「なんでお前らがここにいるのだ」
「こちらのセリフですわ! わたくしはイッセーさんに呼ばれたからきたのであって……」
「なによ、あんたらもイッセーに呼ばれたの?」
ドアの向こうから凄い声が聞こえる……一足即発って感じだ。
『相棒が呼んだんだろう?』
そうだけどさ……勇気いるなーこれ。
「やあ三人ともよく来てくれた、そんなに広くない部屋だが歓迎するぜ」
「おい! イッセー! これはどういうことだ! 説明しろ!」
「説明するから、まずは俺の部屋に入ってくれないか?」
「三人ともとりあえず適当に座ってくれ」
俺に促され、適当な位置に座る三人。
「さて、なんで三人を呼んだかというと、一夏のためだ」
「一夏さんのため?」
「ああ、本題に入る前に箒に一度聞きたいことがある、お前は織斑先生以外の一夏の家族を見たことはあるか?」
「そう言えば……見たことがないな」
「やはりな、鈴、もう一度聞くぞ、お前は織斑先生以外の一夏の家族を見たことはあるか?」
「さっきも言ったけど見たことはないわ」
この二つの情報と前に一夏本人から聞いた情報を合わせると――
「ちょっとまってください! もしかして一夏さんって――」
「ああ、そうだセシリア、一夏には織斑先生以外の家族は恐らくいない」
血縁上の両親はいるだろうが、一夏のお父さん、お母さんに当たる人物はいないはずだ。
「さて、君たち三人は一夏のことが大好きである。 これに間違いはないね?」
「ああ、そうだ私は一夏のことが好きだ」
「わたくしも一夏さんをお慕いしておりますわ」
「そうよ、私も一夏のことが好きよ、なにか文句ある?」
三人とも肯定した……男である俺の前でこう言ったってことは俺は完全に恋愛対象外なのね……
流石に顔は赤いけど。
「文句はないさ、……三人とも経験しているだろうし、分かりきったことだろうけど、一夏は異常なまでに女子からの好意に鈍感だ」
三人とも黙ってしまった。
振り回されてきたんだろうなー、一夏の朴念仁に。
「箒、どうして一夏はこんなにも鈍感だと思う?」
「それが一夏だからじゃないか?」
「そう言って思考停止すれば楽だろうけど、それじゃ話が前に進まない」
セシリアが聞いてきた。
「ではイッセーさんにはなにか心当りがあると?」
「ああ、まあ俺は一夏本人じゃないから、100パーセント、絶対にそう! とは言えないが多分九割方当たっていると思うぜ」
「それはいったい……?」
「まず、俺は男が鈍感になる原因は大きく分けて三つあると考えている」
「一つ目、顔が恐ろしくブサイクだったり、昔、女の子にとんでもない目に合わされたことがあって自分に自信がない場合」
原作一誠がこれにあたる。
女の子に殺された自分が女の子にモテたりするはずがないし、また裏切られるのではないか? と考えてしまう。
鈴が反論する。
「一夏はブサイクってわけじゃないと思うけど……?」
「確かにこれではないだろうな、次だ、二つ目、同性愛者であるので、女子からの好意に気づいているが意図的に無視している」
「一夏さんってまさか……!」
「それはないことを日々の交流で確認済みだ、一夏は女体に興味のある健全な男子だ」
良かった、と安心した三人。
「そして三つ目、愛を知らないが故に――」
三人の視線が俺に集まる。
「自分が誰かに異性として好かれていることに気づかない、気づけないというパターンだ」
「一夏が愛を知らない? どういうことだ?」
「さっきも言ったが一夏には織斑先生以外の家族はいない、だから『愛』の経験値が一般人と比べて絶望的なまでに少ない」
一般人が10なら一夏は3か5といったところだろう。
「愛の経験値? どういうことでしょう?」
「愛という感情は、女性が子供を育てるために生まれたとされる感情だ、だから男の脳には愛という感情は本来ない、だが愛という感情は他人に教えることが出来る、だから男も女を愛することが出来る」
「なるほどね、でもそれとなんの関係があるのよ?」
「それはな、鈴、さっきも言ったが一夏に両親はいない、だから一夏は恐らく両親に愛された記憶と経験がないんだ」
「愛された……記憶がない?」
「でもイッセーさん、一夏さんにも昔は両親がいたのでしょう? であれば普通、愛されていた記憶があるのでは?」
「普通の親ならな、一夏に聞いた話だが、一夏は昔、織斑先生に自分の両親はどこにいるのかを聞いたことがあるそうだ」
「千冬さんはなんて?」
「『お前の家族は私だけだ』だそうだ、これだけで何かしら問題のある親だったことが分かるだろ?」
ネグレクトや虐待をしていたのかもしれない。
「話を戻すぞ、愛し方を知らないから女を愛することが一夏は出来ないし、愛された経験があまりないから自分が今、誰かに好かれている事実に気づけない」
「ちょっとまって! 千冬さんは!? 千冬さんは一夏を愛していないと言うの!?」
鈴が抗議する。
「あのブラコン先生が一夏を愛していないわけないだろ、でも織斑先生の愛だけじゃ足りない、織斑先生の愛のおかげで概念として頭で分かってはいるがハートで愛を理解出来ていないんだ、一夏は」
「嘘でしょ……?」
「残念ながら嘘じゃないだろうな、そうじゃなきゃ、付き合って下さいっていう告白を買い物の付き合いだと思うだなんて、異常な間違い方は出来ない」
これはかなり異常だ。
「あとついでに言っておくが、今、一夏に恋人になってくれとか言わないほうがいいぞ」
「なぜだ? 勘違いのしようがないように告白すれば良いのではないのか?」
「その場合、君たち女の子のためだけに一夏は恋人になろうとするぞ」
「別に問題はなさそうですが……?」
セシリア、そうじゃないんだ。
「分かってないな、よし、仮に箒が告白したとしよう、そうしたら一夏は多分こう考える」
『俺は別に箒のことものすごく好きってわけじゃないけどここで断ったら、箒が泣くだろうしな……しょうがない箒のために恋人になってあげよう』
「ってな、この場合一夏は別に箒のことは好きでも何でも無い、泣かせたくないから付き合う、ただそれだけ、そこに愛はない、それでいいならどーぞそうしてくれ」
「それは流石に……」
「嫌ですわね……」
「ならばどうすればいいのだ! どうすれば一夏は私を見て、愛してくれるのだ!」
ようやく本題に入れるな。
「簡単さ、君たち女の子の方から一夏を愛せばいい、すべての問題の原因は一夏の愛の経験値不足が原因だ、だったら一夏を愛してやればいい、そして一夏自身が誰かを好きになればいい、当然それは一番素直に一夏に愛を示せた人になるだろうな」
「なにっ!」
「それは……」
「流石に……」
三人とも固まってしまった。
「あれ? 面倒くさい? だったら止めてもいいよ? 別に止めやしないさ、別に一夏じゃなくても恋はできるし、抜けるなら今のうちだよ?」
とりあえず煽っておこう。
スイーツ脳なら面倒くさくなってこのへんで諦めるはずだ。
この三人は違うと思いたいが。
「イッセーさん、一つ言ってよろしいですか?」
「ん? なんだいセシリア」
「わたくしは恋がしたいから、一夏さんを好きになったわけではありませんわ、わたくしは一夏さんが好きだから一夏さんに恋をしているんです、たださっきのはちょっと恥ずかっただけで……」
鈴が続く。
「そうね、私もセシリアと同じだわ、私も恋をしたいから恋をする、そんな幸せな頭の作りをした女じゃないわ」
「私も二人と同じだ、私が好きな男は一夏だけだ」
「そうかすまなかった、失礼なことを言ったな」
「構わないさ、だがイッセーなぜ、私たち三人を呼んだんだ?」
「それはな、一人が愛し始めただけじゃ、変わらないだろうと思ったんだ、織斑先生一人から二人になったって力不足だ、だからせめて三人は足しておきたかったんだ」
「なるほどな、だかなイッセー、私の恋のサポートをすると言ったではないか、そこはどういうことだ」
「俺は君の恋のサポートをするとは言ったが別に他の人の恋のサポートはしないとは言っていないからな」
「あきれた、どうとでも言えるではないか」
「ですがイッセーさん、愛というのは一方的なものではなく双方的なものでしょう? そこはどうするのですか?」
「その問題はない」
ここで爆弾を落とすとしよう……特大の奴をな。
「一夏、もう出てきていいぞ」
俺がそう言うと、ベッドの下に隠れていた一夏が現れた。
一夏本人にもあらかじめ先程の話をしておいたのだ。
「いきなりなんだよ? イッセー」
「なあ、一夏。 お前さ、箒とセシリアと鈴がお前のことを惚れていることに……異性として好きになっていることに気づいているか?」
「そうなのか!?」
「全く気づいていなかったのか?」
「ああ、でもなんで
「本当に分からないのか?」
「ああ……イッセー、これって変か?」
「ぶっちゃけ言って変を通り越して異常だ。 一夏さ、女の子を好きになったことあるか?」
「……ない」
「その理由は多分な――」
こうして一夏は自分が異常であることを認めたのだった。
「な、な、なんで一夏がここにいる!」
「俺が呼んだからだ」
「いつから一夏さんはこの部屋に……?」
「最初からずっとベッドの下に隠れていてもらったぜ?」
「嘘でしょ……」
三人とも顔が最大限まで赤くなった。
そらそうよ、本人がいると知らずに告白みたいなことを言ってしまったんだから。
「なあ一夏、どうだ? お前を愛してくれる女の子がこんなにいるぜ?」
だが一夏の声は低い。
「ごめんイッセー、やっぱり俺、分からないや」
「いや一夏、お前は悪くない、悪いのはお前を愛さなかった、お前の両親だ」
諸悪の権化はそいつらだ。
「イッセー」
「どうした?」
「俺、両親のことは憶えていないって言ったよな?」
「ああ、確かに言っていたな」
「あれ、嘘だった、俺、思い出したんだ」
そう言った一夏の体が震えだした。
「一夏! それはお前の
「いや駄目だちゃんと向き合わないと、これを乗り越えないと千冬姉にまだ守ってもらってることになる、俺は、千冬姉を守れるくらい強くならないと……」
「一夏……お前……」
「そうだ俺の父さんはいつも俺を殴っていた、俺が泣くともっと殴った、それを千冬姉が止めようとしてまた千冬姉が殴られて――」
虐待をするクズ親だったか。
「なんで僕を殴るの? ってお父さんとお母さんに聞いたとき、もっと殴られた、あるときもう一度聞いたときは、お前を愛しているからだって言われた……なあイッセー愛って人を殴ることなのか?」
「そんなわけないだろっ! 愛にはいろんな形があるがそんなのは愛じゃねぇ! ただの暴力だ!」
「一夏……」
箒だ。
箒は震える一夏を優しく包み込んだ。
「一夏、泣いていいぞ、思いっ切り泣いていい、私が全部受け止めてやるから」
「ほう、き?」
「私は一夏にもう暴力は振るわないし、一夏がどんな間違いをしても、殴ったりはしない」
「ないてもなぐらない?」
「殴らないさ、一夏を愛してるから」
箒がそう言うと、一夏は大声で泣き出した。
まるで何年も溜め込んでいた感情を爆発させるかのようだった。