邪気世界、そこもかつては、人々が賑わう穏やかな世界であった。街では楽しげな雑談が飛び交い、子供は明るく元気に遊び…昔ながらの街並みも溢れた、本当に良い街であった。私、聖者綺秦もこの街で生まれ、人間としてすくすく暮らしていた…街が天邪鬼に支配される、あの時までは。
ある日突然、私達の村は、世界は襲われた。どこに隠れていたのかも知らない天邪鬼。彼らは私達を餌としか思わずに、次々と食っていった。その情景を、私は信じられなかった。
逃げること数日、非常食すら尽き、ついに村の生き残りは私一人になった。店は天邪鬼や他の妖怪に荒らされ、村は妖怪だらけとなった。私はついに、意識を失い倒れ込んでしまった。
目を覚ますと、そこには黒い髪をした、綺麗な巫女が立っていた。彼女は私を見て、可愛そうにと泣いた。
彼女は言った、天邪鬼は、人間を殲滅しようとしている。食い損ねた人間には、自らの瞳の半分を埋め込み、その人間を同じ天邪鬼にしてしまうのだと。あなたは辛うじて私が助けたが、あのまま倒れていたら、貴女は食われていたか、あるいは天邪鬼になっていただろうと言った。それから彼女は、残っている人間を助けに行くと言って、村へ歩いていった。
私は待ち続けた。何年も、何年も。しかし数年後、村の人間の生き残りによって、彼女の遺体が発見された。
私は泣いた。枯れるまで、枯れるまで泣いた。私は、天邪鬼を許せなかった。あの、私達の村の…楽園の素敵な巫女を殺した天邪鬼を。私は村へ出て行き、たった一つの刀を手に、天邪鬼と戦った。
しかし、私は天邪鬼の前ではただの虫に過ぎなかった。私は、巫女を倒した天邪鬼すら見つけることすらできずに、血まみれになった。私は最期の力を振り絞り、一匹の天邪鬼をこの手で傷つけ、瀕死にまで追い詰めた。
しかし私は、その天邪鬼が私に手加減をしていたのだと気づかされる。その天邪鬼の女は私に、「私が憎いか、憎いのなら殺すが良い。望むなら、私の片目をやろう。これを君が受け取れば、君は長く生きることができる。さすれば、その巫女を殺した天邪鬼をお前の手で狩ることができる。受け取らないのなら、それも良い。お前は誇り高き人間として死ぬことができる。しかし、その巫女はそれを望むかな。」と。
私は、彼女の片目を奪い取り、自らの左目にはめた。その瞬間、私の身体の半分は天邪鬼となった。しかし、それはもはや復讐の為の命ではなくなった。
それから数十年で、私のもう片方の眼も赤く染まった。恐らく、人間としての私が死んだと言うことだろう。
私は待ち続けた。私に目を与えた天邪鬼、秦之心がこの世界に転生する日を。彼女が転生したら、彼女を思い切りぶん殴ってやる。そして、命が大切なら何故、自ら死を選んだのだと叫んでやる。そう心に誓って。
しかし彼女は、何千年経っても、邪気世界に姿を現さなかった。
秦之心だけではない。あの巫女も転生しなかった。私は、もはや生きる意味などなくなってしまったのだ。
「ふうん、そんな女の子がいたんだ。らしくない話するじゃない。」
「なあ…やっぱり、その真顔何とかならないのか?」
「あなたこそ、そんな馬鹿げた話、何とかならない?まあ…その天邪鬼が私の前世かどうかは知らない。前世なんて興味無いわ。それより、女の子…女の子ねえ…」
「な、なんだよ…」
「ひょっとして、霊夢さんに左目埋めたのって…霊夢さんがその巫女に似てて…ふうん。結局、あなたは利己的だって訳ね。」
夕焼け空に、二人の妖怪。一人は、悲劇の少女。もう一人は…少女の探したソレなのだろうか。