アウローラの中にある艦長室。
質素でソファとテーブルだけが置かれた部屋だが、そこには部屋の主のであるジルと最年長のジャスミンが情報の精査のために話し合っていた。
「何にしても良かったじゃないか、アンジュの奴が戻って来て」
「ああ」
「それにヴィルキスと同じ装備のある機体とドラゴン、戦力と物資を得られるかもしれない」
「そうだな」
苦笑しながらジャスミンが言うが、ジルはソファに寝転がりながら気のない返事を返すだけだった。
その反応にジャスミンはやれやれと首を振りながら、
「まぁ、お前さんも少しは寝て頭を整理しな。今日まで気が休まる事がなかったんだからね。どんな決断を下すかはお前さんしだいだがね」
そう言って、ジャスミンは艦長室から出て行った。
彼女の姿を横目で見ながらジルは目を閉じた。
それから比較的に速く意識が沈んでいく。
(ジャスミンの言う、とおり・・・疲れて・・い・・)
―――可笑しくなって、良いんだよ・・・アレクトラ
「・・・・っ!?」
脳裏に突然浮かんできたビジョンにジルは飛び起きる。
心拍数が上がり、冷や汗が吹き出ていく。
体を起こして激しく呼吸を行いながら、タバコに火をつける。
だが、それを口に咥えて少し吸っただけで握りつぶす。
「エンブリヲ・・・っ」
火のついたまま握りつぶしたジル。
だが、私怨を吐き出したように呟く彼女の瞳には憎しみの炎のようなものが醜く燃えていた。
その頃、アンジュはシャワールームに入っていた。
「・・・何かしみる」
「海水が混じってるからね」
「え、ヒルダ!?」
降り注ぐシャワーの水にヒリヒリするのを感じていると、背後に立っているヒルダに気が付かなかった。
声を掛ける彼女に振り返ろうとするが、彼女はアンジュの背中に抱きついた。
「ちょっと、ヒルダ?」
彼女の行動に困惑するアンジュ。
首だけで彼女の方を見ようとする。
「アンタ、少し太った?」
「えっ、嘘!?どのへん!!?」
彼女の言葉に驚き、自分の体を見るアンジュ。
特に気になるお腹の周り、ウエストの方に視線が集中する。
だが、彼女はアンジュの意識とは別、
「ここ、とか?」
「ちょ、何処触って・・・!?」
アンジュの視線よりも上へ。
二つの軟らかそうな膨らみへと手を持っていく。
「アンタさ・・・あの男ともう“した”の?」
「えっ?」
アンジュの膨らみを堪能しながらも、不満そうな表情のヒルダ。
彼女の言葉の意味にアンジュは少し理解するのに時間が掛かったが、
「はいっ?!し、してないわよっ!?」
「・・・本当に?」
「ええ」
アンジュの言葉を聞いて嬉しそうに目を輝かせるヒルダ。
そのまま彼女の項へ唇を触れさせる。
「なっ!?」
ヒルダの行動に驚くアンジュ。
その反応に更に気を良くするヒルダは頬を紅くし、手を下へ下へ―――
「それはじゃれ合いに近いコミュニケーションなんですね」
「ぶっ!!?」
「サラ子!?」
隣でシャワーを浴びていたサラマンディーネに声を掛けられる。
「お、お前何時から―――」
「ずっと浴びていましたわよ」
全くサラマンディーネの姿に気が付かなかったヒルダは焦りまくる。
だが、対してサラマンディーネは面白そうに笑い、
「アンジュはどちらもいけるのですね」
「そ、そんな訳ないでしょ。ヒルダはクリスが居なくなった代わりを私にさせたいだけよ」
「―――アンタ、本気でいってるの?」
ニコリと笑いながら言ったサラマンディーネの言葉にアンジュは顔を紅くしながら声を荒げ否定するが。
その結果、今度はヒルダが臍を曲げたように睨む事態に陥ってしまった。
クリスという女性が寝返った理由が自身にあると思っている彼女に対して少し配慮の足りない言葉だったかもしれない。
そう少し反省するアンジュに対して、ヒルダは仕返しとばかりに唇を尖らせ、
「まぁ、エルシャは本当に何でか分からないけど。サリアはお前が原因だろ」
「何よ、そ、れ・・・・」
ヒルダの言葉にそれを否定しようとするアンジュだが、その言葉は途中で途切れる。
心当たりがないこともないからだ。
本人も言っていたが、アンジュはサリアにとって頭痛の種だろう。
「何より、司令のご寵愛をアイツから奪ったのはアンタがだからな」
「―――誤解を招くような言い方しないでよ」
「どういう事ですか?」
ヒルダの言葉に眉を寄せるアンジュ。
だが、事情を知らないサラマンディーネは首をかしげた。
それに対して、アンジュは顔を顰めながら、
「別にあの女が欲しいのは私じゃなくて、ヴィルキスを操縦できる奴よ」
その言葉に何となく状況を理解するサラマンディーネ。
サリアと女性は司令官殿を心酔していたようだが、彼女の関心はヴィルキスを動かす事が出来るアンジュに向いてしまった。
そう思考した時、ふとサラマンディーネは思い出したように、
「そういえば、アンジュ。エンブリヲも貴女の事を欲しがっていたようですが」
そういうと、アンジュは嫌そうな顔をする。
「マジかよ。それだとアンタ、相当サリアに怨まれてるんじゃないのか?」
「彼女の心酔する人物に好かれやすいのでしょうね、アンジュは」
「二人して私をからかって楽しいのかしら?」
「「ええ、とっても」」
眉を寄せて不機嫌さを滲み出すアンジュに二人は同時に返す。
随分と仲良くなったものだ、と苦虫を噛み潰したような表情をするアンジュだった。
「・・・そういうドラ姫様はどうなんだよ?」
「はい?」
アンジュをからかう事に飽きたのかヒルダがサラマンディーネに問いかける。
「アンタの御付の男・・・」
「空蝉丸殿ですか?確かに、私と彼はそういう関係ですけど・・・」
空蝉丸はかなり古風な人間だった。
いや、生まれが今から1200年前だから仕方がないのかもしれないが。
彼は情事をするのは婚姻をしてからだというのが大原則らしい。
だが、それは裏を貸せば、添い遂げる意思はあるということで。
そう考えれば自然と顔が熱くなってゆく。
「でも、触ってもらえないのに変わりないだろ?」
「まぁ、タスクにも少しは見習って欲しいところだけど」
万年発情期の犬だから、と苦言を口にするアンジュ。
何か良い方法がないかな、と考えていると、サラマンディーネが。
「そういえば、爪の垢を煎じて飲ませると言うお呪いがあるそうですよ」
「それ、効果あるの?」
「さぁ?試してみたらどうです?」
「腹壊すのは、あの男だからな」
「それは空蝉丸殿に失礼ですよ」
何気に酷いことを言う彼女たち。
だが、はっきりしているのは交渉の場の時よりも彼女たちの関係は改善されていた。
それが裸の付き合いが原因だったのかは定かではないか。
その頃、酷い言われのタスクは格納庫で自分のモービルの調整をしていた。
だが、その表情は少し思いつめていた。
食堂ではアレクトラ、ジルの様子が変だという空蝉丸にああ言ったが、確かにタスクも気になっていた。
「・・・念には念を入れておいた方が良いかな?」
誰に言う訳でもなくタスクが呟くと、背後から空蝉丸が歩み寄ってくる事に気が付いた。
「タスク殿、何をなさっておられるのですか?」
「いや、女の子ばかりで居場所がないので、ここで寝ようかなって」
アハハッ、と苦笑しながらタスクは空蝉丸の問いかけに答えると、向こうも苦笑を浮かべ、
「拙者も同じでござるよ。元より拙者とサラマンディーネ殿は招かれざる客なのでござるから、アンジュ殿かタスク殿の近くに居たほうが安全だろうという事で」
それとサラマンディーネの機体が細工されないように見張ったほうが良いだろうと考えたらしい。
(そういえば、アンジュと初めて会った時もヴィルキスに細工されて落とされていたんだっけ)
空蝉丸の話で関係ないことを思い出したタスク。
まぁ、ある意味、それが切欠で彼はアンジュと出会い、憧れ、前を向いて進む覚悟を決めたのだが。
ちなみに、その件の切欠を作ったキューピットはアンジュと共にシャワーに入って、タスクに嫉妬をしているのは、そこは深くは語らないでおく。
「ところで、もしも取引が上手く行かなかったらどうするつもりなんですか?」
「そうでござるな・・・」
あまり考えたくない事だが。
司令官であるジルの態度から考えれば、決裂する事は考えられそうだ。
そうなった場合、
「危険ではござるが。拙者とサラマンディーネ殿。それに潜入している二人で行う事になるでしょう」
つまり、四人で捕まっているスパイの救出とシンギュラーを開く。
「可能なんですか?」
「その事はサラマンディーネ殿と相談したのでござるが。不可能ではないでしょう。
・・・プテライデンオーで、強行手段をとる事になるでござる」
確かに、あの巨人ならば普通に歩くだけでもパニックが起こるだろう。
その間にサラマンディーネと潜入している者達でシンギュラーを開いて、ドラゴンを呼び出せば更にパニックが加速。
そして、スパイを救出し、アウラも救い出す。
「かなり、無茶な作戦ですね」
というよりも無謀だろう。
何より、
「何かあるんですか?乗り気じゃなさそうですけど」
「いや、プテライデンオーで人の営みを妨げる事を考えると―――」
自分が提案した事なのですがね、と乾いた笑みを浮かべる空蝉丸。
それで何となくだが、理解した。
前に聞いたことがあったが、プテライデンオーのような獣電竜は人を守るために生まれたそうだが。
その彼らが人の町を襲う事など考えたくもないだろう。
恐らく、サラマンディーネも彼にそんな事をさせたくないから、出来る限りの事を模索しているのかもしれない。
「それでタスク殿。万が一の時の為にお願いがあるのですが」
「何ですか?」
「念には念を、の所に二つほど頼みが――――」
その日の翌日。
空蝉丸たちはアウローラに入って最初に通された作戦会議室へ通された。
会議室には司令官のジルの他にジャスミンとマギーが同室している。
「よく眠れたか?」
アンジュとサラマンディーネに向かって問いかけるジル。
「ええ」
「おかげさまで」
彼女の考えが分からないため緊張の面持ちで答えるアンジュとそれを感じながらも隠して表情を柔らかにするサラマンディーネ。
「それは結構」
彼女らの答えに満足に不敵そうに笑みを浮かべるジル。
そこでサラマンディーネは何処となく不安な物を感じながらも、こちらから口を開いた。
「それで、貴女方の返答をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ。そのことだが・・・」
隣からアンジュとタスク緊張から息を飲む仕草を感じる。
それは空蝉丸とサラマンディーネも同じだが。
「我々ノーマはお前たちドラゴンとの共同戦線を要請する」
しかし、ジルの言葉はサラマンディーネの提案を飲むものだった。
その事にアンジュとタスクは驚き、それは空蝉丸とサラマンディーネも同じだった。
「どうした?お前の取引に乗ってやるといっているのだ」
嬉しくないのか?と少々上から目線で言葉を放つジル。
確かに、提案したのはサラマンディーネだが、それでももう少し条件についての交渉をしなければならないと考えていただけに意外でしかなかった。
寧ろ、不気味に感じるほど。
そして、それは隣に座るアンジュも同じだったらしく。
「・・・本気、なの?」
「リベルタスに終止符を打つには、ドラゴンと共闘する事が、最も合理的で効率的だと判断した」
懐疑的なアンジュの問いかけに対して、理性的なことを語るジル。
しかし、それを聞いた彼女の仲間も意外そうな顔をした。
それは仕方がないだろう。
昨日はアレだけ強硬なまでに拒絶していたにも関わらず、次の日には真逆な事を言えば驚いてしまう。
そして、それが空蝉丸とサラマンディーネに不信感を与えていた。
だが、それだけで歩み寄ろうとしている“かも”知れない者の手を払うことは出来ない。
「・・・分かりました。それで貴女方は私達に協力して、特異点開放のための装置のあるミスルギ皇国を強襲してもらえるのでしょうか?」
「ミスルギ皇国にあるのか?」
「ええ、そうですが何か?」
「いや、ただ以前の戦闘でサリアたちの機体に発信機を取り付けたんだが。奴らが帰還した場所がミスルギ皇国のアケノミハシラだ。恐らく、そこにエンブリヲもいる」
「・・・そうですか。こちらも予想はしていました。ミスルギの地下にアウラが囚われていると判明していますので」
「それは好都合だ」
不敵な笑みを浮かべるジル。
その表情にサラマンディーネも気が付いていたが、不審に思いつつも作戦の説明を続けた。
「装置がある場所には潜入している者が手引きしてくれます。その場所までの見取り図も手にしています。
とはいえ、発見されれば囲まれてお仕舞ですので隠密が必要です」
「そうだろうね」
同意するジャスミンにサラマンディーネは頷き、
「はい。潜入の目的は装置の発動です。ですが、発動までは私と空蝉丸殿だけでも可能でしょうが、制圧するだけの戦力が特異点から潜り抜けて、
敵戦力を押しのけるまで戦力が整うまでの時間を稼ぐことは困難です」
「つまり、私らにそれを行って欲しいって事だね」
「さようでござる」
心情が読めない妖艶な笑みを浮かべるマギーの言葉に今度は空蝉丸が頷く。
もしも、彼らの協力が駄目だったら、それは空蝉丸の役目になった。
だが、その場合、空蝉丸はサラマンディーネと共に潜入できず外で待機し、彼女は一人で危険な潜入を行う事になるところだったのだ。
そして、それを聞いた司令官のジルは不敵な笑みで、
「それならば、こちらにも策がある」
その瞬間、空蝉丸とサラマンディーネの中で緊張が走った。
二人の中にあった彼女に対する疑念が警鐘となる。
しかし、それに気が付いていないのかジルは気にする様子はなく。
「こちらの提案する作戦はこれだ」
そう言って、ジルはテーブルのモニターを起動さて説明を始める。
「まず、シンギュラーが開けばアケノミハシラからエンブリヲの部隊であるサリア達が出てくるだろう。
ドラゴンの迎撃のためサリア達は一時的に混戦となる。その隙にアウローラはラグナメイルが探知できない経路を通り、
ドラゴンと交戦している所を挟撃し、敵戦力を殲滅させるというものだ」
「なるほど」
ジルの作戦に空蝉丸は頷く。
確かに、限られた戦力を上手く使う作戦のように聞こえるが、
「しかし、その場合、こちらの被害がかなり出ると思うのですが?」
「陽動とはそういうものだろ?」
サラマンディーネの指摘にジルは鋭い視線で答える。
その答えにも理解は出来なくもない。
こちらも潜入の際、何人かを借りる予定なのだから、ある程度のリスクを負わなければフェアとはいえないだろう。
しかし、どうしても気になった空蝉丸は揺さぶりを駆けるように口を開いた。
「作戦は承知しました。こちらも、潜入の際、人員を要求する心算でござったので不満はござらぬ」
「そうか」
空蝉丸の言葉に満足げに笑うジル。
しかし、隣ではアンジュとタスクが本当に良いのか問いかけたそうな様子だ。
更に、サラマンディーネも横目で空蝉丸を見ている中で彼はジルに投げかけた。
「その代わり、潜入の人員にアンジュ殿を加えていただきたい」
「―――何っ?」
その瞬間、ジルの表情が大きく歪んだ。
当然、サラマンディーネも彼女の表情を見逃していない。
そんな中で話題に出されたアンジュが困惑していた。
「どうして、私なの?」
「それはアンジュ。特異点を開く装置があるのは貴女がノーマと烙印を押されるまで暮らしていた屋敷にあるからです」
「うちの屋敷に!?」
驚くアンジュにサラマンディーネは頷き、
「特異点を開放する装置の管理は貴女の家が行っていた役割だったのです。だから、リザァーディアは貴女の近くに潜入していたのです」
「私の家にそんな物があったなんて」
「信じられないでしょうが事実です。ですが、アンジュ。貴女はその屋敷で暮らしていたのなら、
屋敷の事は見取り図だけで知っている我々よりも詳しいはず。それならば潜入はよりスムーズにいけるはずです」
そう理に叶った事を述べるサラマンディーネ。
そして、事実だけにアンジュも頷こうとしたが、
「駄目だ」
それよりも早くジルがアンジュの答えを遮った。
「アンジュとヴィルキスはこちらの切り札だ。作戦の遂行になくてはならない」
「そうでござろうか?」
ジルの理屈に空蝉丸が異を唱える。
「アンジュ殿の機体が強力なものでござる。しかし、敵には同じ性能の機体が五体。あの砲撃が撃てるならばまだしも、先ほど聞いた作戦では混戦となることは必須。
まさか、我々も含めた全員を吹き飛ばす心算ではござらぬな?」
と、空蝉丸が指摘すると部屋の中の視線がジルに集まる。
しかし、彼女が何も言わないで居ると、気が付いたようにアンジュが口を開いた。
「ちょっと待って。貴女、作戦で殲滅って言ったわよね。サリア達はどうする心算なの?」
「・・・どうするとは?」
「・・・助けるつもりは無いの?」
簡単なことではないが、短い期間でも苦楽を共にした仲間を切り捨てる事も簡単には出来ない。
そう考えるのが普通だろうとアンジュは考えていたが。
だが、司令官であるジルは違うと言う様に鼻で笑った。
「フ、持ち主を裏切る道具などいらん」
「そんな事だから裏切られたのではないのでござるか?」
「なんだと?」
空蝉丸の言葉にジルの目が更に鋭くなる。
「戦場で上に立つものが部下の兵士を道具のように言うのは致し方ないことでござる。
なれど、兵士は心を通わせる人間。愛着を持って接しなければ、道具も持ち主を裏切るでござる」
刃のような視線で睨まれているにも関わらず、空蝉丸は気にした様子も無く言葉を続けた。
しかし、その言葉をジルは嘲るだけだった。
「人間だと?フン、ノーマは人間ではない」
断言し、だから粗雑に扱っても良い、と言いたげな台詞だった。
それを聞いた空蝉丸は不快感を隠す事などできず、
「自分は違うと言うつもりでござるか?」
「いや、私も道具さ。リベルタスにおいては全てが道具。アンジュも・・・そして、お前たちもな」
「我々も?」
ジルの言葉に眉をひそめながらサラマンディーネ。
同盟ではなく、あくまで取引、お互いに利用しあう事を前提で話が進んでいたのだから道具と言う発言は何も間違っていないだろうが。
それを当人たちの前で言うのはあまりに横柄な態度だろう。
そして、アンジュも彼女の態度に不信感を持った。
「サラ子達もって、どういうこと?本当にこの作戦を実行するつもりなの?一体、サラ子達に何をさせるつもり!?」
「そいつらと共闘するか、か?アッ、ハハハハッ!!」
アンジュの言葉を聞いて笑い出すジル。
彼女の態度に困惑する一同。
特にアンジュとタスクの中にある疑念が確立し不安を浮き上がらせる。
そして、その不安が確かであるかのように、ジルの体が急激に動き、
―――瞬間、空蝉丸の目には彼女の左手に銃が握られているのを
―――その銃口が自分の隣にいるサラマンディーネに向けられようとしているのを
その後は反射的に体が動いた。
「サラマンディーネ殿!?」
「あっ・・・」
―――パァン!!と発砲音が響くと同時に空蝉丸がサラマンディーネを庇うように倒れこむ。
「ジル!?」
「アンタ、何を考えてるんだい!?」
ジルの行動にジャスミンとマギーは声を荒げて驚く。
その反応から彼女らは全く知らない事が理解できる。
幸いな事に、ジルの銃から放たれた弾は空蝉丸のお陰でサラマンディーネには当たらなかった。
しかし、庇った空蝉丸の右肩に弾が当たり、そこから血が流れる。
「ぐっ・・・」
「空蝉丸!?」
痛みで右肩を抑える空蝉丸と彼を心配しサラマンディーネが声を上げる。
その傷の具合を見るようにタスクが近づいた。
「空蝉丸さん!?」
「・・・タスク殿、――――」
苦痛に表情が歪む空蝉丸がうわ言のように何かを言っていた。
その様子を見てアンジュはジルを睨むように立ち上がった。
「このっクソ女、何をするのよっ!?」
「フッ、ドラゴン共との挟撃・・・あっ、ははははっ!!アウローラの本当の浮上するのはここだ!!」
サラマンディーネ達に銃を向けたままジルはモニターを操作する。
すると、先ほどの作戦での艦の位置が変化する。
その場所はドラゴンが特異点から出現する予定の場所から離れた場所だった。
「ドラゴン共がラグナメイルと交戦している間に、ヴィルキスとパラメイル部隊がアケノミハシラに突入、
そして、アンジュ・・・お前がエンブリヲを抹殺しろ!」
「なっ!?」
ジルが言った作戦に部屋の中のメンバーが驚愕する。
「私達を捨て駒にするつもりですかっ!?」
「当たり前だ。ヴィルキスは切り札なのだぞ。危険に浚う事など出来るか」
声を荒げるサラマンディーネに対して、ジルが嘲笑うように言う。
「お前たちの敵であるエンブリヲを殺してやるのだ。装置の操作は貴様一人でやってもらう」
銃を向けたままサラマンディーネを脅すジル。
そのまま空蝉丸の方を見て、
「そちらの男にはお前を動かす人質になってももらう」
「くっ・・・」
空蝉丸を庇うように前に立つサラマンディーネの表情が苦悩で歪む。
「・・・・冗談じゃない」
脅迫をするジルの態度にアンジュは憤怒していた。
「こんな最低な事をする奴の命令なんて聞ける訳ないじゃない!!!」
「ならば、聞かざるおえなくしてやろう」
そう言って、ジルは再びテーブルの装置を操作する。
すると、今度は壁のモニターが動き、ある映像が映された。
それを見てアンジュは驚愕する。
「モモカ!?」
映し出された映像には手足をロープで縛られ、口にテープを貼られているアンジュの侍女の姿があった。
映し出された場所は。
「あそこは減圧室だ。ハッチを開けば侍女は水圧で一瞬で押しつぶされる」
「ジル!アンタの仕業かい!?」
「こんな事、聞いてないよ!?」
本当に何も知らされてなかったジャスミンとマギーはジルを嗜めようとする。
だが、当人はそれを気にした様子もなく、
「アンジュは命令違反の常習犯だ。そこのドラゴンの女と同じく予防策をとったまでだ」
二人を一瞥して言葉を紡ぐジル。
その態度には全く悪びれた様子もなく、大儀のためなら当然だとでも言うようだった。
「侍女を救いたければ私に従い命令を受け入れろ!!」
「自分が何をしているのか、分かっているの・・・」
睨みつけるアンジュだが、その態度すらもジルには揺らぐことなく。
「リベルタスの前では全てが駒であり道具。あの侍女はアンジュを動かす道具。
アンジュ、お前はヴィルキスを動かす道具。そして、ヴィルキスはエンブリヲ殺す最強の兵器だ」
「くっ、ふざけるなっ!?―――」
「―――何故でござる」
ジルの言葉に怒りが頂点に達したアンジュは彼女に向けて銃を抜こうとする。
だが、その寸での所で、空蝉丸の言葉を投げかけた。
「空蝉丸・・・」
心配そうにするサラマンディーネに対して、空蝉丸は痛みに苦しいはずなのに冷静に言葉を紡いだ。
「何ゆえ、エンブリヲなる者に拘るのでござる」
撃たれた肩には弾が残っているにも関わらず、肩を抑えながらも鋭い視線を向ける。
流石のジルも空蝉丸の気迫に押されるように怯む。
「リベルタスは神気取りのエンブリヲを殺す事が目的だ。それ以外にノーマが開放される事はない!!」
「・・・本当にそうなのでござるか?」
すぐに鋭い視線と言葉を返すジル。
だが、空蝉丸は更に言葉を投げかけ、深く問いかけた。
「エンブリヲなる者は世界を裏で支配していたのならば、その者を殺したところで本当に貴女方が解放されるのでござるか!!
ただ、エンブリヲと表側で民を纏めていた者が取って代わるだけでござろう!!!」
「ならば、そいつらも抹殺すれば良い!!必要ならば、人間全員皆殺しにすれば!!」
空蝉丸の言葉にジルは声を荒げる。
狂ったように言葉を吐き捨てるジルに今度こそ部屋のメンバーは黙り込んでしまう。
「・・・滅茶苦茶です」
その場の人間の思った言葉を代弁するようにサラマンディーネが呻くように言う。
だが、それすらもジルは鼻で笑った。
「フン、人間はノーマが反社会的だと思っているのだ。今更気にする必要はあるまい」
自虐的に笑うジル。
「それを受け入れるという事は、敗北を認めるのと同じでござろう」
「何っ・・・」
空蝉丸の言葉にジルは激しく反応した。
銃口が彼のほうにもう一度向くかも知れない状況だが、空蝉丸は臆しなかった。
「エンブリヲが人間に刷り込んだノーマの印象を拭う事が、出来ると思っているのか!!」
「可能でござる」
その瞬間、部屋の中で驚き息を飲んだ。
世界の人間にノーマが悪だとDNAにまで書き込んだものだ。
そんな物が簡単に拭えるとは思えなかったからだ。
「エンブリヲなる者は世界を欺いた逆賊。マナが消え、エンブリヲのペテンを世界に知らしめられれば、
エンブリヲが悪、それを暴いた貴女方に義があると世間の評価は裏返る」
エンブリヲの存在を世間に知らしめ、自分たちが正義の味方になる。
そんな話を聞いたものは夢に思えるものだろう。
だが、
「そんな物、ただの夢物語だ。そんな簡単に行くものかっ」
「それを行う上で、生じるであろう汚名は皆我々が被りましょう」
否定しようとするジルの言葉に、サラマンディーネが言葉を紡いだ。
「貴女の態度から、エンブリヲと個人的に怨みが深いと察します。ならば、空蝉丸殿の言葉通りの事が出来れば、
エンブリヲは死ぬよりも屈辱的な目に会うはずでは?」
何せ、自分が虫ケラと思っていた者達に、自分の王国は破滅させられたのだ。
死ぬよりも辛いだろう。
その言葉にジルはほんの少し黙り込んでしまう。
そんな彼女に空蝉丸は止めの一言を紡いだ。
「ジル殿。貴女は全てが駒だと言っていた。それは貴女を信じる艦の中の者達もそうなのでござるか?」
「そうだ」
「それを知っているのでござるか?」
「奴らが知る必要など無い。道具なのだからな」
鼻で笑って、短く言葉を紡ぐジル。
だが、空蝉丸たちにとって聞きたかった言葉は聞けた。
「そうでしょうか?そういう事情は皆が知るべきでは?」
「なんだと?」
勝ち誇ったように言ったサラマンディーネの言葉に今度はジルが眉をひそめる。
その様子にタスクも立ち上がりながら、
「アレクトラ、実はこの話し合いは艦内全部に放送されるようにしていたんだ」
「なっ!?」
彼の言った言葉にジルは血の気が引くのを感じた。
当然だが、彼女が空蝉丸を撃ったことも、リベルタスの大儀のため全員が道具だという発言は大した問題ではない。
そんな事を言いくるめる自信は彼女にはあった。
だが、アンジュの侍女、モモカを人質に取った事はそうも行かなかった。
彼女はマナが使える人間だが、アルゼナルを出てから限りある食料で乗組員の給仕をしていた彼女を嫌う者は多く居ない。
それなのにモモカにした事は、少なからず自らの不信感を生むものになる。
それは=リベルタスの障害になる。
「タスク、貴様・・・」
それを頭の中に思い描いたジルはタスクに銃口を向けながら睨みつけた。
「ヴィルキスの騎士がリベルタスの邪魔をするのかっ!!?」
「俺はヴィルキスの騎士なんかじゃない」
今にも殺そうとするジルの視線が射抜くが、タスクは臆していなかった。
「俺は、アンジュの騎士だ。そして、リベルタスはノーマ、古の民、皆のための物。
君だけのものではない」
「色気づいたガキが、偉そうにッ!!」
「もうやめな、ジル」
激昂したジルがタスクに銃を撃とうとするが、ジャスミンがそれを止めた。
「ジル、アンタの負けだよ」
「ジャスミン・・・」
ジャスミンだけではなく、マギーもジルに対して厳しい視線を向けている。
四面楚歌。
今のジルの状況はまさにそれだった。
そんな時、アウローラが大きく揺れた。
あとがき
更新が大変遅れて申し訳ありません。
しかも、予定だともう少し先まで書くつもりだったのですが、予想以上に長くなったので、
ここまで一度切らせてもらいます。
原作と違う事展開を書かせてもらいました。
少し自分が思っていた疑問を書かせてもらいました。
次回ももう少し荒れると思うので、読んでもらえると幸いです。