ガンダムビルドファイターズ White&Black ChallengerS 作:ケンヤ
ガンプラ学園に入学して一週間。
入学当初は中学とは違い一日中ガンプラ漬けの毎日に戸惑う事もあったが一週間もすればだいぶ慣れて来た。
元々、人見知りをしない事もあって、この一週間で同室のノブナガと相方のハクア以外にも友人は増えている。
そして、この一週間でヤクモは一年のみならず上級生の間でも知名度が上がって来ていた。
その理由はガンプラ学園でも中々見る事のない完成度のビルドアメイジングガンダムを使っている事や入学初日から上級生を相手にバトルをして勝利を収めた事以上にハクアの相方だと言う事が大きい。
ヤクモもガンプラ学園で初めて知った事だが、ハクアはガンプラ学園の理事長であるマシロの姪に辺り、現総帥の娘である事だ。
流石にヤクモもハクアが一般家庭の子供だとは思っていなかったが、世界でもトップの大企業の令嬢だとは思ってもみなかった。
それだけではなく、ハクアはガンプラ学園に入学した当初から注目の的でもあった。
ガンプラバトルにおいてメイジンカワグチと並ぶマシロの姪と言う事で、その実力が注目されていた。
だが、当のハクアはビルダー専攻でバトルの方は一切行わなかった。
バトルをしなくても、ビルダーとしての腕前も一級品である事から、自分のガンプラを作って欲しいと誘うファイターは多かった。
しかし、ハクアは誰かのガンプラを作る事もなければ、コンビを組む事は無く、誘いに対しても冷たくあしらい、やがては誰もが遠巻きに見ているだけになった。
そんなハクアがコンビを組んでいるヤクモの事が注目されるのは必然だ。
「そう言えば、ヤクモ君は準備してる?」
不意に寮の部屋でノブナガがそう言う。
ヤクモは何の事だか分からずに首を傾げていた。
その反応からノブナガもヤクモが何も準備をしていないと言う事は分かった。
「きちんと予定表を見なよ。明日からオリエンテーション合宿でしょ」
「そうだったっけ?」
ノブナガに言われて薄らを思い出して来た。
確かに明日から1週間程、新入生のオリエンテーション合宿があると言う事を聞いた気がする。
内容は不明だが、入学したばかりの新入生がガンプラ学園でやって行くための行事だ。
「けど、寮生である俺らは関係ないだろ?」
合宿と言えばどこかに泊まり込むと言うイメージがある。
ヤクモもノブナガもすでにガンプラ学園の寮で生活をしている。
ヤクモの中では寮ではなく実家や近所に部屋を借りている生徒が学園に泊まり込むくらいに思っていた。
「中等部にはなかったから僕も参加するのは初めてだけど、合宿は学外でやるみたい。だから寮生の僕達も着替えとかガンプラとかの用意はしとかないと」
「……マジで」
余り意識はしていなかったが、ノブナガも数日前から荷物をまとめていた。
その時は単にノブナガが几帳面で自分の荷物を整理していた程度にしか思っていなかったが、アレが合宿の用意だったらしい。
「ガンプラの方はクロガミさんが用意するとして着替えとかは今からでも十分に間に合う筈だからさ」
「だよな……」
ガンプラ学園の合宿である以上はガンプラは必須だが、そっちはハクアに任せておけば問題はない。
ヤクモが用意しなければならないのは着替えくらいの物だ。
そのくらいなら時間をかけずとも用意する事は可能だ。
ヤクモはすぐさま適当に見繕って明日からの合宿に備えた。
「学園にも金をかけてんのは分かってたけど、PPSEこんな物まで持ってるのかよ」
翌朝、ヤクモ達は学園からバスで港まで連れて来られた。
そこで待っていたのは巨大な船であった。
一般的に見られるような船ではなく、良くテレビで世界一周等をやりそうな豪華客船がそこにあった。
船体にはPPSEのロゴが入っている為、PPSEが所有しているのだろう。
ガンプラ学園はPPSEが運営している為、この豪華客船が合宿の場と言う事だ。
「お前ら! さっさと船に乗ってろ! 中で点呼を取るからな!」
ヤクモ以外の新入生たちも豪華客船に度肝を抜かれていると引率のエリカが拡声器でそう促す。
我に返った生徒達はゾロゾロと豪華客船に乗り込んで行く。
豪華客船に乗り込む際にGPベースで生徒の認証を行い、ヤクモ達はそれぞれが割り当てられた部屋に荷物を運ぶ。
「ノブナガ……何か、色々と凄いけどさ。バトルシステムと作業台があるだけでほっとするな」
「だね。明らかにこれだけは部屋の内装を不釣り合いなのにね」
部屋割は寮生は寮と同じである為、ヤクモとノブナガは同じ部屋となっている。
部屋の中も寮とは違って豪華客船から連想出来る部屋ではあったが、部屋には二人分の作業スペースと寮の部屋にはなかったバトルシステムが1台置かれている。
この手の物に慣れていないヤクモとノブナガからすれば、毎日のように使っている作業台とバトルシステムが置いてあるだけで不思議と安心できた。
「この後、どうする? やっぱ探検でもするか?」
「シシドウ先生が行ってたでしょ。荷物を置いたら広間に集まるようにって」
これだけの広さの船である為、探検したい気持ちはあるが、確かにエリカから荷物を置いたら船の広間に来るように指示されている。
この1週間でエリカは典型的な体育会系の教官で、怒らせると普通に鉄拳制裁もあり得ると言う事は知っている。
エリカの指示を無視して船内を探検したとバレると後で大目玉をくらう事は確実だ。
「仕方が無いか。時間はまだあるしな」
合宿は1週間を予定している。
その間のスケジュールは今から聞かされるとしても、1週間もあれば自由時間もある筈だ。
その時間中に探索をすればエリカに怒られる事もない。
ヤクモは船内の探索を後の楽しみとしてノブナガと共に広間へと向かう。
「ここってパーティーとかする場所だよな」
「本当はそうなんだろうね」
二人は迷う事無く広間に付く事が出来た。
すでに荷物を置いた新入生たちは広間に集まっている。
広間はヤクモの言う通り、本来はパーティー等に使われる筈なのだが、広間には大型のバトルシステムを中心にバトルシステムがいくつも置かれている。
ここに来る道中で軽く船内を見渡したが、至るところにバトルシステムが配置されていた。
バトルシステムは明らかに船の内装とあっていない事から、バトルシステムは後から設置した物で、それを指示した人物も内装を合わせる気が無かったのだろう。
ヤクモは辺りを見渡して、ハクアの姿を探す。
今回の合宿はファイター専攻を対象にしている為、ビルダー専攻の生徒は強制参加ではない。
それでもビルダー専攻の生徒や新入生だけではなく上級生たちも参加している。
ハクアも船に乗っていると言う事は港に来るまでの道中で聞いていたが、まだ部屋にいるのは広間には見当たらない。
そうこうしている間に広間の檀上にマイクを持ったエリカが上がる。
それによってさっきまでは雑談をしていた生徒達も一斉に黙る。
「時間になったから始めるぞ。お前達がガンプラ学園に入学してから1週間が経つ。この1週間で学園にも慣れて来たところで、自分が一年の中でどの辺りに居るのか気になって来てる頃だろう」
ガンプラ学園の生徒は皆、ガンプラバトルやガンプラの制作の技術を磨く為にここに来ている。
入学から1週間もすれば学園での生活に慣れて来るころだ。
そうなれば、誰もが気になって来るだろう。
自分の実力が新入生の中でどの程度の位置にいるかと言う事をだ。
同じ学園に通っていると言っても、単純に仲間と言う訳ではなく競争相手でもある。
「それで変な揉め事が起こる前に学園側から毎年この時期に一年を対象に新人戦を行う」
ガンプラ学園に受かった新入生達はそれぞれが中学時代にチームのエースの地位にいた実力者が多い。
元エースとしてのプライドとして、自分が周りよりも劣っていると思われたくはないと思うのは当然だ。
血気盛んな年頃でプライドばかりが高い生徒が集まると、トラブルになる危険もある。
単純な口論程度ならともかく、下手をすれば暴力沙汰となる事もある為、その危険を未然に防ぐ事を目的とした新人生が毎年行われている。
新人戦を通じて、入学当初の時点で明確に実力を見せる事である程度の実力の序列をはっきりさせておく。
「新人戦は明日から5日間をかけて行う。ルールは公式戦に準じて一対一のトーナメント方式だ。参加は自由、組み合わせは明日行う。この後は自由時間だ。明日に備えて好きに使え」
エリカは話しが終わると檀上から降りる。
「新人戦か……」
「それで先輩達も見に来たんだね」
2年生や3年生は過去に新人戦を経験している為、ここで新人戦が行われると言う事を知っている。
わざわざ、ここまで来たのは新人戦を見る為だ。
1年の間の実力を見せ合う場ではあるが、上級生にとっても1年生は新たなライバル達だ。
そのライバルの実力を一同に見る機会は余りない。
尤も、上級生たちの目的はそれだけではない。
6月に行われる全国大会出場を賭けた学内戦に備える為でもある。
単にライバルの情報を集めるだけでなく、新人戦で有望な1年を見つけてはチームにスカウトすると言う目的もある。
一般的に一つの学校からは1チームしか大会には出場しない。
だが、ガンプラ学園には全国大会への出場枠が4つ用意されている。
学園内には学園の顔とも言えるソレスタルスフィアの他にもいくつものチームが存在している。
ここで有望な1年を確保してチームの戦力増強する事が出来る。
周囲の生徒達は新人戦が開催されると知り、空気がピリピリして来た事をヤクモは肌で感じていた。
入学してからヤクモも学園内に友人と呼べる相手は何人か出来、他の生徒達も人間関係が出来上がって来た頃だが、内心ではエリカの言うように自分と周囲の実力を気にしていたのだろう。
それが、新人戦の開催の告知で表面化して来た。
「取りあえず、戻ろうぜ」
互いに警戒し合う事で空気が変わり、ヤクモは余りこの場にはいたくはなかった。
ノブナガも同感らしく、二人は一先ず部屋に戻る事にした。
明日から新人戦が行われると言う事もあって、夕食の間もどこかピリピリした空気が流れ、合宿の一日目が終わった。
昼間は空気がピリピリしていた事もあって、余り出歩かなかったがヤクモは船内を散策していた。
すでに時間も遅いと言う事もあって、老化や個室以外に人の気配はしない。
尤も、船内の所々に設置してあったバトルシステムは昼間でも上級生が使っていた以外に新入生は殆ど使っておらず、人がいないと言うだけで昼間も静かな物だった。
「こっちは甲板か……少し外の空気でも吸って来るか」
船内の案内板を見ながらヤクモは甲板を目指す。
ヤクモにとってはガンプラ学園の生徒は同じ学園で切磋琢磨し合う仲間だと思っていた。
その結果として相手を蹴落とす事になってしまっても、互いに全力を尽くした結果であれば互いに遺恨を残す事もない。
だが、学内で大会が行われると言うだけで、ここまで敵意を出すと言う事は、他の生徒達にとっては仲間ではなく敵だと思われていたのだろう。
幸いにも同室のノブナガは新人戦に参加する物のヤクモに対しては敵意を見せず互いに全力を尽くそうと言っていた。
今はノブナガは部屋でガンプラの調整を行っている。
ヤクモのビルドアメイジングガンダムは今朝、万全な状態に調整されてハクアから受け取っている為、ヤクモがやる事は無い。
「ん? 誰かいるな」
ヤクモが甲板の出入り口付近に来ると遠目だが、甲板に人影が見えた。
ヤクモは一先ず、甲板には出ないで出入り口に身を隠して甲板を窺う。
相手が誰だか分からないが、新人戦の開催で気が立っている新入生ならば余計なトラブルになり兼ねない。
「誰だ……」
見つからないように慎重にヤクモは相手を確認する。
ヤクモも新入生の顔を全て覚えている訳ではないが、知らない相手だ。
合宿中は服装等は自由となっているが、大半の生徒は学園の制服を着用している。
だが、甲板にいる女生徒は白いワンピースを着ている。
後ろ姿しか見えないが、背丈は中学生くらいで先輩ではないだろう。
後ろから分かる特徴は、もう春なのに白いマフラーをしているくらいだ。
「盗み見は関心しないな」
白いワンピースの女生徒はこっちを見ないままそう言う。
物音を立ててはいないが、自分の事が気づかれた事でドキリとするが、見つかった以上は出て行くしかない。
「そんなつもりはなかったんだけどな。それよりも良く俺が隠れている事が分かったな」
「何、気配には敏感なのでね」
女生徒はそう言って振り向くとヤクモの方に歩いて来る。
灰色の髪で女生徒の左目を隠し、肌は異様に白い。
普段、ハクアといるがキリっとした美人のハクアとは違い女生徒は触れてしまえば壊れそうな危うい美しさを感じさせた。
「だが、まさか君だったとはね。ナナセ君」
女生徒はヤクモの周りを歩きながら、ヤクモの顔を覗きこむ。
向こうはヤクモの事を知っているらしいが、ヤクモには心当たりがない。
ガンプラバトルが広まり、女性のファイターやビルダーも珍しくはないが、ガンプラ学園では女子生徒はそこまで多いとは言えない。
どこかで会っていれば流石に忘れる事は無いはずだ。
「その様子だと私が分かっていないようだな。まぁ、仕方が無いか」
女生徒はそう言ってどこからともなく、サングラスを取りだすとマフラーで口元を隠してサングラスを付ける。
「……まさか」
「そのまさかだよ。ナナセ君」
サングラスを付けてマフラーで口元を隠したところで、ヤクモの女生徒の正体に気が付いた。
女子でありながら男子用の制服を着て肌を一切、見せない恰好をしているガンプラ学園の最強格の一人のハクオウ・マキナだ。
確かにマキナは背丈は低いが、何も知らないでいると中学生に見えるかも知れない。
だが、れっきとしたヤクモよりも年上の先輩だ。
「えっと……」
「気にすることはないさ」
相手が先輩だとは気付かずにタメ口で話していた為、少し気まずいがマキナの方は気にしていない。
「けど、どうしてここに?」
「一応は偵察だと言っておこう。キジマ君はイギリス行きの準備に忙しく、アドー君は雑魚に興味はないからね」
ガンプラ学園の最強チームであるソレスタルスフィアだが、今年も全国大会出場が確実視されているが確定している訳ではない。
世界大会は去年の優勝者は自動的に翌年の世界大会の出場権が与えられるが、全国大会においては毎年のように同じ学校からでもチームのファイターが変わる事は珍しくはない為、優勝しても翌年の出場権は与えられない。
大会5連覇中のソレスタルスフィアも毎年、ガンプラ学園の学内予選を勝ち抜いて全国大会に出場している。
ソレスタルスフィアはガンプラ学園では最強のチームだが、最強チームが故に他のチームから徹底的にマークされている。
それぞれが圧倒的な実力者と言っても個人戦ではない為、戦い方次第ではやりようは幾らでもある。
足元を掬われない為にも、自分達の足を掬いそうなファイターを事前に情報を集めて置く事は重要な事だ。
そして、誰が偵察するかが問題だ。
最初にアドウは自分と同レベルの実力者の事は認めているが、格下は徹底的に見下す為、偵察には不向きだ。
マキナもガンプラバトルに置いての嗅覚は師匠譲りだが、気分屋だ。
3人の中では格下だろうが認めるべき部分は認めるウィルフリッドが最も適任ではあるが、ウィルフリッドは最後の全国大会に向けて全国大会の直前までイギリスに留学して調整をする為、新人戦を見に来る時間は無い。
その為、アドウよりは気分さえ乗れば、ファイターの実力を徹底的に見抜く事の出来るマキナが偵察を任された。
気分が乗らなければ絶対に引き受ける事のないマキナだが、今回は気分が乗ったらしく偵察に来た。
「さて、ナナセ君。やろうか」
「は?」
「ついて来たまえ」
ヤクモは事態が呑み込めないが、マキナについて行く。
道中でどこに何をしに行くのか尋ねた物の、マキナは答える事は無く、ヤクモは昼間新人戦を行う事を告げられた広間まで連れて来られた。
昼間来た時は新入生が集められていたが、今は誰もいない為、やたらと広く感じる。
そんなヤクモを余所にマキナは中央の大型バトルシステムの前まで歩いて行く。
「何をしているんだい? 早く準備をしないかね」
「準備って……ここでバトルするんですか?」
マキナは大型バトルシステムの電源を入れている。
どうやら、マキナはここでヤクモとバトルする気でいるらしい。
「私も君もファイターだ。ファイター同士が出会った時にする事はバトル以外にはないだろう」
「どういう理屈なんですか……」
「言ったろう。私は偵察に来たのだと。今年の新入生の中で最も注意すべきは君と君のガンプラなのだよ。新人戦でデータを集めるよりも実際にバトルした方が早い。安心したまえ、明日からの新人戦に影響が出ないようにダメージレベルはCに設定しておいた」
マキナは今年の新入生の中でヤクモが最も警戒すべきファイターと考えていた。
セイが作った王のガンプラを持つだけではなく、マシロもヤクモに付いて何かを知っている様子だった。
そんなヤクモの情報を集めるには、外から見るよりも実際にバトルした方が手っ取り早い。
以前にバトルした時は互いに自分のガンプラではない為、余り当てには出来ない。
「俺が……?」
「そうとも。君の持つガンプラはタダのガンプラではない。ガンプラに選ばれた者のみが使う事が出来る王のガンプラ」
「王のガンプラ?」
ヤクモはビルドアメイジングガンダムを取りだす。
制作経験のないヤクモでもビルドアメイジングガンダムは他のガンプラとは違うと言う事は分かっている。
ただの原型の無いオリジナルと言うだけではなく、細かいところまで作り込まれており、市販のガンプラを改造しただけではここまでの完成度にする事は至難の業だ。
「君はまだそのガンプラの力を全て引き出してはいない。だが、そのガンプラが君を相応しい使い手を認めた時、唯一無二の力を君に与えるだろう」
マキナの言っている事は余りにも現実味がないが、どこか納得の行くところもある。
だが、それ以上にマキナの言うように自分がビルドアメイジングガンダムの力を引き出してはいないと言うのであれば、自分達はまだ強くなれると言う事だ。
「分かりました。やります」
自分が手も足も出せなかったアドウと互角以上に戦えるマキナに勝つ自信はない。
以前とは違いガンプラの条件も違う。
勝てる見込みはないが、学園最強の一人であるマキナと正面から戦える機会がこんなにも早く巡って来た事は幸運としか言いようがない。
ヤクモはマキナの待つ大型バトルシステムにGPベースをセットしてビルドアメイジングガンダムを置く。
「今の俺達がどこまで通用するか分からないが、出来るだけの事はやろう。ビルドアメイジングガンダム。ナナセ・ヤクモ! 行くぜ!」
「見せて貰おうか。王のガンプラの性能を……シナンジュアメイジング。目標を殲滅する」
ビルドアメイジングガンダムとシナンジュアメイジングがフィールドに射出されてバトルが開始される。
「フィールドはデブリベルトかよ……やり難いな。けど、条件は向こうだって同じだ」
バトルの舞台はデブリベルト。
フィールド全体に戦艦やMSの残骸が漂っているステージだ。
デブリで視界が悪く、機動力も活かし辛いフィールドとなっている。
以前にアドウとバトルした時にマキナのシナンジュアメイジングのバトルは見ている。
元々のシナンジュが高機動型のMSと言う事もあって、シナンジュアメイジングは超高速型のガンプラだった。
このバトルフィールドではシナンジュアメイジングの機動力を使い辛い事を考えると、ヤクモの方が有利に思える。
だが、すぐにそれは幻想であると思い知らされた。
「センサーに反応……何だよ! なんて速度で突っ込んで来てるんだよ!」
ヤクモもシナンジュアメイジングの反応を見つけたが、こちらに向かって来る速度は尋常ではなかった。
シナンジュアメイジングはデブリを回避しているものの、移動速度はトップスピードに近い速度を維持している。
「デブリでも関係ないって事かよ!」
ビルドアメイジングガンダムは迫って来るシナンジュアメイジングをビームライフルで迎撃する。
シナンジュアメイジングはビームを気にすることは無かった。
ビルドアメイジングガンダムのビームはシナンジュアメイジングに当たる前にデブリに直撃した。
デブリはビームで消滅したが、ビームはデブリを消滅させるだけに留まった。
「あれだけの速度を出しながら、こっちの攻撃を完全に見切ってるって事か」
シナンジュアメイジングは速度を緩める事もなければ、回避する素振りも見せていない。
恐らくはビルドアメイジングガンダムがビームライフルを構えた瞬間に射線上にデブリがあって、射線上のデブリをシナンジュアメイジングが通過するよりも早くビームがデブリに直撃する事を把握していたのだろう。
その上でビームがデブリを破壊するだけに留まり貫通しない事を見越してマキナはビームには一切反応を示さなかった。
あれだけの速度を維持するには少しのミスも許されない。
そんな状況下においても、マキナはそれだけの計算が出来るだけの実力を持っていると言う事だ。
「ならコイツでどうだ!」
ビルドアメイジングガンダムはビームライフルを連射する。
先ほどは一発しか撃っていない為、簡単に見切られたが、連射をすればそう簡単にはいかない。
撃ったビームの何発かはマキナも無視は出来ないはずだ。
最初の一撃とは違い流石に全てを無視する訳にもいかず、シナンジュアメイジングは機体各部のスラスターを使って方向転換を多用するが、その勢いは殆ど殺す事は無かった。
「相変わらずのスラスター捌きか!」
以前にバトルした時もスラスターを見事に使って方向転換時に勢いを殺す事も無く方向転換をやってのけたが、今回はあの時よりも速い速度を維持している。
ビルドアメイジングガンダムのビームがデブリをいくつも破壊した事で、破壊されたデブリが目暗ましとなって、ヤクモはシナンジュアメイジングを見失ってしまう。
「シナンジュはどこに!」
ただでさえ機動力では圧倒的に分が悪いところに、相手を見失ってしまえば勝負は一瞬で付きかねない。
ヤクモは全神経を使って周囲を警戒する。
シナンジュアメイジングを見失ってからは不気味な程に周囲は静かだったが、不意に視界の端で大きなデブリとデブリの間を影が横切った。
「ほう、目は悪くないか……だが、その目の良さが命取りだな」
「しまった!」
視界の端に見えた影に気を取られた一瞬の内にビルドアメイジングガンダムの背後にシナンジュアメイジングが回り込んでいた。
シナンジュアメイジングのバックパックが無い為、ヤクモが気を取られた影はバックパックを分離させたアメイジングブースターⅡだったのだろう。
背後を取られ振り向くが、シナンジュアメイジングに蹴り飛ばされて、ビルドアメイジングガンダムはデブリに叩き付けられる。
「くっ!」
シナンジュアメイジングは左腕に内蔵されているビームサーベルを取ると、ビルドアメイジングガンダムに接近してビームサーベルを突き出す。
ビルドアメイジングガンダムはスラスターを最大出力で使い、何とか回避し、シナンジュアメイジングのビームサーベルはデブリに付き刺さる。
「バックパックを囮に使ったのか」
ビルドアメイジングガンダムは多少デブリにぶつかる事は気にせずに距離を取る。
アメイジングブースターⅡとドッキングしたシナンジュアメイジングはアメイジングメガライフルを撃ちながら追撃して来る。
デブリを気にする余裕はないと言っても、大きなデブリはかわすしかない為、シナンジュアメイジングとの距離は次第に縮まって行く。
何とか距離を保とうとビームライフルで応戦するが、デブリの間を縫うように移動しているシナンジュアメイジングを捕える事は出来ない。
「逃げてばかりではバトルにならんぞ」
「回り込まれた!」
ビルドアメイジングガンダムの前方からシナンジュアメイジングが回り込みビームサーベルを振り落す。
それをビルドアメイジングガンダムはビームライフル下部のロングビームサーベルで受け止めた。
「そのガンプラの力はその程度な訳がない。もっと私に見せて見ろ。王のガンプラの力をな」
「こんの!」
ビルドアメイジングガンダムはパワーに物を言わせてシナンジュアメイジングを弾き飛ばす。
シナンジュアメイジングは体勢を整えながら頭部のバルカンで牽制する。
「分かってたけど強い……だけど、ハクアが俺の為に調整したビルドアメイジングだって性能じゃ負けてないんだ。考えろ……まだやれることはある筈だ」
性能面においては決してビルドアメイジングガンダムはシナンジュアメイジングには劣ってはいない。
それでも尚、ここまでの差が出ていると言うのはファイターの実力差なのだろう。
「このデブリが相手に有利に働いているなら!」
ビルドアメイジングガンダムは胸部のバルカンとビームライフルでシナンジュアメイジングを狙う。
しかし、攻撃の殆どはデブリに阻まれてシナンジュアメイジングには届く事は無い。
「自棄になったか? いや……違うか」
ビルドアメイジングガンダムの攻撃は一見自棄になってとにかく攻撃しているようにも見える。
だが、攻撃の一つ一つはシナンジュアメイジングに当たる事はないが、デブリには当たっている。
本来は牽制用のバルカンでも、デブリを破壊するだけの威力は持っている。
「バトルフィールドが相手に有利に働くのであれば、フィールドその物を破壊するか。面白い」
「これでこっちも動ける!」
ビルドアメイジングガンダムの攻撃によって周囲のデブリの大半が破壊された。
全てを破壊しきった訳ではないが、ビルドアメイジングガンダムが動くには十分だ。
「だが、デブリを気にすること無く自由に動けるようになったのはこちらも同じ事だ」
シナンジュアメイジングはアメイジングメガライフルを連射する。
デブリを破壊した事で視界も開けて、自由に動けるようになったビルドアメイジングガンダムは回避しながらシナンジュアメイジングに向かう。
2機のガンプラは互いのライフルを撃ち合う。
「自由に動けるようになってもそう簡単には近づけさせては貰えないか」
(こちらの動きを目で追えるようにはなっているか。以前よりも腕を上げているな)
マキナはビルドアメイジングガンダムの攻撃を凌ぎながら、ビルドアメイジングガンダムの動きを見ていた。
以前にアドウとバトルや入学試験でのバトルの時よりもビルドアメイジングガンダムを使いこなしている。
「だが……まだ私とやり合うには早すぎる」
シナンジュアメイジングは一気に加速する。
その先にはビルドアメイジングガンダムがまだ破壊していないデブリが多く残されている。
「逃がすかよ!」
デブリの中に入られると先ほどまでのように自分はデブリを気にして足止めを食らい、相手はデブリの間を自由に動きまわれると言う状況に逆戻りとなる。
それを阻止する為にビルドアメイジングガンダムはビームライフルを連射しながらシナンジュアメイジングを追いかける。
距離は次第に縮まり、ロングビームサーベルの間合いにシナンジュアメイジングが入る。
「貰った!」
「一つアドバイスをしよう。バトルとは2手3手先を読む物だ」
シナンジュアメイジングの背後からロングビームサーベルで切りかかるが、シナンジュアメイジングはバックパックのアメイジングブースターⅡをパージした。
ビルドアメイジングガンダムのロングビームサーベルはアメイジングブースターⅡを切り裂いたが、その際の爆発に紛れてシナンジュアメイジングは振り向きざまに脚部のビームサーベルでビルドアメイジングガンダムの右腕を肘の関節から切り裂いた。
そして、ビームサーベルをビルドアメイジングガンダムの喉元に付き付ける。
その間は一瞬でヤクモも反応する事すら出来なかった。
「嘘だろ……」
「君は真っ直ぐ過ぎる。その真っ直ぐさは長所でもあり短所でもある。バトルは単純に突っ込むだけでは勝てない物だよ」
ヤクモはマキナがデブリに逃げ込んで序盤のような展開で来ると思い、それを阻止しようとしたが実際のところは追いかけさせることが狙いであった。
序盤の間にデブリ内での戦闘で苦戦させられている為、ヤクモは必死にシナンジュアメイジングがデブリの中に逃げ込む事を阻止しようとする事をマキナは読んでいた。
その上で、逃げ込む不利をして自身の後ろから接近させた。
その気になれば、マキナはデブリの中に入り込む事も出来たが、あえて最大速度よりも遅くする事でビルドアメイジングガンダムに距離を詰めさせもした。
普段なら気づく可能性もあったが、序盤の苦戦のせいでヤクモの頭の中にはシナンジュアメイジングをデブリの中に逃げ込ませない事しかなかった。
そして、ビルドアメイジングガンダムが距離を詰めたように見せかけて、誘い込んだところに不意を付いてアメイジングブースターⅡをパージする事でビルドアメイジングガンダムの行く手を遮った。
それに対して、破壊するかかわすかを見極めて一気に決めに行った。
自分が追いかけていると思っていたヤクモは実際のところは追っていたのではなく、誘い込まれていたと言う事だ。
「さて……まだ続けるかね?」
「……いえ。俺の完敗です」
右腕を切り落とされた以上、残っている武器は胸部のバルカンしかない。
それでも諦めずに戦う事も出来たが、ヤクモは自身の敗北を受け入れた。
シナンジュアメイジングはビームサーベルをビルドアメイジングガンダムの喉元に付きつけているが、その気になれば止めを刺す事も出来ていた。
今までのバトルはガンプラの特性を引き出して、相手のガンプラの特性を見極めて戦えばある程度は戦えた。
だが、全国でも上位のマキナを相手にはただガンプラの性能を引き出すだけでは勝てない。
それを今のバトルで思い知らされた。
「だが、今のバトルは悪くなかった。明日からの新人戦も期待している」
マキナはそう言ってシナンジュアメイジングを回収して広場から去って行く。
「……ガンプラバトルは本当に奥が深い」
マキナを相手に翻弄されて完敗だった。
だが、真っ向から戦うだけがガンプラバトルではないと言う事を思い知らされた。
ヤクモはガンプラバトルの新たな一面を知り、新たな思いを胸に明日からの新人戦に臨む。