『元』デュエリストが『現』デュエリストになる物語   作:(無言の腹パン)

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お待たせしました。




死に物狂いのトウソウ

 

 

 

 

「魔法カード、トワイライトの槍!」

 

外人らしい女性にいきなり攻撃された。

雷を纏った槍は、まっすぐに深夜の方へと向かっていく。

 

「ッ!?」

 

深夜は間一髪で避けた…と言いたいところだが、左腕を掠ってしまった。

掠ったところが熱と化し、徐々に左腕を熱くさせる。

強力だった雷を掠っただけで、もう左腕の感覚がなかった。

ああ、これはデュエルディスク着けれるかなぁ…と深夜は考えたが、何を考えているんだとその考えを破棄した。

もうデュエルからは縁を切ったんだ。何を悩む必要がある。

今はそんな事を考えている間じゃない。

 

まずはこいつから逃げないと。

深夜は女性とは反対方向へと走り出した。

が。

 

「逃がさないわよッ!」

 

カードの置く音が聞こえた瞬間、今度は銃声がした。

まさか、銃…!?

なんなんだあの女性は。

何故カードを実体化出来る。

アクションデュエルでもこんな事はない。

ましてや、本物のようになるような事も。

だが今聞こえているこの銃声は、紛れもなく『本物の銃』

深夜はこの女は普通じゃないと感じた。

この女性とまともにやりあったら。

 

死ぬ。

 

そう脳が言っている。

こいつとだけはやるな。

今すぐそこから逃げろ。

それの通りに深夜は闇の世界を走る。

走る、走る、走る。

 

「ふふふふふ…」

 

でも距離が離れていくとは思えなかった。

逆に縮んでいる。

でも逃げなくては。

そう必死に走り続けた。

路地裏を利用してどんどん曲がり角を曲がり、曲がり続ける。

 

 

 

 

どれくらい走ったのだろうか。

何分、何時間、それすらもわからない。

いつの間にか身体は擦りだらけになっていた。

体力ももう切れそうだった。

銃声は聞こえてこないし、あの女性の気配もしない。

でも、逃げ続けた。

 

「ハァ…ハァ…ッ!」

 

いつの間にか最初の公園に戻っていた。

今すぐ倒れこみたい気分だったが、なんとか踏みとどまった。

呼吸を整えて、ゆっくりと周りを見る。

あの女性はいない。

逃げ切れた、と深夜はホッと胸を撫で下ろし…。

 

 

 

 

「逃がさないって言ったでしょ?」

 

そして、ヒュッと喉を干からせた。

瞬時に深夜は後方へと下がる。

ようやく対峙した女性は、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かぶ。

月に照らされた金髪はキラキラと輝いているが、深夜から見てはそれすら不気味に感じる。

紅い目が深夜を捉え、女性は三日月のように笑った。

 

「ふーっ、なんか残念ねえ。デュエルしないってなると冷めちゃうわ」

「ハァ…ハァ…」

「ふふふふっ。その歪んだ顔、私だーい好き」

 

舐め回すように深夜の全身を見る。

それに深夜は一歩下がる。

体力はまだ回復しておらず、すぐには動けない。

やみくもに動いても、またこうやって危機に晒されるだけだ。

なら、

 

人がいるところに飛び込めば。

 

だが今は夜。そう都合よくいるのだろうか。

そんな事を考えている間に、女性が一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「あはっ、後なーんぽ?」

 

子供のように問いかけてくる女性に、深夜はギリッと下唇を噛む。

鉄の味が口の中に広がる。だがそんな事気にしている場合じゃない。

早くここから離れないと。

深夜はまだ痺れる左腕を強く抑える。

 

「ふふふふふ…」

 

そして女性はデュエルディスクを構え、カードを掲げた。

また、あんな化物じみたものが出るのか…!

自然と深夜の体制は低くなる。

極力自分へとダメージを抑えるためとはいえ、これが有効かどうかはわからない。

だが、今自分が助かるためにはこういうこともしなくてはいけない。

 

女性はカードをセットした。

 

「魔法カード!ガレ」

 

とその時。

 

ドゴォォン!と、女性の言葉を遮るほどの爆発音がした。

 

「「!?」」

 

深夜と女性は爆発音がした方を見る。

少し煙が上がっているが、今の音は間違いない。

誰かデュエルを行っている。

そう判断した深夜の行動は速かった。

素早く痛む身体を動かし、爆発音がした方へ走る。

 

「!もうっ…!」

 

女性が悔しそうに地団駄を踏むが、また笑みを浮かべ、深夜の後を追った。

 

 

 

 

「邪魔なんだよ!遊矢!」

 

深夜が最初に聞こえてきたのはそれだった。

聞き覚えのある声に、聞き覚えのある名前。

まさか、と思ったがもう遅い。

 

「で、でも…!素良お前…」

「余計なお世話だ!引っ込んでろ遊矢!」

「素良!!」

 

子供と少年の言い合いが、徐々に近くなる。

自分が助かるためには、そんなプライド捨ててしまえ。

例え会いづらいやつでも。

こんな時はーーーー。

 

「ああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

深夜は最後の力を振り絞り、デュエルをしているその舞台へと転がり込んだ。

 

 

 

受け身を取れなかった身体は地面へと打ち付けられる。ジワリと血が滲んだ。

痛みもあまり感じなくなる。痛覚がおかしくなった。

 

勢いが収まったところで、深夜はようやく顔を上げる。

深夜の目に飛び込んできたのは。

 

榊遊矢そっくりな少年と、その榊遊矢につっかかる紫雲院素良、そして榊遊矢だった。

お前らがデュエルをやってたのか…と、深夜は今更ながら後悔したが、同時にホッと安心した。

これで少しはあいつの注意は他所に行くだろう。

巻き込んで悪いと思うが、もう仕方がない。

 

「あんたは…!」

 

遊矢が深夜に気づいた。

素良も、遊矢そっくり人もこちらを見る。

 

「…ぁ、に、」

 

なんとか応えようとするが、声が出ない。

散々走ったせいで、干からびている。

遊矢が深夜の方へと走ってきた。

その時だった。

 

 

「もう坊やったら…あら?」

 

悪魔が来た。

ゾッ!と、深夜の背筋が冷たくなる。

身体の震えが止まり、ブワリと嫌な汗が湧き出る。

追いついたのだ。あの女性は。この短時間で。

長い距離を走ったのに…!と深夜は恐怖した。

だがそれは深夜の勘違い。

実際はそんなに距離は遠くないのだ。

だが今の深夜にそんな事考えられるはずがない。

女性がニヤリと口元を三日月にする。

これであいつらに注意が向くと思ったが、女性の視線は深夜ただ一人。

もう、ダメか…と、全てを諦め力を抜いた。

もう死ぬ覚悟はできた。

そっと目を閉じる。

後は女性の攻撃を待つだけ。

 

 

だが女性からの攻撃はなかった。

 

「…………?」

 

深夜はまた目を開ける。

何も変わっていない。遊矢が深夜を抱き上げているのも、素良が驚いているのも、遊矢そっくり人が敵意を示しているのも。

……あれ?と深夜は疑問に思った。

その疑問とは。

 

何故素良が驚いている?

 

敵が現れて驚いている…というようなものではない。

彼は本当に『驚いている』んだ。別の意味で。

なら別の意味とはなんだ?と深夜が考える前に。

素良が、口を開いた。

 

 

「な、何故あなたがここに!?」

 

それは女性を知っているような口振りだった。

丁寧な言葉?で女性に質問を投げかける。

素良はこいつを知っている?

なら、素良はこいつの仲間?

待て、素良は遊勝塾のやつらで、美園の仲間だろう?なら…。

だが素良には怪しいところがいくつかあった。なら他の仲間というのも合点が付く。

それに、深夜は彼が苦手だった。

何故だかわからないが、彼は深夜と一度話した事がある。

 

その時に感じた、憎い感情が湧き出た事を思い出した。

 

素良と話した時、深夜は自分でもわからないほどの増悪を湧き出ていることが記憶に残ったのだ。

何故だかわからない。だが憎かった。

話すだけで憎かった。

だから素良は苦手だった。

…今は私情を挟んでいる場合じゃない。

だが何を言おうと、素良が怪しかった事には変わりない。

深夜は自分で勝手に納得した時、今度は女性が答える。

 

「ふふふっ、あら素良く〜ん。まだスタンダードにいたの?よっぽどこの次元が気に入ったのかしら〜?」

(次元…?)

 

聞き慣れない単語が出てくる。

スタンダード。

次元。

次元…?ならこいつらは異世界人…?と、何故か頭の回転が早かった。

こんな時に、こんな変な事は簡単に浮かぶもんなんだなぁと、深夜は置かれている状況を余所に笑った。

深夜は黙って二人の話を聞く。

 

「あ、あなたが何故ここに…!?」

「あら?聞いてなかった?私はそこの坊やにちょっと用があってこの次元に来たのだけれど…」

「そ、そいつに…?」

「そういう君は?私の情報だと、君はエクシーズの生き残りを見つけたって事だけど」

「!何故それを…」

「私を誰だと思っているの?で、どう?進展あった?」

「ッ…」

「その顔だと…あら、負けちゃったのね」

「!違う!僕は負けてない!エクシーズの残党なんかに…!」

 

エクシーズ…。

…まさか、次元?

今度はあっさりと納得。

…何故こんなにも、納得しているのだろう。

 

「ふーん。私から見れば、あなたは今負けてる様に見えるけど?」

「違う!」

 

素良が吠える。

だが女性がすかさず返す。

 

「どこが違うの?見ればあなたボロボロじゃない。私の推測からして、あそこの坊やに負けているか…それとも、その前にやられたとか」

「!!」

「図星ね、なら終わりね、素良くん?」

「な、何が終わり…!?」

 

素良がまた言い返そうとした時、素良の身体が光った。

それを知った素良は「あ、ああ…!」と、顔を歪める。

 

「ま、待って!待ってくれ!僕はまだ帰れないんだ!エクシーズの残党を狩るまでは…!」

「ならその使命、私が受け持っちゃおうかしら?」

「!や、やめ…止めてください!!あいつは僕がッ、この僕がァァああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

素良が懇願した直後、素良は光の粒子となって消え去った。

 

 

「な、にが…」

 

なんとか声を出せた深夜は驚愕を零す。

その問いに女性が答えた。

 

「”強制送還”。素良君は強制的に戻されたのよ」

「もど、された…?ぅ…」

「!だ、大丈夫か!?」

 

デュエルを強制的に終了させた榊遊矢は、深夜の身体をゆっくり落とし、深夜を守るために前に出た。

クスクスと笑う女性は、デュエルディスクを構える。

 

「もしかして、私と戦う気?」

「ッ…」

「それなら私も大歓迎!…なんだけど、今日はバイバイするわね」

「何…!?」

 

今度は女性に驚愕する。

あんなに追ってきたのに、今絶好のチャンスなのに。

ここで諦めるのか?この女は。

深夜は首だけを女性に向ける。

女性はずっと笑ったままだ。

 

「そろそろ時間なのよ。私の予想からして後十分くらいかしら?」

「どういう事だ!」

「タイムリミットよ。じゃあね坊や、またあ、そ、び、ま、しょ、?」

 

甘ったるい声を深夜に投げかけ、女性はカードをセットした。

そのカード名は告げられなかったものの、逃げるには十分の眩しさだった。

 

「ッ!?ぅ」

 

 

 

 

目を開けた時には、もうあの女性はいなかった。

 

「き、消えた…?…おいユート!これはどういう事だよ!?」

 

遊矢は遊矢そっくりの少年、ユートに言葉を投げかける。

ユートはゆっくりと口を開いた。

 

「ーーーー恐らく、あの女も融合次元のーーーー」

 

 

深夜はもう気を失いかけ、ユートの口から出る衝撃の事実を聞くことができなかった。

 

深夜はゆっくりと目を閉じ、深い闇の中へと沈んでいった。

 

 




ー次回予告ー

深夜が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
そこは榊遊矢の家だった。

深夜は迷惑にはなるまいと家を出て行こうとするが、榊洋子という遊矢の母に無理やり止められ、仕方なくお世話になることに。

そこで深夜は『悪夢』を見たーーー。

次回「懐かしきアクム」

「いやだ…、もう、俺にっ、デュエルを見せるなぁッッ!!」
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