「あー、暇だねぇ」
あの世とこの世の境界線である三途の川、“この世“側の土手で寝転がっている人物がいた。
「んー……寝るか」
小野塚小町、職業は死神。とは言っても人間の魂を狩る方では無くて、その役割はあの世とこの世の掛け渡し橋渡しをすること。そんな彼女は、現在暇だった。言うまでも無く死人が居ないからである。
「あー、ドバッと一気に人間が死なないかねぇ」
ナチュラルに不謹慎な事を呟く小町だったが、そうなったらそうなったで忙し過ぎるとボヤくに違いない。
幸か不幸か、幻想郷には腕の確かな医者が現れたので感染病などの死のリスクは大分減っている。
「あのー……すいません」
「なんだい?」
やっと暇が潰れる!という喜びを感じながら小町は起き上がる。そこに居たのは、十三、四位の癖毛の目立つ少年。困った様な表情を浮かべながら小町の事を見つめている。
「あのー、ここ何処だか分かります?」
「……ここは三途の川、あの世とこの世の境目さ」
小町の声色も、この時ばかりは少し下がる。自分の死を自覚していない者に、それを伝えるというのは少し精神的にくるものがある。
「あー、やっぱりか……」
「??」
納得して、少し安堵した様に胸を撫で下ろす少年に、小町は戸惑う。
「え、ショックじゃないのかい?もう何もできないんだよ?」
「いや、まあそれなりに酷い人生だったんで別にショックじゃないんですよ。むしろ楽になった感じ…?」
「もし良かったら、詳しく話を聞かせてくれないかい?面白い話なら、アタイにも色々あるし。あ、申し遅れたね。アタイは小野塚小町、死神だよ」
「小町さん、ですか。僕は――――と言います。あんまり好きな名前じゃないんですけどね」
「そうかい?いい名前だと思うけどね」
そういって立ち上がった小町は、止めてあった船の上に彼を招き、ゆっくりと船を漕ぎ始めた。
二人は何気ない日常から辛かった話、悲しかった話など色々な話をした。
――――そして船は、三途の川の向こう岸に着いた。
楽しかった時程過ぎるのが早い。小町は少し名残惜しく思っていた。
「お、着いたよ。ここでお別れだね」
「……小町さん、僕は地獄に落ちませんかね?」
「なんだい、最後の最後で」
「だって誰かに迷惑をかけたことはあったけど、誰かの役に立ったことはないです。そんな奴は地獄に落ちるんじゃないですか…?」
「……大丈夫だよ、あんたみたいなのが地獄に落ちることは絶対に無い。そもそもの魂が綺麗だしね。迷惑をかけたのだって、なんかの事情があったんだろ?」
「……まあ、それはそうかもしれないですけど」
「今世のことばかり考えちゃダメだよ。逆に、今まで不幸だったから来世は絶対に幸せだって、信じるんだ」
「信じる……」
「まあ、どうなるかは閻魔様の匙加減だけどね」
ふふふ、と微笑む小町。
「……ありがとうございます、小町さん。お陰で少し安心しました」
「ああ。じゃあ、また縁が合ったら逢おう」
歩いていく少年の姿を、少女はいつまでと眺めていた。
……三途の川の向こうで渋滞が起こっていてその後一悶着あったのは、また別の話。
―――――――――――
「あー、暇だねぇ」
「おーい、そこのお姉さん?」
ん?と起き上がる小町。そこに居たのは、十六、七位の癖毛の目立つ青年だった。
「もしかして、ここって三途の川って奴?」
「ああ、そうだけど……っと」
小町は驚いた。青年のその綺麗な魂には見覚えがあったからだ。
「あーそっか、やっぱりか……まあでも、やりたい事は全部やれたから満足かな!んで、あんたが死神?」
「ああそうだよ。それとあんたを向こう岸に運ぶついでに、そのやったたことを色々聞かせてもらえると嬉しいね」
青年を招き入れ、船を漕ぎ始めた。
「ところで、あんた名前は?」
「小野塚小町。あんたは?」
「そうか、俺は――――って言うんだ!」
「へえ、――――ね……ところで、あんたその名前どう思う?」
「え?とっても良い名前を付けてもらったと思ってるけど」
「そうかい」
クスクスと笑う小町と、戸惑う男。そして、またもや楽しい時はあっという間に流れて行った。
「あー面白かった。ありがとよ小町」
「こちらこそ」
船から降り立った彼に小町は手を差し伸べた。
「縁が合ったらまた逢おうか。もっともアタイとあんたにそんなもの、無い筈ないけどね」
「ああ。来世ではもっと面白い話を聞かせてやるよ」
歩き出した彼の姿を、小町は見えなくなるまで眺めていた。
「あのー」
「ん?」
「ただいま」
「おかえり」