めがけて飛んで行った。

 

「行けッ!【ギヴ・イット・アウェイ】!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

何か考えがあるわけじゃなかった。

結果がどうなるかなんて考えもしなかった。

ただがむしゃらに、僕は『袋男』に向かってスタンドを飛ばした。

僕の【ギヴ・イット・アウェイ】はたしかに『袋男』の顔面に直撃した。

……しかし、僕の精一杯の攻撃は紙袋をクシャッと鳴らしただけに終わった。

 

『袋男』が「チッ」と舌打ちをする。

 

「おいおいおいおいおいおい~~~やってくれるじゃねぇの~。ぜぇーんぜん痛くないけどなぁッ!だが『危険』は返るぜ!たとえおまえの攻撃によるダメージがほとんどなくても……」

 

そこまで言って『袋男』の動きが止まる。

 

「おい待てッ! どうしておまえ、俺に『直接』攻撃ができる? 俺の能力はまだ『効いている』ハズだぜ!?」

 

戸惑いながら『袋男』が叫んだ。

 

僕の体の奥底からある気持ちが湧きあがってきていた。

不思議な気持ちだった。

勇気の出る歌をリピート機能で聴いているような、そんな感覚だった。

僕は、その気持ちがどこからきているものかもわからぬまま袋男の問いに答えた。

 

「さぁ僕にも分からないな。だけど、さっきエラそうに説明していたおまえの能力は『おまえのことをナメたり憐れんだりすると攻撃できなくなる』んだよな? 今、僕は不思議とおまえを倒すとかおまえに対する怒りといった気持ちは無いんだ……僕の心にあるのは、お前に『油断しない』っていう、ただそれだけの気持ちだけ、何かが僕にそう訴えかけてくれているんだッ!」

 

『袋男』がはじめてうろたえた。

 

「そんな…そんなワケがねぇッ! 一度見下した相手には、油断しないと思っていても心のどっかでは『ナメた気持ち』が抜けねぇはずなんだ……人間はそんなに簡単に気持ちの切り替えができるわけがねぇッ! 電気のスイッチを入れるのとはわけが違うんだよぉぉぉッ! できるわけがねぇ! できるわけが……なッ! なんだそれはぁぁぁッ!?」

 

『袋男』は、僕がスタンドを発動している方とは逆の腕、僕の右腕を指していた。

腕まくりをした僕の右腕には、漫画で使われるフォントのような文字で『油断しちゃダメだ』という言葉が染み込んでいた。

その文字は皮膚に直接書かれているのではなく、皮膚の下に書かれたものが透けて浮き出ているといった感じで、まさに『染み込んでいる』という表現がピッタリだった。

 

「これは……」

 

康一くんの【エコーズ ACT1】の能力は『モノに音を染み込ませる能力』だが、音だけじゃなく、声も染み込ませることができる。

康一くんの『心の声』だ。

その『心の声』は、相手に単なる『言葉』でなく『心』で理解される。

それは、一種の暗示とか催眠に近いのかもしれない。

つまり、時として『名言』が心に響くように、失恋ソングの歌詞が人に涙を流させるように、対象者の心を揺り動かすことができるのだ。

 

「もしかして…あの時……」

 

康一くんは、気を失う前にすでに『油断しちゃダメだ』という心の声を僕に貼り付けてくれていたのだ。

僕が一人でも戦えるように。

康一くん、ありがとう。

 

「だっ、だが、たとえ攻撃できたとしてお前に何ができる? んん? その貧弱なパワーのスタンドでよぉぉぉぉ?」

 

『袋男』は、動揺しながらも、すでに冷静さを取り戻しはじめていた。

 

しかし……僕のほうも、もう『覚悟』を決めていた。

 

「ああ、僕の『攻撃』じゃあおまえを倒すことはできない。おまえを捕まえることも……だから、僕は『おまえに勝つことを諦めたよ』」

 

宙を舞っていたテントウムシをあやつり、『袋男』の背中に張り付ける。

そして僕は、言葉を選びながら『袋男』に向かって語りかけた。

 

「なあ『袋男』! 僕には、おまえの『復讐』ってのがわかったよ。 おまえは自分の『弱さ』にコンプレックスをもってるんだろ? おまえの『スタンド』を見りゃわかるさ! おまえが『強い』連中ばかり狙ったのも、自分をバカにした連中や、強者に手を出すことで、そのドブにも劣る優越感にひたるためなんだろ?」

 

逃げようとしていた『袋男』がピタッと足を止め、こちらを振り向く。

その身体が怒りに震えているのがわかった。

挑発の言葉に確信があったわけではないが、あながち間違いでもなかったようだ。

 

「だが惨めだよ、おまえ。『逃げるため』の能力だって? 笑わせる。僕みたいなチビ相手に逃げ出すなんてさ。 僕は逃げないぞッ! おまえも男なら立ち向かって来いッ!!」

 

『袋男』に張り付いたテントウムシがぼんやりと発光していた。僕は挑発の言葉を投げかけながら、『袋男』に精神エネルギーを注ぎ込んでいた。

僕のスタンドは【ギヴ・イット・アウェイ】。

『精神エネルギーを注いで相手に「自信」や「覚悟」を与える能力』

 

「お、お、おおおおおおおッ! バッカにしやがってぇぇぇ! やってやる!殺ってやるぞ!このガキィッ!俺は逃げねぇ! 俺だって戦える! 戦えるんだぁ!」

 

『袋男』は逃げることをやめ、僕と戦う『覚悟』を決めた。

『袋男』のスタンド【マーシー・マーシー】が、それに呼応して戦闘体制をとる。

さらに、男のスタンドは、どんどんとその姿を膨れ上がらせた。

はじめは僕や康一くんよりも小さく、小人のような姿だったのに、目の前のスタンドは今、成人男性くらいの大きさになっていた。

スタンドが成長している……!?

ヘルメットをかぶる屈強な軍人のような姿に変貌したそのスタンドは、まるで、僕のテントウムシが与える精神エネルギーを糧に成長しているように見えた。

だが、『袋男』はそれに気づいていないようだ。

 

「見ろッ!これが僕の…いや、俺の本当の力だぁ!今さらビビっても遅いぜ? 俺をナメたおまえはここで俺が始末するんだからよぉぉぉぉl!」

 

そう言って、『袋男』が僕の方へ手を突き出すと、【マーシー・マーシー】は、目にもとまらぬスピードで僕に襲いかかってきた。

さっきとは姿形が違う成長したスタンド。

おそらく、パワーもさっきまでとは桁違いだろう。

 

「くぅッ!」

 

僕の鼻先に敵スタンドの拳が触れるか触れないかの刹那、僕は自分の顔面が潰れる『覚悟』を決めた。

 

 

……

 

 

だが、潰れたのは敵のスタンドのほうだった。

【マーシー・マーシー】は見えない何かに上空から押しつぶされるように、地面にめりこんだ。

 

「S・H・I・T ……危機一髪、間ニ合ッタヨウデスネ」

 

僕の横には、少年型の『スタンド』がヤンキー座りのようなポーズでフワフワと浮いていた。

そして僕の後ろには…

 

「危なかったね、楓くん」

 

「康一くん!」

 

康一くんが頭を押さえながら、立ち上がっていた。

そうか、この少年のようなスタンドは康一くんの…

コイツが『重力を操るスタンド』【エコーズ ACT3】。

 

康一くんは『袋男』に向かって言った。

 

「自分に『自信』をもって本気で立ち向かってくる相手に対してはさぁ、『袋男』… 。『油断』も『憐れみ』もないよ……」

 

康一くんが一歩近づくたびに、敵スタンドはメキメキという音を立てながら地面にめり込んでいく。

『袋男』は、そのスタンドと同じ姿で地面にへばりつき、こちらを見上げた。

それを見て康一くんがはっきりと言いきった。

 

「せっかく『自信』をつけたところ悪いけど、その『自信』、叩き折らせてもらう……いやこの場合『叩き潰す』かな?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃ! やめろッ! いや、やめてくださいぃぃぃぃぃ!」

 

康一くんの横で、少年型のスタンドが太極拳のような動きをはじめる。

 

「『エコーズ 3 FREEZE !!!!!!』」

 

【エコーズ】の無数の拳打のラッシュが『袋男』を襲う。

くらった『袋男』はさらに地面にめり込み、気を失った。

 

「やっ…た…」

 

戦いの緊張感が消えた僕は、膝の支えを失ってその場に崩れ落ちた。

康一くんが僕のところへやってきて、手を差し伸べる。

 

「君ならやってくれると思っていたよ、楓くん。まさか、相手に戦う『自信』をつけさせることであの『能力』を打ち破るなんてね……僕も思いつかなかった」

 

そう言って、康一くんは僕に微笑みかけた。

 

「君がヒントを残してくれたおかげだよ。『油断』さえしなければヤツに攻撃を加えることができるんだってね」

 

康一くんが、首を傾げて心配そうに尋ねる。

 

「でも、もし僕が気がつかなかったらどうするつもりだったんだい?」

 

僕はその質問に肩をすくめた。

 

「さあ…その時は誰か助けがくるまで殴られるしかなかっただろうね。『やつを逃がさない』。あのとき、僕は そのことしか考えてなかったから……」

 

そういいながらも僕は、心の中が『気高さ』で満たされているのがわかった。

僕は、差し出された康一くんの手を力強く握って立ち上がった。

 

 

――――――――

 

杜王町の怪人『袋男』ー 全身打撲でリタイア

 

頭に紙袋をかぶった怪人。よく「袋を担いだ男」と間違えて噂される。

「暴力」や「権力」など、力をもつ者がターゲットとして襲われ、絶対に捕まえられない男と言われていた。

弱そうなヤツは襲われないので、杜王町では一時期、不良がパシリをボディーガードとして連れて歩くのが流行した。

 

 

スタンド名【マーシー・マーシー】(おお慈悲よ!)

 

本体ー『袋男』

破壊力 E スピード B  射程距離 本体を見失うまで

持続力 A 精密動作性 C 成長性 B

 

能力ー

本体に対して、『憐れみ』や『油断』といった下に見るような感情をもつと、危害を加えることができなくなる。直接的には攻撃しようという気も起きなくなり、関節的に攻撃をすればダメージが何倍にも膨れ上がって返ってくる。

ただし、油断しない相手には通用しない。

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