Going blue road.   作:CiAn.

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結構更新が遅くなってしまいました。
これからかなり立て込むので今以上に遅くなってしまいますが気が向いた時に検索して「あ、続編出てんじゃん」くらいな感じで待ってくれると幸いですw
これで原作の1巻分が終わった感じですね、疲れます(* _ω_)...


クラス代表対抗戦

「鈴……、お前鈴なのか!?」

 一夏君は目の前の少女を見ると驚きから声を震わせてそう尋ねた。教室の空気も僅かに緊張感が増した気がする。

「そうよ!中国の代表候補生凰鈴音、今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 なるほど、あの子が噂の転校生で間違いないようだ。昨日の態度を見ていると代表候補生といえどオルコットさんとはかなり違いを感じる。

 オルコットさんがお淑やかな孔雀なら凰さんは華奢な虎とでも言おうか。うん、分かりづらい。抑えきれない存在感を持っている人と見かけによらず獰猛さを秘めている人ということだ。

「ぷっ!何カッコつけてんだ?全然似合わねえぞ」

「な、何言ってくれてんのよ!」

 このやりとりで大体僕の分析は台無しになったわけだけど。

「って、あんたたしか昨日の」

「朔夜を知ってるのか?」

「昨日道案内してくれたのよ」

(強制だけどね……)

 口に出すと睨まれそうなので心の中だけに留めておく。そういえばもう少しでSHRが始まるな。着席しとかないと織斑先生に怒られてしまう。

「……おい」

「何よ!今話して……」

 後ろを向いた凰さんの顔が青ざめる。心の中で手を合わせながら僕は織斑先生に睨まれる前に自分の席に座る。感化されるように僕の近くの女子も着席した。

「ち、千冬さん……」

「織斑先生と呼べ。さっさとどけ、邪魔だ」

「す、すみません。ま、また来るからね!逃げないでよね一夏!」

 そう言うと凰さんは教室から出て行った。しかし一夏君は随分と知り合いに巡り合うものだなぁ。僕の知り合いの女子はIS学園には1人も来てないので少し羨ましい。

「しかしあいつIS操縦者だったのか……」

「一夏、今のは誰だ?えらく親しそうに見えたが?」

「い、一夏さん!あの人とは一体どういう関係ですの!?」

 話終わった一夏君にオルコットさんと篠ノ之さんが一気に問い詰めた。もうすでにSHRの時間は来ているから着席しないとあの人が……。

 若干聞き慣れた打撃音が2度に渡って響く。ごめんなさい、オルコットさん。僕では織斑先生はどうしようもないんです。

「席に付け馬鹿ども」

 織斑先生に叱られて2人は頭を押さえながら着席した。代表候補生でさえあの痛がりようなのだから凡人の僕が受けたらどうなることだろう。あ、そういえば以前僕もあれの餌食になったんだっけ。思い出しただけで頭部が痛い。

 ひとまず今日もIS学園での生活が始まる。

 

 午前の授業が終わって昼休み。僕はクラスの女子(と多分他のクラスの子も)と一緒に昼食を食べていた。というのも……。

『一夏!そろそろ私たちにも説明しろ!』

『そうですわ!まさかこの方とつ、つつ付き合っていますの!?』

 オルコットさんが一夏君から話を聞きたそうにしていたので4人で話せる空間を作るためにとりあえず周辺にいる人に手当たり次第声をかけて当人以外に聞かれないようにした。そのためにかなりの労力を割いたが、今はそれ以上にみんなからの質問攻めに対応するのに忙しい。

「え!?宍戸くんってまだISの稼働時間が5時間未満なの!?」

「は、はい。放課後に借りられる訓練機は予約でいっぱいなので授業でしか……」

「そういえばデータ収集を目的に専用機が与えられるっていうのはどうなったの?」

 実はそれも関係していたりする。専用機が支給されるという話題がひとり歩きして訓練機が借りられなくなってしまったのだ。専用機で訓練時間を積んだほうが方が効率がいいし、その方がISも自分に順応する。

「専用機の方はまだ話が進んでない状態なんです」

 というのは嘘だ。このことについては織斑先生から箝口令を敷かれている。

 本当は日本では僕へ貸し出す分の専用機が用意できないと確定したので他国からの申請が押し寄せてきていた。どこも男性の可動データは喉から手が出るほど欲しいし、開示される情報を待つよりも自国のISを用いれば量産もしやすい上に技術面でもアドバンテージが取れる。

 なので今は単に僕が150以上の選択肢にずっと悩んでいるという状態だ。だけど僕はそれを選ぶ気にはなれなかった。

 専用機を手にすることが戦いに身を投じることと同義に思えたから。だからとりあえず全部拒否したのだけどその程度で諦めるほど甘くはないようだ。

「でも宍戸くんってしっかり勉強してるしきっとすぐに専用機も使えるよー」

「最近じゃ授業でも回答できてるもんね」

 そう言われるとホッとする。やはりみんなとの差はかなりのものなのでできる限り授業の進行を妨げたくなかったからこう言う言葉は素直に嬉しい。山田先生とオルコットさんに感謝だ。

「そういえばあの凰って子のことはどう思う?織斑くんとは仲良さそうだけど」

 本音を言えば印象としては強引な人という感じだが昨日今日で決め付けるのはあまりいいことではないだろう。

「なんと言いましょうか……。強敵になりそうですね」

 一夏君の態度を見るにオルコットさんよりも関係が近しいのは明白だ。これは今以上にオルコットさんにはアプローチをしてもらわなければ。

「だよねー。代表候補生って言ってたもんね」

「あ、ええ、まあそうですね……」

 さすがにオルコットさんの恋敵とは言えない。僕に手伝ってもらってると知れると気が良くはならないだろうし。

「今回のクラス対抗戦では1番の驚異になりそうだね……」

「でも、僕たちは一夏君に期待するほかないでしょうね」

「うん!織斑くんなら勝てるよ!」

 まさか影でもこうやって期待されてるとは本人も思わないだろうなぁ。相手がオルコットさんみたいな長距離戦闘型のISでなければ勝てる可能性はあるだろう。かなり低くはあるだろうけど。

 とりあえず僕は今みたいにオルコットさんの補佐を続けることに専念しよう。

 

「ふぅ……。今日も疲れたな」

 いつも通り補習が終わり伸びをしながら廊下を歩いていると向かい側からオルコットさんが歩いてきていた。

「お疲れ様ですオルコットさん」

「あら、宍戸さんの方も終わりましたのね。よろしければ今日もわたくしが教えてあげますわよ」

「はい。よろしくお願いしますね、もちろん一夏君も一緒に」

「い、いちいち言わなくいいですわ!」

 頬を膨らませて腕を組むオルコットさんに心を奪われそうになったが慌てて思い直す。彼女は一夏君が好きなのだ、僕が介入する余地はない。

「では行きますわよ」

「はい」

 2人で廊下を歩いて自室に向かう。以前オルコットさんと歩いているところを見られて僕との交際疑惑が浮上していたので学校中を駆け回って誤解を解いた。あまりに必死すぎて途中からは僕が説明する前から他の女子から聞いている子が多かった。

 だからこうして廊下を歩いていて女子とすれ違っても心配しなくてすむ。

「宍戸さん、あなたにですから聞きますけど……凰さんと一夏さんの関係はどう思います?」

「そうですね……。正直手強いと思います、幼なじみというのは」

 呻いているオルコットさんをフォローしようにもやはり旧友というアドバンテージは大きい。僕にできることには限りがあるしその差を埋めるには力不足なんてものではない。

「箒さんでさえ強敵ですのに、そこにまた一夏さんと親しい方が現れるなんて……」

「だ、大丈夫ですよ!オルコットさんだって十分に魅力的ですし、一夏君も心を惹かれているはずです!」

「そういうことを言っているとまた誤解されますわよ?」

「知ってたんですか……」

「あれだけの騒ぎになればわたくしの耳にも入りますわ」

 そうなるとオルコットさんにも迷惑をかけてしまったのだろう。

「申し訳ありません。僕がいたらないばかりに」

「謝る必要はありませんわ。わざわざ走り回ってくれたのでしょう?」

「ええ、まあ……」

「最初はわたくしをはめようとしているのかと思いましたけど」

「そんなことはしませんよ。僕はあなたを応援すると決めましたから」

 自分の気持ちを押さえ込むためにオルコットさんを応援するとあの時に決めていたのだ。今更掘り返してどうこうしようとは考えない。

 そんなことを話しているともう部屋の前に着いた。しかし中が妙に騒がしい。

「なんでしょうか?随分と――」

 すごい勢いで顔にドアがぶつかった。状況を把握する前に激痛が神経を支配していき段々と視界が暗くなっていく。意識が遠のいていくのに抗えず僕はそのまま廊下に倒れた。最後に床に頭を打ち付けたような鈍い音を聞いた気がする。

 

 

 

 

 後頭部の痛みによって僕は目を覚ました。質感的に部屋のベッドだろうか、電気が消えていて分からない。

「何があったんだっけ?」

 息苦しさを感じて鼻に手を当てるとティッシュが詰められていた。あー、段々と思い出してきた……。

(気絶しちゃったのか……。今何時だろ?)

 時計を見て乾いた笑いが出る。午前4時前という絶望的な時間は僕に宿題がまだだということを思い出させる。オルコットさんに教えてもらう時にやろうと考えていたらこのざまだ。

 しかしこの時間に電気を点けるのも一夏君に迷惑をかけてしまうので机は使えない。となると――

(脱衣所……、ここしかないよね)

 少し手狭ではあるけど文句は言っていられない。持ってきた教科書と問題集を床に広げて解き始めるが、普段と環境が違うためか妙に落ち着かない。そういえばシャワーも浴びてなかったしそのせいでもあるかもしれない。

 椅子と机とは違ってかなり腰を曲げなければいけないので集中力が途切れてしまう。寝起きということもあって頭も回らないがそれでもペンを動かしていき、宿題が終わる頃には目を覚ましてから1時間程度が過ぎていた。

 片付けた宿題をカバンにしまい、疲れた体を再びベッドに沈めて目を閉じる。睡眠と気絶では違うようであんなに長く横になっていたのに疲れが全く取れてない。

 ひとまず起きたらシャワーを浴びなければいけない。今は隣の部屋の子や一夏君を起こしても悪いし寝ている方がいいだろう。

 勉強をした直後だったからかなかなか寝付けないので僕は今後のことについて考えた。とは言っても僕は本当にこのままでいいのかと、考えるのはそればかりだ。

(実際これは甘えてるだけなんだよね……。いつまでもこのまま戦わないで通せるはずもない)

 横目で一夏君を見てみるとその右手首には待機状態の白式が付いている。それは一夏君が戦う意志を示した証拠であり、彼の象徴でもあるものだ。放課後にはオルコットさんや篠ノ之さんと一緒にISの可動訓練も行っていることで技術も相応に上がっている。今や初心者はこの学園で僕だけといっても過言ではない。

「……どうしたもんかな」

「どうかしたのか朔夜?」

 僕のつぶやきに答えたのはこの部屋の同居人、一夏君だった。驚いて時計を見るとすでに6時が近くなっていた。この時間なら目が覚めても何ら不思議ではない。

「そういや鼻強く打ったみたいだけど大丈夫だったか?」

「あ、うん平気だよ。心配かけてごめんね」

「そっか、それなら良かったよ」

 そう言って一夏君は上半身を起こすと大きく伸びをした。カーテンからは登り始めたばかりの太陽の光がわずかに漏れ出ている。

「じゃあ僕はシャワー浴びてくるよ」

「おう。それとセシリアが今日の宿題の答えと要点を書いてくれたから書き写しておくといいぞ」

「う、うん……」

 僕は何のために眠た目をこすってまで脱衣場で宿題を片付けていたのだろうか。そんなやるせない気持ちを振り切るように僕は浴室に駆け込むとまだ水のままのシャワーを頭からかけた。

 

「そういや朔夜って結構小食だよな」

 シャワーを浴び終えて制服に着替え、僕と一夏君は食堂で朝食を摂っていた。

「うーん、そうかな……?自分ではいまいち分からないんだよね」

 確かに一夏君と比べてみると少ないかも知れないけど自分の胃と相談してみて自然にこの量になった。どうも消化が遅いタイプみたいで1食を多くすると1日2食になってしまったりするし、あまり運動をしないせいで痩せるのに時間がかかるので食事制限は女子並みに気を使っている。大体みんなこんな感じだと思っていたけど一夏君を見るに僕が標準より少ないのだろう。

 ちなみに今食べているのはペペロンチーノのハーフサイズだ。朝は炭水化物だけで野菜やたんぱく質は昼に軽く摂っている。

「一夏君はいつもこの量なの?」

「俺は朝多く摂らないといろいろキツいんだよ。もとは千冬姉がやってたのを真似たんだけどな」

「へー、姉弟ならではだねそういうの」

 やっぱり下の子は上の兄姉に影響を受けやすいのだろうか。

「ちょ、ちょっといい……?」

 一夏君と朝食を食べながらそんな話をしていると後ろから声をかけられた。この声は多分凰さんだろうか、と思って振り向く。その通りだった。

「えっと……、どうかしましたか?」

「その……さ。昨日は悪かったわね!それだけよ!」

 そう言うと颯爽と凰さんは去ってしまった。何が起こったのか分からずそのまま数秒固まってしまった。

「昨日のことだろうな、多分」

「昨日?何かあったの?」

「朔夜はドアがぶつかって気絶してただろ?あれ俺が鈴を怒らせてあいつが勢いよく開けたからなんだよ」

「あー、だから一夏君のこと全然見てなかったんだね」

 幼なじみということだから喧嘩したとなればかなり深い理由なのだろう。関係が修復してくれることを祈ろう。

 ……いや、ここはオルコットさんの攻め時なのだろうか?しかしこういうやり方をあの人が好むか、あまり下手に手を出しても男性は引いてしまう……はずだし。

(どうしたもんかなー……)

 咀嚼しながらオルコットさんにどう動いてもらうかを考える。別に自然に行動してるだけでも十分に魅力的だけど篠ノ之さんのような幼なじみがいても未だに色恋に疎いと策は必要だろうと考えてしまう。

「ん、んん!い、一夏さん、わたくしもご一緒してもよろしいかしら」

「おお、セシリアか。いいぜ」

 考え事をしているといつの間にかオルコットさんが近くに来ていた。緊張したのか頬が紅潮している。

「そういえば宍戸さん、先日は大丈夫でしたの?」

「ええ、この通り……ご心配をかけてすみません」

「それを聞いて安心しましたわ。廊下と壁に鼻血が散るくらいの勢いでしたから鼻が折れていないか心配していましたの」

 想像してゾッとする。一応鼻を触って確かめたが違和感もなく正常なようだ。

「それと一夏さん。今日の放課後ですけど今日こそはわたくしと2人っきりで――」

 こんなに熱っぽい視線を受けても気持ちに気付かない一夏君を不思議に思いながら僕は静かに食事を再開した。

 

 

 

 

 時が進んでクラス代表戦当日。僕とオルコットさんと篠ノ之さんはみんなとは違う場所で一夏君の試合を観戦していた。織斑先生と山田先生もいるので僕は口の中が渇くほど緊張していた。

「わたくしが指導したのですから一夏さんにはぜひ勝って頂きませんと」

「近接武器しか持たない一夏に長距離戦闘型のお前の特訓が役にたつはずないだろう」

「間合いを把握する能力はどのような相手においても活かすことができますわ!箒さんの特訓こそ代わり映えがしていないのではなくって!」

 オルコットさんたちは相変わらず顔を合わせれば言い合っている。その2人に近づく影は何やら長方形のものを振り上げていた。

「「いっつ……!!」」

 室内で反響する打撃音と悲鳴に関係なく試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。双方の刃がぶつかり合い移動する度に火花が残像のように散った。

 しかし素人目でも一夏君が技術的に劣っているのが分かる。

「さすがに代表候補生ともなれば簡単に勝たせてはくれませんわね」

「オルコットさん、この戦いどう思いますか?」

「そうですわね、どちらも一手隠している感じがしますわ」

「どういうことだセシリア?」

 言われて改めて一夏君と凰さんをそれぞれ見てみる。確かにどちらも動きが小さいように思える。特に一夏君はいつも見ている時より剣が振り切られていない。

「一夏君は凰さんを出し惜しみできる相手とは思っていないでしょうし、タイミングが必要なのでしょうか……」

「ほう、なかなか察しがいいな宍戸」

 僕の呟きを聞いた織斑先生が不敵な笑みを浮かべていた。

「あいつが狙っているのは瞬時加速だ。私が教えた」

「それはいったいどのような?」

「簡単に言えば予備動作なしの爆発的な加速ですわ。零落白夜同様にエネルギーを消費するので乱発はできませんし、不意を突く形で使うのが望ましいですわね。それでも通じるのは1度だけでしょうけど」

「だが使い方によっては代表候補生も出し抜くことができる」

 一夏君の手の内は分かった。それならば凰さんはいったい何を隠しているのだろう?

 ――その時、大気を揺らすほどの轟音がモニターから響いた。その瞬間を見ていたが意味が分からなかった。一夏君は見えない何かに殴り飛ばされていたのだ。

「衝撃砲……なかなか厄介なものを積んでいますわね」

 次々と打ち出される完全不可視の弾丸は地面やアリーナの壁をえぐり取っていく。画面に映し出された一夏君のステータス、そのシールドエネルギーの量がみるみる減っていく。

「反則的なまでに強いですね。肉眼で捉えることができないなんて」

「ISに空気の流れや空間の歪みを探らせれば回避は不可能ではありませんけど、全弾避けるのは操縦者の腕も関わっていますが至難の業ですわね」

 その言葉通り一夏君はいくらかは避けられているようだ。

「っ!一夏は何をやっているのだ!」

「そうですね。防戦一方ではこの戦いは乗り越えられないでしょう」

 そんな僕たちの思いが届いたかのように一夏君の動きが変わった。円を描くように凰さんの周りを飛翔しながら衝撃砲を避ける。

 ちょうど凰さんの背後に回った瞬間に一夏君は一瞬で相手との距離を詰めた。

(これが一夏君の奥の手……)

 その時、一夏君と凰さんの間の空間を一筋の光線が穿った。土煙が充満してアリーナが一時見えなくなる。

 土煙が晴れるとそこには見たこともない異形のISが浮遊していた。モニター越しに目が合い心臓を撫でられたような気味の悪さを覚える。

「織斑先生!遮断シールドのレベルが4に、扉も全てロックされています!」

「ああ、おそらくあのIS仕業だろう。手の空いている者にシステムクラックをさせておいてくれ。私は政府への緊急支援要請を出しておく」

「分かりました」

 ただ困惑している僕とは違い織斑先生たちは不測の事態にかかわらず冷静な対処をしていた。

「歯がゆいですわね……!アリーナに入ることができない以上は出撃は……」

「オルコットさん……」

 そうこうしている間にもモニターに写る2人は襲撃者を相手にしている。喧嘩しているとは思えないほどに息のあった戦いだった。

「織斑先生、現時点ではアリーナへの侵入は困難と考えていいのですか?」

「いいや、そうでもない。ピット・ゲートは開いたままだからそこからなら入れる。逆に言えば向こうもそこからなら学園に侵入できる。そうさせないためにあいつらは応戦しているのだろう」

「それでしたら織斑先生、わたくしに出撃させてください!」

 やはりオルコットさんならそう来ると思った。だが織斑先生は首を縦には振らない。

「お前のISは多対一向きだ。相手が単体の場合は周りの足を引っ張る結果になる」

「そんなはずはありませんわ!わたくしが足でまといなど――」

「オルコットさん!」

 言い争いになりそうなところを呼び止める。振り向いたオルコットさんはその顔に焦燥を浮かべていた。

「なんですの!」

「……篠ノ之さんがいつの間にかいなくなりました。おそらくピットゲートかと思われますが」

 僕の言葉を聞いたオルコットさんは少し思案したあと身を翻して傍聴室を飛び出た。すかさずその後を僕も追う。

「どこに行く?」

「篠ノ之さんがどこかへ行ってしまいました。万が一を想定して捜索してきます」

 返事を待たずに走り出す。全力で走りオルコットさんの背中に追いつくだけで息が少し乱れてしまった。

「……オルコットさん、篠ノ之さんは僕が探しておきます。ですので一夏君の方はよろしくお願いします」

「ええ、任せなさい」

 角に差し掛かったところで真反対に二手に別れ、お互いの成すべきことをするための場所へ向かう。

 急がなければいけない。仮に最悪な事態を招くことがあっては一夏君も深く傷つく。それに僕は人の死や犠牲というのが心底嫌いだ。

 こんなことなら運動くらいしておけばよかったと自分で苦笑してしまうくらいには僕は鈍足だった。息も上がっているし足も痛い。明日には筋肉痛になってしまうだろうと余計なことを考えてなんとか誤魔化す。

 アリーナ前になると生徒がチラホラと見受けられるようになってくる。ゲートはここの裏側なのであともう少しだが、その前には件の解析組の3年生の人たちがいた。

「……すみません、道を開けてください!……道を」

 口から出た声は想像以上に頼りない小さく掠れた声だった。当然真剣に作業をしている彼女たちの耳にはこの距離では届かなかったようだ。今度はと思い隣まで近づくと向こうから気づいてくれた。

「ああ、宍戸くん。今ちょっと立て込んでるから――」

「こ、この先のピットゲートに……、篠ノ之さんが向かいませんでしたか……!?」

「ここは通ってないけど?」

「いえ、いるはずです……、僕が確かめに行きます」

 道を開けてもらって再び走り出す。そこ以外に行く場所がないはずだから必ずいる確証がある。

『――一夏!』

 篠ノ之さんの声が聞こえた。正直に言うといなかったらどうしようと内心焦っていた。

「……篠ノ之さん!危ないです……か、ら」

 切れ切れの声で呼びかけ篠ノ之さんの腕を取り、この場から離れようとした時僕は見てしまった。

(あれが、襲撃者……!?)

 一切の肌が見えないフルフェイス、フルスキンのISを纏った正体不明の襲撃者は一夏君も凰さんも篠ノ之さんも僕にも無差別に殺意を向けていた。殺される、直感でそう感じたのに一歩も動けなかった。これが戦うことなのだろうか?こんなにも死を間近に感じるものだったのか?

『鈴!今だ、撃て!!』

『ちょ、どうして射線上に入るのよ!?死にたいの!」

『いいから撃て!』

『っもう!どうなっても知らないから!!』

 2人の会話がどこか遠く聞こえる。自分の歯が打ち合わせて立てる音が耳障りで聞こえづらい。

 そんな混乱の中、一夏君の斬撃が襲撃者の腕を切り落とした。切断部は紫電が走り小さく音を立てているが、僕は何よりその光景がショッキングで今見たことを脳が受け入れなかった。

「な、んで……?」

 どうしてこんなことをする必要があるのか分からない。確かに相手は得体の知らない襲撃者だけど、それは怪我をさせてまで阻止することなのだろうか?

(分からないよ……)

 急に体に力が入らなくなり地面に伏す。切れかかっていく意識の中、最後に見たのは空に浮かぶ蒼だった気がする。

 

 

 

 

「……ここ、は?」

 激しい頭痛にうなされながら起き上がるとそこは保健室だった。時計は7時を回っていて周りには誰もいない。

「やっぱり、専用機はいらないかな……」

 シーツのこの色を見ると一夏君が放った零落白夜のあの色を思い出す。それとあの切り裂かれた腕も――

 喉元に嫌な気配がせり上がってくるのを自制心で押さえ込む。今からでもこの学園から逃げ出して中学時代の友達に会いに行きたいほどだ。それは決して可能なことではないけれど。

「朔夜ー、お、目が覚めたか」

「一夏君……」

「大丈夫か?顔色すっげえ悪いけど」

 心配して一夏君が僕の顔を覗き込んできた。その顔がいつも通りで僕はつい聞きたくなった。

「あの襲撃者はどうなったの?」

「ああ、あの後セシリアも来てくれてちゃんと倒せたぜ」

「そうじゃなくて、あのISに乗ってた人は大丈夫なの?命に別状はない……?」

「そういや朔夜は知らなかったか……。あの襲撃者、無人機だったんだよ」

 そんな馬鹿な。ISは人が乗らなければ動かないと教わったのに、これでは覚えたことが無意味になる。

「俺も最初は信じられなかったけど、ひとまず怪我人は誰もいないから安心してくれ」

「もし、無人機じゃなかったら?」

「え?」

 自分でも驚く程に低い声が出た。しかしその衝撃では僕のこの気持ちを押さえ込めなかった。

「もし人が乗ってたら一夏君だってここにはいられなくなるし、その人だって普通の暮らしができなくなるかもしれないんだよ?」

「それもそうだけどさ……」

「お願いだからやめてよ……。僕だって誰かがいなくなるのは嫌なんだよ?」

「悪いな、俺そこまで気が回らなくてさ。でも、あの時は俺たちしかできなかったと思う」

「うん、それは僕も分かってるよ。……それでも無茶はしてほしくないんだ」

 だって一夏君はオルコットさんにとって大切な人だから。僕もここで男子が1人なんて心細いし篠ノ之さんも凰さんもこの学園の生徒や教師、一夏君がいなくなればこんなにも影響を受ける人がいる。

 それに僕は誰の悲しい顔も見たくない。僕に人を笑顔にすることはできないけど、誰かの笑顔を守りたいとずっと願っている。だから――

「万が一にも死んだりしたら嫌だよ……」

 シーツを握って振り絞るように出したそのわがままを一夏君がどう受け取ったかは分からない。でも彼はこう言ってくれた。

 

『――簡単に死ぬもんか。こう見えて俺はしぶといしな!』

 

 冗談の混じったその言葉でその時の僕の心がいかほどか和らいだのを覚えている。




今までの平均文字数からするとちょっと多くなりました。どうも切りのいいところまで書かないと落ち着かないのでこれはまあ仕方ないかなあと思います。
そして次回はシャルロットとラウラが出ますよー。箒も少しずつ喋るようになってきたのでもしかした空気キャラ脱出かもしれません!(`・ω・´)
それではまた不定期で更新していきます。今回も読んでいただいた皆さんに感謝!!
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