クロスゴールド 雷鳴が奏でる輪舞   作:愛剣

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大変遅くなって申し訳ありません。

ですが、漸く更新が出来ました。

ただ、余りに長くなったので二部編成にさせていただきます。


第十九話

ミスルギ皇国皇宮内にある書斎。

一年の内に二度も主を亡くした部屋を我が物顔でエンブリヲは使っていた。

 

「全く、我妻の強情にも困ったものだ」

 

言いながら、憂いの表情を全く浮かべずエンブリヲはティーカップの紅茶を口へと運ぶ。

言葉とは裏腹に、あられもない姿を晒しながら無駄な抵抗するアンジュ反応を見るのは楽しくて仕方ないのだ。

特にアンジュの様に簡単には堕ちないであろう女を、いたぶるように可愛がり、思い通りの人形のように仕上げることこそが、エンブリヲにとってこれ以上ない娯楽だった。

 

「目障りなものだ」

 

アンジュを抵抗させる心の支え、根源となる者の存在。

部屋から出る時にアンジュが呟いた男の名前がそうだろう。

 

「まぁ、別に構わない。いずれ身も心も私の者になるのだ。下賤な者のことなどすぐにすぐに忘れるはずだ」

 

そう優越感に浸りながら、紅茶をもう一口運ぼうとしたとき、書斎の扉がノックされた。

 

「失礼します」

 

と、深刻な表情で部屋へと入ってくるサリア。

サリアの姿を確認したエンブリヲは紅茶のカップを下して問いかける。

 

「どうかしたのかい、サリア?」

 

「アンジュの事でお話があります」

 

そう言って、サリアはエンブリヲが座っている書斎の机まで歩み寄り、

 

「何故、アンジュにあのような事を仰られたのですか?」

 

「なんのことだい?」

 

硬い声で詰問するサリアだが、エンブリヲには何の事を言っているのか理解できていない。

しかし、サリアにはエンブリヲの態度が惚けているように見え、

 

「どうして、アンジュを妻にしようと思われるのですか!!?」

 

「ああ、そのことか。何か問題でもあるかい?」

 

物凄い剣幕で詰め寄るが、エンブリヲは涼しい顔で受け流す。

当然、サリアは苛立ちを隠せない様子で言葉を捲し立てる結果となる。

 

「アンジュがエンブリヲ様の求婚を受け入れるはずがありません!!それどころか――――!!」

 

「ありがとう、サリア」

 

感情のままに言葉を吐き出すサリアだが、エンブリヲは目の前の彼女に微笑みを向けながら感謝の言葉を口にする。

まさか返ってくる言葉が感謝だとは思ってもいなかったサリアは言葉が途切れる。

 

「私の事を心配して言ってくれているのだろ?私を想っての言葉なのだろ」

 

「あっ、はい・・・」

 

バツの悪そうに視線を逸らせるサリア。

サリアがこんな事を言うのは、エンブリヲのためだけではない。

アンジュに対する嫉妬も含まれていた。

 

「だが、それは無用な事だ。今は反抗的かもしれないが、じっくりと私と話をすれば変わるはずさ」

 

そんなエンブリヲの言葉でさえ納得できていないサリア。

 

「どうして、そこまでしてアンジュを・・・・」

 

「それは必要だからさ。世界を新しく作り替えるにはラグナメイル、ヴィルキスが必要不可欠だ。それを扱うことが出来るのはアンジュだけだ」

 

「だったら、何もエンブリヲ様が求婚を申し込む必要は・・・」

 

「それにアンジュはとても魅力的な女性だ。私が今までに出会ったことのないタイプだ」

 

その一言にサリアの表情が険しい物になるが、

 

「もちろん、君も素晴らしい女性だよ、サリア」

 

サリアの頬に手を当てながらエンブリヲは微笑みを浮かべる。

手から感じる温もりと笑みを向けられてサリアは頬を赤く染める。

だが、

 

「だったら、私でも良いじゃないですか!!?」

 

惚れた弱みだけでは決して納得できるものではなかった。

むしろ、自分の方が妻として相応しいと訴える。

だが、エンブリヲは微笑みを崩さないまま、

 

「それは違うよ、サリア」

 

まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 

「アンジュを妻に向けるのは、彼女が私にとってどれだけ重要な役割を持っているのか理解させる意味もある。だが、君はそこまでしなくても、私の気持ちを汲んでくれるはずだろ?」

 

「それは・・・」

 

「そうだろ、サリア?」

 

「・・・っ、はい・・・」

 

有無を言わさぬ勢いで迫られ、不承不承に折れてしまうサリア。

しかし、エンブリヲは満足した表情で頷いて見せる。

 

「いい子だ。じゃあ、持ち場に戻り給え。私はアンジュの説得以外にもやることがあるのだから」

 

「・・・わかりました」

 

不本意に思いながら書斎を出ていくサリア。

彼女の様子を微笑みながら見送ったエンブリヲだが、書斎の扉が閉まると、

 

「やれやれ・・・彼女にも困ったものだ」

 

辟易とした態度でため息を吐くエンブリヲ。

アンジュ程では無いにしても、サリアもそこそこ楽しめると思っていたエンブリヲ。

あくまでも、アレクトラの代わりにはなっていた。

だが、アンジュに対する劣等感には少し辟易していた。

 

「私が愛を与えているのだから、一体何が不満なのだか」

 

本当に分かっていない態度のエンブリヲ。

今、自分がしている事は、サリアが怒りを感じているアレクトラと同じことをしている事に気づいていない。

更に言えば、アレクトラと違い、それがサリアを傷つけている事にすらも気づいていないのだから始末に悪い。

しかも、エンブリヲはサリアの事を考えたのは、その一瞬だけだった。

椅子に腰かけなおし、飲みかけだった紅茶に口をつけるエンブリヲ。

 

「しかし、どうしたものか・・・」

 

その瞳にはサリアの事など移ってなどいなかった。

先ほど自分が言った通り、エンブリヲにはアンジュを説得する以外に考える事があった。

自分の最終目的を達成させるには、マナが、ドラゴニウムが足りなかった。

計画では、前回の作戦で大量のドラゴンを呼び出して一気に接収するつもりだったのだが、どういう訳か企みは頓挫してしまった。

その結果、下等な存在に嘲られてしまった。

 

「一体、何故だ・・・」

 

情報が漏れた事は明白だ。

だが、何故、何処から漏れたのか分からない。

 

「考えられるとすれば、アルゼナルから連れ出したサリア達の中の誰かだが・・・」

 

しかし、サリア達が向こう側の世界と通じているとは考えにくい。

リザーディアの様なスパイの可能性は捨てきれないが。

 

「それに・・・」

 

掌を宙に翳しマナを発動してモニターを出現させる。

そこに映し出される機械の翼竜。

 

「これが何なのか・・・しっかり説得をしてアンジュに聞かなければな・・・」

 

不敵な笑みを浮かべながら、今後のアンジュの説得に思いをはせるエンブリヲ。

 

「さて、問題はエネルギーの方だが・・・・まぁ、問題ない」

 

残った問題の解決策は、エンブリヲの中にはなかった。

だが、何故か、打開することが出来ると暗示の様に彼の中に芽生え、その瞳は怪しく輝いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ミスルギ皇国の地下にある石造りの区画。

今は使われることのない地下牢に侍女服を身に着けたままのモモカの姿があった。

アンジュがエンブリヲに連れて行かれた後、モモカはすぐに行動を開始した。

部屋に鍵が掛けられてすらいなかった上に、宮殿内は人があまりいなかったので特に障害にぶつかることなくここまで来られた。

そして、モモカがこの区間へ続く石階段を下りた時、牢の一角から鞭が肉を打つような乾いた音と罵倒する声が聞こえてきた。

 

「このっ、役立たず!!」

 

「うぐっ!?」

 

布のようなもので口を塞がれたようなくぐもった悲鳴の方へモモカはゆっくりと近寄ると、物陰に隠れながら中の様子をうかがった。

牢の中には二つの人影があった。

一つは車いすに座っている幼い少女、アンジュの妹、シルヴィアが鞭を振るっている。

彼女の振るう鞭に打たれているもう一つの影、女性も見覚えがあった。

いや、忘れるはずがない。

アンジュの兄、ジュリオと共に、自分の主アンジュを嵌めたリィザだった。

最もアンジュから聞いた話ではリィザの本当の名前はリザーディアと言い、ある目的からスパイとして送り込まれたそうだが。

そして、目の前の状況から考えて、正体の知られたリザーディアは捕まり、シルヴィアの玩具にされているようだ。

 

アンジュに対して酷いことをした彼女だが、いい気味だとは思うことが出来なかった。

両手を鎖で天井に繋がれ、両足首にも鎖で鉄球に繋がれていた。

口にマスクのような拘束以外、衣服を全てひん剥かれてほとんど裸にされ、その体は鞭に打たれ続けたため傷だらけだった。

その上、水すら碌に与えられていないらしく衰弱しきっていた。

 

「奴隷の分際で!身の程を弁えない態度ばかり!!そこで反省していなさい!!!」

 

それでも苛立ちをぶつけ足りない様子でシルヴィアはリィザ―ディアを罵りながら牢から出て行った。

だが、限界を超えたリザーディアは気絶してしまった。

 

モモカは牢の中に入ると、マナでリザーディアの拘束を外すと、彼女の口元に水を運んだ。

 

「・・・どうして?」

 

水を飲み干したリザーディアは疲れ切った目でモモカを見ながら問いかけた。

アンジュの事を慕っていた事を知っているだけにモモカが自分の事を助ける理由が分からなかった。

 

「ジュリオ様と一緒にアンジュリーゼ様を貶めた事を許すことはできません」

 

そう厳しい表情で言うモモカ。

だが、

 

「だから、アンジュリーゼ様に謝ってください。それまでは死んではなりません」

 

死ぬ方がもっと許しません、と強く言うモモカ。

 

「それにアンジュリーゼ様も・・・」

 

 

地下牢にモモカが来たのはアンジュからの頼みが原因だった。

 

 

アンジュがエンブリヲと共に出ていく直前、モモカは彼女から密命を受けていた。

 

「もし、部屋から抜け出すことが出来たら、リィザを探してほしいの」

 

「リィザさんを・・・ですか?」

 

「ええ。彼女の本当の名前はリザーディアっていうんだけど。サラ子の仲間で、今はたぶん捕まっているはずなの」

 

「・・・それで、私は何をすれば・・・」

 

「リィザを見つけたら助けてあげてほしいの」

 

「え・・・!?」

 

アンジュの言葉に驚くモモカ。

ノーマという烙印を押されから、アンジュの性格は苛烈なものになっていた。

その彼女が自分を貶めた人間を助けるのは意外に感じたからだ。

 

「もちろん、まだ許してはいないわ。だけど、ここから逃げるには、ゴザル丸と関係のあるスパイに手引きしてもらうしかないの。それにはリザーディアに協力してらわないと・・・・」

 

と、アンジュに言い聞かされるように説明を受けるモモカ。

 

「でも、アンジュリーゼ様。折角、元の家に帰ってくることが出来たのですよ。エンブリヲ様という方が、どういう方かはわかりませんが、その方ならばアンジュリーゼ様を元の生活に戻すことが出来るのでは?」

 

「はぁっ!!?何言っているのよ、アンタ!?」

 

モモカにとっては当然の事を言ったつもりなのだが、アンジュは露骨に嫌な顔をした。

そして、顔を少し俯かせて、

 

「今更、戻れるわけないじゃない・・・」

 

「アンジュリーゼ様?」

 

「もう、あの頃みたいに何も知らないお姫様には戻れないわ。世界の事とか、ヒルダ達ノーマの事、サラ子達ドラゴンの事、色々知ってしまったことを忘れて、あの頃の生活には戻れない。ここは、もう私が戻る場所じゃないわ」

 

「アンジュリーゼ様・・・・」

 

「だから、自分の居場所は自分で作る。誰かに与えられるなんて真っ平よっ」

 

「わかりました。任せてください」

 

アンジュの決意のある瞳と言葉にモモカも覚悟を決めた。

自分の主の歩む道を支え続けることを。

 

 

 

そして、モモカはリザーディアの元に来たのだった。

 

 

 

 

 

「・・・そうか。彼女が、そんなことを・・・」

 

「はい!!」

 

リザーディアに誇らしげに頷くモモカ。

余りにすがすがしい彼女の態度にリザーディアも微笑みながら、

 

「分かった。彼らには私から伝えておく」

 

「お願いします!!」

 

「それから、皇宮西側の地下、皇族専用シェルター。彼女はそこにいるはずだ」

 

思わぬ情報にモモカは驚くが、アンジュの居場所を教えてもらい笑顔がこぼれた。

そして、リザーディアを休むことが出来る場所に運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

リザーディアの言った予想は正しかった。

シェルターの中には疲れ果てたアンジュが床に倒れ伏していた。

まさに、精も根も尽きた状態にみえた。

 

「無様ね、アンジュ」

 

倒れこんだアンジュの姿を後から入ってきたサリアが見下していた。

 

「・・・悪か、たわね・・・」

 

疲れ切っているにも関わらず身体を起こしてサリアを睨む。

対して、サリアも険しい表情で睨み返した。

 

「エンブリヲ様に逆らうから、そんな目に合うのよ」

 

「・・・それって、あのゲスな男の求婚に素直に応じろってことかしら?」

 

「・・・・・・・」

 

立つことも儘ならないにも関わらず挑発的に笑アンジュに、サリアは黙り込んでしまった。

 

「なんか、似たような状況よね。司令の時と」

 

何故、自分に集って来るのか分からないが、

嘲るようにアンジュが減らず口を叩くと、弾かれたようにサリアが飛び掛かって首に両手をかけた。

 

「あ、がぁ・・・っ!?」

 

疲労困憊のアンジュには抵抗することもできず、為す術もなくサリアに締め上げられる。

 

「・・・どうしてよ」

 

「え・・・?」

 

だが、不意に自分の首に添えられた手の力が緩んだ。

 

「どうして貴女ばかりなの・・・。貴女は何でも持ってるじゃない。ヴィルキスも、仲間も、自分の居場所まで・・・

でも、私に残っているのはエンブリヲ様だけ。あの方まで取らないでよ!!」

 

「サリア・・・」

 

瞳に涙をため込み、悲哀を滲ませる表情のサリア。

哀れに思えたアンジュは一瞬だけ呆然としてしまう。

だが、

 

「ふざけるな!!」

 

すぐに我に返ったようにサリアを睨みながら腹を蹴り押す。

 

「きゃっ!?」

 

抵抗を予想していなかったサリアは後ろへ尻餅を付くように飛ばされた。

悲鳴を上げて怯んでいる隙にアンジュはサリアから離れると、

 

「あんなゲスな男なんて頼まれても欲しいとは思わないわ。出来るなら、リボンで飾り付けて送り返してあげたいぐらいよ」

 

呼吸を整えながら悪態をつくアンジュ。

そんな彼女にサリアは悔し気に睨みながら、しかし何処か安堵したように、

 

「だったら、出て行きなさい」

 

「え・・・?」

 

目を伏せ立ち上がり、アンジュに背を向けるサリア。

 

「エンブリヲ様が戻ってくれば、もっと酷い目に合うわよ。このままだと心を壊されるかもしれないわ」

 

「っ!?・・・どうして助けるの?」

 

サリアの脅しの言葉に、アンジュはその光景を想像したのだろう恐怖で身体を震わせる。

だが、サリアの意外な行動に愕然としていた。

 

「別に貴女を助けるんじゃないわ」

 

「・・・じゃあ、どうしてよ?」

 

怪訝な顔で問いかけるアンジュ。

 

「あの方に無駄な事をさせたくなかったのよ」

 

「は?」

 

「どんなに攻められて無様を晒しても貴女は絶対に折れない。そんなに簡単に折れられたら、アレクトラにもできた。・・・簡単に従順になるようなら私も諦めがついたけど」

 

最後の呟きにアンジュは目を丸くする。

 

「貴女には無様な姿を晒してほしくないの。・・・じゃないと、貴女に負けた私がもっと無様じゃない・・・」

 

そう言って、サリアはシェルターを出て行こうとした。

だが、

 

「ありがとう、サリア」

 

「え?」

 

耳に届いたアンジュの声が近いことに気が付いた時にはもう遅かった。

アンジュの手がサリアの首に回されていた。

 

「これはせめてものお礼よ・・・」

 

「は、ぐっ・・・」

 

回した手を自分の方へ思いっきり引っ張り、チョークスリーパーの様に締め上げるアンジュ。

サリアは立つのも儘ならないと思っていたため無防備に背中を向けていたため、もがくことしか出来ない。

 

「・・・逃がしたよりも、逃げられた方が罪は軽いでしょ?」

 

「余計な・・・お世話、よ・・・この、怪力、ゴリラ!?」

 

「うるさい、貧乳隊長」

 

アンジュが悪態を返すと、そこでサリアは力尽き意識を失う。

絞め堕とした事を確認して、少し雑に床へ放してからアンジュは一息つく。

 

「アンジュリーゼ様!!」

 

「モモカ・・・」

 

アンジュが息を整えていると侍女のモモカが駆け寄ってきた。

 

「・・・リィザは?」

 

「見つけました。アンジュリーゼ様の言葉もちゃんと伝えました」

 

「・・・ありがとう」

 

モモカの報告に満足げに笑うと、

 

「逃げるわよ、モモカ」

 

「はい!!」

 

アンジュの言葉にモモカも笑顔で答えた。

 

 

 

二人が逃げた事にエンブリヲが気付くのは、暫く経ち説得にもう一度やってきた時、服を奪われたサリアを発見した時だった。

その時、エンブリヲが酷く怒り、醜い憤怒の表情を浮かべていた事は言うまでもない。

 

 

 

 

 

アンジュが服を奪って逃げたのはギリギリであった。

アンジュとモモカが合流したのはエンブリヲが到着する僅か差であった。

更に、見つからないように隠し通路を移動したが、疲労困憊のアンジュはモモカに肩を借りて漸く歩ける状態のため、漸く皇宮を出たところだった。

ゆえに、すでに追跡命令を出ていたため、

 

『どこに行くの、アンジュちゃん?』

 

「エルシャ!?」

 

庭を横切っていた所を戦闘機形態のラグナメイルに乗るエルシャに発見されてしまった。

 

『エンブリヲさんが探しているわ、戻るのよ』

 

「くっ」

 

子供に言い聞かせるように言うエルシャだが、アンジュにとっては最悪だ。

もう一度エンブリヲの前に突き出されたらどんな目にあわされるか分かったものではない。

それを考えれば寒気すら感じる。

 

「アンジュリーゼ様、走れますか?」

 

「ええ!行くわよ」

 

自分の不安を感じて問いかけるモモカの言葉に頷き自らを奮い立たせると、彼女も頷き返して共に走り出す。

 

『あらあら、困った物ね。クリスちゃん!!』

 

『わかってる!!』

 

逃げ出すアンジュを見て、困った表情をしてエルシャはクリスと合流して二人を追いかける。

強がり以前に、万全でも走って戦闘機から逃れることが出来ないのは明らかだ。

そのことを分かっていながらも諦めず必死に走っていると、

 

―――ピィイ!!

 

アンジュの危険を察知したように嵌めていた指輪が蒼い光を放った。

そして、その光に導かれるようにアンジュの目の前に天使のような形の光が現れた。

 

「ヴィルキス!?」

 

まるで助けに来たかのように現れたヴィルキスは独りでに人型形態から戦闘機形態へ変形を遂げる。

 

「モモカ、乗って!!」

 

「はい!!」

 

助けに来てくれた愛機の姿に歓喜しながらアンジュは飛び乗ると、モモカに手を差し伸べる。

そして、アンジュはヴィルキスを操り逃げ始めるアンジュ。

 

『追うわよ、クリスちゃん!!』

 

『わかってる!逃がさないよ、アンジュ!!』

 

突然現れたヴィルキスの姿に驚いたが、すぐに追跡を再開する二人。

標準を付けて攻撃を開始する二人。

エンブリヲの計画にヴィルキスが必要なのは知っているが、多少の破損は許してもらえるだろうと二人は考えた。

 

「アンジュリーゼ様!!」

 

「しっかり掴まって、モモカ!!」

 

だが、大破させる訳にはいかないという考えから、狙いが甘くなった攻撃でアンジュを落とすのは容易ではなかった。

幾発も撃たれる攻撃を回避するアンジュ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

しかし、アドレナリンで疲労感をだましているが、限界に近いことに変わりはないのだ。

いつまでも二人の攻撃を避け続けられるものではない。

 

『逃げても無駄よ、アンジュちゃん!!』

 

『いい加減に諦めな!!』

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

「くっ・・・」

 

二機の猛攻の中、モモカの悲鳴を聞きながらアンジュは必死に逃げていた。

 

『エルシャちゃん、クリスちゃん!』

 

だが、エルシャとクリスの更に後ろから別のラグナメイル二機が姿を合流していた。

それを見てアンジュの表情が強張る。

 

『何かが高速でこちらに向かっているわぁ!?』

 

『『えっ!?』』

 

だが、新手の二機はアンジュの捕縛が目的ではなかった。

 

その事に気が付いた時、三機のレーダーが巨大な影をとらえた。

 

同時に、巨大な影が高速で三機の方へ飛んで来た。

 

『なっ!?』

 

『うそっ!?』

 

「あ、アンジュリーゼ様!!?」

 

その姿を目視してクリスとエルシャから驚愕の声が漏れる。

アンジュの後ろにしがみ付いているモモカも悲鳴を上げるが、アンジュの表情は明るかった。

 

『無事ですか、アンジュ?』

 

ヴィルキスの通信機から涼やかな声音が流れる。

 

「サラ子!?」

 

「サラマンディーネさん!?」

 

サラマンディーネの声を聴き、今度はモモカも表情を明るくした。

 

『くそっ!?』

 

その隙にクリスがせめてヴィルキスだけを堕とそうとするが、

 

『させるかよっ、クリス!!』

 

『っ!?』

 

自分に向けられて来た声と光線にクリスは機体を傾け回避し、攻撃した声の主を睨みつけた。

 

『ヒルダっ!?』

 

自分たちの前に立ちはだかった巨大な影。

以前海戦で姿を現した巨大な機械の翼竜、その背中に乗っている四機の中にある赤い機体。

先ほど自分を撃ったビームライフルの銃口から煙を漏らしているヒルダの期待をクリスは憎悪の視線で睨んだ。

 

 

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