ローリング☆ガールズ+ボーイ   作:夏からの扉

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腐った彼の思うトコ

 

 

 

 

 

 

「旅に同行したいって……どうしたんですか、急に」

 

 目を丸くして望未ちゃんが言う。

 訝しげでも怪しんでる様子も見受けられず、ただの驚きと疑問のみで構成された表情を言葉は、その発現の主である望未ちゃんの善性を表しているようだった。

 

 すぐ側で、何が楽しいのか工具を見たまま数分間もじっとしていた千綾ちゃんも「ん?」と首だけで振り向いて僕と望未ちゃんを視界に収める。そして、数度瞬きをした後、立ち上がって望未ちゃんの後ろに移動した。

 

「いや、何と言うかね……」言葉を探し、適当な理由を引っ張ってくる。「動力石が気になるんだよ、持ってるとモサになれるってのは初耳だったしね。一エンジニアとして、それを使って何かできないかとか、それがどんな作用で人体に影響を及ぼしてるのかとか、知りたくってね」脊髄に任せた嘘としてはマシなものが出てきた。

 

 千綾ちゃんの首が横に傾いた。「タツミも一緒に行くの?」八重歯が覗いた口は半月型に開かれていて、頬肉を持ち上げ、笑顔を構成している。

 彼女が僕が旅に同行するのを嬉しがっているのを見て、何か千綾ちゃんに好かれるようなことをしただろうかと海馬を漁ってみた。検索結果は芳しくない。

 

「ああ、安心して。動力石が必要ならそっちの方に回していいし、基本的に道楽の延長みたいなものだから後回しでも構わないからね」

「え、あ、はい。……いえ、そうじゃなくて!いいんですか?巽君、一人暮らしだって……」床を重点的に辺りを見回す。

「ん……家のことなら大丈夫だよ。どうせ貰い物だし、盗られて困るような物は持ってけばいいし」

 

 そして盗られて困るような物も、それ自体が少ない。せいぜい金と工具と一部の工作物程度のものだ。全て持ち運び可能である。

 

「貰い物……?家が、ですか?」

「貰った、と言うよりは手切れ金に近い何かだけどね。まあ、あんまり詮索しないでくれると助かるかな。多分、聞いてて楽しいものでもないだろうし」

 

 別にトラウマってほどでもないけれど、僕的には黒歴史の一種として扱っても良いような昔話だ。他人に話そうとも不幸自慢の一つもできないと言うか、ぶっちゃけ自業自得に近いところがあるし。僕も九歳だったし、若さ故の過ちとか言えばそれまでかもしれないけど、未だに思い出しては枕に顔を埋めているわけで。

 ……やっべ、叫びたくなってきた。

 今まで一人暮らしをしてきた反動か、急に大声を出すことに抵抗がなくなってきてる。

 呻きたい衝動を口内を噛むことで殺す。ちょうど歯が口内炎に当たって顔をしかめた。

 

「……えーと、じゃあ、よろしくお願いしますね!」

 

 僕の目が節穴じゃなければ、屈託のない、悪意の介入する余地が見あたらないような満面の笑みで望未ちゃんが笑う。ところで屈託って何だ。食えるのか。

 

「よろしく……ね?」千綾ちゃんも控えめに手を振っていた。手の振りは普通だが、指の先が曲がっているところが控えめ。特殊技が強そうだ。

 

「敬語じゃなくてもいいよ、呼び方が君付けなのに敬語ってのは中々違和感あるしね」

 

 僕は敬意の足りない、形式的な現代人じみた敬語を聞くのが苦手だ。それは僕が実は怪しい組織に薬を飲まされて年齢詐称をしている中身お爺ちゃんなわけではなく、これもまた、僕の黒歴史に関連していたりする。

 刷り込み……パブロフの犬、うん。条件反射。

 ふとした瞬間に思い出しかねない僕の黒歴史の方に問題があるような気がしてきた。

 

「ん……じゃ、じゃあ、よろしくね!巽君!」

「お互い傷つかない程度には、よろしく」

 

 必要なのは、押しくら饅頭ができるほど近付くことではなく、適切な距離感。

 踏み込まず、踏み込ませず。互いに利益があったり悪い感情が浮かばない内は友達でいれるのだから、間合いには気をつけなければいけない。

 

 確かに彼女たちの不用心さに心配をしてみたりもしたが、あくまで僕が旅を望むのは自分の為だ。わざと表現を変えるとするならば、彼女たちを利用するだけなのだ。

 

 心の隅を掘り起こすようなちくりとする罪悪感に、僅かに作り笑顔を曇らせた。無理に見開いて明るく見せようとした眼球が乾いて痛みを警告としてくる。

 生理的な涙が白目の近くで今か今かとスタンバイをしていて、頭蓋の裏側へと流し込むようなイメージで強制的に顔面から退去させた。

 

 涙の数だけ強くなれるのなら、僕はきっと始まりの村に出てくるスライムにも劣るだろう。そう思えるほど、自分でも涙を流したことは数えるほどで、しかも、ほとんど生理現象だった。

 確か一番最後に泣いたのは、知人の葬式で泣かなくて「何で表情一つ変えないのよ!」と知人の友人に空中三連コンボを決められた時だっただろうか。

 あいつモサじゃねえの。でもエフェクト出てなかったしなあ。

 

 思ひ出がぽろぽろと海馬を崩しながら、僕の親父の異名をほしいままにする正式名称右目の裏側に回想を浮かべていたら、千綾ちゃんが不思議そうな顔をしているのが見えた。

 

「傷つかない程度にって、何?」

「距離が近すぎると些細なことでも許せなくなってくるからね。適度な距離を保ってぬるま湯な友情に浸っていましょうってこと」

「んー、ちょっと難しいかも」

「千綾ちゃんはそれでいいかもしれないね、こんなことを考えるのは、不健康で臆病な証拠だから」

 

 それでも千綾ちゃんは尚もわからないといったように、眉をハの字に曲げていた。さっきから首が垂直に戻っていない。

 

 意外にも、望未ちゃんも僕の言葉の意味が理解できなかったようで、しきりに首の柔軟運動を繰り広げていた。……いや、意外でもないのか。無条件で他人を疑わず、信じてしまうような娘だ。仲が良くなれば良くなるほど素晴らしいことだということは、おそらくは彼女の中では他にないほどの幸せを成立させる方程式として確立している。

 

 ……普通、なのかなあ。

 

 もしかしたら僕の知らない間に、彼女たちみたいな善意に個性をプラスして培養されただけのような人間が量産されているのかも。なにそれこわい。

 いやでもそしたら僕が異常ってことになるかもしれないけど、きっとこれも個性を伸ばす教育の一環でこうなってしまったとか言い訳は立つはずだ。

 

 ……僕、何考えてるんだろ。

 思考脱線はいつものこと。脱線した思考が壁や天井を走るのも普段通り。

 それでも。……ねえ。

 ……疲れが取れてないのかな、昨日も幻覚見ちゃったし。

 

「良い兆候だと思いたい……」

 

 誰にも聞こえないように小声で呟いた。

 

 よりにもよって、不特定多数の純粋な善意を、半分くらい本気で信じかけちゃったからなあ。

 

 

 

   ☆

 

 

 

「へ?巽も旅に?いいじゃん、あたしは賛成だぜ!」

「私も……と、特に不都合がないのなら……」

 

 以上、僕が旅に同行すると聞いた逢衣ちゃんと結季奈ちゃんの反応でした。回想終わり。

 ここまで問題点があげられないと、純粋とか善性とか以前に実はただの馬鹿なんじゃないかという疑問が浮かび上がってきた。一応男と女なんですが、僕は男以下の存在ですかそうですか。

 

 とか冗談に浸食された思考は置いといて、真面目なお話。はい、おふざけはどんどんしまっちゃおうねー。

 

「どう、すべきかねえ」

 

 彼女たちの倫理観というか、他人をすぐに信じちゃうあれを何とかした方が良いのかどうかを、悩んでいる。

 おそらくは彼女たちと行動を共にする限り、その巻き添えで僕が被害を被る可能性は高くなる。だが、僕の目的が自分探しで、それに彼女たちの生来の性格が必要かもしれないので、そうもいかない。

 同行をしない、旅をしないという案は本末転倒で問題外だ。

 

 

 一通り悩んで、とりあえず流れに任せて保留することにした。

 問題を先送りにする政治家の魂は僕にも宿っているようで、僕の頭の中では全ての責任の所在を秘書に放り投げて遺憾の意を表明する寸劇が繰り広げられていた。

 

 現在テレビの中では政治家達が互いを陥れようと後ろ向きの努力をしており、その影響であることは言うまでもなかった。

 ちなみに、これは大決戦以前の古典映画だ。B級、及びC級とされる類のもので、コンビニで菓子も買えないような値段で購入したのを憶えている。

 

「……つまんね」

 

 長い間放置してた為、腐らせておくのもアレかと思って出発の前に見ておこうと思ったが、値段相応のクオリティだった。特に、主人公の棒読みが酷い。

 電源を落とす。テレビの画面が無機質な青色一色に変わる。何かしたいんだけど何もしたくないという矛盾した思いを、視線と共に画面にぶつけてソファの背もたれに寄りかかった。

 

 肉体が動くことを拒否する。出発する前に何かをしておかなくちゃという意識だけが先行して、倦怠感となって身体に表れた。

 修学旅行前とかに持っていく物を何度も何度も確認してしまう現象と類似していると思われる。

 

 しかし、いつまでもこうしているわけにもいかないので、とりあえずは……武器、とまではいかずとも護身具くらいの調達はしておきたい。

 

 この世界には多様な国がある。

 それぞれがそれぞれのご当地性を好き勝手に弄って好き勝手にやっているがだけに、当然のことながら危険も多い。

 

 余所者を徹底的に嫌う国家がある。共産主義国家がある。半ば文明を捨てた国家がある。絶対王政を摸した国家がある。宗教狂いの国家がある。伝統を神聖視し過ぎる国家がある。科学が絶対だと宣言する国家がある。変態しかいない国家がある。……最後のは少し違うか。

 

 だからこそ、彼女たちに一人もモサがいないのなら身を守る術が必要になってくる。

 その地の国家自警団に任せるのは下策。国家自体から敵視されたらどうしようもない。流れモサが助けてくれるのを待つなんてのは、下の下の下だ。学校も仕事も何にもないほど下の文字に溢れている。いくら何でも、現実を直視しなさすぎだろう。

 

 とりあえず、彼女ら平和ボケ四人組に持たせる物は決まってある……というか、作ってある。彼女たちの中にモブが含まれていることを想定して、朝方作っておいたやつだ。……流石に四人全員モブだとは予想してなかったけど。

 さっき急いで追加製造しましたよ、ええ。

 

「……やっぱりアレかなあ」

 

 使いたくはなかった────とか別にそういうものではなく、単に僕の黒歴史を象徴する物だからできるだけ見たくなかっただけだ。そのことを考慮しなければ、僕の求める条件にぴたりと当てはまる。

 ……貴重品だから、どちらにせよ持ってく気ではあったけどさ。

 使うつもりで持っていくのと、保管目的で持っていくのには大きな隔たりが云々。

 とりあえず、よほどのことがない限り使わなくて済むように、別の武器も持っていくことにした。

 刺激的なお味のパイナップル(隠語)とかどうだろうか。

 

 ……テロリストとして取り押さえられかねないから、やっぱり、光る!弾ける!音が鳴る!玉(隠語)にしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はきっと出発できる。はずです。きっと。
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