『元』デュエリストが『現』デュエリストになる物語 作:(無言の腹パン)
メンタル弱々な主人公です。
デュエルって、なんだろうね。
ーーーーーごめんな。
黙れ。
ーーーーーこんな『』で。
黙れよ。
ーーーーーお前達を。
もう黙れぇ!
聞きたくない。もうお前の声なんて、聞きたくない!
俺の、俺たちの幸せを奪ったお前なんか…お前らなんかぁ!
消え、ろ。
消えて、くれぇっ…!
「……………」
目が覚めると知らない天井という展開が出来上がった。本当に知らない天井だ。
真っ白な天井だが、病院という訳ではないらしい。ならここは何処なのだろうか。と起き上がろうとした時。
「…………っ!?い〜〜〜〜〜〜!」
激痛が走った。
あまりの激痛にまた寝てしまった俺は暫く悶える事になった。悲惨だ。何故俺がこんな目に…!
と、昨夜の出来事を思い出した。
「……そっか、俺」
気を失ったんだっけか。訳わからない奴に追いかけられて、怪我させられて。直接受けた訳ではないが、軽傷とは言えないだろう。はっきり言って身体中が痛いです。重傷と言っても過言じゃないくらい。
俺は一番被害であろう左腕を動かしてみる。……痺れはない。正常に動いているようだ。良かった、あのまま動かなかったら生活に支障が出た。
しかし本格的にここは何処なのだろうか。顔を必死に動かしてみるがはっきり言って良く見えない。頭もなんか重いし、ていうか身体中が重いし。それは怪我してるからか。
誰か来ないかな…と退屈していた時だった。
扉の開く音がした。
「……!あら、起きたの?」
声の主は女性だった。
俺の顔を覗き込んだ女性の容姿は、金髪を一括りにした少し年上の人。いや、大人だろう。
その女性の手には救急箱と水とタオルが用意されている。良く一気に持ってこれたなこの人。
俺は取り敢えず返事をして、場所を聞いた。
「……あの、ここ何処ですか」
「私の家よ。驚いたわ、柚子ちゃんと権現坂君が遊矢とあなたを担いできて来たんだもん。私混乱しちゃった」
「……え?遊矢?柚子?権現坂ぁ?」
「あら、知らない?てっきり知り合いかと思ったんだけど…」
「……」
遊矢って、あのトマト頭のやつだよな。絶対そうだ。てかそいつも運ばれたのか…じゃなくて!
「おいあんた!俺はいつまで寝込んでいたんだ!?」
「え、四日よ?四日目の夕方」
「四日ぁ!?嘘だろ…いっててててっ!?」
「安静にしてなさい。あんた傷酷いんだからね?」
「っ〜〜〜〜〜〜!」
女性に言われて俺は渋々また寝転がる。ていうか俺は四日も眠っていたのか。道理で身体が重い訳だ身体が。
髪もなんかボサボサだし、身体もなんか臭います。すみません風呂に入らせて下さい。とは人の家主には言えない。身体動くようになったらめっちゃ洗おう。
「あ、まだ名前言ってなかったね。私は榊洋子。榊遊矢の母親さ」
「……………母親…?」
「?そうだけど」
「……………
若いですね…」
つい溢れた言葉である。だがそれ程に榊洋子さんは若いのだ。恥ずかしい事に実はお姉さんだと思っていた自分がいる。
俺の言葉を聞いた榊洋子さんは一瞬惚けたが、徐々にキラキラとし。
「やっだもう!若いだなんてぇ!」
めっちゃ照れた。
一人で美白について凄い呟いているが、正直のところ俺は早くこの家を出たかった。あまりお世話になりたくないのもあるが、俺の家が無事なのかを知りたいからだ。またあの女性がやってきて家を半壊されていたらと思うと身震いする。
身体が重く激痛が走るが、こうなっては仕方がない。悪化してでも帰ろう。ていうかそれ以前に動くんかな俺の身体。
「……あの、俺もう大丈夫ですから」
「?何言ってんのよ。全然大丈夫じゃないわよあなた」
「いやほんと大丈夫です」
「とか言って身体が動かないくせに」
「う、ううううううう動きますよ!ほ、ほら…ッ!?」
「言わんこっちゃない」
無理でした。
証拠に左腕を動かそうとしたら今までとは比べ物にならない程の痛みが走った。これで俺はこの家を出ることは叶わないと言ってもいい。いや本当に早く帰りたい。
榊洋子さんは溜息を吐き、俺に言った。
「あなたがなんでそんな出たがるのはわからないけど、そんな身体じゃ、また倒れるのがオチだよ?」
「それでも」
「だめ。それに、子供のあなたがこんな状態になって、それをを放っておける大人が何処にいるの?観念してお世話になりな!」
「いや、俺、」
「ほらぁさっさと寝る!若いって言ってくれたのは有り難いけど、こういう時は私は引き下がらないよ!」
「え、ちょ、」
無理矢理寝かされた。
榊洋子さんは俺の額に乗せられていた濡れタオルを回収、さらに傷の様子を見て行って部屋を出て行った。今なら出ていけるのだが、窓から飛び降りるのはさすがに嫌だ。
………仕方ない。少し寝るか。きっとその頃にはもう体調はマシになっているだろう。
「……なんか、そう考え、ると…眠く…ぅ」
俺はいつも間にか意識は沈んでいったーー。
*
*
『ーーーー』
…あれ、何か聞こえる。
『ーーや』
誰だっけ。懐かしい声。
『しーーや』
ずっと、聞きたいと思っていた声ーーーー。
「深夜!」
「っうぇ!?」
俺は驚いて目を開ける。
そして俺はまた目を見開いた。
俺が今いる場所は……『俺の家』。
白を基調とした建物。その中も白。少し黒と茶色があるだけの、白だらけの部屋。
そのリビングのソファに俺は腰掛けていた。
何故俺はここに?
俺は榊遊矢の家にいたはずだ。
だがその考えも消え去る。
何故なら。
「おい、深夜ぁ!」
俺とは真逆の白い長髪。
雪のような肌の白さ。
そして俺と同じ黄金色の瞳。
俺の兄が、兄さんが目の前にいた。
「…ぇ…?兄さん…?」
「あ?そうだけど、どうしたぁ?おーい深夜くーん?」
兄さんは眠ってなくて、それを思わせない程の元気っぷり。最初から入院なんてしていないようだった。
俺の頬が冷たくなる。俺は頬を触ってみた。ひんやりと少し暖かなものが流れているのがわかる。
「え、おい!?ちょ、お前なんで泣いてるの!?」
そう、俺は泣いているのだ。
兄さんがここにいるのも嬉しいし、
兄さんがこんな元気なのも嬉しいし、
何より、兄さんが俺の前に姿を現しただけで嬉しい。
つまり嬉し泣きだ。
「ぁ、に…兄さん…がっ、」
「お、おう?兄さんここにいるぞ?」
「兄さんが…兄さんが…っ!!」
ここに…!
「見捨てたくせに」
「…………え?」
その瞬間、俺の何かが崩れた。
兄さんの顔は冷たく、さっきの優しい目とは違う。ゴミでも見るかのような目だった。
そして俺の周り、部屋に亀裂が走る。
「俺を、見捨てたくせに」
「…兄、さ」
「助けたのに、お前を助けたのに」
「…何、言って」
兄さんの言っている事が、俺の心に突き刺さる。抉られるように削られて、くり抜かれたように穴が開くような感覚がする。
本当に何を言っているんだ。俺は、俺は兄さんを…。
「なんでだよ、なんで俺だけこんな目に…!」
「俺、兄さんを見捨ててなんか…!」
そして次の言葉で、俺の何かが崩れ去る。
「なんでお前だけデュエルしてんだよ…!」
「……ぁ」
「俺もデュエルがしたいのに。楽しみたいのに。なんでお前だけ、お前だけぇ!」
「……………」
「消えろ、消えちまえよ。楽しむお前なんて見たくない。デュエルをするお前なんて見たくない。もう俺の前に姿を現わすな」
ーーーーこの"裏切り者"めッ!
「なんだよ…」
「なんで皆、デュエルデュエルって。そんなにデュエルの事が大事か?」
「デュエルなんて必要ねえだろ。デュエルなんてもんは無くていいんだろ」
「あんなもの、ただ幸せを壊すだけじゃねえか」
「家族の幸せを奪ったのは誰だ?」
「俺の心を壊したのは誰だ」
「兄さんをあんな目に遭わせたのは誰だ」
「全部、全部、デュエルデュエルデュエル。もう嫌だ…」
「なんで全てがデュエルで決まるんだ」
「なんで全てがデュエルで変わるんだ」
「あの頃のデュエルはどこいったんだ」
「もう、嫌なんだよ」
「デュエルなんて…もう…」
「もう、俺に」
「デュエルを見せるなぁッッッ!!」
その瞬間、亀裂は大きくなり、大きな音を立て壊れていった。
周りには真っ白な世界。正面にいた兄さんもいなくなった。
脱力する。涙はもう引っ込んでいた。
無音の世界。天か地かもわからない世界。
俺は何処に目指しているのだろう?
「……執着していた自分が馬鹿馬鹿しい」
何自分に甘えていたんだ。
今までの俺は、腑抜けていた。あのエスパーのせいだな。
ああ、もう。
こんなところなんて、壊してしまおうか?
*
窓から吹ける、風。
ひらひらとばたつくカーテン。
開かれたドア。
もぬけの空。
ただそれだけが、部屋の中に残されていたーーーー。
次回予告
重傷を負ったまま深夜は榊家を抜け出した。
だが抜け出した先は、遺跡だった。
バトルロイヤル。
デュエルディスクも、デッキもない、そして心も壊れかけている彼は一体、どのように切り抜けるか。
次回「弱いジブン」
「俺をバトルロイヤルの中に入れてくれ…っ!あいつに、あの人の"弟"に、届けたいものがあるんだ!」