前回までの話は、エンブリヲの手からアンジュを救い出したタスク達。
だが、アンジュを失った失態をサリア達に辛く当たるエンブリヲ。
それによってエンブリヲの本性に気が付いてしまったエルシャ。
さらに、子供たちを失い失意から彼女は自暴自棄となり自殺する様に以前の仲間の元に赴き殺されようとした。
そんな彼女をサラマンディーネがとらえるのだった。
その頃、空蝉丸は・・・・
アウローラの周囲にある無数の無人島の一つ。
うっそうと茂る木々の中で二つの影が交差していた。
一つはゴールド、もう一つはネイビーカラー。
キョウリュウチェンジした空蝉丸とタスクが刃を交え模擬戦を行っていた。
「はぁああああ!!」
「ふっ」
ネイビーが振り下ろすガブカリバ―を、ゴールドはザンダーサンダーで受け止める。
「うぉおおおおおおおお!!」
「はっ!!」
受け止められてもなお、ネイビーは押し切ろうとする。
だが、刃を合わせたまま鍔迫り合いをする中で、ゴールドはネイビーの腹部を蹴り後ろへ後退させる。
蹴り飛ばされたネイビーは受け身を取るが勢いを殺すことが出来ず、地面を転がり手からガブカリバーを離してしまった。
「くっ・・・」
すぐに自分の位置と剣、ゴールドとの距離を見て考える。
剣はすぐそこにあるが手を伸ばして届く距離ではない、正面のゴールドは雷のような勢いでこちらに駆けてきている。拾いに動いてもゴールドの刃が先にこちらに届くかもしれない。
「だったら!!」
ネイビーは腰に吊るしてあるガブリボルバーを引き抜き、ゴールドに向かって引き金を引いた。
「無駄だ!」
「くそっ」
放たれた弾丸を弾きながらゴールドは肉薄し迫ってくる。
袈裟斬りに振るわれる刃。
それをネイビーは回避してもう一度ガブリボルバーを向けようとするが、ゴールドに足を引っ掛けられ転ばされてしまう
「のわっ」
素っ頓狂な声を上げて尻餅を付くネイビーへ刃を振り下ろすゴールド。
迫る刃にネイビーは転がるように避け、体勢を立て直して立ち上がると更に距離を取るために後ろに飛びのいた。
「ブレイブイン!!」
着地を同時にネイビーは獣電池をガブリボルバーに装填する。
<GABURINCHO!! TOBASPINO!!>
「アームド・オン!!」
ガブリボルバーのシリンダーを右腕に当て回す。
次の瞬間、スーツに鱗の様な鋼が纏わりつき、右腕にブーメランが装備される。
「スピノブーメラン!!」
手に握ったと共にブーメランをゴールドに向かって放つ。
放たれたブーメランはエネルギーを纏い、ネイビーの意思のままに回転し飛ぶ。
「雷電砲!!」
だが、ゴールドは向かってくるブーメランを手甲で撃った。
エネルギーを纏ったブーメランと雷のエネルギーがぶつかり合い爆発を起こす。
「ぬあっ!?」
爆心地から近かったためにネイビーが吹き飛ばされる。
「くっ・・・っ!?」
地面を転がり、体勢を立て直そうと立ち上がるために顔を上げたとき、剣先が正面に突きつけられていた。
そのままお互いは身動き一つせず向かい合った。
フルフェイルで頭を覆っているがお互いに視線を交差させているようだ。
そして、徐にネイビーが首をガクリと落とす。
「・・・・参りました」
模擬戦の後、林の中で変身を解いたタスクが地面にヘタレこんでいた。
空蝉丸との模擬戦での疲労もあるが、それ以上に勝てなかったことが悔しかった。
「大丈夫、タスク」
「アンジュ・・・」
地べたにしゃがみ込んでいるとアンジュが隣に来て座り込んだ。
「負けるなんて少しだらしないんじゃない?」
「ははは・・・面目ない・・・」
口を尖らせるアンジュの言葉にタスクは苦笑を浮かべる。
だが、明らかに落ち込んでいるので、アンジュは申し訳なさそうに目を伏せる。
「ごめん、こういう時、慰めないといけないのに、私・・・」
「いや、俺の方こそ情けない姿を見せちゃって、ごめん・・・」
「気にしなくで良いわ。・・・もう一回やれば勝てるんじゃない?」
「それは・・・」
駄目かもしれない、そう答えそうになった口を慌ててつぐむ。
ヴィルキスの騎士として鍛錬を怠った事は無い。それがアンジュを守ると決意した時は更に鍛錬を行った。
だが、まだキョウリュウジャーの力に使い慣れていないのと、経験の差で空蝉丸に勝つことが出来なかった。
だが、アンジュには気に入らない事らしく、不機嫌そうな目を向けた。
「随分と弱気じゃない。私の騎士なのに・・・」
「あっ、アンジュ・・・」
吐き捨てる様に言って立ち去るアンジュ。
その後ろ姿にタスクは手御伸ばそうとするが、その手はアンジュではなく空を掴むだけだった。
嫌われたかもしれない、とタスクは更に落ち込むのだった。
それからアンジュは海岸の方へと歩いて行った。
(いた・・・)
林を抜けてすぐの所で空蝉丸を発見することが出来た。
海岸で座り込んでいる彼は何やら手に持っている物を眺めていた。
それを目視したアンジュはゆっくりと歩み寄った。
忍び寄っているつもりはないのだろうが、無言でこちらに向かってくるアンジュの事を空蝉丸は気が付いていた。
しかし、彼女がこちらに攻撃してくる気配もないので気にしないでいた。
代わりに、空蝉丸は自分の手の中にある獣電池を眺める。
(・・・残り一回)
仲間たちの獣電池からエネルギーを分けてもらったが、それでも限界がある。
先ほどの模擬戦と、これまでの戦いでエネルギーを消費してしまった。
チェンジすることが出来るのは次で最後になる。
「こんな所で何をしてるのよ」
近くまで来たアンジュが問いかける。
何処か不機嫌そうな表情をするアンジュに、空蝉丸は不思議そうに逆に問いかけた。
「アンジュ殿こそ如何かなされましたか?」
「別に・・・」
問いかける空蝉丸に対して、アンジュは不機嫌そうにそっぽを向く。
もっとも、気になっていることがあっても彼女が素直に問いかけないので、空蝉丸は暫く何も言わないで待っている。
すると、思った通りアンジュの方から言葉が掛けられた。
「タスクはどんな感じなの?」
「はい?」
「だから、あなたから見てタスクはどうなの?」
不機嫌な表情のままだが、そこには確かにタスクのことが心配なことが伺えた。
その様子に空蝉丸が微笑みを浮かべると、アンジュは更に不機嫌そうに睨んできた。
「うむ、そうでござるな・・・」
これ以上は臍を曲げる、と思った空蝉丸は思案してから言葉を紡いだ。
「実力は中々のものでござる。変身をするようになって間もない事を踏まえてもかなりのものでござる。それこそ拙者の仲間達と遜色ないほどでござる」
「・・・本当よね?」
そう高評価を付けた空蝉丸だが、アンジュは何処か納得のいかない表情をする。
「何故、そのような事を言われるので?」
「だって、負けたじゃない」
拗ねた子供の様に言うアンジュ。
だが、彼女の表情には怒りではなく、不安そうにしていた。
「ねぇ、もう一度タスクと戦って鍛えて頂戴」
「アンジュ殿?」
「私の騎士が弱いのは許せないのよ」
「タスク殿は決して弱くないと思いますが」
「駄目よ!!」
急にアンジュが声を荒げる。
彼女の態度は明らかに焦っているように見える。
「・・・何をそんなに焦って居られるのですか?」
「別に、焦ってなんか・・・」
「・・・・・」
バツの悪そうに顔を背けるアンジュを空蝉丸が黙って見据える。
その視線に観念した様にアンジュは弱弱しく言葉を紡いだ。
「強くあってほしいのよ、タスクには」
エンブリヲに捕まっていた時、本当に怖かった。
自分が自分なくなってしまうのではないか、そんな恐ろしい目にあった。
だから、タスクに強くなって守ってほしい。
「・・・うんん、そうじゃない。私を守ってほしいんじゃない。タスクには死んでほしくないの」
エンブリヲはアンジュのその物が欲しいんだ。
だが、他の者の、特にエンブリヲにとって必要でない人間を殺そうとするはずだ。
アンジュにとって大切な者、彼女を守ろうとするタスクは必ず殺そうとするはずだ。
「だから、タスクには強くなってほしいの。死んでほしくないから・・・」
「そういう事でござったか」
アンジュの気持ちを知り納得したように頷く空蝉丸。
しかし、
「そのような理由ならば協力したいのは山々なのでござるが」
「如何したのよ?」
「実は・・・」
空蝉丸はアンジュに自分が変身できるのが後一回だけだと教えた。
「じゃあ、後一回だけしか戦う事が出来ないって事!?」
「お恥ずかしながらその通りでござる」
言葉とは裏腹に決して後悔した様子の無い空蝉丸。
「だが、それでも構わないでござる。この最後の一撃はサラマンディーネ殿たちとアンジュ殿たちを自由にするために使えれば十分でござるよ」
「どうしてそこまでするの?」
迷う事なく言葉を紡ぐ空蝉丸の言葉にアンジュは一瞬だけ呆気に取られてしまう。
「ん?」
アンジュには分からなかった。空蝉丸が何故そこまでしてくれる理由が。
何故死ぬかもしれないのに、自分の身を危険に晒してまで戦う事が出来るのか。
その問いに対する答えを空蝉丸はいろいろ持っている。
だが、一番の答えは、やはりアノ言葉だろう。
「戦隊だからでござる」
「え?」
「戦隊として仲間を助けたるのは当然でござる」
微笑みながら当たり前の様に言う空蝉丸。
その言葉に尚も呆然とするアンジュだが、空蝉丸はそのまま立ち上がる。
「拙者は“彼ら”の様子を見てくるでござる。アンジュ殿の問題は素直にタスク殿に言えば良いと思うでござる」
そう言って、空蝉丸はアンジュの元から立ち去るのだった。
「何が戦隊だから、よ」
空蝉丸が立ち去った後、アンジュは不貞腐れながら寝床としている洞窟の中のテントにアンジュは歩んでいた。
「あっ!アンジュリーゼ様!!」
森を出ると、洞窟の前で料理をしているモモカの姿がそこにあった。
モモカがアンジュの姿を見て子犬の様に目を輝かせるが、すぐに申し訳なさそうに、
「申し訳ありません。まだ昼食が出来上がっておりません」
そう言って、鍋の前に立つモモカ。
マナが使えなくなった時よりも落ち込んでいる彼女にアンジュは苦笑しながらも微笑みを向けて、モモカに向かって首を振って気にするなと示す。
「別に構わないわ。作る量が多いんだから仕方がないわ」
だから、気にしないで美味しいご飯を作ってとモモカに微笑みを向けて、アンジュはテントの中に入った。
それを聞いて、モモカは気分を良くして鼻歌を歌いながら料理を続ける。
気分よく歌う彼女の声をアンジュはテントの中で聞きながら、簡易ベットに腰を下ろしたアンジュ。
「・・・前に住んでいた時にも思ったけど、寂しい場所よね」
アルゼナルでは自分の部屋は殺風景な場所だったが、ここはかなり寂しい。
ここでタスクはずっと一人で暮らしていた。
「・・・一体、何を思って暮らしていたのかしら」
エンブリヲに戦いを挑んで、敗北し、仲間は全員死んだと彼は言っていた。
なのに、彼は自分を守ろうとしてくれる。
親が殺された戦いに身を投じる。
「バカみたい、私なんかのために・・・」
憂鬱な気分になる自分。
だが、それは命を懸けて自分を守ってくれるタスクに失礼だと頭ではわかっている。
それにイライラし、また憂鬱な気分になってしまう。
「ああっ、もう!!」
負の連鎖により、憤りと憂鬱がグルグル回り、最後に憤りが残ってしまいコップを思いっきり棚に向けて投げつける。
幸いコップは金属製だったので割れることはなかったが、年代物のガタがきていた棚は大きく揺れ積まれていた紙の冊子が幾つか落ちた。
「あっ・・・」
その様子を見て、しまった、と思うアンジュ。
現に物が落ちる音を聞き、外にいるモモカから、
「アンジュリーゼ様!何かありましたか!?」
まだ料理中のため声だけだったのは、幸いだった。
こんな子供の癇癪のような行動を見られたくないアンジュは、
「な、何でもないわ!!気にしないで料理を続けて頂戴!!」
「そうですか・・・?」
慌てて取り繕ったため、モモカから訝しい声が返ってきたが中には入ってこなかった。
それに安心したアンジュは安堵のため息を吐いて、誰か来ない内に片付けようと素早く落ちた冊子に近づいた。
そして、地面に落ちたそれを拾い上げようとした時、その内の一つが開かれ、紙に書かれた文字が目に入った。
「これって・・・」
アンジュは吸い込まれるように書かれている文字を読む。
明らかに手書きで綴られたそれは、
「タスクの日記?」
見つけてしまった日記を読み終え、茫然とするアンジュは気が付けば洞窟を出て再び林を歩いていた。
そして、自然とその足は真っすぐあの場所へ向かっていた。
そこは洞窟の近くにある車庫のような倉庫だ。
扉が開いているそこをゆっくりと覗き込むと、そこにはタスクの姿があった。
工具を持ってヴィルキスを調整していた。
脱出の際、湖に沈められたヴィルキスだが、指輪の力で呼び出すことができるようになったアンジュは島に潜伏してからはここに入れていたのだ。
「アンジュ、どうかした?」
「え?」
何も言わずに中を覗いていると、アンジュの気配に気が付いたタスクが振り返り問いかけた。
だが、呆然と歩いてきたアンジュは話すことなど考えていなかった。
そのため少しオドオドしながら言葉を紡ぐのだった。
「ヴィ、ヴィルキスは如何なの、動きそう?」
「ああ。幸いなことに、そんなに酷い状態じゃないからすぐに飛べるようになるよ」
「そう、良かった」
それから沈黙する二人。
アンジュもだが、タスクも何処か話しにくそうにしながら口を開いた。
「さっきはゴメン。君の言う通りだ。君を守るって言っておきながら弱気なことを・・・」
「うんん、私の方こそ御免なさい」
「えっ、どうしてアンジュが謝るの?」
アンジュからも謝罪を向けられて首を傾げるタスク。
「だって、貴方はずっと私のことを助けてくれたじゃない。私なんかのために命がけで。それなのに、私・・・貴方にずっと冷たい態度を・・・」
そう言って、俯くアンジュ。
滅多に見せない彼女の弱弱しい態度にタスクは驚く。
「えっ!?いや、俺は君の騎士だから、その、命を懸けるのは当然ということで」
「・・・・・・」
「い、いや、騎士ということだけが理由というわけでは・・・!!」
何故か、不満そうに見てくる彼女にタスクは慌てる。
自分の答えが拙かったのだろうか、考えていると、
「どうしてなの・・・?」
「え?」
「騎士だから、使命だから、私を守るんじゃないんでしょ・・・」
「それは・・・」
問いただすような厳しい口調にタスクは圧倒される。
そんな彼にアンジュは洞窟で見つけた冊子をタスクに見せるように持ち上げた。
「それ、俺の日記・・・!?」
彼女がそれを持っているという事は。
「読んだんだね・・・?」
恥づかし気にタスクが問いかけると、アンジュはしっかりと頷き、
「どうして、私なの。私なんかのために全てを犠牲にして本当に良いの?」
「構わないさ。書いていたと思うけど、君は俺の光だ。独りぼっちで気が狂いそうな俺に差し込んだ光」
「人は一人では生きていけない・・・」
「うん。その光を守ることが俺の、俺だけの使命」
迷うことなく答えたタスクだが、アンジュは全く納得していなかった。
だが、
「それに、使命だけが理由よ」
「じゃあ、どうして?」
「好きだからだよ、君の、事が、・・・うむっ!?」
アンジュの事が好きだと伝えようとしたタスクだったが、言葉の途中でアンジュがその口を自らの唇で塞いだ。
突然の彼女の行動にタスクは目を白黒させる。
だが、アンジュからすれば、そんな事を今更言われるまでもない事だった。
言葉以上の事をタスクは自分にしてくれた。
それ故に、今度は、
「あ、あのアンジュ・・・!?」
「私も、好きよ、タスク」
そう言って、タスクに寄りかかるように抱きしめるアンジュ。
強く抱きしめられるタスクは顔を真っ赤にして、如何すれば良いのか分からずにいた。
そんな彼のヘタレな性格をアンジュは触れようとはせず、
「私ね。あのゲス男に捕まっている時、凄く怖かったの。エンブリヲは私を自分の物にするために色々されたの」
「色々・・・」
「何を想像してるのよ・・・」
「えっ、いや・・・」
抱きしめたままジドッとタスクを睨むアンジュ。
その視線にタスクは慌てるが、その様子にアンジュは満足げに笑い、
「大丈夫よ。貴方が考えているような事はされていないから」
「そ、そうか。よかった」
そこで漸くタスクはアンジュを抱きしめ返した。
タスクの態度に満足したアンジュは微笑みながら言葉を続けた。
「エンブリヲが言っていたわ。世界を壊すって」
それは以前、アンジュがヒルダに提案した言葉と同じものだった。
兄と妹の策略に騙されて、民衆に罵倒されながら処刑台に立たされた時に、こんなバカげた世界なんて壊してしまいたい、と考えた。
そんなことを聞かされたタスクだが、決してアンジュを正そうとはせず、穏やかな表情で問いかけた。
「今でも、そう考えているの?」
「いいえ」
アンジュも穏やかな表情で首を横に振る。
「私、わかったの。私はこの世界が好きなの。タスクがいて、モモカがいて、ヒルダ達とサラ子達がいる世界が好きなの」
「なら、もう世界は壊さなくていいの?」
「それも違うわ。だって、もう一つ分かったことがあるんだもの」
もう一度首を横に振ると、不敵な笑みを浮かべた。
「私が壊したい、と思ったのはエンブリヲが作り上げたくらない世界。そして、私の世界を壊して、またくだらない世界を作ろうとするエンブリヲだって」
アンジュがそう言うと、タスクも同じく笑う。
「それは壊すんじゃないよ、アンジュ」
「じゃあ、何なの?」
タスクの言葉の意味を分かっているにも関わらずアンジュは笑顔で問いかけた。
「それは守るっていうんだよ」
「ええ、そうよね」
そこで二人は可笑しな言葉に笑いあう。
そして、一通り笑いあうと、
「一緒に守ろう、アンジュ。俺も一緒に戦うから」
「それは、私の騎士だから?」
「違うよ。好きだからだよ。俺も、君のいるこの世界が」
そう言って、タスクはアンジュを強く抱きしめた。
抱きしめられた事で満足したアンジュもまたタスクを更に強く抱きしめ返した。
その様子空蝉丸は離れた所で微笑みながら見守っていた。
これでアンジュの心も、タスクの問題も解決された。
模擬戦の中で空蝉丸はタスクに戦う上で足りないものを感じていた。
それが心の問題だと感じていた。
だが、それもアンジュと話すことで解決しただろう。
「タスク殿!!アンジュ殿!!」
そう思いながら空蝉丸は二人に声をかけながら駆け寄った。
空蝉丸の出現に驚いた二人は慌てて身体を離した。
「う、空蝉丸さん!?」
「ど、どうしたのよ!?」
二人して顔を真っ赤にして空蝉丸と向き合う。
その様子に空蝉丸は笑いを堪えるのに必死になった。
もしも、離れた所で見守っていたと知られれば、覗いたと思われ面倒なことになると感じたからだ。
特に、アンジュは気恥ずかしから烈火のごとく怒り狂うだろう。
だから、空蝉丸は悟られる前に素早く要件を述べることにした。
「実は、サラマンディーネ殿から連絡があり船に戻ってほしいと言われたのでござる」
「何かあったの?」
顔が赤いままだが、何事か気になり問いかけるアンジュ。
「実は、捕虜を捕らえたので、“彼ら”を連れて戻ってほしいそうです」
「え?捕虜ですか、でも如何してあの子たちを連れて行かないといけないんですか?」
空蝉丸の言葉にタスクは首を傾げた。
だが、アンジュは納得した顔をしていた。
「捕まったのが、エルシャだからでしょ?」
不敵な笑みを浮かべるアンジュ。
それに空蝉丸は笑みを浮かべながら頷くのだった。
それから空蝉丸たちは昼食を取った後大型ドラゴンの背に乗り全員でアウローラへと戻った。
流石に、大型ドラゴンまで格納庫には入らないのでハッチを開けてもらい、そこからヴィルキスの入ったコンテナともう一つのコンテナを搬入してもらい、そこから乗船した。
二つのコンテナを搬入するのに整備班長のメイを中心に慌ただしく周りが動く中、ヒルダを初めとするアルゼナルの主要メンバーとサラマンディーネ、後ろにカナメとナーガが控えて、空蝉丸たちを出迎えた。
空蝉丸はメンバーから一歩前に出て、サラマンディーネに向けて一礼した。
「サラマンディーネ殿、ただいま戻ったでござる」
「はい。お疲れさまでした、空蝉丸」
空蝉丸を笑顔で出迎えるサラマンディーネだが、何故か後ろに控えている護衛二人は摩訶不思議なものを見た表情をまたしているのだった。
その間も整備班は懸命に働いている。
ヴィルキスをコンテナから出した後、もう一つのコンテナから一騎のパラメイルを出した。
それを一緒に出迎えに来ていたジャスミンとマギーは懐かしい物を見た視線を向ける。
「これって、バネッサのアーキュラス?」
「まだ飛べたんだね」
「ああ。整備は俺がしていたから」
微笑みを浮かべる二人にタスクは何処か自慢げに胸を張った。
それから空蝉丸たちはブリーフィングルームへ通され、現状と今後についての話し合いが行われた。
「まずは、急に呼び出してしまって、すみませんでしたね」
「全くよ。もう少しゆっくり出来なかったの?」
「なっ」
サラマンディーネの言葉を皮切りに話し合いが始まるが、アンジュが茶々を入れるように口を開いた。
あまりの言葉だったので姫様への侮蔑と感じたナーガが口を開こうとしたが、サラマンディーネがそれを止めた。
謝罪を述べたがサラマンディーネも特に感情を込めていなかったので、何とも思わなかった。
だが、何も言わないのは癪なので、ささやかな意趣返しに人の悪い笑みで、
「あら、ゆっくりと何をするつもりだったのですか?」
「なっ!?」
「あうっ!?」
サラマンディーネの言葉に顔を赤くしてしまうアンジュとタスク。
その様子にサラマンディーネは面白いものを見る視線を送るが、ヒルダは不機嫌そうに二人をにらんだ。
「あの、サラマンディーネ殿、そろそろ・・・・」
「ええ、分かっております」
空蝉丸に促され、漸くサラマンディーネは会話を進めた。
「我々としても、もう少し休息を取り、念入りな計画を立てたかったのですが、そうもいかなくなりました」
「敵襲があったのよね」
「はい」
アンジュの言葉に頷くサラマンディーネ。
ラグナメイルに乗ってたった一人で襲ってきたエルシャ。
「いえ、襲撃とは違いますね」
エルシャはアウローラを沈めるつもりはなかった。
ただ自分を殺してほしくて来ただけだった。
子供たちを失い、エンブリヲに騙されたことを知ったエルシャは絶望して自殺しに来たのだった。
それを聞いたアンジュは不機嫌そうに眉を顰めた。
「何それ、バカみたい」
「全く同意見です」
アンジュの言葉に頷くサラマンディーネ。
「だから、貴女の分まで私が殴っておきましたわ」
「そうなの?ありがとう」
更に物騒な会話をする二人に周囲は苦笑を浮かべる。
だが、和気藹々な会話だけしている訳にもいかない。
「エルシャ殿がこの場に到着することができたのは、エンブリヲからある程度の場所を聞いたそうです」
「なら、見つかるのも時間の問題ね」
「ええ」
「いや、どうやら手遅れのようでござる」
アンジュの言葉でその場にいたメンバーが気を引き締めた時、背負っているザンダーサンダーを引き抜き、正眼に構えながらブリーフィングルームの扉を見た。
その足元でジャスミンの犬のバルカンが低く唸る。
突然の行動に一同が何事かと問いかけようとしていた時、扉から一人の人物が部屋に入ってきた。
『やぁ、アンジュ』
「監察官さん?」
「アンタ、動いて大丈夫なのかい?」
入ってきた人物、エマ監察官の姿を見てヴィヴィアンとマギーが首を傾げた。
だが、すぐに何か様子がおかしいことに気が付いた。
そして、真っ先にサラマンディーネが口を開いた。
「違います!!あれは・・・」
「エンブリヲ・・・っ」
エマの近くに浮かぶモニターに映し出される男の姿を見て、忌々し気に言うアンジュの言葉に周りの空気が張り詰める。
その空気を破るようにジャスミンが声を荒げた。
「エンブリヲだって!?」
「ワァン!!」
その声が合図だったかのように、愛犬バルカンがエマに向かって飛びかかった。
普段の彼女ならば反応など出来るはずがないと、アルゼナルで一緒にいたメンバーなら分かっていた。
だが、エンブリヲに操られているエマは反応することができた。
飛びかかってきたバルカンを殴り飛ばしたのだ。
「バルカン!?」
「とち狂ったか、テメェ!!」
床に転がるバルカンの姿にジャスミンが悲鳴を上げ、ヒルダは銃の引き金に指を掛けて銃口を向ける。
だが、それを空蝉丸が立ちふさがった。
「待たれよ!!」
「何で止めるんだよ!!?」
「彼女は操られているだけです」
「なに?」
激昂するヒルダにサラマンディーネが説明した。
それを聞いてヒルダは悔し気に銃口を下し、映し出されたエンブリヲの姿を睨んだ。
しかし、画面越しのエンブリヲはヒルダ達の視線など気にも留めないかのように余裕の笑みを浮かべる。
『全く困った妻だよ、君は』
「誰が妻よ、この変態男!!?」
薄ら笑いを浮かべてアンジュを見つめるエンブリヲの視線に激昂するアンジュ。
そんな彼女の態度にすらエンブリヲは苦笑を浮かべながら肩を落とす。
『やれやれ酷い言われようだ。忙しい私が態々時間を割いて顔を見に来たというのに』
まるで、別居した妻を迎えに来たダメ夫の苦言のような言葉を口にするエンブリヲ。
そんな彼の言葉を空蝉丸とサラマンディーネは鼻で笑った。
「袖にされた女にいつまでも拘るなど女々しいでござるな」
「全く無様ですわね、調律者殿」
『・・・ドラゴンの姫と戦士か』
二人の姿を確認したエンブリヲの表情が忌々しいと歪む。
その表情を満足げにアンジュとサラマンディーネは微笑んだ。
「そんな事しなくても、すぐに会いに行ってあげるわ」
「ええ、その首を貰うために」
「首を洗って待っているでござる」
サラマンディーネと共に刀を向ける空蝉丸。
更に、隣からタスクがガブリボルバーを構える。
「お前なんかにアンジュは渡さない!!」
<VAMOLA MUCHO>
引き金を引き、銃口から放たれた光がエマに浴びせた。
ダンテツから渡された獣電池。
モモカの様にエンブリヲからの支配を解き放つ事ができる力を持つ。
その効果は覿面でマナによって映し出された画面が砕け散った。
同時にそれはエマがマナを使用することができなくなったことを意味する。
「監察官さん!!」
「すぐに医務室に運ぶんだ!!」
エンブリヲからのコントロールが解放された事で崩れ落ちたエマに駆け寄るヴィヴィアンとエマ。
二人がエマを運び出す中、サラマンディーネがアンジュに話しかけた。
「エンブリヲに居場所がバレた以上ここも安全ではありませんね」
「ええ。なら、向こうが出てくる前に、こっちから打って出るしかないわね」
アンジュの言葉にサラマンディーネが頷く。
そして、真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「そこで我々アウラの民は改めて、貴女方ノーマの民と同盟を結ぶことを求めます」
「え、良いの?」
「はい。貴女が来る前に司令官のヒルダ殿に提案したのですが・・・」
「私は堅苦しいのは苦手だから。アンタがやってよ」
「はぁ!?」
と、何処かお茶らける様に言葉を紡いだヒルダ。
「だって、人の上に立つの慣れてだろ、イタ姫様」
「別に構わないけど、皆、納得してるの?」
「ああ。そこは、アタシとロザリーが説得したから大丈夫だ?」
「え、そうなの?」
意外そうな表情をするアンジュ。
ヒルダは兎も角として、ロザリーが説得してくれるとは思わなかった。
最初の会談の時はドラゴンとの共闘を一番拒絶した彼女がそんな事をしてくれるとは思わなかったのだ。
「確かに、ドラゴンと共闘するなんて冗談じゃねぇと思ってるさ。だけど、私らだけじゃ、あいつ等に・・・クリスには勝てねぇ」
「だから、共闘するの?」
「ああ。でないと、マリカの奴が浮かばれねぇ」
自分たちを助けようと飛び出し、クリスに堕とされてしまった新人の少女。
彼女のためにも自分の意思を曲げて、戦いに、クリスを殺す覚悟を決めるロザリー。
そのことにアンジュは何も言わなかった。
「それなら、別に構わないわ。その代わり、ヒルダにお願いがあるの」
「はっ?なんだよ?」
「ちゃんと話し合いなさいよ」
「・・・わかってるよ。ロザリーとは後でちゃんと・・・」
「クリスともよ」
「・・・・わかってるよ」
最後にヒルダの耳元で囁くアンジュ。
その言葉に、ヒルダも分かっているのか顔が俯く。
これはヒルダたち三人の問題だから、彼女たちが話し合わなければならない。
もっとも戦いの中でなので、決して穏やかではないだろうが。
「それでは如何されますか、アンジュ」
アルゼナル側の意思が統一されている事をアンジュが確認した後、サラマンディーネが申し入れる。
だが、アンジュは何処か浮かない顔をする。
「サラ子は良いの?ジルが貴女を庇ったゴザル丸を撃ったのに」
「あ、アンジュ、そのことは―――」
アンジュの言葉に「拙い」とサラマンディーネは思った。
だが、すでに遅かった。
「ちょっと待ってください!!撃たれかけたってどういう事ですか、姫様!!?」
「ナーガ・・・・」
予想通り激昂して詰め寄ってくるナーガ。
共に控えていたカナメの表情も険しい。
「空蝉丸さんも撃たれたんですかっ!?」
「い、いや・・・お二方落ち着かれよ」
大丈夫なんですか、と詰め寄ってくるカナメの勢いにたじろいでしまう空蝉丸。
何せ、傷はまだ完全には塞がっていない。
それなのに、アンジュの奪還、無人島でタスクの訓練で何度か傷が開いて完全に治っていなかった。
今も、何度も包帯を交換しているが、未だ完全には治っていない。
決戦前には治れば良い、と空蝉丸は思っているが。
「ねぇ、もしかして私、不味った?」
「ええ、かなり」
「「姫様!!」」
(まずは、この二人を説得しなければならないでござるな)
「やはり同盟など反対だ」、「先に撃った者を亡き者に」と騒ぐ彼らを沈めなければ先には進めない。
アルゼナル側もこちらに責任があるからと、話し合いはまた持ち越しになるのだった。
だが、時間はあまりない。
サラマンディーネは二人を必ず説得するので、決戦の準備をしてもらうことでアンジュとの話し合いはまとまった。
アンジュとしても決戦前にすることが色々あるので丁度良いのだった。
彼らの運命の決戦まで後僅か
あとがき
漸く完成することができました。
いや、目標はもっと先だったのですが、少し長くなったのでここで切らせてもらいました。
転職したので忙しくて中々書く時間なかったので、こんなに遅くなってすみませんした。
ですが、必ず完結させるつもりなので、どうか見捨てずに見守ってください。
ここからクライマックスまでドンドン盛り上がって行けるようにしたいと思っています。