長くなって申し訳ありません。
アウラの民が住まう宮殿内にある大巫女の謁見の間。
そこに大巫女とサラマンディーネを含む近衛中将が数人集まっていた。
更にその中心には一人の女性。
ミスルギ皇国に潜入しているスパイのリザーディア。
彼女は青白い映像のようなそれは周りを囲む人物たちに恭しく頭を下げながら調査の報告をしていた。
「それは真かリザーディア!?」
彼女の報告を聞いた大巫女が声を荒げて確認すると、彼女はもう一度、
『はい、大巫女様。ミスルギ皇国の地下にアウラの反応を感知しました。アウラが囚われていると思われます』
「そうか。でかしたぞ」
『ありがとうございます』
大巫女のお言葉にもう一度恭しく礼をするリザーディア。
「時は来た。アウラの子よ。今こそエンブリヲの手から全能の母アウラを奪還する」
リザーディアの報告に歓喜する大巫女。その周囲の者も喜びに震える。
いよいよ決戦の時が来た事を意味する。
「リザーディア。特異点の開放は手筈通り頼むぞ」
『はっ』
通信を終了し、リザーディアの姿が消える。
「時にサラマンディーネよ」
通信が終了してすぐ大巫女に話しかけられる。
「なんでしょうか?」
「宮殿で噂になっているが、お主が彼の者を自らの護衛の一人に任命したというのは本当か?」
彼の者とは、空蝉丸のことだろう。
別に秘密にしていた心算も無いが、一番上の大巫女まで噂として届いていると言う事は宮殿内ではかなりの騒ぎだろう。
「さようでごいます。空蝉丸殿を私の騎士にいたしました」
正直に大巫女に答えるサラマンディーネ。
「サラマンディーネ殿、少々勝手が過ぎるのではないですか?」
他の近衛中将の一人が口を開く。
「あの者はそれほどの価値がある人間なのですか?」
「どういう意味でしょうか?」
「そのままです。街の外に出て、こちらの食料などの支援をした。にも関わらず、何の成果も挙げなかった。
本当にエンブリヲとの決戦に使えるのですか。多少剣の腕がたった所で戦力になるとは思えないのですが?」
その言葉を聞いて、他の近衛中将たちも疑惑を持ったような目を向ける。
「もしも、サラマンディーネ殿がただ己の欲望だけで任命されたのならば、近衛中将としての自覚が―――」
「止めよ」
更に言葉を続けようとする近衛中将を大巫女が止める。
「彼の者の事はサラマンディーネに一任している。この判断に異議があるのならば私に直接言え」
その言葉に他の近衛中将も黙りこんだ。
「皆もサラマンディーネの働きがアウラ奪還の決戦にどれだけ貢献したのか分かっているはず。その働きは信用に値する事も」
大巫女の言葉に何人かが頷く。
「決戦は間もなくだ。内輪で揉めている時間などないはずだ。違うか?」
「さようでございます」
「ならば、余計な事など考える必要などない。考えるのはアウラの奪還のみだ。アウラと地球に勝利を」
『勝利を』
大巫女が締め括ると全員が声を上げて会議は終了した。
会議の後、サラマンディーネは溜息を一度付き、廊下を歩いていた。
「サラマンディーネ殿」
空蝉丸が心配そうに彼女の声を掛ける。
「拙者の事で責められたと・・・」
「いえ、御気になさらないでください」
空蝉丸に微笑みかけるサラマンディーネだが、心の中は余り晴れない。
以前から空蝉丸の存在を疑問に思っている者はいたことは知っていた。
先ほどの会議の反応を見る限り、重臣の半分は空蝉丸の事を養護してくれている。
宮殿内の半分以上も恐らく同じようだとカナメ達は言っていた。
だが、その中に大巫女様がいるのが幸いした。
空蝉丸の事は大丈夫だろうが。
「アンジュたちの様子はどうですか?」
「彼らなら朝食をとっておられました。その後はヴィヴィアン殿たちと談笑しています」
その事を聞いてサラマンディーネは考えた。
空蝉丸以上に問題なのはアンジュとタスクの事だ。
特にアンジュはヴィルキスで仲間を殺した。
こちらも彼らの仲間を殺したが、そんな事は問題ではない。
サラマンディーネが保護しているが、空蝉丸の事もある。
三人の身を自分の権限だけで守る事は難しい。
何より空蝉丸と違いアンジュたちの事は大巫女も懐疑的なのだ。
彼らの身を完全に守るには。
「多少強引なことをしなければね」
自然と言葉が零れた。
「何か言われましたか?」
「いえ、アンジュ達に会いに行きましょうか」
それからサラマンディーネ達はアンジュとタスクをボーリング場に案内した。
食堂にはヴィヴィアンと彼女の母が共に居たが、彼らは以前一緒に暮らしていた家を見ると行って別れたのだった。
「で、こんな所に連れて来て何をさせてたいの?」
不機嫌そうにアンジュ。
「私達と共に戦いませんか?」
「は?」
真剣な眼差しで紡がれた言葉だったが、アンジュは突然のことに訳も分からないと声を漏らす。
「私達の目的はエンブリヲの手からアウラを救い出すこと」
「それは聞いたわ」
それが自分とどう関係があるのだと問いた気なアンジュ。
「アウラを救い出すのは貴女たちの問題でしょ。私には関係ないわ」
「貴女の世界の問題は私たちと戦う運命を仕組まれていること」
「何が言いたいのっ?」
「それを仕組んだのは誰ですか?」
「・・・エンブリヲ」
アンジュの呟いた名前にサラマンディーネは微笑んだ。
「彼の者を打倒すれば貴女たちは自由になれる。違いますか?」
ならば、とサラマンディーネは言葉を続け、
「倒す相手が同じならば協力は出来ましょう」
「ふざけるなっ!?」
そこでアンジュが大声を張り上げ、それにタスクは心配そうにする。
「アンジュ!?」
「それっぽい理屈を言ってるけど、結局貴女は私を利用したいだけなんでしょ。良い人そうに振舞っていたのも私を戦力としたかった打算なんじゃない」
「待ってくだされ、アンジュ殿。サラマンディーネ殿は―――」
「その通りです」
「サラマンディーネ殿!?」
空蝉丸はアンジュに弁解しようとしたが、その言葉に割って入るようにサラマンディーネは彼女の言葉を肯定する。
当然、それを聞けばアンジュはより激昂し、
「私が簡単に丸め込まれる訳ないでしょ!私はもう―――」
「『“もう”誰かに利用されるのはウンザリ』ですか?」
彼女の言葉を先読みするように言い当てるサラマンディーネ。
その態度にアンジュは悔しげに拳を握り締める。
「そう仰ると思いまして、こちらにお連れしたのです」
彼女の反応を楽しむようにサラマンディーネは笑い、
「勝負しましょ、アンジュ」
「勝負?」
「ええ、貴女の未来を賭けた勝負です」
サラマンディーネの言葉に困惑するアンジュとタスク。
空蝉丸も首をかしげ、彼女の目的を計りかねていた。
「私が勝った暁には、貴女には私の所有物になっていただきます」
「なっ!?」
「何を勝手な事を言っているの!?」
絶句するタスクと怒りを露にするアンジュ。
そんな二人を無視して、サラマンディーネは更に言葉を続けた。
「その代わり、貴女が勝てば、お二人は自由ですわ。私が出来る範囲であれば援助も惜しみません」
その言葉にアンジュとタスクは息を飲んだ。
サラマンディーネがここではかなりの権力を持っていることは理解できる。
彼女の助力があれば自分たちの世界に戻る事も可能だろう。
だが、それには彼女と戦い勝つ必要がある。
勝てば自由、負ければ奴隷。
「自分の手で自由を掴み取れってことね・・・」
「アンジュ?」
「いいじゃない。やってやるわ」
「フフッ、そう来なくてわ」
好戦的な目で見つめるアンジュに、サラマンディーネは笑い二人の決闘は始まった。
「何故、このような事をなされたのでござる?」
話が纏った後、サラマンディーネとアンジュの勝負の場。
テニスコートに来ていた。
そこで空蝉丸は準備運動をするサラマンディーネに問いかける。
「挑発的な発言でアンジュ殿を煽ったのは、このような状況にするためでござろう。態々こんな回りくどい事をするのですか?」
「この方が早く話が纏ると思ったからです」
微笑みながら答えるサラマンディーネ。
地面に座り込んで柔軟をしながら、
「少し背中を押してもらえませんか?」
「あ、はい」
彼女の背後に座り込みながら空蝉丸は考えをめぐらせた。
確かに、この賭けをするのは速く事が運ぶかもしれない。
しかし、あの話し方では、向こうはこちらを完全に信用するとは思えなかった。
少し事を急ぎすぎている気がしてならない空蝉丸。
タスクとの会話で時間を掛けて、こちらを知ってもらえれば協力し合える関係を気付けるように思えたからだ。
サラマンディーネもその事を理解しているから、彼女たちに自分たちのことを知ってもらおうと働きかけたはず。
それなのに急な変更をした理由は。
「もしや、他の方が何か言っておられるのでござるか?」
「・・・・・・」
その問いかけに柔軟をしていたサラマンディーネの動きが一瞬止まった。
だが、すぐに彼女は立ち上がり、
「それもあります」
ですが、
「彼女とは少し戦ってみたかったのです」
そう好戦的な笑みを浮かべる彼女に空蝉丸は呆然と溜息をついた。
「・・・拙者にはサラマンディーネ殿が理性的な方なのか、野生的な方なのか分からなくなりました」
そう言うと、サラマンディーネは笑みを深くし、
「あら、簡単に理解できない女の方が、ミステリアスで魅力的では?」
と、サラマンディーネは空蝉丸に背を向けながらコートの中へと入っていった。
その後姿を見送りながら空蝉丸は思った。
(まぁ、平和的な決闘だから良いか)
それから決闘は中々白熱したものとなった。
まずはテニスに始まり、野球、レーシングカー、ゴルフ、卓球、クレーンゲーム、ツイスターゲーム。
(そういえば、車の運転は免許と言う許可書が必要だとアミィ殿が言っていたが。この時代には不要なのだろうか)
そんな関係ないことを考えながら空蝉丸は観戦に徹していた。
しかし、どの競技もお互いに一歩も譲らず引き分けという結果になっていた。
「中々勝負が付きませんね」
「ですが、楽しそうでござるな、二人とも」
隣に居るタスクと話す空蝉丸。
「それは僕も思ってました」
「二人ともよき友人になられて良かったでござるよ」
「え?」
ほのぼのと会話をしていた二人だが、空蝉丸の一言にタスクは目を丸くした。
「ゆ、友人ですか?どう見てもそんな友好的な関係には見えないのですが・・・」
「そんな事は無いでござるよ」
なぜならば、
「『戦友』と書いて“ライバル”と読む事があるんでござるよ」
その言葉に呆然としているタスクを置いて、空蝉丸が二人へ歩きだす。
「お二方少しよろしいか?」
「何よッ・・・」
「・・・空蝉丸殿」
アンジュもサラマンディーネも疲れているのか息遣いが荒い。
だから、空蝉丸は提案した。
「このままでは決着が付かないように思える」
どうでしょうか、
「ここはお互いの騎士同士の決闘はいかがですか?」
「「「えっ」」」
空蝉丸の言葉にサラマンディーネとアンジュだけでなく、タスクも驚きの声を漏らす。
そして、場所は道場へと移る。
空蝉丸が提案してからサラマンディーネもアンジュもそれを了承した。
タスクも最初は渋っていたが、アンジュにだけ自分の自由を賭けさせたくないと思っていたらしく簡単に了承した。
しかし、
「サラマンディーネ殿、これは少々大人気ないのでは?」
「あら、そんな事はありませんわ」
空蝉丸の言葉にサラマンディーネは微笑みながら、
「騎士同士の戦いなのですから剣で行うのは普通ですわ」
「それはそうでござるが・・・」
サラマンディーネに木刀を渡されながら、どこか釈然としない空蝉丸。
空蝉丸としては好敵手同士の戦いに感化されて、自分たちもスポーツをしようと思ったのだが。
「大丈夫なの、タスク」
「ああ、問題ないよ」
視線を回せば、同じように木刀を手にしているタスクの姿があった。
どうやら向こうはやる気があるらしい。
(何故か、一気に決闘らしい決闘になったでござる)
そう考えながらも、空蝉丸は相手が不満に思っていないのならば良いかと思うのだった。
「両者、中央へ」
道場の中央に立つ審判役のナーガの言葉でお互いに中央へ移動する。
「両者、準備は良いか?」
「はい」
「(コクリ)」
ナーガの言葉に頷く二人。
「では、始めっ」
ナーガの開始の合図でお互いに木刀を構える。
「タスク殿は剣を使った事があるのでござるか?」
構えを見た感じでは我流と言う事が明らかだ。
「主に使うのはナイフですが、大丈夫です」
「さようでござるか。ならば、参りますぞっ」
言い終えると同時に空蝉丸は真っ直ぐタスクへ駆け寄り木刀を上段から振り下ろす。
「くっ、ぬぁあああっ!?」
決して手を抜いた心算のない一撃だったがタスクは空蝉丸の攻撃を受け止めると、力で押し返す。
その事に空蝉丸は感心しながら無理に力勝負には持ち込まず、後ろに引いて距離をとった。
「でりゃぁああああ!!!」
すると、今度はタスクが空蝉丸のほうへ突進するように駆けだし、木刀を横薙ぎに振るう。
「ふっ」
それを空蝉丸は冷静に見極め、最小限の動作と足運びで回避する。
しかし、タスクは反撃の隙を与えまいと果敢に木刀を振った。
「うぉおおおおお!!」
それら全てを体捌きで回避するか、木刀で受け流しながら自然と表情から笑みを浮かべた。
剣の振り方は少し乱暴だが、裏を返せば真っ直ぐな剣に見えた。
真っ直ぐ自分の思いを剣に乗せる姿勢。
共にデーボス軍と戦った剣士の仲間に似たものを感じて。
(いや、ソウジ殿だけではない。真っ直ぐな思いをぶつける戦い方はまさに自分達と同じ)
そんな事を考えながら空蝉丸はタスクの木刀を受け止める。
「やるでござるな、タスク殿。まさか、ここまで出来るとは思いませんでしたぞ」
「このぐらい出来ないとアンジュの騎士は務まりませんから。それに・・・・」
一瞬、タスクの表情に影が出来る。
「強くならないと、“奴ら”からアンジュを守れない」
「奴ら?」
誰の事を言っているのだろうか、と問いかけようとしたその時だった。
空蝉丸達のいる都が大きな地震が発生したのは。
大きな地響きに空蝉丸とタスクの決闘は中断となり、一同は道場の表へと出た。
すると、遠くのほうにあるアウラの塔の周囲から半円球に異常な空間の歪みが発生していた。
「一体、何が起こっているのでござる」
「エンブリヲだ」
目の前の光景に驚く空蝉丸にタスクが声を上げた。
「不味い・・・・。奴らが来る!!」
「奴ら?」
一体誰の事を・・・と問いかけようとした時、タスクの言う奴らが姿を現した。
ラウラの塔を中心に徐々に広がりを見せる空間の歪みの上空で開いた特異点から無数の存在が湧いてで出てきたのだ。
虫のような四枚の羽、細長い手足の先に付いた鋭い爪を持った異形の存在。
「何なのよッ、あれッ!?」
後から出てきたアンジュが声を上げる。
すぐ後にサラマンディーネ達も出てきたが、彼らは目の前に広がる光景に黙り込んでしまった。
空間の広がりは人や街を飲み込みながら、まるで地面を引っくり返したように街を廃墟に変えて人々を生き埋めにする。
更に特異点から飛び出してきた異形の存在は空間の歪みの範囲の外に居る人々に襲い掛かっている。
「エンブリヲが責めてきたんだッ」
悔しげに噛み締めながらタスク。
「エンブリヲは時間と空間を自由に操る事が出来る。あの虫のような奴らもアイツの駒だ。俺の父さん、母さん、仲間たちも奴らに殺され、あの空間で生き埋めにされた」
「何と・・・」
愕然と声を漏らす空蝉丸。
この現象を起こす事も、起こそうとする神経もとても人間のモノとは思えなかったのだ。
その隣でサラマンディーネも壊されていく自分たちの住処に怒りを感じていた。
「焔龍號!!」
叫ぶと同時、サラマンディーネの額に付いた緋色の宝石が輝きと、上空から彼女の機体が飛翔してきた。
サラマンディーネはそれに飛び乗ると、カナメとナーガに指示を飛ばす。
「カナメは大巫女様に報告を!ナーガは皆の避難をお願いします!」
「「ハッ!!」」
「拙者も共に向かいます」
ザンダーサンダーを背負い、腕のガブリチェンジャーに獣電池を装填する。
「ブレイブイン!!」
<GABURINCHO!!DEINOCHASER!!〉
ディノスとチェイスの二体を合体させて高速バイクにする獣電池。
それによって出現したバイクに空蝉丸は跨り、
「あの異形の者の相手ならば出来るでござる。サラマンディーネ殿はあのドーム状の異変を」
「分かりました」
そこまで言葉を交わして、サラマンディーネはコックピットを閉めると、戦場へと機体を飛ばす。
その後に続いて、空蝉丸もディノチェイサーを爆走させた。