ベルガラックからあのお方……改めトウカの元気がない。最初の頃はひたすらに彼が怖くて話しかけるのもままならなかった訳だけど、勇気を持って……必要に駆られて……話しかけてみればあぁなったのはクソ野郎……じゃなかった、僕には誰だかわからないトウカの親戚の人間にトラウマを植え付けられた結果と知り、本人はただぶっ壊れている「だけ」だと分かった。
今じゃあその「ぶっ壊れ」も随分慣れてそんなものだと全然怖くないくらいだ。むしろ彼がいなきゃどう戦っていったらいいのかわからないくらい頼りにしているし。
仲間に避けられることなく話せるようになった箱入り息子のトウカは今じゃあ戦ってさえいなければ気弱で庇護したくなるような少年だったし。
趣味も可愛いものだった。甘い菓子と小動物が好きでさ。無害に等しいよね。戦う姿さえ見なければ守るべき対象そのものだよ。まぁそもそも祖国の貴族の息子だけどさ。
あぁそれにしても元気がないね、どうしたんだろう。
「サザンビークに向かっているんだよね……」
「そうみたいだぜ?」
何故かトウカを構い倒すククールが肯定。気遣って優しいククールの声と裏腹にトウカのアルトの声は憂鬱そのものだ。
「そっか……」
そしてそれに構わずどん底に暗いトウカ。でもいくら嫌でも彼は決して陛下の意向に逆らったりしない。だからそれ以上は何も言わなかった。
その時、その様子を見て僕は少し嫌な予感がしただけだったなんて。
・・・・
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「ルゼルさまじゃない……!」
「な、何を今更! さ、さ、最初っから、兄上はお生まれになれなかったとお前は何度聞かされれば納得するんだ……っ!」
露出度の高い女と対峙するトウカの目にはただただ恐怖。ひたすら戦き、震え、恐れている。日常から刃物に恐怖する彼女が目に捉えるナイフにはとっくの昔に茶色に変色したのであろう古い血がこびり付いていた。
どんどん深みにはまっているらしく、小さい体は見ているうちにもますます震える。泣きそうなほど怯えて、顔をくしゃくしゃにして、それでも泣かずに震えて立っていた。
その様子に俺は思わずトウカの肩を抱き寄せ大丈夫だと言っていた。
もちろんその行動に他意はない。引き寄せちまってから華奢さや男には到底なく、女特有の体の柔らかさに気づいたぐらいだったもので。これで恋愛に海千山千のククール様とは笑わせる。いや泣かせる、か?
だが幸いにもトウカは突っぱねず、それどころか俺に安心してくれたように薄く微笑んだ。あどけない笑みだった。
「ボク、ボクね……頑張ったけど強くなれなかったんだ」
そして俺を振り払うでもなくそのままにしてライティアを見据えた。
「でも努力はしたつもり。今なら戦えるよ、ボク変わったから」
「何よ、そんな男を侍らせてそれでルゼルさまの妹を名乗って何様のつもり?!」
「もう、ライティアの影に怯えなくていいよね……」
まずい。
一気に通常から狂気に振り切ったのに全員が気づき、狂気が宿る目は止められなかったが振り上げた手を四人がかりで止めた。それでも正直大変だったが、止められたから良しとしよう。
その後、トウカの口から事の真相を聞いてから。エルトがライティアを暗殺しようとブーメランでひたすら鷹のように狙っていたり、それを止めようとして揉み合ったり、だ。やめてくれ、トウカ以外は止めたくねぇ。もう限界だ。
赤ん坊の記憶がこびり付いて、焼き付いて消えないトウカ。忘れられない自分本位の欲望から成るどす黒い殺気。味わう必要もなかったはずの鮮烈な痛み。それらが彼女を壊してしまった。……別に俺は治らなくても構わないけどな。
ただ、彼女がもう少し穏やかに俺と共に歩んでくれるなら……。
・・・・
「あっは!」
「うわすごい……爆裂拳の一発一発が魔物の体に突き刺さってる……」
「流石は姉貴でがすね!」
まぁ少しはその狂気も抑えて欲しかったりはするんだが、贅沢は言うかよ。あの狂ってしまった笑顔にほっと安心癒されるとまではまだいかないんだよな。