Going blue road.   作:CiAn.

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初めに前回の後書きで今回はデート回というような記述をしたにも関わらず、計画性のない執筆によって次回に持ち越しになってしまったことをお詫び申し上げます。
m(。≧Д≦。)mスマーン!!
次回は絶対にデート回書くぞ、と前書きに誓います!
それでは本編を(∩´。•ω•)⊃ドゾー


防御力向上パッケージ『Zmey』

「宍戸さん、煮えすぎではありませんの?」

「え?ああ、本当ですね。火を弱めないと……」

 オルコットさんに促され、慌てて弱火にしてゆっくりとかき混ぜる。今は料理をしてる最中なのに他のことを考えるなんてあまりいいことではない。

「さっきからずっと、ぼーっとしてますけど、何か考え事でもありますの?」

「ええ……、でも他言できない話で……」

 専用機を持つべきか、それとも今のまま戦わない選択を続けるのか……。そして僕に秘められているISを強化する能力を解明したとして僕はどうするべきなのか。あとボーデヴィッヒさんとの寮生活が気まずすぎて辛い。

「そうですの……。ですが、あまり1人でどうにかしようとしないほうがいいですわよ」

「じゃあ、いざという時は頼ってもいいですか?」

「ものによりますけど、わたくしでよければ手伝いますわよ。日々のお礼も兼ねて」

 最初は自分の気持ちを諦めるためにオルコットさんの手伝いを始めたのに、ここ2ヶ月で僕の心理状態を見抜かれるまでになっていた。迂闊に表情に出して心配させてしまうのも申し訳ない。

「できたみたいですね」

 鍋の火を止めて膳に味噌汁をつぎ分ける。傍にあったテーブルに着いて味噌汁を口に含むが、オルコットさんはテーブルに置いたまま固まっていた。

「どうかしましたか?」

「直接口をつけて飲みますの?スプーンなどを使わずに……」

 あ、そっか。皿に口をつけて食べる国はそんなに多くないんだっけ。それにオルコットさんは実家がかなりの資産家という話だしテーブルマナーは厳しく教え込まれていることだろう。今までのやり方と違うのはなかなか受け入れづらいからこの反応も頷ける。

「日本ではこの飲み方でも問題ありませんよ。冷める前に飲んでみてください」

「そ、その……、恥ずかしいので向こうを向いていただけます?」

 やっぱりまだ抵抗があるのかオルコットさんは困った顔でそう言った。男性の目を気にしたりするこういうところが普通の女の子みたいで可愛い。

「はい、分かりました」

「お願いしますわ」

 椅子の向きを変えて後ろを向くとオルコットさんが味噌汁を口に運ぶ気配がした。

「お、美味しいですわ!」

「初めての味噌汁作りとしてはかなりいい出来だと思います。この調子でやれば食堂のおばちゃんも超えられるはずです」

「本当に、感謝しますわ宍戸さん」

 顔を逸らしていてよかったかもしれない、自分でも分かるくらい顔が赤く熱くなっている。お礼1つでこれでは自分が情けなくなるというものだ。

「と、とんでもありません……。好きでやっていますから」

「あなたも随分変わり者ですわね」

「そうでしょうか?」

「ええ、とっても」

 オルコットさんが何を言っているのかイマイチ分からなかったけど、まあ変わってはいるのかもしれない。普通は専用機もすぐに用意してもらってISの操縦を練習するのだろうけどそれもしてないし。

「自分よりも強い相手に、しかも訓練機で挑むだなんて普通はできませんわ」

「それはその……、体が勝手に動いてまして……。でも、もっと早く行動できていればオルコットさんは……」

「あなたが気に病む必要はありませんわ。それにわたくしではボーデヴィッヒさんには勝てませんでしたわ」

「……」

 聞きたくなかった。尊敬する人が誰かに劣っていたのを認めたくないから、自分の責任にしたかった。しかしオルコットさんは弱さを肯定して、受け入れた。

「わたくしとしては、宍戸さんの容態の方が心配ですわ」

「僕は大丈夫ですよ。全然、戦えませんでしたから……」

「嘘は聞きたくありませんわ」

 すぐさま見抜かれて呻き声が漏れる。最近やたらとオルコットさんが鋭くなったと思うのはなぜなのだろうか?女性は勘が鋭いと聞いたことがあるけどオルコットさんは最初からそうだったという感じがしない。

「あなたが怪我をして緊急治療室に運ばれたのは聞いていますわ。あまり無茶はしないでくださいな」

「……はい」

(やっぱり僕なんかじゃ及ばない人だな……)

 心の中でそう思いながら、残った味噌汁を流し込んで手を合わせる。同時にオルコットさんも終わったらしく膳を置いた。

「今日はありがとうございます、宍戸さん」

「ええ、ではまた明日の朝もここで」

 オルコットさんと別れて一息ついてから時計を見る。そろそろ来てくれる頃だろう。

「あれ、宍戸くん早いね」

「何作ってるのー?」

 この時間帯になると弁当を作る生徒が調理室に来る。オルコットさんの手料理と言えど1人で食べ切るには量が多い。

「少し朝食に味噌汁を、と思ったんですけど作りすぎてしまって」

「へー、宍戸くん料理もできるんだ。少し飲んでもいい?」

「はい、もちろんです」

 ひとまず何日かはこの方法で対応していこう。でないと水っ腹になってしまうし……。

「あ、普通に美味しい」

「やっぱりそうですよねー……」

 やはりまだ標準の域を出ないか。でもまあそこは誰が作ったか、何が好きかで評価は変わるし一概に未熟とは言い難いのが料理だ。

「それにしてもどうして味噌汁なの?」

「花嫁修業の付き添いで――」

「「「花嫁修業!?」」」

「付き添いです!!」

 なんか最近僕の扱いが入学式の日に比べて変な方向になってるのは気のせいだろうか。もうこの印象を払拭するのも無理なのかもしれないと若干諦めているまでもある。

「付き添いかー、宍戸くんは相変わらず苦労人だね~。ちゃんと自分の恋も成就させないとダメだよ?」

「僕の……?」

 少し考えて察した。まさかとは思うがオルコットさんのことだろうか。

「織斑くんは強敵だけど宍戸くんならオルコットさんとの恋も叶うよ」

「あー……、実は僕オルコットさんのことは諦めたんですよ」

 氷にヒビが入ったような緊張感が張り詰めた。何かおかしなことを言っただろうか?

「宍戸くん、どうして諦めるの?」

 ああ、そんなことか。でも理由は前とは少し変わっていて、自分の恋を諦めるための応援で自分を追い込んでいたけど――

「幸せになってほしいなって、思ったんです。オルコットさんが笑顔なら僕はそれで……」

「なんか、すごいね。そこまで来ると」

「じゃあ宍戸くんは付き合うとしたら他の人?」

「そうですね。オルコットさんを超える人がいれば、付き合うかもしれません」

 多分、この先現れることがあるとは思えないけどそう言っておく。でもその前に僕がオルコットさんを名前で呼べるくらいには肩を並べられないといけないけど。

 話を適当に切り上げてから鍋を洗い、調理室を出る。今日は織斑先生に言われた更識簪さんにも会わなければならない。それと、僕がISに及ぼす能力――

 

 

 

 

 4時間目の授業が終わって昼休みになり、僕は一夏君からの昼食の誘いを断って1年4組に向かった。すぐには終わりそうにないので購買でしっかりパンを買っておいた。

「ちゃんといるといいけど……」

 そう思いながらドアを開けて教室に入る。同時に中にいた生徒が一斉に僕に視線を向けた、1人を除いて。

「えーっと……。こんにちは、宍戸朔夜です。更識簪さんはいらっしゃいますか?」

 突然僕が訪れたためか4組の生徒が驚きの声を上げている。しかしいつまでもここで注目されているわけにもいかないので更識さんの席に向かう。代表候補生ということもありすでに顔は調べられている。

 僕に気づいた更識さんは眼鏡越しに僕を見つめた。同じ眼鏡を付ける者としてかなんだか親近感が湧いてくる。

「更識さん、ちょっといいですか?僕のことについてなんですけど――」

「今は無理。放課後に整備室で」

 端的に必要なことだけを言うと更識さんは投影型ディスプレイに視線を戻した。まあそれもそうか。こんなに人がいるところで話す内容でもないし。

「ねえねえ宍戸くん。せっかく来たんだし私たちとお昼にしようよ!」

「そうそう、普段は1組の人達とばっかりだしさー」

「あれ、今日もしかしてお弁当?じゃあここで食べる?」

 どうするか悩んで更識さんを見ると彼女は作業に没頭していた。邪魔するのは悪いし食事に誘うのはまた今度にしよう。

「では、お言葉に甘えて……」

 そうして、僕は4組のみんなと昼食を撮ることにした。正直接点が少なすぎて全然話せなかったけど……。

 

「……遅い」

「す、すみません」

 放課後になり僕は整備室に向かおうとしたのだが、少し予想外のことが起きた。それは1年1組の教室での出来事だ。

 

『宍戸っ!』

『篠ノ之さん……。どうかしました?』

『頼む、専用機を持って私とタッグ戦に出てくれ!』

『僕と、ですか?あんまり強くないと思いますけど』

『私は今回の大会でどうしても勝たなければならないのだ……。だが私はグズグズしていたせいでタッグを組める者がお前かボーデヴィッヒしかいなくなってしまって……』

『あー、そういうことだったんですか……』

『なんとかできないか?』

『難しいですね……。多分今から手配してもらっても大会当日には間に合いそうにないですし』

『そうか……。それもそうだな、ああ……』

 

 やっぱり篠ノ之さんはボーデヴィッヒさんと組むことになるのだろうか?訓練機が使えれば協力できたけど許可が出ない以上使えない。とまあこんなことがあって少し遅れてしまったわけだ。

「……別にいい。それじゃあ本題に入る」

 そのためにここに来たわけだし、僕も近くにあった椅子に腰を下ろした。逆に更識さんは立ち上がって鎮座していたISのコンソールを開いた。

「あなたは今まで発見された例のない特異体。その能力がどれほどの影響を及ぼすのか、今から確かめる」

 傍にあったプラグを繋ぐとISが発光した。

「その機体は?」

「私の専用機。名前は『打鉄弐式』、でもまだ未完成」

 未完成とはどういうことだろうか?更識さんは代表候補生だから専用機が支給されているのは当然だが、それは通常国家が開発した実験機であったりデータ収集を目的としたものであったりと事情は様々だが、研究段階で渡すことはまずないと言える。ちなみにこれはオルコットさんが教えてくれた。

「……だからあなたのデータが欲しい。私の打鉄弐式を完成させるためにも」

「僕が関わって解決するものなのですか……?」

「少なくともスキンバリアは正常に機能するようになるはず。もしかすると打鉄弐式にもあなたの守護騎士の意志(シェルマンズ・アーロゲント)が影響するかもしれないけど、それに関してはむしろ好都合」

「あの……、そのシェルマンズ……なんとかってなんですか?」

 いきなり聞きなれない言葉が出てきて混乱する僕を見て、更識さんは淡々と説明を始めた。

「これは暫定的に付けられたあなたがISに及ぼす影響の名称。さながら甲羅を纏ったように攻撃を無力化させるという仮定からその名前が付けられた」

「仮定ですか……」

 というか本人である僕が知らない間に結構話が進んでいるんだ……。もう少しこっちにも気を利かせてくれてもいいと思うけど。

「話はこのくらいでいい。乗って」

「乗れと言われましても……、これ更識さんの専用機ですよね?いいんですか?」

「初期設定と最適化は終わってるから私の稼働データが消えることはない。安心して」

 そこまではっきり言うなら大丈夫なのだろう。それじゃあ打鉄弐式に乗ることにしよう。肩部に手をかけてコックピットに座るとウィンドウに様々な情報が出てきた。初めての体験なので全く分からない。勝手にいじることだけはないようにしよう。

「緊張しないで、気負わずにその子に体を預けて」

 その子っていうのは打鉄弐式のことだろうか?まるで人のような扱いをしているのが意外だった。そういうのとは無縁な子だと勝手に思ってた。

「乗っているだけでいいんですか?」

「うん。あと43%だからすぐ終わる」

「早いですね……」

「それもあなたの能力。だから搭乗者が最適化できるはずのない訓練機があの速度で影響を受けた」

 だから打鉄弐式にもわずか10秒ちょっとでここまでの進捗が見られるのか。まあ訓練機の件についてはそのせいで怪我もしたから一概に褒められた能力ではないけど。

「できた」

「もう終わったんですか!?」

「……うん。私も驚いた」

 ちょっと考え事をしている間にウィンドウにData completeの文字が表れている。そして打鉄弐式の防御性能は先ほどの比ではないほどに膨れ上がっている。

「すごい。これなら装甲に傷を付けることさえ難しくなる」

「そんなにですか?」

「もしこれがあなたの専用機ならもっと上の数値になっていたはず」

 それにしてもなんとも極端な数値だ。まるでそのように特化したISと変わりがない。

(もしかして、それって――)

 頭の中に1つの可能性が浮かんだ。それが正しいのかは分からないけど関係性はありそうだ。

「……どうかしたの?」

「仮説ですけど、男のIS搭乗者は僕のように極端な特化をさせるのではないでしょうか?ほら、一夏君の白式も攻撃特化になっていますし」

 一夏君の名前を聞いて更識さんが少し表情を険しくした。気になって声をかけようとしたがそれより早く更識さんが口を開いた。

「その可能性は十分あるかも。でもそれだと引っかかる点がある」

「それは例えばどんなものですか?」

「攻撃のスペックを上げるとしても訓練機への影響が何もなかったのはおかしい。あなたは入学試験では1分も立たず負けたから今に至るまでこの能力は明らかになっていなかったけど、織斑一夏は事前に1時間ほど訓練機を動かしていた」

「そうですか……。時間が僕より多く必要だったりはないですよね……」

「それは実際にやってみないと分からないけど、試すのは無理そう」

 しかしそうかぁ……。意外と自信有りげに言っただけに違っているとなると恥ずかしい。でもそうなると一夏君の白式のあの仕様が気にかかってくる。零落白夜といい近接ブレードの雪片弐型しか装備がないことも気にかかる。

(まあ、違うんだろうな。そもそもISにさほど詳しいわけでもないし……)

「最後に……、明日も来て欲しい」

「え?」

 不意にそんなことを言われて鼓動が跳ね上がったように早くなった。ただでさえ僕は気が小さいんだからこういうのは気持ちの準備が必要なのに……。

「あなたのデータをパッケージ化して誰でもインストールできるようになれば既存の防御型パッケージを超えるものができる。……あくまで可能性の話だけど」

 あー、そう……。うん、先走って1人だけ恥ずかしくなってた。今日は赤面することが多くて疲れるなぁ。

 とにかく今は僕の能力をパッケージ化する話だ。それに対する答えはもう決まっている。

「僕で力になれるなら、協力します」

「ありがとう。いい返事が聞けて嬉しい」

 僕は戦う気はないけど、こういう頼まれごとなら協力する。誰も傷つかないし僕が役に立つなら前向きに請け負えるというものだ。ただ、1つ聞いておきたいことがある。

「どうしてそんなものを作ろうと思ったんですか?」

 代表候補生と言えどIS学園の生徒だ。授業やISの練習で忙しいから、案だけ通して研究機関に任せればいいのではないだろうか。一介の女子が受け持って成功させるのもなかなか気が遠くなるような話だ。

「理由は……、特にない。私は目の前にある可能性を試したいだけ」

 チャレンジ精神が豊富なのか、はたまた他の理由を隠しているのか……。多分、後者かな。少し視線が泳いでたし何より理由がないのにこんなことをすること自体堅実的ではない。

「そうですか。変なことを聞いてすみません。それではまた明日の放課後」

 本人が言う気がないなら別に聞き出そうとは思わないけど。あまり詮索するのも失礼だし。

「その……、今日はありがとう。おかげでこの子の完成に一歩近づいた」

「どういたしまして」

 一歩近づいた、か……。僕1人での助力ではここまでしか無理だったわけか。

(ま、仕方ないかな。不足した分は新パッケージの開発で力になろう)

 それにしても守護騎士の意志、か。自分にそんな能力があったなんて今まで気づきもしなかったな。つい最近まではどこにでもいる一般人だと思ってたし。

 タッグマッチまであと4日。僕は出られないけど、今度は最後まで一夏君を応援しないとなぁ……。

「おい、そこのお前」

 気ままに廊下を歩いていた僕の背中に冷酷さを纏う声がかけられた。今となってはもう聞き慣れたルームメイトの声だ。

「何か用ですか、ボーデヴィッヒさん」

「心当たりはあるだろう。私が直にお前と戦って気付かないと思ったか?貴様の能力を専用機に適応させようとしているのだろう」

「そこまで知っているのならどうする気ですか?」

 彼女が更識さんと同じことをしようとしているとは考えづらい。

「私の目的は訓練機を無力化できるハッキングソフトの開発だ。お前の望む戦いのない世界作りに貢献できるぞ?」

 平和のため、か……。

 

 

 

 

「ねえ、セシリア」

「何ですの?」

 夕食を摂っていると後ろから聞き慣れた少女の声がかけられた。手に持ったトレイにはいつも通りラーメンが乗せられている。それであの引き締まった体なのはなぜなのか、わたくしはマッサージや美容体操に取り組んで今の体型をキープしているというのに。

「ここだけの話、あんた宍戸の気持ちに気付いてないの?」

 向かいの席に座りながら鈴さんは小声で尋ねてきた。若干呆れながらその質問に答える。

「気付いているに決まっているでしょう。わたくしは一夏さんではありませんのよ?」

「じゃあ、どうすんのよ。あんたは一夏のことが好きなら向こうの気持ちだって――」

「どうもしませんわ。彼からのアプローチがない限り」

 何を考えているのか、わたくしが宍戸さんの好意に気付いた後でも応援する姿勢は変えてない。だからもしかしたら、彼なりの考えがあるのではと思うとわたくしからは動けなかった。

「それってどうなのよ。ずっとあんたの手伝いさせてる気なの?」

「それは……」

 どうにか出来たら苦労はしていない。宍戸さんの考えていることが分からないから悩んでいるのはわたくし自身もどうにかしたい現状だ。

「たしかに宍戸も自分の気持ちを隠してるけど、それが誰にバレるかは分からないのよ?もしこれで一夏にでも勘づかれたらどうする気よ」

「鈴さん……もしかして心配してくれていますの?」

「ち、違うわよ!ただ、それで一夏があんたに気を使ったりして私が有利になっても幼馴染みとしての自尊心が傷つくだけよ……」

 あからさまな嘘に少し笑みが漏れてしまった。鈴さんはそんな性格じゃないのは分かっているのに。隠してはいてもやっぱり気を使ってくれているらしい。

「大丈夫ですわ鈴さん。宍戸さんがどういう結果を招いてもわたくしが一夏さんへの気持ちを諦めることはありませんわ」

「ああそう……。じゃあ口出しはしないけどあんまり長引かせない方がいいわよ」

 そう言って鈴さんはラーメンのスープを飲みほしてから席を立つと食堂から出て行ってしまった。しかし言われたことは一理ある。ただ今はまだ2人きりの時か一夏さんがいない時しかわたくしへの好意の視線は向けられないのでバレてはいないだろう。

「でも、あまり宍戸さんの善意を断るのも気が引けますのよね……」

 一夏さんに恋をしてからわたくしは人に心を許すハードルを下げてしまったのかもしれない。だからなのかは分からないが宍戸さんとも随分距離が近くなっている気がする。鈴さんの助言もそのせいか聞き入れる気になれない。

 それでもいつかはケジメをつけなければならないとしたら、その時は彼になんと言えばいいのだろうか?

 

 

 

 

「……お断りします」

 ボーデヴィッヒさんは僕の答えを聞いて口角を上げた。

「意外と利口な方か……。騙せれていればいいものを」

「あなたの話もISが全て訓練機なら僕も協力していますよ。しかし専用機がある時点でそれは単なる戦術の1つへと変わりますから」

「平和主義の頭にしては戦いについても頭は回るようだな。だが私も簡単に引き下がる気はない」

 そう言ったボーデヴィッヒさんから投げ渡されたのは軍用のナイフだった。重量はやや重めなのにグリップは吸い付くように手に収まるのが奇妙だ。

「今の私は丸腰だ。一撃でも入れられれば諦めてやろう」

 鞘から抜いたナイフは刃先を見るだけで胸がざわめいた。血の気が騒いだかと思えば嫌な重圧が襲って来るような掴みどころのない違和感が僕を支配していた。何か、重要なことが隠されているような、そんな気がしてならない。

 ――だが

「……何のつもりだ」

 僕はそのナイフを壁に突き刺して手を離した。ナイフは刃の半分ほどが壁に埋まっていて床に落ちる気配はなさそうだ。

「あなたと戦う気はありません。もちろん今回の話に乗る気もないです」

 返事を聞く前に僕はその場から立ち去った。こうでもしなければ話を終わらせることができないと思ったからだ。

(あー、怖かった……。自分から軍人の前で丸腰になるなんて随分馬鹿なことしちゃったよ)

 緊張で疲弊した心臓を労わりながら僕は自室に戻った。

 

 と、ここまでがさっきまでの話だ。そして今は――

「貴様、馬鹿だろ?」

「ええ、自分でもそう思いますよ……」

 同室だから嫌でも顔は合わせるし逃げても解決にはならないんだった。むしろ密室だから逃げ道が窓以外ないし、この部屋に移ってから全然人が来ないから助けも何かあってからじゃないと期待できないだろう。

「お前といると気が抜けるな。まるで訓練当初の頃を思い出す」

「あまりいい気分ではなさそうですね」

「当たり前だ。兵士が集中力を維持できないなどあっていいものか」

 そうだろうか?今はIS学園の生徒なわけだし少しくらい肩の力を抜いてもいいと思うけど。

「そういえば聞きたかったんですけど、転校初日に一夏くんを叩いたのって何か理由があるんですか?」

「貴様に話す義理はない。さっさと寝ていろ」

「いや、まだ宿題も終わってないので起きてますけど……」

 放課後は何かと潰れてしまうことが多いので基本的に宿題は取り掛かるのが遅くなってしまう。ボーデヴィッヒさんは就寝時間が遅いので消灯までには終わらせることができていたけど、やっぱり早く終わらせたいのは変わらない。

「ご苦労なことだ。ISに関わるといってもこの学園を出れば男などモルモット程度しか需要がないぞ?」

「織斑先生が怖いですからね。……それだけで理由になりますよ」

 それにしてもこんなに会話が続いたのは初めてだ。相変わらず視線は鋭いし無表情だから楽しくお喋りなんてことはできないけど。

「言われたことだけをこなしていればいい」

「はい?」

「教官が言ったことに間違いはなかった。言われたことをこなすだけで上に立てるからな」

「は、はあ……」

 突然どうしたのだろうか?ボーデヴィッヒさんから助言が貰えるなんて初めての経験だ。いったいどんな心境の変化があったのだろう。

(……まあいいや。それより宿題を片付けないと)

 机に向かいノートにペンを走らせる。今夜もまた長い夜になりそうな量だった。

 

 

 

 

 タッグマッチトーナメント当日。僕は整備室にいた。

「更識さん、どうして大会に出ないんですか?」

「専用機がない代表候補生なんてただの笑いもの。私は見世物になる気はない」

 全然戦う気がない僕が聞いているのも変だが、こういうイベントは出場しなかったら点を引かれて最悪留年すると聞いていたけど、大丈夫なのだろうか。

「それに前に言っていたパッケージももうすぐ完成するから……」

「あ、そのことなんですけど、あれって直訳すると甲羅男の傲慢なんですね。Shellman's Arrogentなんて字体は格好良いから騙されそうでしたよ」

「多分それは織斑先生のあなたへの皮肉」

 なるほど、そういうことならこのネーミングも頷ける。たしかに授業以外じゃまともにISを動かしてすらないからなぁ。

「安心して。パッケージの名前はカッコイイのにするから」

「たしかに身内だけで使うならともかくもしかすると世界中の人が使うかもしれませんしね」

「世界……?」

「あれ、そのために作るんじゃないんですか?」

 すっかりその気でいたのでこの返事には驚いた。でもとりあえずどんな名前になるのかは気になっていたりする。

「名前は『Zmey』。東欧・中欧の守護龍と言われるドラゴンの名前と同じ。このパッケージは防御に特化するだけじゃない、搭乗者が傷を負う可能性を少しでも減らせればと私は思ってる」

「だとしたらなお一層世界に向けて作るべきじゃないですか?」

「あなたにはこの4日間ずっとデータを取ってもらっていたのに出来上がるのはたった1つ。はっきり言って効率が悪すぎる。しかもこれはあなたから取れる純正のデータじゃないと作れないから量産は現実的に厳しい」

「なるほど……」

 便利なようで不便な能力だと思う。しかしそこまで手間が掛かるならどれほどの効果を発揮するのだろうか?時間に比例していないならば割に合わないにもほどがある。

 それにはこうやって僕がISに乗ってデータをとっているのも関係しているのだろうか?稼働データならもしかしたら効率が上がるかもしれない。

「あなたは見に行かなくていいの?織斑一夏とラウラ・ボーデヴィッヒの試合」

「気になりはしますけど今は更識さんの手伝いが大事ですから」

「……ありがとう。すごく助かる」

 それに一夏君ならなんとかなる気がしていた。シャルル君もいるし、ずっと練習していたのだから。これはかなり一夏君寄りの期待だけど、そう思うまでに一夏君は強い精神の持ち主だ。どんなに不利な状況でも立ち向かう強さを持っている。

「よかったら1番最初にできたパッケージはあなたにもらってほしい」

「え?いや、いいですよ。まだ専用機がない僕が持っていても無駄になるだけですから……」

「なら、逃げずに戦うべきだと思う。あなたならどんな人よりもISを理解できるだろうから」

「ISを理解……?」

「……できた。これはあなたが持ってて」

 更識さんはそう言うと僕の手に強引にパッケージを押し付けてきた。守護龍の名を冠したそれは見た目はただの無機質な正六面体でしかない。これに搭乗者を守る力が備わっているかと思うと不思議なものだ。

「今日は私も連日の作業で疲れたから、これで終わりにするつもり」

「そうですか。ゆっくり休んでくださいね」

 なぜか更識さんに困った顔をされた。なぜなのかよく分からなかったが、少し考えて彼女なりの気遣いだと気付いた。つまり一夏君たちの試合を見に行けということだろう。分かりづらかったがありがたく受け取っておこう。

「じゃあ、僕も少し休んできますね」

「うん。いってらっしゃい」

 小さく頷いた更識さんに手を振って僕は整備室を後にした。アリーナの方から観客の声が響いてきた。どうやら防音性が高かったためか整備室では全く聞こえなかったが、どうやらかなり白熱しているようだ。

「僕も見に行くかな。一夏君を応援しに」

 誰もいない廊下を1人で歩きアリーナに向かうが、どうも手に持っているパッケージが荷物になってしまっていた。

(どこかに置いていった方がいいかな。持ち歩くには少し大きいものだし)

 そう思って自室に1度置くことにしたのだが、この時のタイムロスでアリーナに着いた時にはちょうど試合が終わってしまっていた。そこにはボーデヴィッヒさんを抱えた一夏君とサムズアップをするシャルル君、なぜか仏頂面の篠ノ之さんがいて、客席からの拍手に包まれていた。何があったのか全然分からない。

 

 

 

 

「……何をしに来た」

「ルームメイトの様子を見に来るくらいの優しさは持ち合わせているので」

 保健室に入ると開口一番に邪魔者扱いされているあたり僕もまだ受け入れられていないようだ。でもまあ悲観している時間が今は惜しい。

「まさか頬を殴った相手に惚れるとは思ってもなかったでしょうね」

「貴様、どこで聞いた……?」

「こ、怖い顔しないでくださいよ。立ち聞きなんてしてませんし顔を見ればそれなりに分かりますから」

 剣呑な気配を漂わせるボーデヴィッヒさんをなだめてなんとか身の安全を確保した。相手は軍人ということを失念してはいけない。

「一夏君は女性を惹きつける魅力がありますからね。強引なのに優しくて、いつもはふざけてるのに困っている人を見ると真摯に向き合ってくれますし」

「一般の女ならお前の方を好むのだろうな」

「僕はダメですよ。相手のことを考えすぎて良い人で止まってしまいますから」

「分かっているなら改善することだな。あのイギリス人と仲良くなりたければ」

 残念ながらそれは無理だ。元来からの躊躇いがちな性格はそうそう変わらないのだから。無論どうにかしたいとは思っているけど。

 でも目の前でオルコットさんのライバルへと変わった人がいるとなれば、それはまた遅くなってしまうだろう。

「お人好しだな」

「よく言われますよ」

「それで、そのお人好しは私に何を言いに来たんだ?」

 別に大したことではないが、一言伝えに来たのは事実だ。ルームメイトのよしみ、というのを行使させてもらって。

「頑張ってくださいね。ライバルは多いですよ?」

「ふん。くだらんな、さっさと去れ」

「相変わず怖いですね。それでは体にお気をつけて」

 こうして短い見舞いを終わらせて僕は自室に戻ることにした。おそらくボーデヴィッヒさんは今日1日は保健室で過ごすだろうし、今夜は一人部屋も同然になるわけだ。

 そんなことを考えながら自室へと足を運んでいる途中で一夏君とシャルル君に出会ったけど、何か考え事をしているのか2人とも僕には気付かなかった。悩み事に押しつぶされる前に誰かに頼ってほしいものだ。

 自室がある階に来ると部屋の前に人影が見えた。夕食の誘いだろうか?

「あ、宍戸くん……」

「橘さんでしたか。どうかしました?」

「うん、ちょっと話してもいいかしら」

「ええ。構いませんよ。立ち話もなんですから部屋でゆっくり話しましょう」

「そ、そうね」

 なんだろうか。いつもと様子が違う気がする。なんというか橘さんらしい凛然さが姿を隠した代わりに、可愛さがグッと上がっている。緊張しているのだろうか、まるで入学初日の僕みたいだ。

 部屋の椅子を橘さんに勧めて僕はベッドに腰をかけたのだがなぜか彼女は隣に座った。急な展開に頭がついていかず混乱してしまう。

「こ、この前のアリーナでの約束、……覚えてる?」

「え、ええ……。橘さんにも迷惑をかけましたし、僕にできることなら何でも頼んでください」

 いつも落ち着き払っている子がこうまで恥ずかしがっているとここまで可憐に見えるのだろうか。僕まで手汗が出るほど緊張してしまった。

「7月に臨海学校があるんだけど、その初日は自由時間があるらしいの」

「そういえばSHRで織斑先生が言っていましたね。楽しみです」

「うん……。それで、宍戸くんが良ければ、今度の週末に水着を買うのに付き合ってほしいの」

 頭がショートしそうだった。水着?それを僕と選びに行く……。いや待て宍戸朔夜、誰も2人っきりとは言ってないじゃないか。友達複数なら何も問題はないだろう。

「で、できれば2人っきりで……がいい」

 まさかの僕と橘さんだけの外出だった。これは困った。女尊男卑の社会になってからというもの買い物の付き添いは各地方で都市伝説ができるレベルで男性にとっての鬼門となっていた。荷物持ちから始まり、拒否権のない意見交換会やクレープ調達のための行列に並ぶ炎天下の疲労など季節や場面によっては地獄とも取れるほどの環境になるそうだ。

 しかし、約束は約束だ。それにこれくらいのことが耐えられないで、笑ってこなせないで何が友達か。自分にそう言い聞かせて僕は橘さんに向き合った。

「もちろんご一緒させてもらいます。僕で良ければ荷物持ちでも何でも」

「本当!?……ありがとう、それじゃあ予定は後からメールで送るから」

 そう言い残すと橘さんは僕の返事を聞かずに部屋から出て行ってしまった。取り残された僕はひとまず緊張して高鳴っていた心臓を押さえつけることに従事した。




相変わらずの戦わない系IS小説もとうとう次回は臨海学校というところまで来ました。1話3000文字くらいで投稿していたらどれほどの話数になっていたか、考えるだけでもゾッとしますww
次回はもう少し早く投稿できればいいなぁと思いながらまた頑張ります!それではまた!ノシ

追伸:IS10巻はいろいろと突っ込みたい箇所が多すぎる!
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