ローリング☆ガールズ+ボーイ   作:夏からの扉

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分相応

 

 

 

 

 

 

 分相応、という言葉がある。

 

 誰でも知っている言葉だとは思うが、変に背伸びせず見栄を張らず過信せず、身の丈にあった生き方をしていこうという意味だ。僕のようなモブ(・・)は特に、それが強く周囲に要求される。

 

 いや、言葉を正確にしようか。

 身の丈にあった生き方をしないと、こんな世の中では生きていくことさえ困難なのである。

 

 十年前、強制的に施行された道州制に反対して、地方の自警団が東京を襲撃。この東京大決戦と呼ばれる争乱で、かつて日本と呼ばれた国からいくつもの国が独立して、今も紛争が絶えない――――いや、話し合いで解決できない事柄は各国の自警団代表者が何らかの「競争」で解決をするという『ツインタワー宣言』により無秩序な戦争状態にはなっていないのだが、それにしても各国の争いで年間一体何人死んでいるのやらと言ったところだ。

 

 ついこの間までこの国、静岡でも富士山所有権紛争が山梨との間で起こっていたらしい。らしい、というのも僕が住んでいるのは静岡の西。紛争があったのは東側で、こちらに害をなすような山岡国民も近くにはいない、といった理由からだ。

 

 近所の人は何やらテレビを見て盛り上がっていたけど、ご近所付き合いが希薄でその場にいても気まずいだけの僕は混ざることができなかった。

 その場の雰囲気に流されないと表現すると美点かもしれないけど、非社交的と表現すると唾棄すべき欠点になる。日本語マジックである。

 

 ついでに言うと別に僕はその場の雰囲気に流されないわけではない。

 やっぱ美点じゃないじゃねえか。

 

 まあ、その富士山所有権紛争もつい数日前になんやかんやで解決してなんやかんやで山梨ともそこそこ仲を戻したそうだが。

 決着は勿論、モサ――――人並み外れた身体能力を持つ者たち、彼等の決闘である。

 そこに力を持たないモブか介入する余地などなく、祭の中心近くで踊っているのに全くの蚊帳の外だったのだろう。詳しくは知らないけど、予想など立てなくてもわかる。いつだって世の中の変革に携わるのは一分の人並み外れた者だけから。

 

 『どうせ俺以外の奴が歴史を作る』というタイトルの本を捲る。タイトルは少しアレだが、幻想を捨てて現実的に生きようと書いてあること以外は実に前向きな内容だ。知り合いが「モブ必携だから!ホントに!」と勧めてきたのも納得できる。

 

 外は風が強い様だが、風の音は聞こえてこない。せいぜいが窓から揺れる木が見えるくらいだ。それもそのはず、僕が住んでいるこの家――――あえて屋敷と表記するが、ここは町の入り口の所に隔離されている代わりにちょっとした豪邸だ。

 

 防音、耐震、庭池完備。

 正直、一人で住むには虚しさが増幅する家だった。

 

「…………」

 

 ページを捲る度に紙の音が耳に響いて時計の秒針、断続的な高い耳鳴りの音とアンサンブルをする。自作したランプが暖色系の光に強弱を付けてコンセントの接続が悪いことを知らせてきた。

 面倒だと思いながら立ち上がり、素直に部屋の電気を付けた。

 弱くとも暖かみのあったような気がする光は人工的で無機質な光に塗りつぶされる。なんとなく不快だからと、ランプの電源を落とした。おそらくもう使わないであろうランプを半ばゴミ箱と化している鞄に詰め込む。

 もし詰め込めるパンの欠片でもあったら旅にでも出かけようかな、と統一性のない思考にふけりながら本のページを捲る。細部までは読み込んでいない。良い本だとは思うけど、さほど興味はないからだ。

 

 そもそも僕にとって、モサが強くてモブが弱いのは当たり前のことだ。僕は特に身の丈に合わない大きな事などしないし、しようとも思わない。

 

 だからと言って拗ねて腐っているわけでもない。まだ十代なのに保護者無しで一人暮らしをして十分に食べていける程度には社会の歯車をやっている。

 

 現状に流されているだけとも言う。

 

 結局流されてんのね、僕。

 

 

 

 

     ☆

 

 

 

「…………おん?」

 

 意図しない音が口から漏れて、欠伸、咳と続いていく。

 

 どうやら、気付かない内に眠ってしまっていたようだ。窓から見える外は街灯の光にだけ照らされて樹木が風に揺れているのが見えた。電気を付けたまま眠ってしまっていたので、窓ガラスには蛾や小さい虫が何匹か張り付いていた。

 

 時計を見ると最後に見た時間よりも短針が二目盛りほど動いていた。

 

 椅子で寝たせいか身体に妙な倦怠感と痛みが自己主張を繰り返している。首を何度か倒してコキコキと音を鳴らし、立ち上がる「……ぐぎ」ことができない。変に寝違えたのかな。

 

 どうにか身体をぐにょぐにょと動かして床を這いながら身体を伸ばす。バキバキバキベキ。どこも痛めてないのが不思議なほどの効果音に思わず「おおおおお……」と呻き声が漏れた。痛たたたた。

 

 シャクトリムシの物真似をすること三十分、ようやく痛みが取れた。

 

 そして長きにわたる釣り上げられた魚ごっことそれに伴った痛みにより、僕の親友であるところの睡魔君は帰宅、夜中に差し掛かろうというこの時間帯にあろうことか擬似的にカフェインを摂取した時と同じ状態になってしまった。ざっくり言えばプチ不眠症だ。

 

「……地球のみんな、僕に睡眠欲を分けてくれー……」

 

 ん?睡眠欲じゃないか、寝たいっていう欲求は現在最大限まで高まってるわけだし。じゃあ何て言うんだろう。僕の貧弱な語彙では思いつかなかった。どうでもいいか。

 

 特にすることもないので、ベッドに寝転がり天井の模様を顔に見えてくるまで眺めることにした。ちなみに我が家の天井は白色一辺倒だ。どこをどうやっても顔に見えてくることはないだろう。

 

「……死にたい」

 

 特に死にたくもないけど、言ってみた。恥の多い人生を送ってきたことは確かだが、それで自殺をするかと問われると、五秒くらい悩んでお前が死ねって言うと思う。いや、言えない。そこまでの勇気はない。

 僕、超小市民。

 逆に大市民って何だとか考えてみたが、モサもたいなものか、もしくはプロ市民みたいなものだろうと納得しておいた。

 

 ピンポーン、ではなくピピピピピッピピーとインターホンが鳴る。何の曲だっただろうか。思い出せないや。

 

 

「おや、こんな夜中に誰だろう。宅配便かな……?」

 

 特に理由無く死亡フラグを建てながら頭跳ね起きで立とうとして、失敗。普通に立って応答する。

 

「はい、どなたですか」

「あ、すいませーん。旅の者ですがー……」

「……旅の者?」

 

 何それ、怪しい。

 いや、今時珍しくはないのか?流れモサとかもいるし、そう思えば別段不思議ではない……と思う。怪しいことに変わりはないけど。

 

 声は女。僕も昔は肉体労働とかしてたし、一人二人なら襲いかかってきても何とかできるだろう。相手がモサだった時は素直に諦めよう。地力が違うからね。

 

 警戒して考えて、最終的に僕は何を中学生じみたことを考えていたんだと後悔してから返答した。

 

「えっと、それで……ここに何の用でしょうか」

「いえ、その、えっと……」

望未(のぞみ)、言いにくいならあたしが言おうか?」

 

 増えた。

 最初の、いかにも普通の女の子って感じの声と比べると、活発で姉御肌な印象を受ける。あくまで印象なだけの偏見なのだが。

 ……まあ、さすがに女の一人旅は危なすぎるから不思議でもないのか。

 

「ではここは間を取って私が。……すみません、今晩、泊めてもらえないでしょうか」

結季奈(ゆきな)ちゃん!?いきなりはちょっと……」

 

 また増えた。

 今度の声は大人し目だ。とか感想を述べている場合ではなく、彼女の言葉はちょっと何言ってんだって感じであった。声でもう僕が男だということはわかっているはずなのにねえ……。

 

「あ、すいません。事情の説明が先の方が良かったですね。実は強風でテントが壊れてしまって……」

「……ああ、うん。なるほどね」

「なあ、いーだろ?迷惑はかけないし一晩だけなんだからさっ」

逢衣(あい)ちゃん、頼むのにそういう態度は良くないと思うよ」

「そうですよ。こっちはお願いしてるんですから」

「わかったよ、ちぇーっ」

「……………………」

 

 ……とりあえず、これが演技でなければこの娘達には致命的に警戒心が足りていないことがわかった。基本的に隣人愛を美徳としない僕でも、何かちょっと不安になってくるレベルだ。

 

「……いや、うん。泊めても……いい、けどさ。いいのかい?ここ、僕しか住んでないけ」「やっりい!」「あ、ありがとうございます!」言い切る前に喜ばれた。僕の言葉の後半部分は彼女たちの脳まで届かず耳元で処理されたに違いない。

 

 能天気なはしゃぎ声を背中に、玄関へと歩く。先ほどの名残なのか、パキポキと小気味よい音が骨を通じて鼓膜を揺らした。玄関の扉は防音機能は十分だけど防壁としての機能は持ってないから相手がモサで重ねて強盗か何かだとしたら警戒するだけ無駄だよな、と半ば投げやりにドアを開けた。

 

 扉の向こうには女の子が四人。

 まるで「ふぅ、一時はどうなることかと思ったぜ」みたいな顔でにこやかに笑ってるのが三人と、半分ほどと言わず、八割ほどは眠っている女の子が一人。

 しかもその全員が端整な顔立ちをしていた。

 すっげー、何かの本みたい、とか他人事のように思ってる内ににこやかに笑ってる内の一人の元気っ娘……確か、逢衣ちゃんとか呼んでただろうか。彼女が、

 

「おおお、すっげー。やぱ見た目も豪邸なだけあって中身も何か高そうなのが一杯あるなー!」

 

 と、盗賊じみたことを言った。ちなみに、彼女の言う「高そうなの」とは、僕が突発的に何かを作ろうとしてモチベーションが足らずに途中で放り出して形だけは面白いからと玄関に飾っておいた物で、材料費はワンコインで事足りる。

 

 ていうかどうでもいいけど凄い格好してんな、逢衣ちゃんとやら。上半身に着ているのはビキニの水着にも似た布と一枚の上着だけで、しかもその上着は大きな胸に引っかかって腹は隠せていない。下半身もショートパンツと所々に穴の開いたタイツ。防御力低めだ。

 

「……とりあえず、立ち話も何だし、中、入るかい?」

「はい、お願いします!」

「ねむねむ……」

「ちー坊、ほら、もうちょっとしたら眠っていいから、まだ我慢な?」

「ユキッペ、おぶって……」

「え、ええ!?私ですか!?そういうのは、逢衣さんの方が……」

「おっ邪魔っしまーす!」

「……逃げたね」

「逃げられましたね」

 

 家主である僕を放って漫才にふける彼女らを見つめる。中途半端に開いた口から、砂に埋もれたと噂の鳥取よりも乾いた笑いが出た僕を誰が責められようか。フィクション色の強い現実がノックして揺らす僕の頭蓋骨を、振動が相殺されないかという希望的観測で叩いてみた。頭が痛くなるだけだった。

 

 これが、僕と――――後に若干世界を救ったりする、至って普通な彼女たちとの初対面。

 

 いつ考えても出来すぎていて、ご都合主義的で、頭が痛くなるようで。

 何だか僕が物語の主人公にでもなったかのような気分になれる初対面だった。まあ、僕はどう足掻いてもモブだけれど。

 

 おそらく彼女たちは僕がいなくとも、なんやかんやで問題を解決し、なんやかんやで世界を救ったりするのだろう。

 そこに僕はいなくてもいい。モブらしく、いてもいなくても結果など変わらなかっただろう。

 だから、これは決して僕の物語ではなく、四人のモブである少女の物語に僕が引っ付いていく形になる。プラスワンとか、おまけとか、そんな感じだ。

 きっとそれが分相応になるだろう。

 

 それでは、僕の知る限りの彼女たちの物語。

 

 はじまり、はじまり。

 

 

 

 

 

 

 




ロリガの二次小説がなかったので、書いてみました。
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