ヒトフタマルマル、この時間になると私は窓の外を眺めながら秘書艦と共にひと時を過ごしている。
艦娘とは今を生きる人類が唯一の希望の象徴とも言える存在である。我々海軍は艦娘の生態を観察し、共に生きることを望んでいる。幸いにも敵対することはないが、私たち人類の行動次第では瞬きする間に皆殺しにすることも可能だろう。
だが、少なくとも私はこの艦娘たちとは仲良くして行きたい。それは提督としてではなく、人としての感情だ。
「提督? 一体何をしているのデース?」
私の秘書艦である金剛が机の向かい側でぼーっとしている私に声をかける。
「あ、いや、なんでもない」
「このティータイムが終わったらお仕事頑張りましょうネ!」
提督となった私には艦娘がいなければただの木偶の坊となってしまう。何故こうまでも海軍は艦娘に頼らなければならないのか、答えは明確。あの忌々しい深海棲艦が現れたからだ。
今までの兵器は全て試したが、どれもこれも無意味。軍艦に豆鉄砲をぶつけるかのように奴らは無表情で人類から海を奪い取った。
「ウーン、今日もいい天気デスネー」
私も海軍に着いてから約二年になるか、深海棲艦の数なんて数え切れないほど見てきた。
初めはマニュアルを見ながら当時の秘書艦と一緒に右往左往したもんさ。今は金剛のサポートのお陰で立派に中将まで成り上がることが出来た。気を抜くとすぐにでも階級が下がってしまうのはどういう意図なのか未だに疑問だが。
「ヘーイ! 提督ゥー!」
「うぉッ!」
優雅に金剛が淹れてくれた紅茶をとっくに飲み終えていた金剛はよっぽど構ってもらえなかったことに不服だったのか、いきなり大声で私に向かって叫ぶ。危うく耳の鼓膜が破れるかと思うほどだ。
「お前、種族の違いを理解してないだろ、耳が逝かれるかと思ったぞ」
「そんなことより! 提督、何だか元気がなさそう……午後はお休みした方がいいネ」
げんなりしてるのはおそらくさっき取った金剛の行動が原因かと思うのだが。
それはさておき、私は金剛と一緒に過ごしているにも関わらず自分の世界に閉じこもってしまったことを謝らなければ。目の前の金剛は心配していると同時に不機嫌気味でもあるからな。
「すまん、大丈夫だ、少しこの世界について考えていただけだ」
「そうだったのですか、意外とリアリストの一面もあるんデスネ」
「意外とはなんだ、意外とは」
私の様子をみると金剛はクスクスと笑いながら「なら、問題ナッシングネー」と言い、残りの紅茶を飲み干す。
私も折角淹れてくれた紅茶が冷めてしまうまえに飲んでおかなければ。この寒い季節にはあったかいものに限る。
「それでは、後片付けしておきますヨ」
「悪いな」
「いいってことデース! 提督はしっかりと構えていればそれだけでダンディーだからネ」
「ハハッ、それは嬉しいな」
金剛とは一年前に大本営から送られてきた指令書の内容を共にこなした仲である。
その内容を初めて見たときはその目を疑ったものだ。なにせ、『ケッコンカッコカリヲハタセ』というものであり、同封されていた中身を開封すると指輪らしき物体がキラキラと小さく輝きを放っていた。
私は奥さんは愚か異性と付き合ったことすらないと言うのに、仮だとしてもすごく緊張したっけ。順番ぶっ飛ばしてないかってな。
「ふんふんふーんふん、ふふふふっふーん」
後片付けをしている金剛の後ろ姿を見ていると、本当に彼女たちは『兵器』なのか、あるいは『人』なのかわからなくなる。もしくは未来の何者かが過去を変えようと送り込んできたアンドロイドだったりと興味は尽きない。
しかし、そのうち私は今こうしてゆっくりと午後を過ごせるような時間があればそれでいいという余裕すら出てきた。成長したなぁ私も。
「さぁて! 任務完了デース!」
「おつかれ、後は私の仕事をこなすのみだからのんびりしててくれ」
「それは聞き入れられない相談デース、秘書艦としての私をもっと頼って下さいヨ」
「といっても……この書類を片付けるだけだからな」
提督として与えられた仕事はきっちりこなしている。時々大規模な出撃命令が出るが今は鎮守府周回の警備及び、安全を確認するぐらいか。気が付いたら潜水艦だらけでパーティーされてるとか笑えないからな。
手元にある書類も目を通した後駆逐艦たちに出撃させてその結果を送るだけ、金剛の出番はないと判断する。
「ムゥー、いいから寄越すデース!」
「あ! こら!」
金剛は私と同じくらいの背丈をしていてスタイルもとてもいい帰国子女。そんな美人さんがいきなり間合いを詰めて近寄って来たら女性経験が少ない私には息が上がらざるを得なかった。
「ムフフフ……提督、顔が真っ赤ネ」
「ち、近いんだ……もう少し離れて「スキありデース!」うぉっ!?」
しまった、完全に油断した。金剛が離れると同時に俺の手元には何も握られていなかった。
「ふんふん……なるほどネー」
「はぁ……俺もまだまだだな」
女の誘惑に見事に負けた私は男としてまだまだ未熟なことを思い知らされる。しかし、金剛は気付いてないかもしれないがあの時豊かな胸の谷間も垣間見えたことは黙っておこう。
「ンー? 提督、ここ見て下さい」
「どうした?」
「ほら、提督の字ですヨネ? 間違ってるネ」
「本当か!」
慌てて真面目に金剛の傍に駆け寄り指で刺した場所を確認する。そこには確かに俺の字で任務を受領した証を記したサインがあったのだがどうやら文字を間違えていたらしい。
「うお……本当だ、すぐにでも訂正しなければ。ありがとう、金剛」
「どういたしまして」
今の金剛はさながら鎮守府に舞い降りた女神だ、こんな凡ミスするとは慢心も程々ということをだな。
……慢心か、そんな言葉、とうに捨てたと思っていたが。
「これで、秘書艦スキルも上がりました! 提督と一緒に仕事するレベルに達したデース!」
金剛は私の小さなミスを見つけたことによりドヤ顔でこっちを見てくる。うん、言いたいことは分かるから今はその視線を向けないでくれ恥ずかしい。
「分かったよ、こんなことでいいなら手伝ってくれ。とても有難い」
「提督も素直じゃないネー」
「照れてるだけだ、察してくれ」
「了解デース」
御意の念を全く感じないニヤケた顔をしているな……思わず笑ってしまうよ。
「それじゃ、金剛はそっちでデスクワークしててくれ。といっても量はそこまで多くないからさっきみたいに私の書類の誤字チェックをしてくれ」
「分かったヨ!」
ヒトサンマルマル、私たちは優雅に提督室で仕事を行う。それは人類の未来のためではなく、私と金剛とこの鎮守府にいる全ての艦娘のために私は今日も働くのであった。
「とりあえず、こんなところか」
日記を付け始めた訳だが、こんな感じでいいのかな? よく分からないが、こんなモノを敵の手にでも渡れば……いや、考えすぎだろうな。
「さて、明日も頑張るかー」
日記の内容はとりあえず何か起これば書き記すことにするか。それがどんなに楽しいことであっても、辛いことであっても、未来の俺に同じ過ちを繰り返させぬように。
「……一人で何格好付けてるデース?」
「ほわぁっ!」
背後から近寄ってくる人物に気付かずにいた私は素っ頓狂な声を出してしまう。
「面白い声を出しますネー」
「お前なあ……」
後ろを振り向くとやはり金剛がニヤニヤしながら面白がっている。呆れと大淀辺りに見られていたならばという安心感が混ざった複雑な溜息を零す。
「それで、提督はこのノートに何を記入していたのカナ?」
「お願いします、どうか見ないで下さい恥ずかしい」
こんな情けない姿を見られるのは金剛、お前だからなんだからな!?完全にドジを踏んでしまった。
「……ふむふむ、提督の着任してからの記録ですか?」
私の言葉を無視して私が驚いたと同時に手放したそれをじっくりと読んでいる金剛。
「うむ、そうだ。だから返してくれ」
「○月△日――今日から俺は提督として立派な使命を「もうやめてくれ……」Oh!?何も泣かなくても!」
時刻は深夜を迎えようとしている。こんな騒ぎ、廊下にでも漏れているんじゃないかと冷や汗をかいてしまう。
それなのに私の秘書艦は、あろう事か声に出して読み始めているではないか。
「オーケーオーケー。冗談が過ぎました。これは提督に返すネ」
急に素直になった金剛はなんの疑いもなく素直に私の手元へとそれを返してくれた。満足したのだろうか?
「あ、ありがとう……」
「その代わり、また後日。昔の提督について教えて下さいネェ!」
「え、ちょ、おま」
「それでは提督、Have a good nightデース!」
悪い顔を満面に浮かべて金剛は提督室を出て行った。ック、なんということだ、この黒歴史は上司にしか見せることがないと思っていたというのに……。
「……改竄は、ダメだよな。提督として居られなくなるし」
ここまで何事も難なくこなせてきた仕事ではない。当然大きな事件もあった。そんな出来事はしっかりと記憶して記録しておかなくてはならない。これは提督としての義務であり、過去の私への教訓なのだ。
「今日は寝て、明日考えるか」
金剛とは今も長い付き合いだ。見られてもきっと問題はないだろう。私は秘書艦を信じ、消灯もしっかり確認した後、提督室を後にした。
どうも、こきゅーです。初めましての方は初めまして。
ここでは私についての紹介とこの作品を書こうと思った経緯について軽く説明させていただきます。
といっても、他の作品を今書いているのですが話が長すぎて終わりが見えない→ならば短くさくっと書けるような小説はどうだろう。
ということでこの作品を書いてみました。
アニメでも最終回を迎えましたことですし、ちょっと私も艦これで何かできないかなーと思いキーボードでカチャカチャやってます。
それでは、次回の投稿は未定ですが、よろしくお願いします。