「それなら昨日の続きを聞かせてくだサーイ! 提督は勝ったのですか? 負けたのですか?」
「勿論作戦は成功した。既に何度か敵と接触していたから日誌には止めを指した編成を書いている」
「なるほど! 私が着任してなくても提督はカッコ良かったのデスネ!」
「そうでもないさ……まだあの頃は未熟者過ぎた。日誌を一人読み返していると悲しい出来事も記録してあるんだなって思ったよ。真面目だな過去の俺」
「でも、その経験を糧に今の提督がいるのデス! 私は今の提督も好きですよ?」
「……ありがとう」
(いつまでも金剛に頼りっきりという訳にもいかないよな。あの件は必ず解決してみせる)
「むっふふ~、良いってことデース!」
コンコン
「どうぞ」
「失礼いたします。第三艦隊旗艦香取、練習遠洋航海より只今戻りました」
「ご苦労様。ん? 他の駆逐艦は何処だ?」
「あの子達なら疲れていたので先に休ませました。報告はこの香取で十分ですので」
「そうだな。お前も疲れたろ? 無事も確認できたし部屋に戻っておけ」
「了解しました」
「そ・の・ま・え・に! 香取線香! 提督の昔話に興味はないですか?」
「線香は余計ですが、提督の昔のお姿ですか……興味ありますわ」
「あ、そうなるのね」
「yes! 今日のゲストは決まりデース!」
「よろしくお願い致します」
「ああ、うん、分かったよ……といっても昨日舞風と野分に話した続きだから分からないところもあるかもしれんぞ?」
「そこは金剛さんに尋ねておきますのでご心配なく」
「ふむ、分かった。では始めるか……」
◎月□日
今日は鎮守府近海攻略を記念して友人がお祝いにと遊びに来た。彼とは幼いときから仲が良く一緒に過ごすことが多かった。けれど歳を取るに連れ話す機会も減るものだとつくづく感じる。それでも奴はこうして会う口実を作ってくれたのだ、嬉しいことはない。
「おっす! 提督さん」
「おう、よく来てくれた」
私の鎮守府付近の安全は一先ず確保されたことにより今後もこのような機会が増えるだろうと笑顔で話してくれた。
「なるほど、これが御友人の鎮守府ですね」
「御友人の提督、私は秘書艦の長門だ。友人提督からいつも聞かされている」
長門か、昔の軍艦の中で得に有名な戦艦だ。彼女がいれば殆どの海域を制覇出来るほどの力を秘めていると聞く。そんな艦娘に会えるなんて光栄だ、快く挨拶をする。
「私がこの鎮守府の責任者兼提督だ。そしてこっちが」
「電です。どうかよろしくお願いします」
駆逐艦と言えど私の立派な秘書艦だ。彼女たちと共にオリョールまでは海域を奪還したのだ、胸を張って紹介する。
「なんだお前、ロリコンか」
教官、私は初めて同志に殺意が沸きましたことを記しておきます。
「冗談だよ。因みに此方が榛名、俺のエースさ」
「榛名が? てっきり長門かと思ったが」
「長門はまだ練度が低くてな。それでも戦闘に出れば敵艦隊を見事壊滅させてくれる」
流石は名の知れた戦艦だ。しかし長門以上の付き合いがあるという榛名は何者だろうか。高速戦艦なだけに無傷で生還するのだろうか。うちにも先日霧島が着任したがまだ練度が低い。だが恥ずかしい話、未だに重武装可能な艦娘が少ないので霧島に頼ることもよくある。
「それで、本題に入ろうか」
「なんだ、ただ祝いに来たという訳ではないのか」
「当たり前だ。俺とお前は運命共同体。離れることはできんのだ」
「分かった分かった。それで本題って?」
「お前の鎮守府も始めに比べ立派になった。艦娘たちも強く成長した。だが近いうちにお前たちに第一の試練が立ち塞がるだろう」
初めは聞いたとき、今一分からなかったがこの日誌を残している今の私ならわかる。アイツはあ号艦隊決戦のことを言っていたのだ。南西諸島海域の締めである沖ノ島海域に敵機動部隊が襲来。これを撃滅せよというものだ。後に詳しく日誌に経過報告を載せる。
「それでだ、私の艦隊に演習しに来い」
演習か、私も初めての演習は気を張ったものだ。電も緊張していたのか、初めての実践訓練で不慣れだったのか負けてしまった……お相手も駆逐艦の叢雲の練度は低め、丁度いいと思っていたのが満身だったようだ。魚雷で最後に差をつけられてしまった。
「早朝でも深夜でも構わん。敵はいつ攻めてくるか分からんからな。ただし二、三日の期間にしてくれ。それ以上は疲れる。どうだ、俺たちとやらないか?」
言い方に少し引っ掛かるが演習相手が出来るのは良いことだ。私たちはもっと強くなれるのだから。
「その演習、是非とも受けさせてもらおう。電もいいよな?」
「勿論なのです! どんな相手にも負けないのです!」
「駆逐艦に無理はさせるなよ? んじゃ、今日は楽しかったぜ」
「ああ、此方こそありがとう。また演習で」
奴は満面の笑みで私の鎮守府を後にした。電は「帰りを案内してあげるのです!」と執務室を出て慌てて追いかけていった。
『駆逐艦に無理はさせるなよ?』
友人の言葉が少し気掛かりになったのか一人になるとこの言葉が不意に思い出される。
「……早く電を楽にさせてやらないとな」
思えば私が着任してからずっと小さな体に仕事を任せたり出撃させたりと負担をかけていた。そろそろ代わりの秘書艦を探した方がいいかもしれん。
友人を無事見送ったことを報告した電が戻ってくると早速友人に勝つために訓練を励むと言い残し執務室から出ていってしまった。その後、私はあ号艦隊決戦のことについて通告を受けた。
――――☆
○月△日
先日記した作戦のことだが、私は苦戦を強いられていた。電を旗艦に何度も敵機動部隊との接触を試みるが上手く行かない。何度も進路を反らされてしまいまるで見えない力に邪魔されているかのようだった。
友人との演習については……結果だけ言えば戦術的勝利、と言ったところか。友人のところに演習(もとい奇襲)を仕掛けると榛名だけが戦えるという状態だった。
「どういうことだ?」
「今は遠征やら出撃での傷を癒していたりタイミングが最悪なんだよね~。いや~お前攻め込むの上手いな、監視でもしていたのかな?」
「いや……そう言うわけではないが……いいのか?」
「敵が悠長に待ってくれってお願いして、それを聞き入れる奴はいないだろ? つまりだ、俺はこの榛名で、お前との演習を挑みたい」
「good」
なかなか男気のあるやつだったな……私はそのときは旗艦電、霧島、鳥海、足柄、北上、千歳の艦隊で挑んだのだ。
「提督の友人さんもなかなかの強豪のようですね……」
「榛名は、提督のためなら演習でも手を抜きません!」
序盤、私の艦娘たちは榛名に目掛けて集中砲火を浴びせるものの高速戦艦らしく見事に避けられる。避ける戦艦……それはとてつもなく恐ろしいことで霧島以外友人の榛名一人に苦戦を強いられる。
最後は戦艦同士の打ち合いだった……僅かに霧島の速度が遅く避けそびれてしまう。まともに戦艦に損傷を与えることが可能なのは霧島か鳥海ぐらいだが鳥海は既に中破しており霧島頼りであった。
「ふむ、戦術的敗北……惜しかったな榛名」
「榛名、負けちゃいました……」
「よしよし、一人でよく頑張ったな。後で金剛たちとティータイムでもしようか」
「いいのですか……榛名に気を使って下さって……」
「勿論だ、榛名は可愛いからな!」
「もう、提督ったら恥ずかしいです……」
「恥ずかしがる榛名はもっと可愛いなぁ! 服も破れて相乗効果がいい感じだ!」
教官、この提督は憲兵に突き出した方が良いかもしれません。道を踏み外すその前に。
「お? すまんな。お前も榛名の魅力に引かれたか?」
「んなわけないだろ」
「もうちょっと気楽にした方がいいんじゃないの? 艦娘も人と同じ感情を持っているんだしさ」
「……参考にさせてもらう」
「なんか落ち込んでるなぁ?」
実際、気持ちが沈まない訳がなかった。私は、私たちはまだまだ弱いと。たった一人にこれ程まで苦戦するのは私たちの練度が足りないからだと悟った。もっと強くなって、艦娘たちも平和に暮らせるような世界を迎えたい。入隊直後では考えなかったことだ。
だが電たちと共に歩むことでそんな気持ちが沸き上がってくるのだ。
だから、こんな調子じゃダメなんだ。
「いや、感謝してるよ? 霧島たちの戦力強化に繋がったのだから」
「ならいいが……お前の秘書艦ボロボロだぞ?」
「うぉ! すまない電、今すぐ帰ろう! そして入渠しよう!」
「……ごめんなさいです」
「謝ることはない。さぁ、皆も帰るぞ!」
とまぁ、友人との演習のお陰で艦娘のことや私たち自身のことをよく知れた。いい経験をさせてもらった。
そのあと、私は何度か演習を重ね艦隊の強化に勤しんだ。その間、敵機動部隊を押さえておくためにも、あくまで敵艦隊の壊滅ではなく艦娘が負けない戦いをした。
この日誌に勝利を刻み込めるその日まで――。
「そして、遂に私たちは敵機動部隊との接触に成功し、見事勝利を掴みとったのだ。当時の我が艦隊は千代田を旗艦、山城、金剛、赤城、千歳、霧島で壊滅させた」
「そうデース! 私も大活躍しましたー!」
この時はまだ私は呑気に喜んでいたっけ……思えば、それが満身となったきっかけだったのかもしれん。
「そうだったのですか……そう、なのですね」
「どうした香取」
「いえ、提督の人柄を知れて良かったです」
「そうか……なあ、香取」
「何ですか?」
「私は、艦娘から見ればどんな提督だろうか」
「提督……?」
「すまない、分かりきっているよな……」
「もしかして、鎮守府で流行っている『電』さんの話でしょうか?」
「…………」
私はゆっくりと首を縦に降った。
「そうですね……一部の駆逐艦の子たちは時々海の底を眺めていましたが……」
「ありがとう……やはりそうか」
「それでは、私もそろそろ失礼いたします。何かあったか存じませんが提督は提督、もっと胸を張って下さい。貴方は一人ではないのですから」
「そうだな……金剛」
「何でしょうか」
「次は電を連れてきてくれ。アイツと直接話をしたい」
「了解ネ」