ドラグメイル戦記   作:郭尭

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第五話

 

 

 

 

 ブリテン王国ヘント領、フランク帝国との境界線付近にある軍事拠点、レデ砦。ヘントの東南に位置するこの砦は、此度の戦争のヘント側の本拠として機能している。

 

 森の多いレデの地に、わざわざ他領から運ばせた石材で城壁を建てている辺り、それだけ王国がヘント領を重要視しているという証左であり、同時にフランク側の勢力を警戒しているということでもある。

 

 もっとも金銭的な理由で石造りなのは城壁だけとなったのだが、他は領内に開墾の邪魔になっているほど生えまくっている木材で建てられているため、機甲巨兵に対する防御力と引き換えに、完全な石造りの城塞よりはるかに居住性が良かったりもする。

 

 そのレデ砦の会議の間で、砦の主であるガニンダン・ドルニストン=ヘント辺境伯は頭を悩ませていた。

 

 猛将として名を知られるガニンダンはドワーフの男であり、周囲に侍る人間の騎士たちと比べると大分背が低い。だが屈強なドワーフの例に漏れず、肩幅や腕の太さは頑強なる戦士と呼ぶにふさわしいものである。ドワーフ特有の豊かな髭もあり、実に頼りがいのある風体であった。

 

 齢百十を超え、人間の倍近い寿命を持つドワーフであっても、戦士として衰えを感じつつある頃合いではある。だが今尚自らハンマーを両手に敵と渡り合うこともあるほどの猛者であり、経験に裏打ちされた力は兵たちにとって畏怖と尊敬の対象である続けている。

 

 これまで彼の悩みは如何にこの無意味な戦を小規模なまま、且つ早急に終わらせることにあった。旧ブルゴーニュ藩王国であるフランク側は弱卒揃いで統制も不十分であり、警戒すべき敵は数人名の知れた騎士がいるくらいであるとガニンダンは数度の小競り合いの結果判断した。藩王国を武力併合した混乱が収まっておらず、それが軍の弱さにも表れているのだろう、とも。

 

 もしただ勝てば良いだけの戦ならば、ガニンダンはとうの昔に勝っていた。だがその場合、フランク帝国と本格的な戦争となるだろう。逆に負けても、今度は国内の纏まりを維持するために、ブリテン王国側から打って出なくてはいけなくなる可能性がある。

 

 双方が自国の領民に、勝ったのは自分たちであると喧伝できるような、実際には引き分けに近い終わり方を模索せねばならなかった。幸い、敵側もそれを心得ており、交渉は継続している。

 

 そこに今朝届けられた問題。傭兵のものとは言え二機のジャイグメイルの喪失と、それに付随した噂。

 

 黒騎士の襲撃。逃げ帰ってきた傭兵たちがそうふれ回ったのだ。

 

 ガニンダンとしてはそんなもの微塵も信じていない。大方失点逃れの言い訳だろう。機甲巨兵の臓物を喰らうドラグメイルというのがそもそも現実的ではない。ドラグメイルは噛みつくことはできても、物を食うという機能はないのだ。それが臓物を喰らうなど、道理が合わないだろうに。

 

 仮に嘘でなかったとしても、敵が交渉の圧力の種に有力なドラグメイルを密かに投入し、それを察知させるために敢えて歩兵たちを見逃した。そう考えた方が、些か軽率ではあるが辻褄が合う。

 

 だが下らない噂でも信じる者は出てきてしまう。正規兵も傭兵も。落とし所を探っている現状、上がり過ぎるのも困るが、士気の過度の低下は憂慮すべきである。

 

 取り敢えず配下の騎士たちに、兵たちの噂の拡散を抑えるように命令を下す。そこへ伝令の兵士がある人物の到来を告げる。入室の許可を与えると、難しい表情をしたふくよかな体格の男が顔を出してきた。

 

「何かありましたかな?シュリーベラム伯」

 

 ガニンダンは彼が訪れた理由を、黒騎士の噂にあると推測した。ヘンリーとはそこそこ交流のあるガニンダンは、彼という人物を正しく理解している。誠実で領地の経営に於いて優れた手腕を持つこの男は、戦の機微に限っては凡庸そのものであり、本人もそれを自覚している。故に彼は軍議に於いても余り積極的に発言をしたりはしてこなかった。

 

 で、実際彼が告げたのは新たな増援の到来に関してであった。

 

 ヘンリーが、メイルライダーである娘を戦場から遠ざけるために弄した策に関しては、万が一成功してしまった場合を考慮しガニンダンに伝えてあった。そしてその万が一が起きてしまったという報告である。

 

 尤も到着したのは早馬で報告にきた騎士であり、彼が出発した頃、本隊はゼーブルッヘの港で荷の積み下ろし作業中だったという。ならば実際の到着には三、四日ほどかかるだろう。

 

 ガニンダンは武人である。将才あるならば肉親でも用いるべきであり、才覚なしなら初めから戦場に関わり得る立場を与えはしない。そういう意味ではメイルライダーという立場を掴み取った娘を、感情の問題で戦場から遠ざけようとするヘンリーの行いは苛立ちを覚えるものだった。だがそれも他家の問題であり、ガニンダンが口出しすべきものではないと、彼も弁えていた。

 

 それにジャイグメイル三機とドラグメイル一機の増援はありがたい。

 

「使える者は使わせて頂く。宜しいな?」

 

 家中のことは関わらないが、到着した兵に関しては指示に従ってもらわなければならない。特にドラグメイルはジョーカーである。メイルライダーが他家の娘であろうと、管理できないポジションに置くことはしたくなかった。それでもスウィンドン家の娘と家伝のドラグメイル、ディナダン。要請という形に留め置いた。

 

 ヘンリーもそれは理解している。故に異を唱えたくはなかった。ブリテン統一戦争時の活躍によって円卓の十二機に名を連ねているディナダンである。この戦場に於いては劇薬に他ならない。

 

 うまく使えればこの戦を早く収める役に立つかもしれない。だが扱いを間違えれば戦火の拡大に繋がりかねない。ヘンリーは自身が軍事の才覚がないことを自覚している。ガニンダンに預けた方がいいと判断はつく。

 

 だが合理性だけで物事を決めるわけにはいかない厄介な部分というのが、貴族の政治にはある。

 

「申し訳ありませんが、ディナダンを他家に預けることはできません」

 

 ブリテン王国の建国史にも関わる代物である。例え王家ですら軽々しく扱えない。そういった意味では道理を外れた言葉ではない。

 

「過保護は子の成長を妨げるだけだ」

 

 尤もその奥にある本心を、ガニンダンは親心だと思った。

 

「……親とはそういうものでしょう」

 

 ヘンリーの心中にあるものはそんなに純なものだけではなかったが、それを口にするほど誠実にも厚顔にもなれなかった。

 

「手綱をしっかり握っておくぐらいはしてみせろよ」

 

 ガニンダンは不機嫌さを隠しもしなかった。何せ厄介事はこれだけではないのだから。

 

 

 

 時間を遡って。

 

 当代の軍港として使用する前提で整備された港町は、嘗て機甲巨兵が存在せず戦場が人と馬が主役だった頃にはなかった特徴がある。それは港から町の外まで貫通する三十メーターを超える、不経済なまでに広い大通りの存在である。

 

 道には目的と実情に応じた、理想的な広さというのがある。これが通常の港町なら土地を無駄にあそばせることになり、目聡い商人や行政官からは嘲笑の的となるだろう。

 

 軍港に現れた、両舷に四対の硬質の柱を備えた軍艦が現れたことはすぐさま町中の知るところとなる。

 

 常の船とは明らかに様相の異なるこの軍艦の入港許可が出されると同時に別の命令が下される。軍艦が向かっている船着き場の目の前に港の衛兵たちが周囲の民間人たちを誘導して広いスペースを空けさせる。

 

 そして衛兵たちからスペース確保完了が完了すると、担当の作業員が手旗で軍艦に合図を送る。それを受けて軍艦の伝令兵がメガホンで、それを艦後方の露天艦橋にいる艦長に伝える。そして艦長の号令の下、甲板要員たちが速やかに帆を畳んでいく。

 

 甲板側の準備が整ったのを見て船長からの指示、伝令兵が甲板から手旗で港側に信号を送り始める。

 

 同時に艦長自らから伝声管に館内放送が送られる。

 

「艦内全乗員、及び船客の皆々方に告ぐ。我が艦ははこれより上陸を開始する。総員最寄りの手すりなどに掴まり体を固定せよ。繰り返す、我が艦はこれより……」

 

 艦内への警告を三度繰り返し、艦長は後方露天艦橋から前方左右へ簡易的な防壁を配置した後方艦橋側の伝令兵に指示。前方艦橋内の四人の陸上操艦手が動き始める。

 

 縦一列に並んだ船員たちがそれぞれの横から突き立っているレバーのロックを外す。同時に両舷の二つ折りになっていた柱が、頂点部から展開。さらに他の節の部分も可動を開始。それぞれの違う長さの節が集まった、歪な形の節足動物の足。船底前面には金属製の衝角。

 

 エウロペ大陸の東南部、トラキー半島の更に東南から広がり、遥か東方の大陸まで至る、砂海という特殊な自然環境が存在する。

 

 一般的な砂とは違い、人間程度の重さが加われば、底なし沼のようにそれを飲み込んでしまう環境を渡るため、砂海の上を這いまわる巨大な蜘蛛のような生き物。砂蜘蛛と呼ばれるその生物を素材にエルフの錬金術師たちが生み出したと言われる輸送用巨大機甲。それを機甲巨兵が作り出されて以降、陸上輸送艦としての需要が生まれ、輸入が始まり、やがてこの艦のように航海機能を持たせた揚陸艦とも呼ぶべき船が誕生するに至ったのである。

 

 移動要塞ともいうべき巨体を支えるに相応しい、四対の節足が船体を海上から持ち上げていく。海面から持ち上がった節足が水飛沫を巻き散らす。もし天気が曇天でなければ、小さな虹が掛かっていたかもしれない。

 

 その光景に街の住民たちは小さく歓声を上げる。地元の人間なら間々見る光景ではあるが、すれでも船体だけで二十メーターを超える高さを誇る巨体がせり上がる様は、やはり体を震わせるものがあるのだろう。

 

 やがてゆっくりと上陸を果たした揚陸艦を四対の足で伏せるように船底を地に着ける。

 

 姿勢を固定した揚陸艦は喫水線の少し上の辺りからの装甲が降ろされる跳ね橋のような様子で解放される。その巨大な臨時の甲板に攻城櫓に滑車昇降機を組み合わせたものが近付き、短い橋を渡す。そして港の作業員たちが艦に乗り込み、物資の入ったずだ袋や樽を船に運び込んでいく。

 

 揚陸艦の移動再開は、数時間後のことである。

 

 

 

 

 

「高さは充分、でも薄いかね?」

 

 揚陸艦が砦に到着したのは翌日の日が傾いた頃。マラディザンドを動かし、砦の手前で停まった揚陸艦から下船しながらロッサは砦の様子を観察していた。

 

 三方向にある砦の門は分厚そうな鉄板で造られているが、城壁はそれほど分厚くはない。機甲巨兵ならば城門を狙わずとも、城壁を破壊することも充分可能な厚さだろう。それを補うためか、周囲を深く広い堀で囲まれている。

 

 各門の前には定石通り二機のジャイグメイルが守りに着いており、砦の中にも何機か待機していることは容易に想像できる。城壁の一部からドロドロに燃える金属を流すための防城兵器の姿が、僅かに見える。流石に溶けた金属を浴びては、機甲兵器の装甲越しでも乗り手が焼け死んでしまう。

 

 守備の機甲巨兵を躱せれば突破は容易、だが時間稼ぎの工夫はされているので如何にそういう状況を作れるかが勝負所である、とロッサは結論付けた。

 

 これから雇い主となるであろう相手の砦を前に、ロッサは如何に攻めるかを考えた。一応雇い主に裏切られるということは起こり得るので無意味とは言い切れないが、それ以上に彼女の場合一種の職業病に近い。

 

 砦が目の前に在ったら、取り敢えず落とし方を考えてみるよね?と。

 

 暫くして雇い主から派遣されてきた役人の元に閲兵を受け、人数などを確認される。その後、正式な契約書が書けるようになる。そして作成された書類に雇い主と傭兵団の代表がそれぞれ署名し、垂らした蝋に印を押し、漸く正式に雇用関係が成立するのである。

 これら一通りの手続きを終えてから、やっと彼らはレデ砦に入ることができた。

 

 内側から見れば、尚の事傭兵砦との差がよく分かる。元々大きな砦でなかったエイムズベリーの砦は三百人前後が籠ることを想定して建てられている。それを倍以上の傭兵たちが住み着くために城壁の外にも雑多に色々と建てられ、最早軍事拠点と言えない有様となっている。

 

 対してレデ砦は広く、ロッサの見立てでは少なくとも五千余りが籠れるだろう上に、設備の位置も見える範囲では実用を考えた堅実なものになっている。

 

 まあ、所詮打ち捨てられた、一揆鎮圧用の砦と、藩王国二つと帝国、三勢力の連合軍を相手取る可能性を考慮されて建てられた城塞を比較の対象にすること自体が烏滸がましいということだ。

 

 さておき、楔の団は割り当てられた区画に案内され、まずはそこに楔の団の旗を立てる。楔を表す縦に細長い逆三角形が横に三つ並ぶ、彼らの紋章の印された旗を。

 

  その旗の周辺にテントを張っていく。馬車に積まれて運ばれてきた資材はそれなりの重量である。それらを機甲巨兵で掴み、適当な場所に下していく。それを人間の男たちが骨組みを組み立て、ドワーフたちがロープと杭で固定していく。そしてテントの布を機甲巨兵で上から被せていくのだ。

 

 人の形をし、強大な馬力と巨体を持つ機甲兵器は、土木作業にも優れた性能を示すのだ。

 

 そんな作業に従事しながら、マラディザンドの目から届けられる視覚情報から一機のジャイグメイルがロッサの目に留まった。

 

 機体自体はそれほど珍しいものではない。多くのブリテン傭兵がその購入、運用コストの低さと頑強さから好んで使うゴライアスではなく、高級機種であるゴグマゴグであった。

 

 ややずんぐりとした重戦士を思わせるゴライアスと比べ、ゴグマゴグは若干細身に造られ、多くの場合はバイザーを閉じたアーメットという兜をモチーフとした頭部を標準装備とする。

 

 その機体だけならロッサの注意を引くことはなかった。収入が不安定な傭兵が扱うには高価に機体だが、例えば領地を継げない貴族の次男、三男などで武芸に秀でた者を、実家が金銭的に援助して傭兵稼業で独立を、などといったパターンは偶に聞く。他にも実入りの少ない領地の領主が生活費稼ぎのために自らの騎士団を率いて傭兵稼業するというものある。

 

 それはさて置き、ロッサの目を引いたのはそのゴグマゴグが背負った武器だった。背中の出入り口を遮らないように、右背中に増設された担架に収まった、揺らめく炎のような剣身をもつフランベルジュと呼ばれるタイプの両手剣である。

 

「……良いもん持ってるな」

 

 戦場でも中々見ない、一目で業物と分かる代物だ。

 

 鋭さが伝わる、煌めく剣身。柄に巻かれた、質の良い革を使ったすべり止め。質素ながらも頑強且つ広く作られた鍔。そうそうお目に掛かれる物ではない。腰の剣は鞘に収まって見えないが、柄の様子からこれも悪い物ではないはずである。だが鞘の横に取っ手のような物が着いている以上は分からなかったが。

 

 乗り手が相当やるのか、バックが金と人脈を持っているのか。フランベルジュなどという珍しい剣の使い手など聞かないので、名の知れたメイルライダーという可能性は低い。恐らくは後者だろうと当たりを付ける。

 

「会ってみて損はないかな?」

 

 人脈は武器となり得るものであり、縁は力たり得るものである。何がどうプラスに働くか分からない。ダメそうなら関わらないようにすればいい。その見極めの意味も込めて。

 

 ついでにゴグマゴグの横に、手を加えて更に重装甲化した大型のミトンガンドレッドのゴライアスも立っている。恐らくフランベルジュの機体と同じ所属の機体なのだろう。せめてどちらかのメイルライダーが美女、美少女なら素晴らしいのだが、と破顔させながら。

 

 一連の作業が終わる頃に、丁度夕食の配給が始まった。

 

 今度の契約では食糧はヘント伯から供給されるため、給金がその分高くなる代わりに自分たちで酒保商人に渡りをつけるなどして確保する労力が必要がなくなる。

 

 だが団の経営側からは良し悪しあるが、メイルライダーからすればマイナスに他ならない。なにしろ傭兵に振る舞われるのは下っ端の兵士が食べるのと同じ物。つまりメイルライダーの立場からすれば食事のグレードが下がるだけなのだ。

 

 それでも腹には貯まる。腹持ちだけは悪くないのだ。

 

 蒸かした芋と、歯応えがなくなるまで野菜を煮込んだ塩味のスープ。地面の上に置かれた長テーブルの椅子に腰かる。

 

 質素に過ぎる献立にロッサは不満を隠さなかった。事前に酒保商人から買っておいたバターと胡椒で芋とスープを味付けして漸く食えたものになったと、それでも彼女は表情を顰めながら配給の食事を呑み込んでいく。

 

 ストレス溜まりそうだ、とロッサは溜息を吐いた。

 

「やっぱ冬の戦争はロクでもないわ」

 

 無論、それとこれとは関係ない。

 

 

 

 

 ロッサがまずい食事を無理矢理腹に収める作業に勤しむ中、同じメニュー相手に悪戦苦闘している者がいた。ロッサが目を付けたゴグマゴグのメイルライダーである。

 

 太陽の如く映える黄金色の髪を三つ編みに腰まで垂らし、瑞々しい薄紅の唇は愛らしくある。顔の上半分を隠す仮面によって容貌の全ては見えないが、小柄で華奢に見える体躯も相まって、幼い印象を人に与える。見てくれの通りの歳ならば、恐らく十代前半だろう。子供と言って過言ではない年齢であり、戦場に出るには若いという印象はあるが、されど珍しいという程度のことに過ぎない。

 

 衣服の上に纏っている鎧はジャイグメイルのメイルライダーでは珍しく、鎧の面積の少ない物であり、むしろドラグメイルの乗り手が好む物に近い。

 

 と言うのもドラグメイルの場合、ドラゴン形態による空中戦を考慮し、出来る限り身軽にしたがる者が多い。対してジャイグメイルは完全な巨人型の兵器であるため、万が一機体を放棄した場合、生身で戦いながら撤退する場合を考慮し、彼らが買える範囲で重装備な鎧を使いたがる。つまり普通の騎士や重装歩兵と同じような装備になることが多いのだ。

 

 彼女の鎧にドラグメイルの乗り手の基本から外れる部分を見出すなら、左半身に偏った装甲の配置だろうか。大型の肩当と脛当て。食事に不便であるため今は外されているが、右腕のガントレットと違い、左手は大型の三本指ミトンになっている。

 

 そしてその銀色に輝く鎧には美しい意匠が施され、見た目にも美しい物だった。生まれが非凡であるが故に手に入れたのか、はたまたこれほどの逸品を特注できるほどの財を稼ぎ出したのか。何れにせよ、周囲の注目を買うには充分だった。

 

 そんな人物の目下の敵は、蒸かしただけで味付されていないジャガイモだった。

 

「それほど不味いのなら無理に食べることはないと思いますが」

 

 食事の手の進まないその様子を、長テーブルの横に座る青年は苦笑いを浮かべて見ていた。

 

 歳のほどは二十代に届くか否か、と言ったところだろうか。端正と言えなくはないが、然程他人の印象に残るような顔立ちではない。あまり特徴的なものがないのだ。或いは短く切り揃えた、濃い色の茶髪だけは辛うじて人の印象に残るだろうか。

 

 彼も上等な布鎧の上に甲冑を纏っている。装飾の施されていない、飾りっ気のない物で、一目で実用向けだと分かる。

 

「何れ兵を動かす立場になる身、兵士のことを理解するために来たのです。このくらいで音を上げては……」

 

 スープはまだ飲める。汗をかき、疲労を感じれば人は自然に塩を求めるからだ。だが、それでも他に味付けされていないスープをおいしく感じられるほどではない。

 

「お母君はテントで別の物をお食べのようですが?」

 

「母さまはいいのです。兵を指揮するお立場ではないのですし」

 

 意地を張るように蒸かしイモを頬張る仮面の子供の様子に苦笑いしながら、茶髪の青年は自前の調味料で味を誤魔化して食べる。仮面の子供は最後にスープで口の中のイモを流し込むようにして何とか平らげた。

 

「まあ、目的を見誤らないでくだされば、僕が言うことはないですけどね」

 

「当然です。これが初陣となる身、ジャンの指示に従いますよ」

 

 仮面の子供は、茶髪の青年をジャンと呼んだ。

 

「そうあってほしいものですね、姫さま」

 

 青年、ジャン・テューダーはスープの最後の一口を飲み干した。

 

 食事を終えた二人は自分たちの天幕に戻る。そこにいる、二人の上に立つ貴婦人の元に。

 

 

 




 外になかなか出られず、ストレスの溜まる今日この頃、皆さま如何お過ごしでしょうか?どうも、郭尭です。

 今回から多分二、三話くらい本格的な戦闘はありません。ドラマや世界観の説明回になるかと。アクションが好きな方には物足りないかもですが、面白くできるよう頑張ります。

 それでは今回はこの辺で、また次回お会いしましょう。
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