これは前回の第一話の前編です。
一抹の光すら見えない闇の中。
ただただ真っ暗な光景しかない場所、ハッキリとしない意識の中で空蝉丸は自らの身に起こっていることに困惑した。
しかし、それも時が経つに連れて段々と理解していった。
地球滅亡が掛かった最終決戦。
その戦いで、戦隊のリーダー、キングこと、桐生 ダイゴに必殺の一撃を撃たせる為にその後を追ってきたエンドルフとドゴルドの足止めをかってでた。
戦いの中で宿敵のはずのドゴルドがエンドルフを裏切り、奴と共闘しエンドルフを討った後、宿敵ドゴルドとの決着を果たした。
その結果は相打ちでドゴルドが消えた後、自分もまた地面に伏し意識を失ったはず。
そこまで回想し、空蝉丸は自らが死んだのだろうと結論をつけた。
―――ならば、ここは死後の世界なのだろうか・・・
その事に恐怖は感じなかった。
いや、彼にとって自分のことよりももっと気になることがあった。
―――戦いはどうなったのでござろうか・・・
キング殿、イアン殿、ノッサン殿、ソウジ殿、アミィ殿は無事だろうか・・・
キング殿はデーボスに最後の一撃を当てることは出来たのだろうか・・・
地球はどうなったのだろうか・・・
死んでしまった自分にはもはや何もしてやれることがない。
幹部を二体も倒したにも拘らず、空蝉丸は何も出来ない自分の不甲斐なさに腹立たしく感じていた。
―――各々方、どうかご武運を・・・何卒、勝利を掴み取ってくだされ・・・・
せめて出来ることは祈ることだけだろう・・・
そう考えた時だった。
自分の視界が眩いばかりの光に溢れた。
さっきまでの暗闇から一転して、視覚を突き刺す光に空蝉丸はゆっくりと瞼を開けた。
そう瞼を開けたのだ。
「・・・拙者は、生きて、いる・・・?」
それが意味するのはそういうことだ。
布団の中で自分は仰向けに寝かされていた。
ゆっくりと視界を動かせば、窓から日差しが入り込んでいる。
恐らく、それで自らは起こされたのだろう。
更に視界を見回せば、自分が寝かされているのは木造の部屋。
一部は畳が敷かれているが、木材の部分がある。
―――まるで、親方様に仕えていた頃の城の部屋に何処と無く似ている。
そんな事を考えながら、空蝉丸は体を起こそうとする。
しかし、その瞬間、激しい痛みが彼に襲い掛かった。
「ぐっ、・・・これは・・・」
だが、痛みで更に意識が覚醒し、空蝉丸は自分の上半身の衣が脱がされ、代わりに誰かが治療してくれたのだろう包帯が巻かれていた。
一体誰が・・・と疑問に感じている時、自らが寝かされていた部屋の襖が開き、誰かが入ってきた。
「あら、お目覚めになったのですね」
入ってきた人物は自分が体を起こしていることに気付き、微笑みを浮かべた。
(空蝉丸的に)少々目のやり場に困る巫女の装束に似た衣を着込んだ少女。
その後ろには彼女と同じ年頃の娘が二人。
恐らく、二人は護衛なのだろう藍色の髪と小豆色の髪を持った少女は薙刀と腰に剣を挿している。
「ご気分はいかがですか?」
そう言って、優しく問いかけてくる黒髪の少女。
やはりその衣装は空蝉丸には少々刺激が強いため、少し俯きながら、悟られまいと振舞った。
「そなた達が拙者の治療を?」
「はい。その通りです」
「それはかたじけない。そなた達のお陰で命拾いをしたでござる」
意を決し少女の顔を見る空蝉丸。
助けてくれた相手に礼をする以上、その相手の顔を見るのは当然だからだ。
そこでハッキリと彼女の顔を見ることになった。
青い瞳に、その額には宝石だろうか緋色の石に目に留まった。
不覚にも彼女の容姿に思わず見入ってしまい、空蝉丸は女人の顔を見すぎるのは失礼だろうと、視線を逸らせる。
しかし、彼女は気にした様子も無く、ただ微笑んだ。
「お気になさらないでください。貴方は私達の世界を滅亡から救った英雄の一人なのですから」
その一言に空蝉丸は驚き、顔を上げる。
いや、その勢いのままに彼女の両肩を捕まえてこちらに引き寄せた。
その行動に彼女の護衛二人が何かを言うが、それが聞こえないほど彼は興奮していた。
「い、今なんと申した。滅亡の危機を救った。では、キング殿たちは・・・・」
普段の彼ならば決して起こさない行動。彼にとっては暴挙のようなものだが、気にする余裕はなかった。
しかし、少女は微笑んだままゆっくり頷いて、
「安心してください。貴方方の戦いは終わったのです。貴方方は勝ったのです」
その言葉を聞いて、空蝉丸は「うっ」と体を前屈に沈みこませた。
「大丈夫ですかっ!?」
突然の行動に少女は驚き、体を寄せた。
まさか、傷口が開いたのではないか、と心配したからだ。
「・・・やりましたなっ」
「えっ?」
近づき聞こえた彼の呟きに一瞬困惑の表情を露にする。
しかし、すぐにどういうことか理解した。
「やりましたなっ、キング殿、各々方」
そう言って、悦びを抑えるかのように体を丸めた空蝉丸。
しかし、その歓喜の気持ちは漏れ出したかのように彼の瞳から流れ出すのだった。
そんな彼の様子に安堵しながら少女はまた微笑んだ。
しかし、その微笑は何処か悲しそうであった。
それから暫くして、自分を手当てしてくれた少女によって知らされた勝利を一通り噛み締めた後、空蝉丸は何とか体を動かす事が出来るほど回復していたらしく、話がしたいと茶室へと通された。
その道中で、空蝉丸は助けてくれた少女たちの自己紹介をしてもらえた。
まず、自分に勝利を教えてくれた黒髪の少女は『サラマンディーネ』と言い、近衛中将と言う高い位に付く少女だそうだ。
そして、その側近である藍色の髪をした少女が『ナーガ』、小豆色の髪をした少女が『カナメ』というそうだ。
そして、更にその道中で空蝉丸は信じられないものを目撃した。
案内される中で通った渡り廊下。
そこから見える景色の中に、巨大なドラゴンを見たからである。
自分の相棒である獣電竜ほどのドラゴンの姿に驚愕する空蝉丸。
そんな彼にサラマンディーネは説明するからと茶室に入るように促された。
その表情は微笑んではいたが、やはり何処か悲しげであった。
茶室へと通された空蝉丸は、話をする前にまずは落ち着いてくださいと、サラマンディーネがたてたお茶を飲むのだった。
今、茶室にいるのは空蝉丸とサラマンディーネの二人だけ。
一緒に来ていた側近の二人は外で待っているように彼女に命令されたためだ。
最初は渋った二人だったが、サラマンディーネの有無を言わせぬ雰囲気に素直に従った。
それはともかくとして、彼女の入れたお茶は中々のもので、空蝉丸は感心するのだった。
「・・・結構なお手前で」
お茶の作法に習って、茶碗を下ろし、言葉と共に一礼をする空蝉丸。
ケガをしている身だが、だからと言って神聖な物と位置づけているお茶の作法を疎かには出来ない。
しかし、正面に座っているサラマンディーネは目を丸くしてこちらを見ていた。
「どうかなされましたか、サラマンディーネ殿?」
「いえ、貴方の動きが慣れておられるので、少し驚いたのです」
その言葉に空蝉丸は苦笑した。
武人である彼だったが、生まれた時代が時代だけに、ある意味本場の作法を習ったといえるのだから、仕方のないことだろう。
そう考えて、空蝉丸は話題を変えるかのようにサラマンディーネを見据えた。
「それで、サラマンディーネ殿。この世界は一体どうなったのか、お聞かせ願えないだろうか」
何ゆえ、デーボスを倒し、地球滅亡を食い止めたにも関わらず、この世界に巨大なドラゴンが飛翔しているのか。
その問いに対して、サラマンディーネの瞳が悲しげに揺れた。
まるで、これから話すことを躊躇うかのように。
しかし、空蝉丸が強い眼差しを向けるゆえに、彼女は意を決し言葉を紡いだ。
「まず初めに、話さなければならないことがあります」
そう前置きをし、サラマンディーネは次の言葉を放つ。
「この世界は、貴方がいた世界の時代ではありません」
「それは、どういう意味でござるか?」
少し困惑気味に空蝉丸。
そんな彼にサラマンディーネはハッキリと言い切った。
「ここは貴方が戦った時代から約600年後の未来なのです」
ここが未来の世界。
その一言を聞いて、空蝉丸は困惑しながらも黙ってサラマンディーネの言葉を聞いた。
彼女の話では。
空蝉丸たちキョウリュウジャーがデーボスを倒してから約100年後、人類は大規模な世界大戦を始め、膠着状態を続けながら滅亡の一途をたどっていたそうだ。
そんな中、開発された絶対兵器が登場。
戦争はその絶対兵器によって終結すると思われた。
しかし、その兵器の余りに強大な威力に地球環境は破綻。
ドラゴニウムという強力な物質によって地球が汚染され、人類が住むことの出来ない死の星になってしまったそうだ。
だが、人類は滅ぶことを辛うじて免れた。
その方法には二つあり、一つは汚染された地球に見切りをつけ新天地を探し宇宙を出た者達。
そして、もう一つは汚染された地球に適応できるように遺伝子を操作し生態系ごと変え、汚染させてしまった地球の贖罪に生きる者達。
サラマンディーネ達はその後者だそうだ。
そして、男は先ほど見た大型ドラゴンとなって、汚染物質を食べ、地球の再生を担い、
女は人間の姿でも生きられる小型のドラゴンとなって、男と共に地球の浄化を手伝い、時が来れば子を宿す役割を担っているそうだ。
それから約500年。彼らは地球の再生のために尽くしていた。
「・・・600年後の地球、でござるか」
サラマンディーネの言葉に空蝉丸はしみじみと一言呟いた。
しかし、サラマンディーネは意外そうに目を丸くした。
「驚かれないのですか?」
「いや、十分驚いているでござるよ」
なれど、
「拙者、600年の時を越える体験をするのは初めてではござらんので・・・」
そう言うと、彼女は何処か納得したように、
「なるほど。そういえば、伝承でもそういう風に書かれていましたね」
「伝承?書物として残っているのでござるか?」
自分達の戦いがそういう形で残っていることに驚く空蝉丸。
歴史に名を残すことなど期待してなどいなかった。
精々、人々の記憶には残って欲しいとは思っていたが、それだけで済むほど小さな事象ではなかったのだった。
「はい。数日前、貴方はこの都近くに発生した異常な重力場によって出来たゲートから放り出されるようにして、こちらの世界に現れたのです」
その際、彼女の一族は突然現れた空蝉丸に得体の知れないものを感じ捕らえようとした。
幾ら、彼が気を失っていたとしても、人間の男を彼らは見たことがないため、その反応は妥当なものだろう。
しかし、その行動をサラマンディーネが止めたのだ。
「実は、貴方の傍にこれらの品が落ちていたのです」
と、サラマンディーネは空蝉丸の目の前に長方形の長い箱を前に出して見せた。
「それは・・・」
箱の中に入っていたのは、彼が戦いの中で使用した自らの専用の武器。
彼の相棒、獣電竜プテラゴードンを模様した篭手、『ガブリチェンジャー』と愛刀の『ザンダーサンダー』、更に六本の乾電池に良く似た獣電池だった。
「私は、以前調べた伝承でこれらに良く似た物を見た覚えがありました。そして、『強き竜の者』と呼ばれた十人中の一人が戦いの中、痕跡も残らず姿を消したことを知っていたので、それが貴方の事ではないのか、と推測したのです」
「そうだったのでござるか・・・」
サラマンディーネの推理を聞きながら、空蝉丸は箱の中からザンダーサンダー、ガブリチェンジャーを取り出し調べる。
幸いなことに、何処も破損してはいないみたいだが、
(やはり、獣電池は尽きている・・・)
キョウリュウスピリットが入ったチャージアイテム。
使用後はそれが尽きてしまうので仕方のないことだが、充電しなければもう一度使うことは出来ない。
だが、今は現状を把握することが第一であった。
「それで、拙者は何ゆえ600年後の世界に来てしまったのでござろうか?」
「・・・・・」
空蝉丸の問いにサラマンディーネは黙り込んだ。
それもとても言いにくそうな表情をして、
「・・・それは、私達にも分かりません。貴方が現れた重力場に似た現象はありますが、それを説明することが出来ないのです。更に言えば、貴方が元の時代に帰る事も・・・・」
「分からないので、ござるな」
一番言いにくかった部分だろう。
サラマンディーネは目を伏せて空蝉丸の言葉に頷いた。
それに空蝉丸もこれからどうしていいのか分からず愕然となるしかないのだった。
「・・・一先ず、今日はここまでにいたしましょう」
話し込んでいたのか、気が付けば、外の日は落ちかけ、夕焼けが空を赤く染めていた。
「その前に、もう一つお尋ねしたい。『獣電竜』達がどうなったか、知らないでござろうか?」
「・・・『獣電竜』。貴方方と共に戦った機械の体を持った竜達ですね。残念ですが、私達は彼らの姿を確認しておりません」
「・・・左様でござるか」
「食事を用意させています。まずはケガを治すことに専念して、ゆっくりと休んでください」
「そう、でござるな。心苦しいが、お世話になります」
そう言って、頭を下げる空蝉丸に、サラマンディーネは微笑んだ。
しかし、その瞳はやはり何処か悲しげなのだった。
それから空蝉丸はサラマンディーネ達と夕食を共にした。
見事な懐石料理だったが、和気藹々と食事の出来る雰囲気ではなかった。
折角の料理だったが、空蝉丸にはそれを味わう余裕も無かったのだ。
更に申し訳ないことだったが、この間誰も何も話すことは無かった。
その後、空蝉丸は一人用意された部屋で床に伏していた。
しかし、目を閉じても中々寝付けなかった。
その理由は分かっていた。
不安なのだ。
戦いは終わった。それは良いことだ。
しかし、目標が、向かう先がない・・・
帰る場所も・・・
共に戦った仲間も・・・
この瞳には何も見えない。
ただただ漠然と広がる世界のみ。
自分は何を成せば良いのか、何のためにこの場にいるのか分からない。
本当に手探りで生きていかねばならない。
以前の時は、成さねばならない使命も、共に戦う仲間もいた。
しかし、それも今は・・・・
『何、悩んでるんだ。ウッチー』
その時、不意に脳裏に声が浮かんだ。
自分が信頼をする仲間の声が。
『悩んでないで、真っ直ぐ突き進もうぜ。ブレイブに、な』
恐らく、彼がいればそんな言葉を口にするだろう。
そう考えると、自然と空蝉丸は口元が緩んだ。
―――そうだ。
焦ることはござらん。
ゆっくりと自分の進む道を探ればよいのだと・・・
今回はここまでになります。
原作からの引用ばかりの投稿になり、本当に申し訳ありません。
次回からは少しはオリジナルな話がかけたら良いと思っています。
特に、子供は好きだが、女性が苦手な空蝉丸が、人型は女性だけの世界でどうなってしまうのかを書けたら良いな、と思っています。
次回も、読んでもらえれば幸いです。