ある日の晩。虹架はスーパーで買い物をしながら、ふと手を止めた。そう言えば、とALOでのことを思い出す。先日、キリトに料理の話をした時に、是非食べてみたいと言っていた。
「どうしよう……」
キリトの要望なら是非とも作りたいところだが、料理スキルはそれほど高くはない。現実世界ならともかく、ゲーム内での料理の味はスキルによってかなり変動する。今のレインが作ったところで、イメージ通りのものはおそらく作れないだろう。
ただ、それはキリトも十分に知っているはずだ。その時も気にしなくていい、練習台のつもりでいいからと言っていた。
「だったら、作ってみてもいいかな……?」
「虹架?」
一緒に買い物に来ていた母親に声をかけられ、虹架は我に返るとなんでもないよと手を振った。
翌日。レインは早速材料を準備していく。あの時の話題で出たのはボルシチだ。その材料に当たるものをALOで揃えていく。そして早速作ってみた結果は、
「び、びみょう……」
やはりスキルが低いためにイメージ通りのものは作れない。それでも何度か作ってみる。少しだけ料理スキルも上がったが、やはり現実世界の味は再現できない。
「どうだ?」
声がして、レインは顔を上げる。エギルが側に立っていた。ここはエギルの店の厨房で、無理を言って貸してもらっている。レインが力なく首を振ると、エギルはそうだろうなと肩をすくめた。
「レシピさえ教えてもらえれば代わりに作ってやるが……」
「いえ……。自分で作りたいんです」
レインがそう答えると、そうだよなとエギルも頷いた。
「あれ、こっちにいたのか」
また別の声。その声にレインの表情が凍り、エギルの笑みは引きつった。二人揃って同じことを思う。なんてタイミングの悪いやつだ、と。
「あれ? レイン。何か作ってるのか?」
声の主、キリトが厨房に入ってくる。レインは慌てて材料や試作品を片付けようとするが、すでに見られている以上それに意味はない。キリトは素早く試作品の一つを手に取ると、おお、と声を上げた。
「もしかして、ボルシチ?」
「う、うん……」
わずかに表情を曇らせながら、レインが頷く。へえ、とキリトは感心したような声を上げて、
「ちょっとだけ……食べてみてもいいか?」
「いいけど……。あまり美味しくないよ?」
そう声をかけてみたが、しかしキリトは気にせずにスプーンを手に取り、口に入れた。しばらく咀嚼して、呑み込み、ほう、とため息をついた。
「うん。上手い」
「俺にも食わせてくれ」
キリトから皿を受け取り、エギルも食べる。そしてすぐに表情を綻ばせた。
「なんだ、言っていたわりには上手いぞ。何が不満だったんだ?」
エギルが不思議そうに聞いて、レインは首を振った。
「全然美味しくないよ。イメージ通りにいってないもの。やっぱりスキルかな……」
「……十分美味しいと思うんだけどなあ……」
「俺も同感だ……」
キリトとエギルがこそこそと話すが、レインはそれに気づかない。しばらく頭を悩ませた後、やがて力なく首を振った。
「また時間があれば料理スキルも上げてみるよ。ごめんね、キリト君。こんなものになっちゃって」
「え? ……ああ、あの時の話か! いや、気にしなくていいって。十分美味しかったから」
そうキリトは笑いが、しかしレインの表情は暗いままだ。どうしたものかなとキリトはしばらく考えて、そうだと手を叩いた。
「ならレイン。どうせ家が近いんだし、リアルで食わせてくれよ」
「え? ……ええっ! い、いやそれはちょっと何と言うかですね心の準備が!」
慌て始めるレイン。キリトはその様子をおかしそうに眺めながら、
「レインの都合のいい日でいいからさ。約束な!」
「あう……。わ、わかったよぅ……」
最初の料理の話と同じように、いつの間にか約束させられていた。
数日後。虹架はそこにいた。キリトの家の前だ。日時と場所を決める時、キリトは何の躊躇いもなく自分の住所を教えてくれた。信じてくれているのはとても嬉しいのだが、それはちょっと危ないんじゃないかとも思う。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに人が出てきた。
「ほ、本日はおまねきいただきいた!」
噛んだ。
「なんでそんなに緊張してるんだよ……。ほら、入ってくれ。えっと……。名前で呼んだ方がいいのかな?」
虹架は少し考え、それじゃあ、と頷いた。
「分かった。よろしくな、虹架」
笑顔を浮かべるキリトに、虹架は顔を赤くしながら頷いた。
台所を借りて、手早く料理をしていく。一部のものは冷蔵庫で寝かせる必要があったので、その辺りは自宅から持ってきている。
昼頃に作り終えて、虹架は料理をテーブルに並べた。
「ど、どうぞ……」
緊張した面持ちでキリトの、和人の前に差し出す。なぜか和人も緊張してきたのか、いただきますと震える手で受け取った。そして一口食べてみる。
「……っ! うまい! なるほど、確かにALOで満足できなかったわけだ!」
和人が勢いよく食べ始める。どうやら気に入ってもらえたようだ。虹架は照れたようにはにかみながら、和人の対面に座った。
食べ終えて、キリトが満足そうにほう、と息を吐いた。その顔を見て幸せな気持ちになりながら、レインは食器を片付け始める。
「あ、いいよ虹架。こっちで片付ける」
「ううん。片付けるまでが料理だから」
そう言うと、和人はしばらく考えて、
「分かった。じゃあせめて手伝うよ」
そう言って立ち上がった。
台所で虹架が食器を洗い、和人がそれを拭いて棚に戻していく。
「他にも何か作れるのか?」
黙々と洗っていると、和人がそう声をかけてきた。レインはすぐに頷いて答える。
「うん。もちろん」
「じゃあまたお願いしたいな。本当に美味しかったからさ……」
味を思い出しているのか、和人の顔がにやけていく。虹架は苦笑しながら、少し嬉しそうに頷いた。
「分かったよ。何でもいいの?」
「ああ。虹架が作りやすいものでいいぞ」
うん、と頷いて、ふと気づく。自然とまた来る約束のきっかけを作ってしまった
そのことに顔を赤くしていると、
「よし、じゃあお礼になるか分からないけど、これからちょっと買い物に行くんだ。一緒に行くか?」
「ええ! いや、それはいいよ! なんだか悪いし!」
いいから、と食器を片付けた和人は虹架の手を取り、歩いて行く。繋がれた手をまじまじと見つめ、気がつけば和人がバイクの準備を終えていた。ヘルメットを手渡される。ここまで来るともう断れない。
大人しく和人の後ろに座ると、和人がバイクのエンジンをかけた。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「う、うん。よろしくね、和人君」
名前を呼ぶ。すると和人はわずかに顔を赤くし、なんだか照れるな、とつぶやいてから。
「ああ、よろしく。虹架」
和人の体に手を回す。自然と密着する体。虹架は頬が赤くなるのを感じる。やがてバイクが走り出し、虹架は和人の体に回す手に力をこめ、
「……どうしよう、ちょっと嬉しい……」
一人頬を染めながらにやけていた。
買い物を終えて、自宅に帰って。
「今思ったら、デートみたいだったような……」
そのことに思い至って恥ずかしくなって身悶えしたりするのだが、それはまた別の話。
壁|w・)書いちゃった。
キリトとレインのパーティで放置すると、料理に関する掛け合いがあります。
それの後日談、みたいな感じ?
30分で急いで書いたので色々とおかしなところがあるかもです。言い訳です。
読み直しを一切していませんので誤字が多いかも。
お仕事が終わったら修正しにきますよー。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。