Transform! And we go ahead to the tomorrow… 作:ハギシリ
翌日、本番を当日に迎えた三人は、再びリハーサルの為にステージふと向かっていた。
午前は別の仕事で隣町へいっていたため、少し移動を急ぐ必要がありそうだ。
「そういえば、しまむー。昨日のリハの時なんか気にしてたみたいだけど、なにかあったの?」
「あっ、いえ…ミッチさん、いないかなって」
「それって貴虎さんの弟さんだっけ?
そういえば昨日なにか話してよね」
「はい。…といっても、あんまりお話できなかったんですけど」
半ば独り言のように、卯月が呟いた。
結局、光実があの後姿を見せることはなかった。
その事実が卯月の中に、焦燥感にも似たもどかしさを与える。
余計なお世話なのは彼女自身が誰よりも理解できた…だが、卯月には、どうしても彼をこのまま放っておくことができなかった。
「ところで、プロデューサー。
話は変わるんだけどさ…なんか人、少なくない?」
凛が周囲を見回す。
三人もそれにつられて辺りを見回すと、確かに休日の午後とは思えないほどに人影という人影がなかった。
まるで、映画に出てくるゴーストタウンか、もしくは、かつての災害直後のように…。
開発都市である沢芽市に、人がいない。
たったそれだけのことが、これほどに不気味な雰囲気を放つことに、なんとも言えない不安な気持ちになる。
…まさにその時、1匹の獣が彼らを狙っていたことにも気づかないほどに-ー。
「こんなところにもまだ猿が残っていたか。一匹たりとも逃がさんぞ」
「貴方は…?」
その獣は、少女の姿をしていた。
プロデューサーの問いを遮るように、少女の周囲に黒い小さな影が集う。
影はやがて1つの大きな塊となると、その姿を醜悪な昆虫のそれへと変化させた。
「なにあれ…!? イナゴ!?」
「まさかこんなことが…」
そのあまりに非現実的な光景に、誰も動くことができず、完全な金縛り状態に陥ってしまう。
対照的にイナゴ怪人は、一歩、一歩と確かな殺意を纏ってこちらへ向かっていた。
逃がせ。
今すぐ彼女たちを逃がさなければ殺される。
プロデューサーの頭の中に、最大音量で警報が鳴り響く。
プロデューサーは拳を握りしめ、三人の前に立った。
「私がなんとか時間を稼ぎます。
三人はその隙に逃げてください」
「そんな…そんなのできるわけないじゃん!」
「お願いします、みなさん。
おそらくこれが、私からの最後のお願いです」
プロデューサーがイナゴ怪人に掴みかかる。
だが相手は正真正銘の怪物。いくら大柄なプロデューサーといえども、為す術もなく殴りとばされてしまった。
「どうした? もっと私を楽しませてみろ!
貴様が死ねば、次はあのガキ共の番だぞ!」
イナゴ怪人が立ち上がる間も与えずにプロデューサーを踏みつける。
ぐっと気管が詰まり、息がこぼれた。
苦痛に顔を歪めながら、それでも3人を見上げる。
「みな…さん。はやく、逃げ…」
「プロデューサー!」
「いや…誰かプロデューサーさんを助けて!」
卯月の涙でぼやけた視界に、黒い影が映る。
何とか頭を動かして、影へと視界を動かす。
茶髪から覗く鋭い目に、妙に気取った眼鏡が掛かっている。
それは、洋菓子店シャルモンのパティシエ見習い…城乃内秀保だった。
「ウッチー!?」
シャルモンで凰蓮に殴られ、もだえていた彼とは同一人物とは思えない鋭い眼光は、まっすぐに謎の少女へ向けられていた。
イナゴ怪人になぶられるプロデュサーと、そのあまりにも痛ましい光景に涙す少女達の姿に、城乃内は001の数字が当てられたロックシードを握る手に力が込められるのを感じた。
「好き勝手やってんじゃねぇ!! 変身!!」
『マツボックリ!』
「(初瀬ちゃん…!)」
城乃内が錠前をベルトにはめると同時に上空にクラックが現れる。
そこから城乃内に降ってきた物体は…。
「空から…松ぼっくり!?」
『マツボックリアームズ! 一撃・インザシャドウ!』
「フン…雑魚が笑わせる」
「うおおおおおおおおお!!!」
黒影に変身した城乃内が、マツボックリアームズ特有のアームズウェポン、影松で切りつけることで、イナゴ怪人からプロデューサーを救出することに成功する。
「プロデューサー!」
「私は…大丈夫です。
それより、みなさんにお怪我は?」
「私たちは大丈夫!
それよりプロデューサー、ウッチーのあれって…」
未央が指差す方向を見ると、自分を助けてくれた黒い戦士がイナゴ怪人相手に奮闘しているのが見える。
「ウッチー…?
ああ、彼のことでしたか。
あれは…おそらくアーマードライダーですね。
本来、インベスゲームで使われるロックシードの力を直接身に纏った姿…だと、ガイドブックにはありました」
「あ、ガイドブック情報なんだ…
まぁ、なんでもいいや! 行っけーウッチー!!」
声援に応えるかのごとく、黒影が二度、三度とイナゴ怪人を切りつける。
さっきまであれだけ猛威を振るっていたイナゴ怪人を完全に圧倒していたのだ。
「あれが…アーマードライダー…」
「すごい…」
だが、優勢は長くは続かなかった。
影松を奪われ、先程までとは対照的に、今度は黒影が幾度となく切りつけられる。
なぞの少女は笑いを押し殺しながら、実に愉快そうな表情を浮かべている。
「どうした? ボロボロじゃないか」
「うるさい! 地獄のパティシエ修行に比べればこのぐらい…!」
乾いた声で喉を震わせ、城乃内は精一杯の強がりを見せる。
それに対し少女は肩をすくめて、唇を笑みの形に作る。
それは…ぞっとするほどに冷たく歪んだ笑みだった。
「よかろう…変身」
『ダークネスアームズ 黄金の果実!!』
少女の体が黒く輝き、そして黒影にどこか似た鎧に身を包む。
この場に、二人目のアーマードライダーが現れた瞬間であった。
「ちょっと! あいつまで変身しちゃったよ!」
もはや、何が起こっているのか完全に理解の範疇を超えていた。。
今まで生きてきた常識が、この短時間でこうもことごとく崩されるものかと、ある種の感動すら覚えてしまいそうなほどだった。
そんな4人を、城乃内とはまた別の声が、再び現実へと連れ戻した。
「無事だったか! 今のうちに逃げるんだ」
「貴虎さん!? でも、城乃内さんが!」
貴虎は城乃内を一瞥すると、その表情を歪める。
「…やはりあのロックシードでは限界が…。
急ぐんだ!あれでは長くは持たんぞ!」
「そんな…じゃあウッチーは!?」
「……。」
未央の問いに、貴虎は答えることができない。
それがつまり何を意味するのか…眼前の戦況を見れば、想像に難くなかった。
しばしの沈黙がその場を支配する中、卯月は何かに気付いたようにハッと顔を上げた。
「私…知ってます」
「なに?」
平静を装いながらも、貴虎は内心ドキリとする。
一方の卯月は気付いてしまった事実に、いてもたってもいられないようだった。
「私、ロックシードを持っている人を知ってます! 私、その人のところに行ってみます!」
「なっ…! 待て! 今一人で行動するのは危険だ!」
貴虎の静止も聞かずに駆け出す卯月に、貴虎はしまった、という表情を浮かべた。
卯月は考えるよりも先に体が動いてしまったようだ。
慌てて後を追おうとするが、3人をこの場に置いていくわけにはいかなかった。
「未央、私たちも!」
「うん!
行こうしぶりん! ほら、プロデューサーも!」
「しかし、皆さんに危険が…」
「…この状況で安全な場所などない。
ならばせめて、固まって行動した方がいいだろう。それよりもはやく彼女を。
彼女はおそらく、光実のところへ向かったはずだ」
貴虎はプロデューサーに肩を貸そうと手を伸ばすが、彼は静かに首を横に振ってそれを拒んだ。
どうやらいてもたってもいられないのは彼も同じらしい――。
***
ビートライダーズのステージのある広場。
何段も続く石階段の、ちょうど真ん中の辺りに光実は腰掛けていた。
ほとんど賭けに近い確立だったが…卯月の予想通り、光実はやはりそこにいたのだ。
「ミッチさん!!」
「貴方は、昨日の…」
光実が、突然の来訪に戸惑いの表情を見せる。
だが、今の卯月にそれを気に止めている余裕はなかった。
光実を見つけられた安堵と、はやく城乃内を助けにいかなければならないという焦燥感から、思わず早口で畳み掛けてしまう。
「大変なんです! 黒い人が黄金の果実で…えっと、マツボックリがイナゴなんです!!」
「…一度落ち着いてください。一体何があったんですか?」
焦っている卯月を落ち着かせるために、光実はあえて冷静に彼女に問いかけた。
そんな光実の真意に気付いてか、卯月も少しばかりの冷静さを取り戻す。
「すみません…えっと、その…!黒いアーマードライダーが町で暴れてて…!」
「黒いアーマードライダー。…コウガネ…!」
どうやら光実はあの少女のことを既に知っていたようだ。
うまく説明する自信がなかった卯月には、その事がまるで天の助けにも感じられた。
「それで、 城乃内さんがたった一人で戦ってるんです!」
「なんだって!?」
「お願いです、ミッチさん!
城乃内さんを助けに行ってあげてください!
あのロックシードがあればできるんですよね!?」
ドクンと心臓が音を立てる。
誰かのために戦う…かつて己のエゴで大切な人を全て犠牲にしてしまった光実にとって、それは呪いの言葉だった。
卯月から目をそらし、気まずそうに一歩下がる。
「…僕には…無理だ」
「どうしてですか!?」
「僕には…誰かの為に戦う資格なんてないよ…」
驚くほどに冷たく、無機質な声で、独り言のように、光実は小さく言葉を零す。
だがそれは同時に、千の言葉よりも深い意味を孕んだ、ハッキリとした拒絶の意思であった。
あまりの事態に、なんと返せばよいのかも分からず卯月は何度も口を開いては、言葉が見つからず虚しく口を閉じることを繰り返した。
やがて、一つの答えに辿り着く。
「だったら…だったら私が戦います!」
「――っ!」
今度は光実が息を呑む番だった。
見開かれた目で卯月をまっすぐ見つめ、彼女の真意を問う。
卯月は視線を一度落とし、続けた。
「私…誰かの笑顔を見るのがすっごく大好きなんです。
今回のイベントでも、スタッフさんやビートライダーズのみなさん、それに凛ちゃんや未央ちゃん…それにプロデューサーさん。
みんなが悲しんでいる誰かを笑顔にするために頑張っていました。
でも…今、それが壊されそうになってるんです!
もうこれ以上、あんな人のために誰かの涙を見たくないんです!」
言うが早いか、卯月は光実のポケットから、強引にロックシードを引っ張り出し、それを大切そうに両手で抱えた。
だが、、光実の視線は奪われたロックシードではなく、むしろ、奪った卯月の手そのものに向けられていた。
「(手が震えてる。やっぱり怖いんだ…)」
ロックシードを握る卯月の手はかすかに震えていた。
目を凝らしてよく見ると、顔色もどこか蒼白になり、足もすくんでガクガクと震えている。
それでも、その手に握ったロックシードを放すことだけはなかった。
「(ああそうか。この人は…紘汰さんと同じなんだ…)」
***
どうして紘汰さんはまだ戦おうとするんです?
『何だよ? いきなり』
世間では、僕達ビートライダーズはすっかり悪者です。街の人を助けたところで報われる事はない。そんな戦いに、何の意味があるんですか?
『報われるかどうかは関係ないだろ。やらなきゃならないから戦う、それだけだ』
でも、紘汰さんがそこまでする必要なんて無いじゃないですか。
『戦う力を持ってるのに何もしないなんて、俺には無理だよ』
***
どうして戦うのか――かつて、光実は鉱汰に訪ねたことがあった。
正直、光実には鉱汰の答えはあまり理解できるものではなかった。
光実の戦う理由は、鉱汰たちの笑顔を守るためだけであり、そこに「みんな」などという曖昧なものは存在しない。
だか…、光実はこの時、初めて空虚だった心が、何かで埋められた気がした。
「(そうか…、そうだったんですね、鉱汰さん)」
暗闇の中に差した一筋の柔らかい光が、光実の凍りついた心と溶かしていく。
「島村さん、僕にもまだ…みんなを守れるでしょうか…?」
気付けば、そんな言葉が自然にこぼれていた。
その言葉に、卯月の表情がぱっと輝く。
「ミッチさんにならできますよ! だってミッチさんは――頑張ってますから!」
自信満々に言う卯月の様子が少しおかしくて、光実はこんな状況であるにもかかわらず少し笑ってしまった。
いつぞやの寂しそうな笑顔と違い、今度は年相応の柔らかい表情だった。
卯月もそれにつられて、思わず笑みが零れた。
「島村さん! それに…光実…」
遅れて到着した貴虎、プロデューサー、未央、凜が現状に似つかわしくない光景に、首を傾ける。
一方の光実は、卯月に向けていた視線を、今度は貴虎に向ける。
しかし、先程までの柔和な笑顔と違い、今度は非常に真剣な表情で、貴虎をまっすぐ見つめた。
「兄さん…僕、やるよ」
その一言で、貴虎は全てを察したようだった。
だが、貴虎の表情は弟の成長を喜ぶそれではなく、どこか憂いを秘めた物だった。
「…これ以上、お前を危険に晒すわけにはいかん。それに、償いの為に戦う必要があるというのなら、それは俺も同罪だ」
「ありがとう、兄さん。でも今は償いとかじゃなくて、ただみんなを守りたい…。それだけなんだ」
「光実…」
それは、かつて貴虎が光実に求めた言葉であり、そしてもう二度と光実から聞くことはないだろうと諦めていた言葉だった。
貴虎の脳裏に、かつての戦いの最中で、光実が初めて自分に見せた本音の言葉が蘇る。
『あんたはいつも言ってたね。
ノブレスオブリージュ。優れた者ほど真っ先に犠牲を払わなきゃならない。それこそが、本当の名誉だって。
…名誉ってなんだよ? 他人のために傷ついて! 利用されて! そんなもの…嬉しくもなんともないよ!!
ねぇ、兄さん。あんたは誰よりも優れた人間なんだろ? だったらさぁ… 最期は僕のために犠牲になってよ。
それがあんたの務めだろ!!! 』
「(あの光実が、こうも変わっていたのか…。
見ているか葛葉。どうやら光実は俺の力などなくとも変身できたようだ)」
ふっ、と貴虎は寂しそうな、それでいて温かい笑みを浮かべた。
「やはり、俺は兄失格だな。
俺はかつて、お前の弱さに気付くことができなかった…。
そして今。お前がこれほどまでに強くなったことにも気付けなかった」
「兄さん…」
「行け。そして…必ず勝って帰ってこい」
「うん! 行ってきます。兄さん」
***
一方の城乃内は、イナゴ怪人と邪武という遥かに格上の敵を2人も相手に、かなりの粘りを見せたものの、既に戦極ドライバーを破壊され、絶体絶命の状況だった。
もはや、城乃内には抵抗は愚か、まともに逃げる余力すら残されてはいなかった。
「くっ…こんなところで!」
「これでもうお前達に戦う術はない」
邪武が城乃内にトドメを刺さんと一歩、一歩とゆっくりと、だが確実に距離を詰めていく。
もはやこれまでかと城乃内が諦めかけたその時、その場に近づく1つの人影があった。
「そうでもないよ。まだ残ってるロックシードはあるんだ」
「お前!?」
「呉島光実…フハハハ!
葛葉紘汰ならともかく、お前ごときではどうすることもできん」
「(またその名前…この人まで…?)」
案内のために同行していた卯月たちは、邪武の口から出た人物の名前に驚きを隠せなかった。
そんな中、光実一人は何かを悟ったような、あるいは覚悟を決めたような表情でロックシードを構える
「…確かにあの人はヒーローだった。でも…もう紘汰さんはいない。
だから僕たちが! ヒーローにならなきゃいけないんだ!! 変身!!」
卯月から返還されたロックシードを開錠し、戦極ドライバーに嵌め込む。
そのフェイスプレートに描かれていたのは、かつて仲間達を破滅へと追いやってしまった龍玄・黄泉のものではなかった。
『ブドウ LOCK ON! ハイー!
ブドウアームズ! 龍・砲・ハッハッハッ!』
アームズが展開し、光実の体が中華風の鎧に包まれていく。
緑の中華衣装に、葡萄の意匠のアームズが身を包んだ、チーム鎧武の2号ライダー。
「あれがミッチさんの変身した姿…」
「…かっこいいじゃん」
アーマードライダー龍玄が、この世界に復活した瞬間だった。
「どこまでも楽しませてくれる…!」
邪武とイナゴ怪人が、獲物を城乃内から龍玄へと変え、武器を構える。
そして、龍玄もまた、それを正面から立ち向かうべく中華拳法の構えで迎え撃つ。
「(頑張ってください! ミッチさん!!)」
***
この後、ミッチさんは悪い人を私達から引き離すために、どこか別の場所へ行ってしまいました。
ミッチさんが一体どんなすごい戦いをしたのか。
そして、このビートライダーズと呼ばれる人達が今までどんな戦いをしていたのかも詳しくは教えてもらえませんでした。
だから、私は私が知っていることだけをお伝えしたいと思います。
まず…ミッチさんは勝ちました。
夕日の中で私たちにで勝ったことを伝えてくれたミッチさんは笑顔でした。
多分、あれがミッチさんの本当の顔なんだろうと思いました。
だってあの時のミッチさん、すっごく素敵な笑顔でしたから!
それと、復興イベントも本当は中止になってしまうはずでしたけど、私がプロデューサーさんにワガママを言って、後日に変更という形で落ち着くことになりました。
――それと、全部のことが終わった後に、こんな不思議なことがありました。
***
---そっか、あんたが…
「え?」
光実の無事を知り、安堵の溜息をついていた卯月に、どこからともなく声が聞こえてきた。
最初は幻聴かと思った卯月だったが、目の前に突然林檎の形の光が現れたことで、声が幻聴でないことを知ると同時に、彼女にとって3度目となる常識ブレイクを食らう羽目になってしまった。
やがて林檎の形の光が収束すると、そこから一人の青年が現れる。
その青年の姿に似つかわしくないほどに落ち着いた雰囲気と、気品すら感じさせる純白の衣装に身を包んだ出で立ちは、まるでなにかの童話の王子でも思わせるようだった。
「あんただろ? ミッチを変身させてくれたのって。ありがとうな…って、どうしたんだ、そんな顔して…ってそりゃ驚くよな」
青年が軽く指を鳴らす。
すると、彼の姿は光に包まれ、やがて黄金の髪は黒色に、王子のような衣装は浮世絵風のイラストが施されたパーカーへと変わった。
「よっしゃ、これなら大丈夫だろ!」
「あ、あわわっ。変身しちゃいました!?」
先ほどまでの落ち着いた雰囲気とは一転、黒髪で笑顔を携え、軽快な口調で話す彼は、王子というよりはザックのような気のいいお兄さん、という印象が強く感じられた。
「あー、俺は…なんていやぁいいんだろ?
まぁ、とにかく一言お礼が言っときたくてさ」
「そんな…私、林檎の神様にお礼を言われるようなことなんて…」
卯月の答えがあまりに予想外だったのか、青年は一瞬呆け顔になり、そして腹を抱えて笑い出してしまうのだった。
ひとしきり笑って落ち着いた後、青年は仕切りなおすように咳を払う。
「ミッチのこと、励ましてくれたんだよな。
…あいつ、みんなを守るんだって、すげぇ頑張ったんだぜ?」
「えっ、あっ、は、はい!」
どうしてこの人がミッチさんの名前を…?
それに、どうしてミッチさんの戦いを知っているの…?
卯月は驚きのあまり咄嗟に浮かんだ疑問を口にすることさえ忘れ、青年を見やる。
「あっ、そうだ! あとあんたらのプロデューサーに俺は元気だって伝えといてくれ。随分心配かけちまったみたいだしさ」
「プロデューサーさんの知り合いなんですか?」
今度こそ疑問を口に出来た卯月だが、青年はそれに答えることなく、静かに微笑を浮かべるだけだった。
「…もうそろそろ時間だな。さぁ、ここからは君たちのステージだ」
青年の姿が再び鈍く光る。その眩さに思わず顔を覆ってしまうほどだった。
そして、卯月が顔を出す頃には既に青年の姿はなかった。
今のは、夢だったのだろうか…?
不意の出来事にそんな事さえ考え始めた卯月の脳裏に、ふと1つの考えがよぎる。
まさか今のは…
「葛葉、鉱汰…さん?」
今となっては彼の正体を確かめる方法はない。普通に考えればあり得ないことだろう。
だが、卯月には彼こそが件の人物に思えて仕方がなかった。
「卯月さ~ん! どうかしたんですかー?」
「しまむー! こっちこっちー!」
「卯月ー!」
光実が、未央が、凜が自分を呼ぶ声が聞こえる。
彼女たちだけではない。ザックが、貴虎が、凰蓮が、城乃内がそしてプロデューサーが自分を呼んでいた。
卯月は、振り向くことなく、仲間達の下へと駆け寄る。
彼女の最大の魅力である、最大限の笑顔を携えながら――。
「みなさーん!!」