クロスゴールド 雷鳴が奏でる輪舞   作:愛剣

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第十八話

 

 

 

 

 

 

 

空蝉丸とサラマンディーネがアウローラに帰還した頃、一足先に引き上げられたタスクは牢に入れられていた。

アンジュが捕まってしまった原因がタスクにあると司令官のジルに責められてここに入れられたのだ。

牢の中でタスクは落ち着くことができなかった。

なぜなら、アンジュがエンブリヲの処へ連れていかれたのだ。

彼女がどんな目にあっているのか、考えただけで居ても立っても居られない。

だが、彼は牢から出ることができず、もどかしい時間を送るほかないのだった。

 

(何とかして、ここから出る方法を考えないと・・・)

 

簡易的な寝床に横になりながらタスクは頭を巡らせる。

その中で彼の脳裏に浮かんだのは空蝉丸とサラマンディーネの事だった。

もしも、二人がアウローラに戻っていれば、自分を助けてくれるかもしれないと考えた。

付き合いは短いのだが、会談の前に話したときエンブリヲの居城に潜入することを計画していた。

ノーマとの交渉は決裂したが、アンジュが攫われたことを知れば自分が協力する事は彼らならば容易に想像しれくれるはずだと。

ただ問題なのは、彼らとの交渉をジルが台無しにしたことだ。

空蝉丸に不意打ちのような事をした以上、ここに戻ってくるとは思えなかった。

少なくともサラマンディーネはここに戻ろうとは考えないだろう。

 

(でも、これってジルの所為なんじゃ・・・・・)

 

考えを巡らせるとタスクはジルの判断ミスではないのかと思わずにはいられなくなった。

そもそも空蝉丸を人質にサラマンディーネ達を動かそうとするなどの強引な方法をとれば、アンジュが反発するのは当然のことだ。

形振り構わずアンジュを使おうとするが、本当にリベルタスのためなのだろうか。

いや、リベルタスのために形振り構わず行うのならば、危険だとしてもドラゴンとの共闘をしようとするはずだ。

なのに、ジルは無理やりヴィルキスでエンブリヲを倒そうとしているのは何故か・・・

 

そこまで考えてタスクは思考を止めた。

脱出の方法を考えていたのだが。いつの間にか考えが脱線してしまった。

タスクは短く息を吐いて、身体を脱力させる。

焦っても仕方がないと戒め、休める時に休んでおかなければと言う結論に達したのだ。

決して、ふて寝しているわけではない。

 

しかし、アンジュが囚われているにもかかわらず、タスクは夢見よく眠れるはずはなかった。

苦悶の表情を浮かべるタスク。

魘される理由はアンジュの事もある。

だが、それ以上にタスクの意識はこことは別の場所で、恐ろしい存在と対峙していたのだ。

 

「あ、あぁぁ・・・・」

 

目の前の存在に狼狽するタスク。

 

(ド、ドラゴン!?)

 

黒いシルエットのようにハッキリと姿が見えない。

それでもぼやけた影のような形は巨大なドラゴンだった。それも翼がないが、代わりに頭、腕、背中にヒレを持っていた。

今まで見たことないタイプのドラゴンだった。

何より目立つのは、凶悪な顎だ。

パラメイルなど粉々に噛み砕くことなど容易い強靭な顎を見て、タスクは腰を抜かした。

食われるのではないか、あんな顎に人の身の自分が噛まれた事を想像すれば不安があった。

 

「ひっ!?」

 

ドラゴンはタスクを目の前に鼓膜が弾け飛ぶほど咆哮を上げる。

口から漏れた悲鳴すらも打ち消される爆音によって、さらに恐怖で震えあがるタスク。

情けない姿。

もはや立ち上がり逃げることすらできないタスクにドラゴンは片方の足を踏み出す。

踏み下ろされた足はまるでタスクを叱咤するかのような怒りを感じさせるほど乱暴だった。

 

食い殺される、足腰だけでなく顎すらも震え上手く歯が噛みあわない。

目には恐怖のあまり涙が溜まっている。

 

更に、ドラゴンはもう片方の足を踏み出す。

 

タスクの心の防壁すらも踏みつぶすには十分な迫力。

許容範囲など圧倒的に超え、気絶してもおかしくない心境だ。

死ぬかもしれない・・・・

 

「い、嫌だ・・・」

 

死にたくない。

死ぬわけにはいかない。

自分にはアンジュを助ける使命がある。

アンジュの騎士だからではない。

彼女の事が好きだから、死んでも守りたい大事なものだから。

 

「う、うわ、うわぁああああああああ!!!」

 

自らを奮い立たせ、両足を地につけ立ち上がるタスク。

絶叫するタスクに呼応するようにドラゴンもまた雄叫びを上げる。

しかし、タスクは怯まなかった。

 

自分の中にある、ありったけのものを振り絞りドラゴンへ飛び掛かるタスク。

 

「うわぁぁあああ!!アンジュゥウウウ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

半ばやけくそのように飛び掛かり、そのまま倒れこむ用に拳を振り下ろそうとしていたタスクだったが。

次の瞬間、ドラゴンの姿が掻き消え、薄暗い牢の鉄格子があった。

訳も分からず放心状態でいると、

 

「おいっ」

 

「へ?」

 

真下から聞こえてきた女の声に、間の抜けた声を零しながら見下ろす。

まず目に入ったには、薄暗い牢の中でも良くわかる鮮やかな赤い髪。その後に、ヒルダの顔があった。

何故、彼女の姿が自分の前にあるのか、タスクはハッキリしない意識のまま、ぼんやりと考える。

 

「何時まで、“この状態”のままでいるつもりだ?」

 

「え?」

 

再び投げかけられた。今度は批難するかのような言葉。

その言葉にも間の抜けた声を漏らしながら、タスクは自らの状況を見る。

まず、自分の態勢は、前のめりだ。もっと言えば、四つん這い。

その下、自分とベッドの間にはヒルダの姿がある。

次にお互いの姿はどうだろうか。

タスクは上半身裸、ヒルダは彼女の髪と同じ赤い上下の下着姿。

 

「・・・・・」

 

状況を把握し黙り込んでしまうタスクだが、徐々に体全体が熱くなり、赤面していく。

 

「う、うわぁああああああああ!!!」

 

「押し倒しておいて、その反応はないだろ?」

 

弾かれるように飛びのくと、ヒルダから冷たい視線と共に言葉が放たれる。

冷淡ともいえる態度のヒルダだが、羞恥心で火照りまくったタスクの頭を冷やせるわけもなく。

 

「え、え!何で!?どういうことっ!!?」

 

「・・・決まっているだろ」

 

冷静になろうと、牢の中を首が取れるほどの勢いで見回すタスク。

ヒルダはため息を一つ付いてから、色気たっぷりの声でタスクに近寄り、忙しなく振り回す頭を、自らの胸へ抱きかかる。

 

「夜這いに来てやったんだよ」

 

「ふ、ふぇええ!?」

 

情けない声を上げるタスクを他所にヒルダが言葉を続ける。

 

「実はアンジュを助けてやりたいんだけど、どうも司令の様子が可笑しいんだ」

 

「ア、 アレクトラの・・・」

 

「だから、少し協力してほしいんだ。そしたら、ここから出してあげるし。上手くいったら、“して”あげるからさ」

 

何を、とは聞くまでもないことだ。

 

「アンジュとはまだ“して”ないんだろ?代わりに、私が・・・」

 

「や、止めてくれ!!」

 

抱きしめる力が強くなった所で、ヒルダを突き飛ばし拒絶するタスク。

 

「お、おお、俺は、アアアア、アンジュの騎士だ。い、色仕掛けには、くくく、屈しない!!」

 

拒絶しながらも、顔は真っ赤なままのタスク。

それでもアンジュを裏切るまいと、必死に羞恥心を抑えようとする。

 

「は、初めてはアンジュと、と考えている。で、でも、それは全てに決着がついてからで、って。何言ってるんだ、俺は!?」

 

「毎回、股間に頭を突っ込んでくる、て聞いたけど」

 

「あ、アレは事故で・・・!?」

 

「私の事を押し倒しただろ?」

 

「いや、さっきのは・・・!?」

 

ヒルダの容赦ない言葉に嬲られるタスク。

ゆえに、

 

「つまり、ヘタレってことか?」

 

このような物言いに対しても、タスクは悔しげに「うぐっ」と唸ることしかできないのであった。

 

「まぁ、そういう面もアンジュからは聞いた通りだし」

 

甲斐性の無い男みたいな様に言われているタスク。

だが、言葉通りなため何も言い返すことができない。

 

「何より、アンジュの名前を叫びながら押し倒しておいて、私を抱くなんてありえねぇしな」

 

「はぐっ!?」

 

「ぷっ、はははは!!!」

 

更に放たれたヒルダの言葉に、顔をまた赤くするタスク。

そんなタスクを見て、面白そうにヒルダは笑いながら、

 

「悪い、悪い、そんな顔すんなよ。もう虐めねぇから」

 

完全に弱い立場に立たされたタスク。

対して、ヒルダは表情の笑みを崩さないまま、

 

「本当は、もう少し虐めてやりたい所なんだが・・・」

 

「おい、ヒルダ。まだなのか?」

 

タスクにとって不吉な事を呟いたとき、牢の外からロザリーが中を覗き込んできた。

ヒルダは首を捻って、表情に不満を書きながらロザリーに言葉をかける。

 

「もう少しだよ」

 

「一体、何が?」

 

「だから、さっきも言っただろ。協力してほしい事があるって」

 

訳が分からない様子のタスクに、やれやれ、と首を振りながらヒルダ。

その表情は先ほどタスクをからかっていた以上に加虐的なものになっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、人影が見当たらない格納庫。

通路を出る扉が開き、艦長室に軟禁するように言い渡されたはずのジルが入ってきた。

幽鬼のように体を揺れながらパラメイルに近づくジル。

 

バカな事をしている、と思うジル。

 

格納庫に来るまでに、ジルはブリッジに残っている乗組員を気絶させると、艦内のシステムを操作した。

乗組員は今頃、困惑しているはずだ。

ジルは通路の隔壁を降ろし、艦を浮上するようにした。

正常な人間ならば、正気を疑われるだろう。

 

やはり、バカな事をしている、と自嘲するジル。

 

そう思いながらも、立ち止まることができないジルは機体に乗り込もうとする。

 

「こんばんは、司令官殿」

 

背後から声をかけられ、立ち止まる。誰もいないことは確認していた。気配も感じなかったはずだった。

それなのに何故、と思いながら、ジルは声の主へ振り返る。

 

「貴様、何故この場にいる?」

 

敵意をむき出しにして、声の主、サラマンディーネを睨みつけるジル。

対して、サラマンディーネは余裕の笑みを浮かべながら問いかける。

 

「司令官殿こそ、こんな夜更けにパラメイルに乗って遊覧飛行ですか?」

 

「貴様には関係ないことだ」

 

「だったら、私らには関係あるよな、司令」

 

ぶっきらぼうに吐き捨てたジルだったが、すぐ後に耳に届いた別の人物の声に表情を険しいものにした。

サラマンディーネとは別の方向。声のした方を見れば、予想通りの人物。

手を腰に当てて佇むヒルダの姿があった。さらに、ヒルダの後ろには、腰巾着のロザリー、ヴィヴィアン、タスクの姿まである。

 

「お前たち・・・」

 

忌々しげに睨むジル。

対して、タスク達も険しい視線をジルに向けるが、ヒルダだけが余裕のある笑みを浮かべながら、

 

「私とアンジュが逃亡したら、厳しいお仕置きをした癖に。自分は男と乳繰り合うためにお出かけですか?」

 

周りが冷や汗を書くほどの過激な皮肉を飛ばすヒルダ。

ただ一人、サラマンディーネだけは楽し気に笑うが、言われた当人は平静なはずがなく。

 

「・・・どういう意味だ?」

 

殺さんばかりの視線で睨みつけるジル。

余りの迫力に近くにいたロザリーは悲鳴を上げるが、向けられているヒルダは見事なまでの胆力でいなしながら、

 

「実は、聞いちゃったんだよね、私」

 

勿体ぶった言い方をしてヒルダは言葉を紡いだ。

 

―――司令が夜中に魘されながら、“エンブリヲ様”って言っているのを

 

「―――っ!?」

 

ヒルダの言葉を受けて、ジルの表情に動揺が走った。

しかし、動揺を見せたのは一瞬、その後は、弾かれるようにして腰に忍ばせていた銃に手をかけ、

 

「図星を付かれたからと言って、毎度のように銃に頼るのは如何なものかと思いますよ、司令官殿」

 

そのまま銃口を向けようとするジルだったが、銃から弾が発射されることはなかった。

代わりに、紡がれたサラマンディーネの言葉と共に、彼女の腰から伸びる尻尾がジルの手に振るわれ、銃を叩き落としたのだ。

 

「す、すげ~~」

 

「便利だな、それ」

 

感心したようにロザリーとヒルダが声を漏らす。

すると、近くで見ていたヴィヴィアンが興奮しながら、

 

「かっけ~~!!やっぱり、私も尻尾と翼がほしい!!!」

 

幼子のように羨ましがる彼女に、サラマンディーネは宥めるように微笑みながら言葉を紡いだ。

 

「うふふっ、戦いが終わったら、ドクターに相談すれば何とかなるかもしれませんよ」

 

「本当か!?」

 

「ええ。きっと良い方法を見つけてくれますわ」

 

「やった~~~!!」

 

サラマンディーネが優しく頷くと、感極まったようにヴィヴィアンが両手を思いっきり突き上げて喜んだ。

「っ!?」

 

今だ、とジルは思った。

周囲の人間の関心が自分から逸れた事を良いことにジルは機体に飛び乗るが、

 

「そこまででござる」

 

「もう止めてくれ、アレクトラ」

 

そのままパラメイルを飛ばそうとするジルだったが、その前に空蝉丸とタスクが飛び乗り制止させた。

正面から空蝉丸がザンダーサンダーを、後面からタスクが銃を向けた。

 

「・・・貴様の武器だけでも取り上げておくべきだったな」

 

忌々しそうに空蝉丸を睨むジル。

 

「アレクトラ、両手を頭の後ろで組んでくれ」

 

「・・・タスクっ」

 

背後から放たれた言葉に対しても、ジルは振り返りこそしなかったが、顔を険しくする。

だが、これ以上の抵抗は無駄だということを悟っているジルは、タスクの言葉に素直に従いのだった。

 

 

それから暫し後、オレンジ色の作業着を着た整備班のメンバーの尽力によりアウローラの閉鎖隔壁は解除され、格納庫には整備班と共にジャスミンが入って来るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジルが暴挙に及ぶ少し前、空蝉丸は策を講じていた。少し心を揺さぶろうとしただけだ。

やった事も簡単だ。

ただ艦長室の前をサラマンディーネと共に歩きながら話をしていただけだ。

 

―――アンジュは大丈夫でしょうか?

 

―――囚われているのならば、恐らく生かされているはずでござる

 

―――ですが・・・

 

―――はい。一体、どんな目にあっているのか・・・

 

―――心配ですね・・・

 

そんな会話を部屋で寝そべっているであろうジルに聞かせる。

ただ、それだけでジルが行動を起こすとは、空蝉丸自身も思っていなかった。

あくまで、食堂で提案しただけなのだが、その案に女性陣たちが賛同したのだが、結果は上場だった。

恐らくだが、アンジュ、囚われる、心配される、そのワードを念入りに聞かせた結果、ジルの心が揺さぶられることとなったのだろう。

 

つまり、そこから導かれる答えは空蝉丸の考えている通りだということであり、同時に、現在囚われの身のアンジュにも起こるであろう事実。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じく、囚われの身となっているアンジュ。

 

「う・・・はっ、あぁぁ・・・」

 

一糸纏わぬ姿で何かに耐えるように床で悶えていた。

そんなアンジュの姿を楽しみ薄ら笑う視線があった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

身体の底から湧き上がる熱に焦がれ、息を荒くしながらアンジュは視線の主、エンブリヲを睨みつける。

一体、何故こんなことになったのか、僅かに生き残った理性でアンジュは自分が囚われてからの出来事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

ヴィルキスを堕とされたアンジュが目を覚ました時、自分がミスルギ皇国の屋敷のベッドに寝かされていた。

それも自分がノーマとされるまで住んでいた屋敷だった。

更に、囚われたと言うのに待遇は決して悪いものではない感じがした。

豪華な部屋に寝かされ、脇には花束の山に、煌びやかなドレス。

余りの処遇に一緒に連れてこられたモモカは喜んでいたが、アンジュには何か裏がありそうで疑わしかった。

 

だから、逃亡を図った。

 

いや、逃げる気などさらさら無かった。

手近な所から武器になりそうなものを探し、自分に何かしようと企むエンブリヲに目にもの見せようと考えていた。

 

エンブリヲの元に連れて行くと、サリアと一緒に来た部下二人を蹴散らしてだ。

別に拘束をされていたわけでもなく、連れて来られたのは元々は自分が暮らしていた屋敷。

逃げることは容易だと思っていた。

思っていたのだが・・・

 

(まさか・・・子供に見つかってしまうなんて)

 

屋敷から庭に出てみると、アンルゼナルにいたノーマの子供たちが遊んでいたのだ。

子供たちに見つかってしまい、結果としてエンブリヲの元に連れてこられた。

 

アンジュから見たエンブリヲの姿は、表面は紳士的に振舞っているが、何処か胡散臭い男だった。

 

その後、アンジュは胡散臭い男に連れられてアケノミハシラへ案内された。

そこで、サラマンディーネの悲願であるアウラと出会うことになった。

アウラから世界に供給されるマナを生み出す発電機にされている姿、更にアウラを玩具のように言うエンブリヲに、アンジュは激昂した。

 

しかし、激高したアンジュの姿を見て、エンブリヲは楽しそうに笑みを浮かべる。

 

そこでアンジュの堪忍袋の緒が切れ、怒りのままエンブリヲを銃で撃ち殺した。

銃弾はしっかりとエンブリヲの頭を撃ち抜き、血だまりを作って倒れた。

完全に死んだとアンジュは思っただが。

次の瞬間、全く無傷の状態でエンブリヲは、アンジュの前に現れたのだ。

 

自らは死なない、1000年も生きている、と世迷言のような事を口にするエンブリヲ。

 

聞かされたアンジュは困惑する。

そこへ更にエンブリヲは言葉を綴ったのだ。

 

―――自分の妻になるのだと。

 

曰く、アンジュは今までに出会った女性の中で素晴らしいと褒めた。

それ以外にも、幾つもの言葉を綴った。

正直、アンジュには聞いていて寒気がする言葉の数々であった。

当然の事だが、アンジュが応じるはずもなく、平手打ちを食らわせて撥ね退けようとした。

 

だが、エンブリヲは何が嬉しいのか、アンジュの反応に満足げに笑いながら、

 

「駄々を捏ねる子にはお仕置きが必要だ」

 

 

その結果が、今のアンジュの状況だった。

エンブリヲによって、アンジュの感覚と痛覚が全て快楽に変えられ、あられもない姿を晒す玩具にされていた。

 

「さて、そろそろ返事を聞かせてくれるかな、我が花嫁よ」

 

微笑みながら優しい言葉をかけるエンブリヲ。

胸と股の間に手を廻すアンジュの姿を楽しむ笑みだ。

エンブリヲの顔を見て、怒りを無理やり再燃させたアンジュ。

 

「く、くたばれ・・・下衆野郎・・・!!」

 

「フフッ、私の妻になる者が、そんな下品な言葉を使うものじゃない」

 

しかし、顔を紅潮させるアンジュに威圧感など全くない。

むしろ、嬉々した表情でエンブリヲは、アンジュに顔を近づける。

アンジュは引き攣り小さな悲鳴を上げる。

近づいてくるエンブリヲの顔、いや唇を恐れたのだ。

 

「そんなに怖がる事は無いよ、アンジュ」

 

耳元で言葉を囁くエンブリヲ。

 

「い、いや・・・」

 

「すべてを私に委ねれば良いのだ」

 

そう言って、エンブリヲは、アンジュの耳に優しく息を吹きかけた。

 

「あぁああああああああああああ!!!!!」

 

少しだけ吹きかけられただけにも関わらず、理性を決壊させかねない程の強烈な快楽の波にアンジュは身体を弓のように逸らせて悶える。

エンブリヲは、そんなアンジュの反応すら楽し気にする。

 

(こ、こんなのの何処が良いのよっ!?)

 

余りにも下劣極まりないエンブリヲの振舞いに、快楽に苛まれるアンジュは怒りで理性を必死に繋ぎとめる。

そして、寝返った元仲間達に怒りを露にした。

 

迎えに来たサリアは、完全にエンブリヲに惚れていた。

ジルに捨てられた心の傷に優しくかけられた言葉。

いや、サリアにとって一番言ってほしい言葉をかけたのだ。

それだけで堕ちたらしい。

エンブリヲに純潔を捧げ、身も心も心酔したのだった。

 

エルシャは、アルゼナルの襲撃の際に惨殺された子供たちの姿を見てひどく傷ついていた。

そんなエルシャを、いや殺された子供たちの命を救ったのがエンブリヲであった。

エンブリヲは、エルシャに誰もが幸せになる世界を想像する、という理念を説いた。

その理念にエルシャは感銘を受けて、エンブリヲを心酔し、彼のためならばどんな事でもすると言った。

 

クリスについては、ヒルダの言う通りだった。

親友だと思っていたヒルダとロザリーに裏切られたと考え、アルゼナルで瀕死の重傷を負った所をエンブリヲが助けたのだ。

それでクリスはエンブリヲを友達だと思い、心酔したらしい。

 

 

よく考えれば、可笑しいとアンジュは思った。

サリアについては、ジルと大差ない感じがする。

エルシャについては、誰もが幸せな世界を作ると言ったが、今の世界を作った張本人がエンブリヲではないか。

クリスについては簡単に信じすぎだと思った。

 

そして、今の自分の状況を考えれば、皆が騙されているとアンジュは感じた。

 

「全く困った子だ。素直になれば、楽になるというのに」

 

そう言いながら、エンブリヲは部屋を出ようとアンジュから背を向けるが、

 

「・・・タスク」

 

「ん?」

 

アンジュの呟きを聞き、立ち止まった。

 

「・・・タスク・・・助けて、よ!・・・タスク!!」

 

「不愉快だな。何者かは知らないが、私の前で他の男の名を口にするとは・・・」

 

そう言って、ゆっくり手を持ち上げる。

眉を顰めながら部屋を出ようとし、最後に指を弾いた。

 

「いぃやぁああああああああああ!!!!熱いぃいい!!!」

 

瞬間、アンジュを苦しめる快楽責めが、何十倍にもなった。

 

 

だが、エンブリヲは気が付かなかった。

どんなに辛い責め苦を受けようと、アンジュの目には希望が消えていなかったことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







あとがき

今回はここまでです。
大まかに原作通りの展開になりました。
ですが、漸く次回から自分の書きたかったシーンが幾つか書くことができます。

一つはもう分かる人がいるかもしれませんが・・・

他に幾つか書きたいので、もしかしたら今回以上に時間がかかるかもしれません。
どうかご容赦ください。


・・・それにしてもエンブリヲのセリフは凄まじかったです。
少ししか書いてないのに、寒気が凄まじい。
キーボードを打ち込む腕に鳥肌が立って、眠気まで引っ込みました。

気分をリセットさせるためにも、今回はここまでになります。



次回も見てもらえれば、幸いです。


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