ガンダムビルドファイターズ White&Black ChallengerS 作:ケンヤ
ガンプラ学園の入学式から数日、ヤクモは日々を悶々と過ごしていた。
学校では卒業を控え、いつもの学校生活だが、ガンプラ学園の試験を受けて来たと言う後ろめたさからスバルに対しても少しぎこちない。
合格すればいずれは分かる事で、早いうちに言った方が良い事は分かってはいるは、試験の結果は芳しくは無い為、落ちたら時の考えると言わない方が良いのかも知れないと心のどこかで考えてしまう。
「やっぱこのままじゃまずいよな……」
その日も適当な理由で学校が終わるとすぐに帰宅し、ヤクモは物思いにふける。
幾ら考えても選択は言うか言わないかの2択でしかない。
言わないと言う選択をしたところで、ガンプラ学園に合格した場合、いずれは高等部に進学していないと言う事はすぐに発覚する為、先延ばしにしても良い事は一つもない。
スバルや高等部では打倒ガンプラ学園ムード一色である事が言い辛い一番の理由で、言ったところでどうこうなるとは限らないが、打倒ガンプラ学園ムードの中でガンプラ学園を受験したと言う事を言うのはやはり勇気がいる。
直接、話す事が難しいならメールでとも考えたが、結局学校で顔を合わせる為、そう簡単な事でもない。
「本当にどうすんだよ……俺」
誰かに相談しようにも、一番気楽に相談できる相手がスバルで他にも交友関係は学校内に限られている為、迂闊に相談も出来ない。
学校以外だとハクアくらいだが、ハクアならこういう時は迷う事無く答えを出せそうだが、こんなことを相談するのは相方として情けないと思って相談は出来ない。
考えが堂々巡りになっていると、携帯が鳴る。
「……ガンプラ学園から?」
何気なく携帯を見るとガンプラ学園からのメールであった。
受験のエントリーはハクアの方でやっていたが、その際にヤクモの連絡先も提出していたのだろう。
ヤクモは緊張しながらも、メールを開く。
「合格通知……」
メールの内容は試験の合格通知。
ヤクモは結果が余り良くないと思っていたが、一次試験でカイトとアンジェリカと共闘した事や二次試験で勝敗こそは引き分けだが、バトルの内容は問題ないと判断されて、自分で思っていたよりも評価は高かった。
よってガンプラ学園としてはヤクモを落とす理由はない。
合格した事は喜ぶべき事だが、今のヤクモには素直には喜べない。
今までは落ちた事も考えていた為、スバルに言うかどうかを悩んでいたが、合格した以上はいずれは言わなくてはいけない。
ガンプラ学園の受験は自分で選んだ事で、合格した以上はガンプラ学園に行かない理由はない。
「……自分の心に従えか……」
かつて、ハクアと出会いコンビを組むように言われた時にヤクモが迷っていた時に名も知らぬ相手から言われた事だ。
自分の思うようにすれば例え、どんな結果になろうとも後悔はしない。
ヤクモは自分の意志でガンプラ学園に行く道を選んだ。
その結果として、今の状況となっているが、その選択に後悔はない。
「俺の心……」
ヤクモの心は決まった。
心が決まると不思議と行動に移すのも楽になった気がした。
ヤクモはすぐにスバルに連絡を入れる。
同時に出かける準備をして、家を飛び出した。
そして、学校に戻るとスバルを呼び出した屋上に向かう。
「悪い。いきなり呼び出して」
「全くだって。いきなり電話で呼び出してさ。告白でもするつもりかよ」
ヤクモは電話でスバルを呼び出したが、内容までは言っていない。
ただ、大事な話しがあるとしか言っていない。
電話で言う事も出来たが、今まで黙っていた後ろめたさもあってスバルには直接話さなければと思ったからだ。
「そうだな……ある意味そうかも知れない」
スバルは冗談交じりにそう言うが、一方のヤクモは真剣だ。
そんなヤクモの雰囲気をスバルも察した。
「スバル……俺、高等部には進学しない。ガンプラ学園に行くことになった」
「は?」
ヤクモは今までの人生で最も勇気を振り絞ってそう言う。
スバルはすぐにはヤクモの言っている事が理解出来なかった。
スバルの中ではヤクモは一緒に高等部に上がるとばかり思っていた。
実際、ヤクモもハクアと出会うまではその気で学校でも高等部への進学で話しを進めていた。
「スバルには悪いと持ってる。だけど、俺はガンプラ学園でやりたい事が出来たんだ」
「本気なのかよ……」
「本気だ。もう、試験も合格してる」
ヤクモは先ほど来た合格通知のメールをスバルに見せる。
それを見て、スバルはヤクモの話しが本当だと悟った。
見るまではヤクモがそんな事はしないと思いながらも冗談や何かの間違いだと思いたかったが、流石にここまで手の込んだ悪戯をするような奴ではないと言う事はスバルは良く知っている。
「本当にすまない! 本当はもっと早くに言わないと思ってた。だけど……中々言えなかった」
ヤクモは土下座をする勢いで頭を下げる。
そんなヤクモを見て、スバルもここのところ、ヤクモの様子がおかしかったのは気のせいではないと気が付いた。
「何だよ……それ」
ヤクモの言っている事は理解出来たが、整理が追いつかない。
「俺はもっと強くなりたい」
「……そんなの高等部でも」
「悪い。高等部の先輩達は本当にいい人達で俺も高等部に上がってあの人達と一緒にガンプラバトルをやりたいと思ってた。だけど……」
ヤクモは知ってしまった。
ガンプラバトルの高みを。
自分達と同年代ながらも、圧倒的な高い次元でガンプラバトルをしている者達。
蓮舫学園の高等部でもガンプラバトルは十分に出来る。
アドウの行いを認める事が出来ないと言うのは今でも変わらない。
だからこそ、それ以上の高みを自分でも見たいと思っている。
「俺はガンプラ学園で強くなりたい。それが俺の今の気持ちだ」
ヤクモはただ、自分の思いをスバルにぶつけた。
スバルはいきなりの話しで動揺し、逃げるように去って行く。
この場でスバルときちんと話しを付けたかったが、スバルにも整理する時間は必要だ。
今は自分の思いをスバルにぶつけただけで良いとするしかない。
ヤクモも落ち着いた頃に帰って行く。
ヤクモに合格通知のメールが送られる頃、ハクアはガンプラ学園の寮に戻って来た。
今までは静岡内でマシロがかつて拠点にしていたホテルで寝泊まりをしていたが、来年度からは自分もこっちの寮にいた方が都合が良いと空いている部屋を使えるように手続きを取って使っている。
学園内の工作室で連日、ビルドアメイジングガンダムの補習作業を行っていた。
二次試験はダメージレベルBで行っている為、バトル中のダメージはある程度は反映されているが、損傷自体は大したことはない。
だが、バトル中に起きかけた現象については、ハクアなりに知る必要がある為、今までは手を付けなかった胸部のコアユニットまで手を付けていた。
コアユニットは予備パーツも無く複製も難しい為、時間をかけてバラす必要があった。
その結果、胸部のコアユニットには素材不明の結晶体が内蔵されている事が分かった。
その結晶体の正体を調べるには時間がかかる為、断念したが、その結晶体がビルドアメイジングガンダムの膨大な粒子量を支えているのだろうと言う仮説は立てる事が出来た。
(あの程度の相手に苦戦を強いられたのは、彼の腕だけのせいじゃないわ)
ハクアの見立てでは二次試験でヤクモがバトルしたカイトは苦戦するような相手ではない。
過去のカイトのデータを見る限りではカイトの戦闘スタイルはジオン系のガンプラに多数の武器やギミックを持つガンプラを使って戦う傾向が強い。
それだけのガンプラを扱えるだけの技量にビルダーとしての腕も悪くはない。
しかし、ビルドアメイジングガンダムの性能とそれを扱えるヤクモならガンプラの性能でごり押しで勝てた相手だ。
実際、謎の現象が起きかけた後は流れは変わっていた。
それでも、押し切る事が出来ずに時間切れとなった。
その大きな原因はビルドアメイジングガンダムの装備にあるだろう。
現在のビルドアメイジングガンダムは最低限の物しか用意していない。
本来は全身のハードポイントに追加武装を取り付けて戦うのがビルドアメイジングガンダムの戦い方だ。
装備が最低限の物しかないが為に、性能でごり押しする以外に決定打に欠けていた。
格下を相手にするなら問題は無かったが、ガンプラ学園で勝ち抜く為には今のままでは難しい。
(やはり、新装備を制作するのが最優先ね)
謎の現象の事は気になるが、今はそれ以上にビルドアメイジングガンダムの装備を強化する事の方が優先すべき事だ。
そう考えていると、ハクアは自分の部屋に付いた。
鍵を開けて中に入ろうとするが、ハクアは立ち止まり、思わずドアを閉めてネームプレートを確認した。
ネームプレートには確かに自分の名前が記されている為、部屋を間違えたと言う訳でもない。
そもそも、自分の部屋の鍵で他の部屋の鍵を開けることは出来ない。
「何故……ここに? 叔父様」
尤も、部屋にいたのはマシロである為、部屋を間違えたと言う事を考える以前の事ではあった。
「理由がいるのか?」
「当然です」
マシロは自分の部屋のようにベッドに座ってくつろいている。
どうやって入ったのかなど、色々と聞きたい事は多いが、この学園はマシロが作った以上、マシロの行動を制限する事等出来ないのだろう。
「何か用ですか?」
「まぁね。今日は可愛い姪のお祝いに来たんだよ」
「お祝い……ですか?」
ハクアにはマシロに祝って貰う理由は心当たりはない。
それ以前にマシロが何かを祝うと言う事が想像できない。
「そう。お前の相方がウチに合格したお祝い」
その言葉に思わずハクアは立ち止まる。
ヤクモの事はマシロには伝えていない。
だが、マシロの方はヤクモの事はハクアの相方として知っているのだろう。
でなければ、多くの受験生の中からヤクモの事などマシロが注目する訳が無い。
「で……これはプレゼント」
マシロは足元のアタッシュケースをハクアに渡した。
ハクアは動揺を隠しながらも、アタッシュケースの中を確認する。
「これは……」
「ビルドアメイジングガンダムの装備一式。そろそろ必要になって来ると思ってな。全部で3種のセットだ。精々、有効に使ってくれ」
アタッシュケースの中にはガンプラの武器が入っていた。
武器の一部はガンプラに直接取り付けるタイプでジョイントの規格は全てビルドアメイジングガンダムの物と一致している。
これがビルドアメイジングガンダム用に制作された武器ならば、それを渡すと言う事はマシロはハクアがビルドアメイジングガンダムを持ち出したと言う事を知っていると言う事だ。
そして、ビルドアメイジングガンダムの武装強化の必要性を感じていたところに持って来たと言う事は全てを見透かされてマシロの掌で踊っていたと錯覚させられる。
「……どうしてこれを?」
「今のお前達に必要な物だからな」
「ずいぶんと余裕ですね」
ハクアは今までの行動が全てマシロに筒抜けだった可能性を考え、屈辱に震えながらも声を絞り出す。
「貴方はいつもそうやって上から人を見下して!」
ハクアは部屋の外まで聞こえそうな程の声を上げた。
だが、マシロは動じる事は無い。
「仕方が無い。実際、俺はお前よりも上にいるからな。見下されるのが嫌なら人より上に立つしかない」
ハクアは何も言い返す事が出来ない。
実際にマシロは社会的な地位においてクロガミグループの跡取りとされている自分よりも上に居る。
その地位の役目を果たしているかはともかく、社会的に見ても、ハクアがマシロよりも下に居る事は変える事の出来ない事実だ。
「そいつをどう使うかはお前の自由だ。好きに使えば良い」
マシロは用事が済んだのかさっさと出て行こうとする。
しかし、ハクアの方はそれで収まらない。
「このガンプラはアンタの使っているガンプラとは性能が段違いよ!」
「だから?」
「っ! そうやって余裕を見せられるのも今のうちよ! いずれはその余裕が命取りで足元を掬われるわ!」
ハクアの言葉にもマシロは対して興味を示さない。
マシロにとってはビルドアメイジングガンダムは良く知っている。
それが敵に回ろうとどうでも良い事だ。
幾らガンプラの性能が良くても、実際にバトルすれば勝つのは自分だからだ。
なぜならば、マシロは自分がガンプラバトルにおいて最強だと自覚しているから。
「やって見ろよ。だが、一つだけ言っておく。俺にそう言って実際に掬えた奴は過去現在、未来永劫誰もいないんだよ」
マシロはそれだけ言って今度こそ、部屋を出て行く。
マシロが居なくなった部屋でハクアは力が抜けて座り込む。
マシロが居なくなっても足の震えが止まらない。
最後の一言の時のマシロは普段とは雰囲気が違っていた。
それにハクアは恐怖し、プライドだけでマシロに食って掛かった。
しかし、マシロにとってはハクアのプライドは相手にするまでもない。
「化け物」
マシロの出て行ったドアを睨みながらハクアは呟く。
マシロが持って来たビルドアメイジングガンダムの装備を投げ捨てない衝動に駆られるも、今は必要な物であると自分を無理やり納得させる。
今はマシロからの施しなど屈辱でしかないが、耐えるしかなかった。
スバルにガンプラ学園への進学を打ち明けて、卒業式を経てヤクモは春休みとなっていた。
あれからスバルとはまともに話してはいない。
互いにどことなく気まずくなって、次第に話す機会が無くなった。
そうしている間に卒業式を迎えて中等部を卒業した。
「それじゃ行って来る」
スバルとまともに話せずに春休みに入り、互いに連絡を取る事もない。
そして、ヤクモは今日からガンプラ学園の寮に入る事になっている。
「たまには連絡しなさいよね」
「分かってる」
すでに荷物は寮の方に送っている為、ヤクモの荷物は多くはない。
静岡まではハクアが車を手配している為、母の見送りは家を出るまでだ。
今まで女手一つで育てて貰ったため、家を出て母を一人にする事は申し訳ないと思いながらも、母はヤクモが決めた道を支持して送り出してくれた。
スバルときちんと話しが出来なかった事は心残りではあるが、そこまでしてガンプラ学園に行く以上は目的通り強くならないと行く意味はない。
場合によっては全国大会でスバルとは会える機会があるかも知れない。
その時に情けない姿を見せる訳にもいかなかった。
ヤクモは気持ちを新たにハクアが手配した車に乗り込む。
静岡には試験で行ってから一月も経ってはいないが、新しい場所に向かうような気分がした。
東京に心残りはあったが、同時にガンプラ学園での生活が楽しみでもあった。
そんな心残りと楽しみを胸にヤクモはガンプラ学園へと向かった。