ガンダムビルドファイターズ White&Black ChallengerS 作:ケンヤ
ガンプラ学園の寮に入って数日、ヤクモはノブナガの案内もあって学園内の施設は概ね把握した。
そして、遂にヤクモのガンプラ学園での生活が本格的に始まる日がやって来た。
「何か落ち着かないな」
ヤクモは真新しい制服に袖を通す。
上着を羽織りネクタイを締めて鏡で確認する。
ガンプラ学園の制服は全国大会で見た事はあるが、いざ自分が切るとなると複雑な気分になる。
「大丈夫だよ。似合ってる」
同じようにガンプラ学園の制服に着替えたノブナガがそう言う。
「行こうか。遅れると不味いし」
「だな」
着替えたヤクモはノブナガと共に部屋を出て行く。
二人は入学式が行われる講堂に入るとすでに新入生がかなりの数集まっていた。
ガンプラ学園の試験は何度が高い事で知られているが中等部からの生徒やファイター専攻とビルダー専攻の生徒を合わせると相当な数になる。
ヤクモは周囲を見渡してハクアを探すが人が多すぎて見つける事は出来ない。
寮に入って以来、ハクアとは連絡を取ってはいるが直接会ってはいない。
「あれって……」
ハクアを探しているとふと試験で出会ったカイトを見かけた。
自分とは違い一次試験で目的地に到達している為、到達出来なかった自分が合格している以上は合格していると思っていたが、制服を着てこの場にいると言う事はカイトも合格していたようだ。
カイトに一言声をかけようとするも、カイトは人ごみに紛れて見失ってしまう。
無事に合格している為、いずれは顔を合わせる機会もあるとカイトを探す事を諦めて、ヤクモはノブナガを時間が来るのを待つ事にした。
やがて、入学式の予定時間となって入学式が始まる。
入学式はガンプラ学園と言えども特別変わった事は無く、進んで行く。
時間が経つにつれてヤクモは眠たくなって来るが、周囲がざわめき始めて睡魔も吹き飛ぶ。
「どうしたんだ?」
「次は理事長からの言葉だからね」
「ここの理事長って事は……」
ヤクモも周囲の生徒達がざわめいている理由を理解した。
ガンプラ学園の理事長と言えばガンプラバトルをやっていれば誰でも知っている。
初めて世界大会で3連覇を達成して伝説となったマシロ・クロガミだ。
ガンプラバトルをやっていれば知らない者はいない。
公式戦を引退した今、生でマシロを見る機会等、一般人では早々ない。
「アレが伝説の……」
ヤクモは以前にもあっているが、その時は相手がマシロだと気付いていない為、マシロの事は初めて生で見たと思っている。
どこかで会ったような気もしたが、今まで公式戦にまともに出た事のないヤクモとガンプラバトルの頂点にいるマシロとの接点等心当たりが無い為、気のせいだと流した。
マシロは首を擦りながら何やらぶつくさ呟いていたが、檀上に上がると誰もが一度は見た事のあるメディアに出る時の表情に変わる。
「新入生の諸君、まずは入学おめでとう」
檀上で軽く視線を下に逸らしながらマシロは話しを始める。
だが、次の瞬間、マイクスタンド辺りから紙を取りだすとマシロはそれを破り出す。
恐らくはスピーチの原稿なのだろう。
マシロが原稿を破ると、講堂の端に並んでいた講師たちが少し騒いでいるようだ。
遠目では何が起きているのか分からないが、金髪の女講師が檀上に上がろうとしているのを他の講師たちが懸命に止めている。
「こんなつまんない文章なんて読めるか」
そんな騒ぎにはお構いなしにマシロは話しを進める。
マシロは先ほどまでのメディア向けから新入生の中では知っている生徒は知っている現役時代の挑発的な表情になっていた。
「高難度の試験を突破して浮かれているだろうけど、調子に乗ってんじゃないぞ。アレは中坊レベルに合わせた試験だ。その程度の試験で苦労しているお前達のレベルなんてのは敢えて言ってやる。カスであるとな。お前ら程度のファイターなんてのは世界にはごまんといるんだよ。世界大会にすら通用しない雑魚だ。そんな奴らの事なんて俺は興味の欠片もない。精々、この3年間でちっとはマシなバトルが出来るようになって来い。以上だ」
マシロはそう言ってふてぶてしく檀上を降りていく。
マシロからガンプラ学園に入学した事を祝って貰えると思っていた生徒は茫然としている。
檀上からマシロが降りると司会の講師が何とかフォローを入れるも、余りのインパクトに後の事はヤクモは殆ど覚えていなかった。
「凄かったな」
「そうだね。僕が中等部に入学した時はああじゃなかったし」
入学式を終えてヤクモとノブナガはビルダー専攻の生徒は別の教室に待機していた。
ここにはファイター専攻かファイターとビルダー兼任の生徒が集まっている。
ざっと見渡しただけでも100人はいるだろう。
ここで今後の学園生活の事を指導されると言うのだが、一向に講師は来ない。
時間を過ぎて少しすると、講師が入って来る。
「あの人って檀上に上がろうとしていた人だよな」
「だと思うよ。シシドウ先生」
ヤクモも遠目ではあったが、入って来たのはマシロが檀上で原稿を破いた時に檀上に上がろうとしていたシシドウ・エリカであった。
「少し馬鹿を絞めてたんで遅くなった。お前らの指導担任のシシドウだ」
多少、物騒な単語があったものの誰も突っ込む事は無い。
「さて、ウチの学園は全国制覇の後、世界大会で活躍するファイター、ビルダーを育成するってのが基本方針だ。お前らの入学したてで2年や3年に比べるとここで学ぶ時間は短い。つっても所詮は1年や2年。努力次第じゃ覆す事は十分に出来る。学園内に全国大会への出場枠は4つある。1年だからって遠慮することはない。全国大会に出たい奴はガンガン狙って行け! 学園側は本気で上を目指す奴には万全のサポートが出来る用意がある。最後に一つだけ言っておく。今日からお前達の高校生活は始まるが3年なんてのはあっという間に過ぎてしまう。本気で全国を狙うも良し、将来を見据えて力を付けるも良し、気の合う仲間を見つけてバトルを楽しむも良い。だけどな……卒業する時に後悔する学園生活をすんじゃねぇぞ!」
「後悔するか……そうだよな」
その後は学園の施設の説明や、利用方法を初めとして授業の受講方法や成績の付け方などの学園の説明を受けたが、ヤクモはこれからの学園生活の事を思い描いてそれどころではない。
気づけば話しが終わっていた為、後でノブナガに聞こうと決めた。
「今日は授業がないけど、ヤクモ君はこの後、どうする?」
「決まってんだろ。バトルだ」
授業は明日からだが、バトルシステムはいつでも使えるようにはなっている。
この数日でヤクモの性格が分かって来たノブナガも思っていた通りの答えが返って来て苦笑いをする。
そのまま、二人はバトル棟に向かう事にした。
「今日はどれを使おうかな」
ここ数日でヤクモは毎日、バトル棟にバトルを行って来た。
ビルドアメイジングガンダムはハクアが持っている為、毎回練習用の素組のガンプラを使ってバトルをしている。
その中でヤクモは毎回、使うガンプラを変えている。
「その程度かよ! 今年の新入りは理事長の言う通り雑魚ばかりだな!」
「何だ?」
ヤクモがガンプラを選んでいるとそんな声が聞こえて来た。
声の方を見るとそこには入学式で見かけた気がする生徒達がバトルシステムの前で膝を付いている。
その対面には上級生と思われる生徒が何人もいた。
「毎年恒例の新入生狩りだよ」
ノブナガがヤクモに耳打ちする。
これは毎年この時期になると上級生による新入生を狙った新入生狩りらしい。
上級生は1年以上、ガンプラ学園で鍛えているだけの事はあって入学したての新入生よりも実力は上だ。
そんな上級生が新入生にバトルを挑む。
新入生も試験を合格したけはあって自信はあるが、ここでの1年の差はそう簡単に埋められる物ではない。
上級生は新入生に勝つ事で勝ち数を増やして成績の足しにする事は今のガンプラ学園では恒例行事のようになっている。
尤も、明らかに格下を相手にした連勝は成績には大して含まれはしない。
「ガンプラ学園の上級生ってあんな奴ばかりなのかよ」
以前にも似たような光景を見ているヤクモは呆れていた。
「たく……」
「ヤクモ君?」
ヤクモは新入生狩りをしている上級生の方に歩いて行く。
「先輩、俺の相手も頼めますか?」
「お前も新入生か? 良いぜ。俺が相手をしてやる」
「おいおい。俺の分も残しておいてくれよ」
上級生たちはバトルを申し込んで来たヤクモを絶好のカモだと見ているようだ。
「そんじゃさっさとやろうぜ」
「望むところですよ……あ!」
バトルが成立したところで、ヤクモはビルドアメイジングガンダムを持っていない事を思い出した。
相手は上級生である為、素組のガンプラでバトルするのは厳しい。
いつものバトルなら勝ち負けを気にすることは余りないが、格下を狙ってバトルをしている上級生に対して絶対に負けたくはない。
しかし、ビルドアメイジングガンダムは無い為、素組のガンプラを使ってバトルをするしかない。
「どうした?」
「……仕方が無い」
「ナナセ君。これを使って」
素組のガンプラでバトルをする覚悟を決めたところにハクアがビルドアメイジングガンダムを差し出して来た。
「クロガミ!」
「クロガミ?」
学園内でハクアの事は有名らしいのか、相手の上級生たちはハクアが出て来た事に軽く動揺している。
一方のヤクモはハクアの事は名前しか知らない為、首を傾げている。
だが、今はそんな事を気にしている暇はない。
「助かる! こいつでちゃんと戦える」
ヤクモはビルドアメイジングガンダムをハクアから受け取る。
ビルドアメイジングガンダムはマシロから受け取った装備ではなく、今までと同じ装備となっている。
受け取ったビルドアメイジングガンダムをバトルシステムに置き、学園から支給されたGPベースをセットする。
「ビルドアメイジングガンダム! ナナセ・ヤクモ。行くぜ!」
久しぶりにビルドアメイジングガンダムを使ってのバトルにヤクモの気持ちはいつもよりも高ぶっていた。
ビルドアメイジングガンダムがバトルフィールドに入る。
ヤクモの入学後、初めてのバトルは宇宙空間でのバトルとなる。
バトルが始まり、直進していると相手のガンプラが見えた。
「あれって……」
「ジャスティマ。レコンギスタの奴ね」
上級生の使用するガンプラはジャスティマ。
ガンダムAGEに続く新作として制作されたGのレコンギスタに登場するMSだ。
「見た事もないガンプラだが、こっちは最新作のガンプラなんだよ!」
向こうもビルドアメイジングガンダムを補足し、ジャスティマはビームライフルを撃って来る。
だが、ビルドアメイジングガンダムは軽く回避する。
「動き易い」
「ここ数日で完全に貴方用に調整はしておいたわ」
久しぶりにビルドアメイジングガンダムを使ったヤクモだが、今まで以上に使い易くなっていた。
単純にヤクモの腕が上がっただけでなく、修理の際にハクアがヤクモの操作の癖を考慮して調整したお陰だ。
「これならいける!」
ジャスティマのビームをかわしながら、ビルドアメイジングガンダムは一気に接近して行く。
「さっさと落ちろよ!」
ジャスティマは肩のファンネルミサイルを一斉掃射する。
だが、ビルドアメイジングガンダムは胸部のバルカンとビームライフルで簡単に迎撃する。
「新入生の分際で何なんだよ! そのガンプラは!」
ジャスティマはビームライフルを乱射するが、ビルドアメイジングガンダムには当たらない。
ビルドアメイジングガンダムはビームライフルを捨てて、右腕のバックラーからビームサーベルを展開して振う。
ジャスティマも超大型ビームサーベルを貫くが、ビルドアメイジングガンダムのビームサーベルで腕を切り落とされる。
超大型ビームサーベルはケーブルで本体に繋がれている為、腕を切り落とされても無くす事は無いが、相手の上級生はとにかく距離を取って逃げる事しか頭にはない。
「逃がすかよ!」
それをビルドアメイジングガンダムが追いかける。
ジャスティマは頭部のビーム砲と肩の拡散ビーム砲でビルドアメイジングガンダムを狙うが、矢鱈と撃っているだけではビルドアメイジングガンダムを捕える事は出来ない。
「ちくしょう!」
「これが俺の……俺達のガンプラだ!」
機動力ではビルドアメイジングガンダムに分があり、逃げ切る事が出来ずにジャスティマは最後の足掻きとして肩かたビームシールドを展開して迎え撃つ。
ビルドアメイジングガンダムが腕のビームソードをジャスティマのビームシールドに突き刺す。
ジャスティマのビームシールドではビルドアメイジングガンダムのビームサーベルを防ぐ事が出来ずにジャスティマにビームサーベルが突き刺さる。
ビルドアメイジングガンダムがビームサーベルを動かしてジャスティマは両断されてバトルが終了した。
「嘘だろ……」
「先輩達も折角、ガンプラ学園にいるんですから、弱い者虐めなんてしてないで自分の腕を磨いたらどうなんですか」
「新入生になにが分かる! 俺達なんかが、あんな化物連中に何が出来るってんだよ!」
その言葉でヤクモも何となく察しが付いた。
上級生たちはガンプラ学園に1年は在籍しているはずだ。
その1年で思い知らされたのだろう。
ガンプラ学園の上位のファイター達の実力を。
だからこそ、自分達よりも弱い新入生を狙って少しでも勝ち数を増やしたかったのだろう。
上を目指すのであれば、どんな支援を惜しまないガンプラ学園だが、一方で競争について行けないファイター達の末路が目の前の上級生たちと言う事だ。
「面白い事やってんじゃねぇかよ。俺も混ぜてくれよ」
「……アドウ」
「アンタは……」
上級生たちの事情を気づくが、今度はアドウが出て来る。
上級生たちは誰もアドウに向かって行く気配はない。
寧ろ、どこか怯えているようにすら見える。
「なぁ……行こうぜ」
上級生の一人がそう言うと、上級生達は散り散りになって行く。
「ちっ……ふぬけてやがるな。で、お前はやる気のようだな」
「あの時のようにはいかない」
「お前のガンプラは潰し甲斐があったからな。今度はがっかりさんじゃねぇぞ」
アドウは先ほどまでいた上級生たちの事はすでに気にも留めていない。
アドウにとって連中は相手にするまでもない。
だが、ヤクモは違った。
以前にバトルした時に使ったビルドアメイジングガンダムの性能はガンプラ学園でも中々お目にかかれないレベルだ。
あの時はヤクモとの実力差で圧倒したが、ビルドアメイジングガンダムの性能なら何度で戦うだけの価値はある。
ヤクモもヤクモであの時のリベンジをする気満々のようだ。
そんな二人をノブナガは遠巻きに見ており、ハクアはどちらでも良さそうにしている。
「アドウ! またお前か!」
「げっ……何でアンタが……理事長を締めてたんじゃねぇのかよ」
ヤクモとアドウはバトル寸前のところまで来るも、エリカがアドウの首の根を掴んで強制的に連れて行く。
以前にも入学予定の生徒にバトルを挑んでいた前科がある為、入学式で自宅通いの生徒も来ている今日も新入生を狙うを予測したエリカは各バトル棟に目光らせていた。
「お前もついでだ!」
アドウも今日はマシロが学園に来ている為、エリカはマシロにかかりきりだと思っていたが、予測は外れたようだ。
「何だったんだ……アレ」
「いつもの光景よ」
アドウにリベンジする気満々だったヤクモだが、アドウがエリカに強制連行された事でバトルする相手が居なくなる。
周囲のファイター達も先ほど、新入生狩りをしていた上級生を軽く倒したヤクモと入学早々バトルする気は無いのか誰も近寄っては来ない。
その為、やる気のやり場がない。
入学初戦で華々しく勝利したヤクモだが、それはこれからのガンプラ学園での戦いの始まりでしかなかった。