モッピーを部屋に残して俺は自分の部屋に戻ることにした。
助言はした。
これで少しは改善されるといいのだが。
『変われるはずさ、きっとな』
でも大丈夫かね? だってあの暴力系ヒロイン篠ノ之箒だぜ? ぶっちゃけ不安なんだけど。
『相棒、一つ忠告をしておく』
なんだ? 忠告って。
『漫画やアニメのキャラクターとしての篠ノ之箒と相棒と今、話をした篠ノ之箒は違う、別物であるということを忘れるな』
忘れたつもりはないんだが……
『いいや、相棒は忘れかけてる。 この世界がまごうことなき現実である、ということを』
……!
ああ、そうだった。
篠ノ之箒は現実にいる女の子だということを俺は……忘れかけていた。
いや、箒のことだけじゃない。
俺は今日一日ずっと自分が『インフィニット・ストラトス』という作品に中にいるような、そんな錯覚をしていた。
あまりにも原作、そう作品としての『インフィニット・ストラトス』に似た展開が続いたから。
ありがとうドライグ。
目が覚めた。
『この世界は一体何か? この事についていろいろと話し合ったりしたものだったな』
そうだったな。
この世界ことは結局
俺たちが今いる宇宙の先に無数の宇宙が広がっている、というものだ。
そして宇宙=世界であるとする。
その無数の宇宙の中には『インフィニット・ストラトス』という作品によく似た世界や、『ハイスクールD×D』という作品によく似た世界があっておかしくはない。
『本の中の世界なんてあるわけがない、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだからな、だがそっくりな世界ならありえない話じゃない、という考えだったか?』
ファンタジーやメルヘンの塊であるドラゴンのお前が言っても欠片も説得力がないけどな。
まあ、それは置いといて、俺とドライグは何の因果か、『ハイスクールD×D』という作品によく似た世界に行くはずが、『インフィニット・ストラトス』という作品によく似た世界に来てしまったのではないか?
これが俺たちが出した結論だ。
実は俺が夢を見ているだけである。 という本当にどうしようもないものを除くとこれが一番納得できるわけだが……
これがもし本当なら今度は別の問題が出てくるんだよな。
『インフィニット・ストラトスとハイスクールD×D、この二つを作品として扱っていた世界、すなわち相棒の魂が本来あるべき世界からなぜ、相棒はここに来たのか? 原因は? 何者かの意思が関わっているいるのか、それとも意思などないただの現象なのか? ということだな』
こればっかりは考えても答えは出そうにないな。
俗にいう神様転生とかだったら、全部アホ神様のせいに出来たのにな。
『そんなアホ丸出しの神、見たことも聞いたこともないがな』
「待ってくれ!」
俺が歩いていると声をかけられた。
篠ノ之箒だ。
「どうかしたの? 篠ノ之さん」
「兵藤、お前にこれを預かってほしいのだ」
そこにあったのは、先程の木刀だった。
「いいけど……どうしたんだい急に」
「私は、お前が言った、『力って奴は使い方次第で自分も他人も傷つけてしまう』と『もっと深く考えて行動していくべき』という二つの言葉を教室で聞いたとき、私には関係のないことだと思っていた」
「どうせ自分には関係ない、そう考えていたわけだね?」
「ああ、そうだ、剣道をやっている以上、力の扱い方は熟知しているつもりだったし、私は他人の都合を一切考えずに行動している……姉さんと……篠ノ之束とは違う、そう思っていた」
そういえば教室で自分は姉とは関係ないしなにも知らない! と言っていたな。
「だが違った。 私は力をまったく扱えていなかったし、私は他人を……一夏のことを考えれれていなかった」
「一夏のことを?」
「私は、一夏の立場になって考えていなかった、私のその、は、裸をみたのも不可抗力だっただろうし……」
「いや、あれはノックをしなかった一夏に非があると思うよ?」
「それだけじゃない、私は一夏に暴力を振るってしまった、そうだ私は一夏を傷つけるところだったんだ、一夏を傷つけてしまうぐらいなら……私は木刀なんてなくてもいい」
愛する人を傷つけるくらいなら力なんていらない、か。
預かってほしいとはこういうことか。
「なにが姉さんとは違う、だ……同じじゃないか、他人の都合を一切考えないで自分が満足するために行動する姉さんと、一夏側の都合なんて考えずにただ自分が一夏に愛されればいいと考えていた私。 いやだなぁ姉妹ってこんなところも似るのか……」
いつの間にか彼女は涙を流していた。
「一夏に勝手に理想像を押し付けて、それと違っていたら勝手に怒って……馬鹿だな私は、意味もなく一夏が剣道をやめるはずないだろうに……」
「一夏は中学のときアルバイトをしていたらしい、多分、自分の姉を経済面で手助けしたかったからだろうな」
このへんの話は本人から聞いたのではなく、実は原作知識から引用したんだけど。
「そうか……! そうだよな、一夏はそういう奴だった。 千冬さんのためにか……一夏は変わっていなかった、変わっていたのは私の方か」
「ねえ篠ノ之さん、今の自分が許せないかい?」
彼女はコクリと頷いた。
「だったら変身だよ、なにもスーパーヒーローになれという意味じゃないよ? 今の自分が許せないなら新しい自分に変わればいいんだよ」
これはユグドラシルぜってぇ許さねぇで有名な紘汰さんのセリフだ。
『鎧武』という作品の中で俺が一番好きなセリフ。
この世界では作品としての『インフィニット・ストラトス』が無いのはもちろんだが、『ハイスクールD×D』も無く、また仮面ライダーも一部の作品が存在していないことがあったりする。
『鎧武』は残念ながら存在していない作品だ。
「新しい自分か……なれるだろうか姉さんと同じ私に」
「一応、言っておくけど篠ノ之束という人間と篠ノ之箒という人間はまったく違うよ? 篠ノ之束という人に直接会ったわけじゃないからわからないけど、篠ノ之束は人のために自分を変えようとする人物かい?」
「いや、恐らくだが姉さんはそんなことはしないだろうな」
「ほら、違うじゃないか、君は織斑一夏という人間のために変わろうとしているだろう? 変わりたい人と変わろうとしない人はまったく違う」
俺はそこに天と地の差があると思う。
「そうか……なあ兵藤、私が変身するのも手伝ってくれるか?」
「もちろん! でも前にも言ったけど、俺がするのはあくまでサポート、実際にやるのは――」
「私だな」
「その通り、よく出来ました」
俺はハンカチを取り出した。
「あと、これで涙を拭いてね、女の子が好きでもない男の前で涙を流すものじゃないよ?」
「すまないな、でも兵藤は時々古臭いことを言うことがあるな」
涙を拭きながらブーメラン発言をしてきた。
なかなか器用なことをする。
「それは篠ノ之さんだけには言われたくないな」
「酷いな、そんなに私は古臭いか?」
「割りとね、あと兵藤じゃなくて、イッセーと呼んでくれない?」
「『イッセー』? これでいいのか?」
この声でイッセーと呼んで貰える日が来るとは、感無量です。
「なら私も『篠ノ之さん』ではなく『箒』と呼んでくれないか? こちらだけ名字ではなんだかおかしいし、姉さんの方と混同するかもしれないからな」
「別にいいけど……箒、これでいいかい?」
「ああ、それでいい、イッセー」
「箒さ、俺はこの木刀を預かるといったけど、あくまで一時的に預かるだけだ、君がもしこの木刀を持つのに相応しい人間に変身できたら――この木刀を君に返すよ」
「頼む、イッセー、しばらくの間その木刀を預かっていてくれ」
こうして俺は箒の木刀を預かることになった。
「じゃあ俺は部屋に戻って一夏を呼んでくるよ」
「私は自分の部屋で一夏を待っていよう」
箒はそう言って部屋に帰っていった。