Going blue road.   作:CiAn.

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その恋難き、彼女は恋敵?

 何も見えない、何も聞こえない、誰もいない。そんな時に僕は目が覚めた。体を起こそうとすると胸の辺りに鋭い痛みが走った。

 なんとかして人を呼ぼうと手探りで自分のいる周辺をあさっていると指先に硬い何かが当たった。それを握るとカチッと音がして間を置かずに控えめな音がなった。

 ――ああ、これはナースコールみたいだ。そう思っていると廊下から足音が聞こえてきた。それがピタリと止まるとドアが開き、光量が絞られた照明が点けられた。

「宍戸さん!目を覚まされたんですね。体調はどうですか?」

 ああ、あんなところにドアがあったんだ、と悠長なことを考えていたけどその言葉は妙な違和感があった。

「……それは僕のことでしょうか?」

「!?」

 その女性は一瞬驚きはしたもののすぐに冷静さを取り戻して僕に近寄った。

「名前は覚えてないんですよね……。ここに来る前のことは覚えてる?ちょっとでもいいから」

「いいえ。何も思い出せません」

 まるでつい先ほど生まれたかのように記憶がない。むしろ僕に過去があるのかも信じることができなかった。

「じゃあ、質問しますね。日本の首都は?」

「東京です」

「1日は何時間ですか?」

「24時間」

「この携帯の電源を入れてみてください」

 言われたとおり電源を入れるとその女性は納得したように頷いた。

「一般的な知識の欠如は見られません。容態は記憶喪失と見て間違いありませんね。体の方はまだ痛みますか?」

「はい。……あの、僕は一体何があってこんなことになったんですか?」

 なんだか落ち着かなくなって僕はそう聞いてみた。

「あなたは家で出血して倒れていたんです。幸いご家族の方が早期発見に至ったために助かりはしましたが、正直危ないところでしたよ」

 僕のそんな問いにその女性は快く答えてくれた。しかし、出血して倒れていただなんて何があったのだろう?記憶がなくなったのも相まってか随分と気になってしまった。

「ひとまず今日は安静にして眠ってください。下手を打つと傷が開いてしまいますからね」

 そう言われて、僕は再びベットで横になったが、この夜はあまり眠れなかった。

 

 翌日になっても僕の不安は消えなかった。過去に何があったのかを思い出せないというのは精神的にキツいものだった。

 その日の夕刻、僕が居る病室に何人かの同い年の人達が来た。当然その人たちにも見覚えはない。

「あの、さ……。記憶がないって本当なのか?」

「……すみません。何も、覚えてなくて」

 自分すら理解できない僕にはこう返すしかできなかった。

「気にするなよ。ゆっくり思い出せばいいんだ。なんなら思い出さなくったっていい、また俺たちと遊ぼうぜ」

「だから早く退院してくれよ。宍戸がいないとつまんねぇからさ」

 口々にそう言って励ましてくれるみんなは優しくて、面会時間のギリギリまで一緒に話をしてくれた。どうやら僕のクラスメイトだったらしい。過去のことはあまり話してくれなかったけど、それは記憶喪失の僕を気遣ってくれたのだろう。

「ありがとうございます。こんなに遅くまで……」

「いいって、また明日来るよ」

「じゃあな」

「はい。気をつけて帰ってください」

 手を振って病室を出て行った級友は僕が退院する日まで1日と欠かさずに面会に来てくれた。そんな優しいみんなの為に記憶を取り戻したいと思っても、焦るばかりでなに1つ思い出せないまま時が過ぎていった。

 その間もずっと僕を気遣ってくれた。不安に駆られていた僕に与えられたその優しさは今こうして生きるための原動力になっている。

 僕がもらった優しさと同じもので、世界中が包まれることが僕の夢になった。そしてその対岸にあるのは争いだと思ったから僕は人を傷つける行為を酷く拒むようになった。

 

 ――だから

 

(この気持ちは本来あってはならないんだ。まして戦う姿に魅了されるなんて……)

 昨夜にあの時の夢を見たことで僕の中の葛藤はより大きくなっていった。それなのに眼鏡越しの僕の目はオルコットさんを見ていた。

 今はISの飛行演習を一夏君とオルコットさんがお互いの専用機で行っていた。

 一夏君が使っているのは『白式』。国産のISであり、以前のオルコットさんとの試合で見せたようになかなか癖の強い仕様となっている。武器は近接ブレードの雪片弐型だけなのに加えて装備を後付するためのスロットがない。それは機動力や性能にそちらの分に割り振られるエネルギーも使われているかららしい。

 オルコットさんが使っているのは『ブルー・ティアーズ』。その名の通り装甲は青く、フォルムは曲線的で雫を連想させた。イギリスが完成させようとしている思考同調型新装BTを初搭載した試験用のISだ。初期武装としてその新兵装である自立式稼働兵器ブルー・ティアーズがあり、後付けの武装としてスターライトmkⅢが積まれている。

 スペック上の出力では白式の方が上なのだけどオルコットさんの経験が優っているため、ブルー・ティアーズは一夏君より前を飛んでいた。

「よし。続いて急降下と完全停止だ。目標は地表から10センチだ」

 織斑先生に言われてまずはオルコットさんが地表に向かって降りていった。豆粒ほどだったその姿が徐々に大きくなったかと思うと地表のギリギリで止まった。

「……凄い」

 鮮やかな手並みでそれを行ったオルコットさんはやはり自信に満ち溢れた凛々しい表情でISを解除した。

 続いて空高くから白い影、一夏君が降りてくる。が――

「あ……」

 ものすごい音とともに一夏君はグラウンドに撃墜した。クレーターのようにくぼんだ地面は深く一夏君の姿が見えない。

 その時僕の隣を誰かが走り抜けた。

「大丈夫ですか、一夏さん?お怪我はなくて?」

 気がついていた。僕がオルコットさんを好きになってはいけないもう1つの理由。彼女は一夏君に好意を寄せている。

 戦い合って何に触れたのかは分からない。僕にないものを一夏君はたくさん持っているから。

 放課後には一夏君の特訓に付き合ってあげたりと、最初に比べてかなり気を許しているところからも彼女が織斑君に向ける気持ちが伺える。

 そんなオルコットさんを見ていれば僕のやることは決まっていた。自分の気持ちを封じてしまえば悩む必要はなくなる。

(でも、まだ無理そうだな……)

 

「では今日の分は終わりです」

「ありがとうございました」

 いつもの通り放課後の補習を終えて山田先生が出て行って1人だけの教室で体を伸ばす。1週間で全範囲覚えるのはさすがに無理だと山田先生が説得してくれたおかげで織斑先生から怒られることはなかった。ちなみに今は全体の3分の1しか覚えられてない。

 教科書を片付けて教室を出るとオルコットさんにばったりと出くわした。

「あら、宍戸さん。まだやっていましたのね」

「ええ。オルコットさんも一夏君との特訓お疲れ様です」

「あのくらいなんてことはありませんわ。それよりも一夏さんにはクラス対抗戦に向けてもっと強くなって貰いませんと」

 一夏さん、か……。本当に丸くなったものだなと心底思う。僕のことを『宍戸さん』と呼んでいることから一夏君に特別な感情を抱いているのは明らかだった。

 なのにオルコットさんを前にするだけで胸の内の感情が段々と大きくなっていく。早くこの気持ちに終止符を打たなければならない。

 そのためには――

「ところで、ものは相談なのですがISのことについて教えていただけませんか?」

「ああ、そういえば以前はそんなことも言っていましたわね。構いませんわよ。以前は断ってしまいましたから……」

 どうやら一応気にしてはくれていたみたいだ。なんだか嬉しくなった。

「では一夏君も一緒によろしくお願いしますね」

「ええ!?い、一夏さんも!?」

 突然の提案だったからかオルコットさんは目に見えて驚いていた。

「……あなたも一夏君との距離を縮めたいのでしょう?」

「し、知っていましたの!?」

 小声でそう尋ねるとオルコットさんは心底驚いたように声を裏返らせた。この言葉を言ったからには僕は後には引けない。僕の気持ちは表に出てはいけないものになった。

「サポートしますよ。僕にできることならば」

「本当ですの……?自分で言うのもおかしいですけど、わたくしは今まであなたに酷いことを言ってきましたのよ?」

「そうでしたっけ?」

 正直心当たりがない。確かに少し口調がキツかったかもしれないけど別に根に持つほどでもないし、暴言をはかれたわけでもない。

 それに僕からすればオルコットさんに教えてもらえるのだから、これくらいしても当然だと思っている。

「どうでしょう、僕たちの部屋に来ていただけませんか?」

「し、仕方ありませんわね……。特別に一夏さんとあなたに教えて差し上げますわ!」

「ありがとうございます。それでは行きましょうか」

 僕は隣でいつもの表情を作っているオルコットさんをひっそりと見ながら自室に向かった。

 

 

 

 

(お人好し……なのかしら?それとも何か他に考えがあるといいますの?)

 隣を歩く宍戸さんは始めこそ生き生きとしていたのに、今ではいつもの緊張して落ち着きのない表情になっていた。

 まさかわたくしの一夏さんへの気持ちを知っているとも思わなかったし、それを応援してくれるなんて考えもしなかった。

(それにわたくしは宍戸さんを嫌っていましたのに……)

 実を言うと彼の顔色を伺うような態度がわたくしが嫌っていた父と重なって仕方なかった。

 ISができる以前から母はいくつもの会社を経営し、成功を収めていた。若きカリスマ女性企業家として名を馳せていた母に婿入りした父は腰が低く、母の邪魔になることを恐れて積極的に話しかけようとはしなかった。

 そんな父を見たからだろうか。幼少のわたくしは将来は父のような人とは結婚しないと幼いながらも決めていた。

 だから宍戸さんはその象徴のようなものだった。もちろんこの女尊男卑の社会も影響があるかもしれないが、それにしたって自分というものが薄い。

 ――それもあってだからだろうか。一夏さんの決して媚びることのない姿勢がわたくしの目には魅力的に見えた。

 わたくしの前に現れた2人の男子は真っ二つに好きと嫌いで分かれていた。

(だからわたくしも嫌われていると思っていましたのに)

「その……、オルコットさん」

 考え事をしていると宍戸さんが話しかけてきた。いつの間にかフードまで被っていたようだ。

「なんですの?」

「1つ、質問してもいいですか?」

「ええ、構いませんわよ」

 少し周りに目を向けてから口を開いた。

「オルコットさんはどうして一夏君にクラス代表になってもらったんですか?」

「それは以前に教室で話したでしょう?一夏さんにはもっと経験を積んでもらった方が良いのですから、そういった機会が多いクラス代表は適任なのですわ」

「本当にそれだけなのでしょうか?」

「……なるほど」

 ただ人の顔色を伺っているだけではなさそうだ。人の機微を決して見逃さずそれを自分の中で予想を立てる。そしてその予想は当たっていて、今は答え合わせのような段階だろうか。

「わたくしは相応しくないと、そう考えただけですわ」

「一体なぜですか?僕はあなたほど適任な方はいないと思いますけど」

「あなたが代表に技量と経験を求めるのならわたくしでも構いませんわ。でも、違いますの」

 どれだけの技術も、どれだけのキャリアも、上に立つ人間を決めるために必要なことであっても、それで全ての人を引っ張っていけるわけではない。

「わたくしに欠けているもの――、彼には人を惹きつける意志の強さや愚直とも言えるような誠実さがありましたの」

「オルコットさんにも持てないものがあるなんて……なんだか意外です」

「ありますわよ。わたくしも今はただの15歳ですから」

 普通ならこういうことは他人に話そうとはしないが、宍戸さんは協力してくれるみたいだし少しは話してもいいだろう。

「ですから自分勝手に冷たく当たったり、優しくしたりしてしまいますのよ」

「一夏君はもう気にしてないみたいですけどね」

「そ、そうですの!?何か言っていませんでした!?」

「え、ええ……」

 気にしていたことなのでつい声が大きくなってしまった。気弱な宍戸さんが驚いていたので、わたくしは咳払いをして平静を装った。

「と、とにかく……。気にしてないようなら構いませんわ」

「安心されたようで良かったです。……あ、着きましたよ」

 ネームプレートの『織斑一夏』の文字を見て、わたくしは喉の調子を整え始めた。

 

 

 

 

「一夏君、いる?」

「おお、朔夜か。遅くまでお疲れ……って、セシリアもいるのか?」

 一夏君は僕の後ろにいるオルコットさんに気づいてそう言った。想定していたことなので困りはしない。

「うん。ちょっとまだ分からないことがあるから教えてもらおうかなって。どうせなら一夏君もと思って来てもらったんだけどどうかな?」

 同室ということもあってか一夏君とは自然体で話せるようになった。この調子で他の人とも、と行きたいけどそれはまだ後になりそうだ。

「まあ、この前も千冬姉に怒られたし、ちょっとは勉強したほうがいいかもな。よろしく、セシリア」

「ええ。わたくしが教えるのですから大船に乗ったつもりでいて良くってよ」

 これで条件は整った。僕は予備の椅子を机まで運んで一夏君に真ん中に座るように促した。その左隣に僕が、右にオルコットさんが座る。大切なのはオルコットさんの隣に一夏君が座ることだ。この場合オルコットさんが真ん中だと僕も隣に座ることになるので特別感が生まれないから、この配置が大切だ。

「それでは始めましょう。一夏さん、まずはどこから始めましょう?」

「そうだな……。じゃあ明日の予習からしていいか?」

「一夏さんももう少し早く覚えていかないと置いて行かれますわよ」

「仕方ないだろ時間がないんだから」

 そんなこんなで始まった明日の授業の予習ではあるが僕は大体頭に入っているので予習よりは復習という感覚に近かった。しかしオルコットさんの教え方はとても細かくて、気になっていた些細なところまで教えてくれた。僕が『そういうもの』と割り切っていたところも根本の理由などが理解できたことでより深く印象に残っていった。

 これは思わぬ収穫だな、と思いながら横を見るとオルコットさんは教科書を覗くような体勢をとって一夏君に体をくっつけていた。意外と積極的だなと思いながらも、やはりその気持ちは本気なのだと確信する。だとしたら俄然応援したい。それが僕の気持ちを封じることに繋がるのだから。

「しかしISってのはよく分からないな。そもそも動力源は何なんだ?シールドエネルギーみたいに別にあるのか?」

「明確にはシールドエネルギーと同じものですわ。ただそれはシールドエネルギー分、稼働分と言った具合で配分されていますの。ですから一夏さんの零落白夜のようにシールドエネルギーを攻撃に転化することも可能ですのよ」

「そうなのか、てっきり違うものだと思ってたよ」

「この辺りは授業でやるとしたらもう少し後になりますから、その時に詳しく教えてもらえると思いますわ」

「オルコットさんの教え方は丁寧で分かりやすいですね」

 無意識にそんな言葉が口から出ていた。本心ではあるが自分でも驚いた。

「代表候補生ともなれば人一倍ISを理解する必要がありますからこのくらいは当然ですわ。ですが分かりやすかったのなら嬉しいですわね」

「いや、本当に分かりやすいよ。ISの模擬戦の時もこんな感じで教えてほしいんだけど」

「なっ、わたくしの教え方に不満がありますの!?」

「だって右後方に15度とか咄嗟に考えられないしさ……」

 放課後の2人がどのように練習しているのかは分からないけど、聞く限りでは順調ではあるようだ。それにしても僕の専用機はいつになるんだろ?あの日以来その話を一向に聞かない。専用機があってもほとんど使わないだろうから関係はないけど。

「一夏さんは細やかな動きが苦手なのですからわたくしの教え方でなければ改善されませんわ!」

「にしたって限度があるだろ!もう少し順序を踏んでいかないとついていけねえよ!」

 2人は知らぬ間に言い争っていた。険悪なムードというわけではなく、意見交換のような感じなので止める必要はまだないだろう。

「む~、分かりましたわ。では明日の放課後に実際にやってみてどちらが適しているかはっきりさせますわよ」

「やっぱり明日もあるのか……。おっと、もうこんな時間だ。そろそろお開きにしないか?」

「そうですわね。浴場も混んでしまいますし今日はこのくらいで」

「今日はありがとうございました」

 大体30分くらい経っただろうか。集中していたので早く感じる。

「部屋まで送りましょうか?」

 その言葉とともに僕はオルコットさんにアイコンタクトを送る。考えを理解したのかオルコットさんは小さく頷いた。

「気が利きますわね。一夏さんも殿方として見習ってくださいな」

「でも3人で歩くのって邪魔になるだろ俺はここで――」

「そういう無粋なことは言うものではありませんわ」

「分かったよ。部屋まで送る」

「ええ。合格ですわ」

 それを合図に僕は自分の携帯を鳴らす。あたかも電話がかかってきたように2人から離れて少し話して電話を切るふりをする。

「ごめん、ちょっと先生に呼ばれたから職員室に行ってくる。一夏君、オルコットさんのこと任せてもいいかな?」

「呼ばれたなら仕方ないさ。それに歩く分にはこっちのほうがいいしな」

「うん。それじゃあ行ってくるよ」

 小走りで部屋から出て、念のため職員室の方向へ向かってから外に出る。フードを被って目立たないようにして校舎の周りをブラブラと歩く。

 まだ春の名残が残る風が吹いて制服の裾を揺らした。

(オルコットさん、上手くいくといいな……)

 正直廊下での話はびっくりしたけど、人は神ではないしどこか欠けていて普通のことだ。ただ僕が過剰に尊敬していただけだ。おそらくそれは初恋の盲目も加担していたのだろう。

(すっぱり諦めるのって難しいなぁ。向こうが他に好きな人がいる時点で結果は分かってるのに)

 自動販売機が目に入ったので何か買おうとポケットに手を入れたけど、財布は部屋に置いたままだった。喉も渇いたのでそろそろ帰ろうと寮がある方へ足を向ける。

『ちょっと、そこのあんた!』

「ひぃっ!?」

 歩きだそうとした僕の背中に女の子と思われる声がかけられた。入学時のように驚いて声が出てしまった。

「なにビビってんのよ。それよりちょうど良かったわ。総合事務受付って場所まで案内してくれる?」

「え、ぼ、僕ですか?」

「あんた以外周りにいないじゃない。早く転入手続きしないといけないのよ」

 突然現れたその子は初対面の僕に遠慮なく道案内を強いてきた。まあ大して遠くもないし構わないけど、この時期に転入なんて変わってるな……。

「じゃあ、ついてきてください。そう遠くはないので……」

「ん、よろしく」

 明るくなった場所でその子を見ると意外と背が小さかった。あんな態度だから長身で上から目線な感じの子をイメージしていた。

 髪は左右で高く縛ってあり、いわゆるツインテールのような感じだろうか?そういう知識はあまりないので詳しくはないけど。

「あ、もしかしてIS学園に入ったっていう男ってあんた?」

「は、はい。……宍戸朔夜です」

「もう1人いるわよね、ここに入ってきたの」

「一夏君ですね。もしかしてお知り合いですか……?」

「腐れ縁ってやつよ。大した仲じゃないし」

 そう言ってはいるが少し違和感がある。どう見ても嫌がっているようには見えないし、もしかしたらオルコットさんのライバルになるかもしれない。

 試しにかまをかけてみようか…。

「一夏君は僕と違って凄く人気ですよ。特に女子には」

「はぁ!?なんであいつが女子に好かれてんのよ!」

「な、なぜと言われましても……」

 想像していなかった剣幕で睨まれた。しかしこれは確実に一夏君に脈有りと見て間違いないだろう。好きとまではいかなくても気にはかけてるはずだ。

「え~とっ……。あ、着きましたよ!それでは僕はこれで……!」

「あ、こら!詳しく聞かせなさいよ!」

 そう叫んではいたが追っては来なかった。脱兎の如く寮の自室に駆け込んで扉を閉める。中では一夏君が不思議そうにこちらを見ていた。

「どうしたんだよ朔夜。顔色悪いぞ?」

「ちょっと怖い人にあってね……」

「それは物騒だな、鍵でも閉めておかなきゃな」

 そんな会話をしながら僕は就寝の準備を始めた。今日はいつもより体力を使ったから疲れていたようで、シャワーを浴びるとすぐに眠ってしまった。

 

 翌日の朝。教室では1つの話題で持ちきりだった。何でも転校生が来るというらしいのだけど、心当たりがあるのでなんとも反応に困る話だった。

「なんでも中国の代表候補生らしいよ」

「へー、どんなやつだろうな?」

「そんなことより一夏さんはクラス代表戦に向けて今後の練習を考えませんと。あまり時間もありませんのよ」

「やれるだけやってみるよ」

 そういえばクラス対抗戦も残り2週間ほどだろうか。あまり悠長に構えられないし、他のクラスも練習に躍起になる頃だろう。

「でも今のところ専用機持ちは1組と4組だけだから余裕だよ」

「そうそう、優勝しちゃってよ織斑君」

「――その情報古いよ」

 和やかなムードに突如聞きなれない声が響いた。しかしなんだかどこかで聞いた覚えもあるような気もするが、一体誰だろう。そう思い振り向いて後ろを見た。

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝させないから」

 やっぱり、昨日のあの子だ。でもなんだろう、昨日と少し喋り方も声のトーンも違う。

「鈴……?お前、鈴なのか!?」

「そうよ。中国の代表候補生の凰鈴音、今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 新たに登場したその少女にこの場にいた多くの生徒が見入っていた。今回のクラス代表選、一筋縄では行きそうにないようだ……。

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