輪廻の輪を外れたからもう一度生きる   作:佐波 大和

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第2話

海の波に流されている感じで暗闇の中を流されていく。

しばらく流されていると光が見えてきた。その光は徐々に徐々に近付いてくる。

 

……新しい世界、か。……母さん、父さん、海波(かいは)……俺は今から新しい世界に旅立つよ。……親不孝者でごめんな……海波、兄としてまともな事をお前にしてやれなかったな……許してくれ……じゃあな……

……よし!! さあ、新しい世界はどんな世界なんだ?

 

もう光は目前だ。元の世界に未練たらたらだったけど割り切ってしまえば意外とワクワクしてくる。

 

……嫌だったのにこう割り切ってしまえるのは俺が冷たいからか?

いや、自分で言うのはあれだが俺は家族のことを諦められるほど冷たかったわけじゃあないと思う。

……これはあの存在がなんかしたのか?……違うな、魂だけの状態になったから、か。

うん、たぶんそうだと思う。……これは困る。やめてほしいわ。

……まあ言っても無駄か、……もうなるようになれだわ。

 

お?もう光の中に入った。

そんな事を思ったと同時に何かに引っ張られる。

 

お、お、おおおおおおおおおおお!?

 

今の状況を例えるなら渦の中に入って吸い込まれていくみたいな感じだ。

 

そして一気に俺の魂が何かに入った。

 

 

 

 

「おぎゃあ、……おぎゃ?」

 

体がある、……は?

 

……………おぎゃあ?

 

「おぎゃああああああああ!?」

なんだこりゃああああああ!?

 

意味が解らない。え?何?もう一度生きるって赤ん坊から?

 

「おぎゃあ……」

 

まじかよ……

 

「先生!、この子泣き方が変です!?大丈夫なんでしょうか!?」

 

「ああ、落ち着いて下さい。この子はあれですよ、きっと泣こうとしたけど疲れてしまったんですよ。……一応頑張っているみたいですよ」

 

「そうなんですか?産まれてから頑張る……グスッ海人さん、きっといい子に育つわ」

 

「ああそうだな鈴、君に似ていい子になってくれるといいな。グスッ」

 

………………え?何言ってんだこの人達?

ふざけているようにしか思えないんだけどこの会話。

 

「ほらこっち見てますよ、きっと親だと認識しているんでしょう」

 

「ほんとう!?ほらママでちゅよー」

 

「マジでか!?パパだよー」

 

「おぎゃあおぎゃあ!?」

 

アンタ達こそマジでか!?

……いや、違うな、この世界の俺の両親だと思う人たちはガチだ。本当の天然だ。

でも医者、アンタ確信犯だろ? クールな顔してたって肩が震えてるぞおい。

 

「……すいませんがもうそろそろ赤ちゃんの方は新生児室に行くので……」

 

「あ、はい。分かりました」

 

そうして俺は母と思われる人の腕からこの医者にわたった。

 

「いろいろありがとうございました桔梗先生」

 

「いえいえ、仕事ですから」

 

アンタさっきふざけてただろうが……

 

「でわでわ、安静にしていてください」

 

……本当に赤ん坊からか……はあ、マジでか……

 

俺を抱いた医者は部屋から出て、歩く。さっき言ってた新生児室に行くのだろう。

 

「…………ふう、面白いなあの夫婦……フッ、ククククク」

 

「おぎゃあ、おぎゃあおぎゃあ」

 

おい、笑ってんの聞こえてるぞ。

 

「……何かこの赤ん坊変だな?まだ俺の経験が足りないから知らないだけかもしれ無いけど……」

 

確かにあんな泣き方されたらおかしいと思うわな、でもどうしろと?

俺赤ん坊みたいに永遠と違和感もたれずにやっていられる自信ねえぞ。

 

「………………ボソッ」

 

んん?今なんて言った?ナンチャラ使いってだけは聞き取れたんだが……いや聞き取れてないけど……

 

「なわけないか……ま、どうでもいいか」

 

「おぎゃあ!?」

 

適当!? あんた医者だろ!?

 

……なるほどね、魂だけの状態のせいの感情薄化について大体わかってきた。

これはある一定以上のものすごく激しい感情は抱けない、もしくは抱きにくいがそれ以下は抱ける、と。

でもその感情が高いとどんどん小さくなっていくらしい。

まあこれだけわかれば十分か、全く感情が高まらなかったらどうしようかと思ってたが一応大丈夫だな。

 

「じゃ、ゆっくりしておくんだよ」

 

そんなことを考えているといつの間にか俺は部屋のベットみたいなところに寝かされていた。

それにつれてどんどん睡魔が襲ってくる。

赤ん坊の肉体はそれを拒むことができず、俺の意識は闇に落ちた。

 

次の日、目が覚めたら

 

「おぎゃあおぎゃあああ!!」

 

ぐおおおおおおおおおお!!

ヤバい、赤ん坊の肉体マジでヤバい。

何がヤバいのかっつうとお腹の空き具合がヤバい。

すぐにお腹が空いて激しい空腹感に蝕まれる。

ごめん、他の赤ん坊たちよ。すぐに泣いてうるさいとか思っていてすまんかった。これはきつい。

 

「おや?お腹が空いているのかな?ちょうどいい、君の母親の所に行こうか」

 

「おぎゃあおぎゃあ」

 

ナイスだ、医者さん

 

そしてそのまま俺を担いだ医者は昨日来た道を戻り、俺の母親であろう人の所に行く。

 

「こんにちは志熊さん、体調はどうですか?」

 

「はい、先生のおかげでぴんぴんしています」

 

「それは良かったですね、赤ん坊がお腹を空かしているみたいなので」

 

「おぎゃあおぎゃあああああ!!」

 

「分かりました。ほーら連ちゃん」

 

今はホント母乳でも何でもいいので下さい。

……でもできれば母乳は遠慮したいなあ、なんて……無理ですよね

 

「おっぱいですよー」

 

「おぎゃあおぎゃあ!」

 

健全な思春期の俺には刺激が強いんだよ!

ッ!?おい!やめろ!いややめて!やめてください!!

 

「一杯飲んで元気に育ってねー」

 

「おぎゃああああああああ!!」

 

うわあああああああああ!!

 

…………これからしばらくはこんなことが続くのか……?

…………悪夢だ、なんで赤ん坊からなんだ……

 

____________________________________

 

「本当にありがとうございました」

 

「お世話になりました先生」

 

「いえいえ、仕事ですから。錬君の事をちゃんと育ててあげてくださいね」

 

大体俺が産まれてから一週間ちょい経って俺たちは退院することとなった。

ああ、それと俺のこの世界での名前は志熊錬(しぐまれん )と言うらしい。

……なるほど、しっくり来るな……名前なんて単に親が付けただけのものかと思っていたがそうでもないらしい。

名は魂をを表すもの、か。うまいこと言ったもんだ。

 

「それでは、ありがとうございました」

 

おっと、いつの間にか話が終わったらしい。

病院を背に歩き出した俺の……両親は近くに止めてあった車に乗り込んだ。

新しい両親、ね……そんないきなり言われてもそんなふうに思うことはできないけどこの人たちからすれば俺は自分達の子どもだ。

俺の勝手な考えでその気持ちを壊すことはできない。

……少しずつだけど大切に思えるように努力しよう。前ではまともな家族との触れ合いができなかったんだ。……前の世界の家族には悪いけど俺は家族の触れ合いってものを感じていたいんだ。

俺はきっと最低……まではいかないかもしれないけどダメ人間だ。

自分の勝手な考えで迷惑をかけたあげくまともな恩返しもできないのに勝手に死んで新しい世界に行き新しい家族との触れ合いを求めているなんてな……

合わせる顔がねえや……俺はこうしてもう会えなくなってしまったけど、父さん、母さん、海波、幸せになってくれ。

許されないかもしれないけど俺は新たな人生を楽しみたいと思う。

……これで決別だ、自分でも冷たいと思うがしょうがない……魂だけの状態になったからとか言い訳は言わない。

新しい人生に過去は不要なんだ……俺は今からを見て行こうと思う。

じゃあ、バイバイみんな。幸せを願ってるよ。

 

「錬ちゃーん?お腹空いてななあい?」

 

ふっ、………………

お腹空いてないこともないけど嫌です。

あ、っちょ、体が勝手に……

 

「おぎゃああああああ!!」

 

やめて!お腹空いてないから!空いてないから!

 

「ほーらママのおっぱいでちゅよー」

 

「おぎゃあああああああ!!」

 

やめろおおおおおおおお!!

俺にッ!、俺のそばに近寄るなーーー!!!

 

ちゅうううううう

 

…………ああ、おいしい……


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