このお話は、作者がじゃがいもを食べていた時に思いついた話です。
こんな内容ですが、読んでもらえれば幸いです。
鎮守府の朝は早い。
この鎮守府でも、それは同じだった。
鎮守府内食品部農産課に所属している芋太郎は誰よりも早くに起床し畑へ向かう。
一面に広がる馬鈴薯・甘薯の苗がウネに沢山ならんでいた。
芋太郎は、まだウネが出来ていない所を、三つ又鍬を持つ腕を振るい耕し始めた。
ザクッ ザクッ・・・
今ここにいるのは芋太郎以外おらず、畑を耕す音と朝鳥が目覚め、飛び立つ時の鳴き声だけが響いていた。
ザクッ ザクッ
芋太郎は畑を耕し続ける。
正式な起床時間を示すラッパが吹かれた。
しかし、芋太郎は気にする事無く腕を振るう。
ザクッ ザクッ
ラッパの音で目覚め、着替えが整い朝食へ向かう者、はたまた見張りの交代へ向かう者。
鎮守府内で活発に活動を開始しようと、多くの人の声が聞こえ始める。
それでも、芋太郎は耕し続けた。
芋太郎は部署から判断できるかもしれないが、農家出身であった。
無口で巨体、農家育ちで筋骨隆々と身体は問題なかった。
しかし、無口と言う事と農家出身というのが、よく思われない事が度々あった。
ザクッ ザクッ
耕し続ける芋太郎へ、近づく数名の人影があった。
「おい、芋野郎。今日もからかいにきてやったぜ」
芋太郎に話しかけるのは憲兵であった。
ザクッ ザクッ
しかし、憲兵の声に耳を傾ける事無く芋太郎は畑を耕し続ける。
「おいっ無視してんじゃねぇ!」
一人の憲兵が石を投げた。
石は芋太郎の背中へ命中。
それを痛がるそぶりも見せずに、ただ無言で畑を耕す芋太郎。
ザクッ ザクッ
「くっ、どこまでもコケにしやがって。やっちまえ!」
数名の憲兵が畑へ入る。
ウネを踏み潰し、空いた手で萌えたばかりの芽を引っこ抜く。
本格的な嫌がらせが始まったのだ。
これを見かねた芋太郎は、腕を振るうのを止め、鍬を担ぎ無言で畑を荒らす憲兵へ向かっていった。
「やっと、自分の立場に気付いたのか?ははっ」
一番近くの憲兵が笑う。
「今すぐやめさせろ…」
低い声で話す。
「あん?なんだって?聞こえねぇよ!」
憲兵が芋太郎を殴りつける。
腕は芋太郎の胸へ当たっていた。
しかし、芋太郎は痛みで仰け反ったりする事無く、仁王立ちをしていた。
芋太郎は胸に当たる腕を空き手で掴む。
「イデデデデッ、はっ離せこの筋肉達磨。誰かコイツから助けてくれ!」
周りにいた数名の憲兵が蹴りや殴りに掛かった。
横腹・右股・左臑、計三カ所に打撃が入る。
しかし、動じる事は無く仁王立ちを続ける芋太郎。
掴んだ腕を左へ振るう。
左側を殴りつけてきた2名の憲兵を巻き込んで掴んでいた憲兵が投げられた。
「うわあああぁあ」「ぐはっ」「痛てぇ」
各々違った悲鳴をあげる。
右側にいた憲兵はそれを見て、少し距離を取ろうと後ずさりをしていた。
それを、投げて空いた手を使い、首元を掴む。
「がっ!?」
一瞬だけ器官にダメージが入ったのか、声をあげる憲兵。
芋太郎はそのまま腕に力を込めると片手でその憲兵を持ち上げた。
「ぐっ…ぐるじぃ…だ、だすげで…」
首が絞まりながらも仲間に助けを乞い、腕を首当たりに動かしながらジタバタしていた。
そのまま持ち上げ続けると白目を向いてきたので、芋太郎はその手を放した。
憲兵は力なく倒れる。
「ごほっごほっ…あの野郎…」
そう言い芋太郎の方を睨みつけようとした。
しかし、彼の眼前には三つ又鍬の先が映った。
「ひっ…」
芋太郎がそこまでするとは想定していなかったのか、その憲兵は声をあげながら失禁。
これを見かねた一番偉そうにしており、遠くから仲間が動くのを見ていた憲兵が剣を抜いて切り掛かってきた。
芋太郎は後ろから切り掛かられる事となり反応が遅れてしまう。
結果、後頭部に切り傷を負った。
怪我を負わされた芋太郎は、すぐさま斬りつけてきた本人を正面に捉える。
「やめるんだ」
低い声で静止を促す。
「うるせぇ、お前一人死んだ所で、代わりはいくらでもいるんだよぉ!」
そう言い再度切り掛かる。
芋太郎は1撃目の袈裟切りを屈んで躱す、2撃目の切り上げを三つ又鍬を使って受け止めた。
更に、受け止めた途端に鍬を捻る。
剣は大量生産された物だった為か、簡単に中間地点で折れたのだった。
攻撃手段と仲間の助けを失った憲兵はただ、怯えながら後ずさりするしか出来ないでいた。
芋太郎はそんな憲兵へゆっくりと近づいていく。
後ずさりを続ける憲兵は振り返り逃げようとしたのだが、振り返った瞬間に両手をついてしまった。
完全に戦意喪失し背を向ける憲兵に芋太郎は警告をした。
「今度ここに来て同じような事をするなら、お前の顔に3つの風穴を開けてやる」
低くドスの利いた声だった。
それを聞いた憲兵は言葉の意味を理解し、顔は青ざめていった。
他の憲兵も意識を取り戻したのか、次々と立ち上がり始めた。
しかしリーダー格の憲兵の様子をみて、その憲兵を連れ、すぐさま逃げていったのだった。
芋太郎は後頭部に手を触れた。
「っ」
その手には真っ赤な血が付いており。首辺りにもなにか付いている感覚を感じ自室へ戻って手当をする事にしたのだった。
自室に着き手当をする。
よく見ると後頭部の他に左手薬指にも切り傷がパックリとできていた。
芋太郎は傷を負ったであろう場面を思い出す。
その傷は鍬で剣を受け止めた時に刃先が当たったのだろうと、すぐに推測できた。
しかし、今は怪我を負った場面等どうでも良く、芋太郎はすぐに手当の準備を開始した。
まずは、無色透明の液体が入ったビンの栓を抜く。
ツンッと香る刺激臭を他所に、指の傷に掛けた。
傷に染みるのが普通の人の感想だが。芋太郎は顔を変える事無く、赤十字の入った箱から包帯を取り出し、手早く巻いていった。
次に後頭部にも同じように液体を掛けたが、傷の度合いが違ったため、僅かに顔を歪ませたが、それもまた手早く包帯で巻いたのだった。
手当が終わると、芋太郎は器具を片付け、今度は、マッチと薪を用意した。
芋太郎は寝起きから今まで食事を一切口にしておらず。
彼にとって今からが朝食だったのだ。
芋太郎はマッチでかまどに火をつける。
そして上に水と馬鈴薯が並々と入った鍋を置いたのだった。
しばらく時間が経ち、鍋の水も沸騰し、芋も食べごろになってきた。
芋太郎は鍋をかまどから下し、菜箸をつかってお湯から皿へと芋を移した。
僅かに漂う芋本来の香りと白い湯気が立ち上る。
芋太郎はその芋を素手で鷲掴みにして食べ始めたのだった。
遅めの朝食を終え、湯呑みに残る水を一気に飲み干すと。
残しておいた芋を弁当箱へ詰め、再度畑へ向かっていった。
本日二度目の畑へ着いた芋太郎は、特に気にする事無く、耕し始めた。
ザクッ ザクッ
この時間帯は畑の道自体、人が通る事は無く、ただ耕す音だけがまた続き始めた。
芋太郎もいつもの事だというので、考える事無く腕を振るい続けていた。
しかし、普段ならこのまま畑を耕す作業が続くのだが、今日は畑へ近づく影があった。
「お勤めご苦労様です」
憲兵や見張りの声を聞き慣れていた芋太郎にとっては、違和感を覚える声だった。
そう、澄み渡るような女性の声だったのだ。
その声を聞き、芋太郎は思わず腕を止め、声の主を探す。
声の主はすぐに見つける事ができた。
その姿は赤い袴に白い道着、黒い長髪の女性であった。
「俺に何か用か?」
芋太郎は問いかける。
「いえ、ただ散歩をしていただけです。お邪魔でしたか?」
「いや、邪魔にはなっていないが、この時間に声を掛けられた事が無かったんでな」
そう言い、また畑を耕しはじめた。
ザクッ ザクッ
芋太郎は女性が自分に用が無いと分かると、再度気にかける事無く耕し続けたのだった。
耕し続けて昼がやってきた。
芋太郎は太陽の向きから時間を判断し、鍬を担ぎ弁当の置いてある木陰へ移動していった。
しかし、芋太郎は違和感を感じ。辺りを見渡した。
あたりを見渡すと、まだその女性が居たのだった。
「なんだ、まだ居たのか?」
「俺なんか見ていても、何も面白くないだろうに」
「それに、ここに居ても昼食は出ないぞ」
芋太郎はその女性がここから離れるよう、遠回しに言った。
「それもそうですね。私はこれにて」
そう言い、その女性はお辞儀をしてここを立ち去ろうとした。
芋太郎はそんな女性を横目に昼食の包みを手にしていたが、立ち去ろうとしていた女性に対し、疑問点があったのか呼び止めた。
「ここから本部までかなりの距離があったはずだ、今から行って間に合うのか?」
声を掛けられた女性は振り向き、笑顔でこう返す。
「ギリギリですね。でも間に合わなくはないかと」
「もし間に合わなかったら、どうする?」
「我慢するだけですよ」
そのように述べる女性に、芋太郎は気に掛けた。
「質素かもしれないが、一緒に食うか?」
そう言い、弁当の包みをぶら下げる。
「お言葉に甘えさせて頂きます」
その女性は芋太郎の居る木陰へ歩を寄せ、木を背もたれにし座る。
芋太郎も少し距離を取り同じように座った。
「ほれ、茹でた芋だ食うか?」
「いただきます」
そう言い、冷めてこそいたが柔らかい芋に齧り付く女性。
「おいしい!」
「そうか、よかった」
芋太郎はその言葉に安堵し、同じように齧り付いた。
一つ目の芋を食べ終えると、芋太郎は声を掛けた。
「そう言えば、名前を言ってなかったな、俺は近藤 和太郎。芋太郎と呼ばれている」
「私は航空空母 赤城です」
「航空空母だったのか、驚いたな」
「よろしくおねがいしますね、和太郎さん」
「芋太郎で良い」
自己紹介が終わり、芋太郎は追加の芋を赤城に渡す。
「1つじゃ物足りないだろう、ほれ」
「そっそんな、芋太郎さんの昼食が無くなってしまいます」
「俺は空腹には慣れてる、だから気にせずに食べてくれ」
「では、いただきます」
のどかな時間が流れていった。
昼食も終わり、芋太郎は水筒に口を付けていた。
「久しぶりに他人と食事を共にしたが、良いものだな」
「そうですね」
赤城が笑いながら呟く。
「そうだ、今度こちらで食事をしませんか?今回のお礼も兼ねて」
「誘いは嬉しいが、遠慮させてもらう。俺が行ったらお前の迷惑になるだけなんでな」
「そんな…、どうしてですか?」
「俺は他の奴らに良く思われてない、それだけだ」
「良く思われていないって…どんな風に思われているのですか?」
「農家出身なのが気に入らないんだと」
「それだけ…そんなの、ただの八つ当たりじゃないですか?」
「そうだな、ただの八つ当たりかもしれない。だが、奴らの鬱憤は晴れるだろう?」
「それでここが良くなるなら安いもんさ」
「そんな訳だから、俺にあまり関わらないでくれ」
「今回ばかりは迷い込んだとして言い訳出来るが」
「何度も来られると誤摩化しが効かなくなるんでな」
「だからここに長居しない方が良い、今すぐに本部に戻れ」
「居れば居る程、お前の立場も危なくなるからな」
「…わかりました」
赤城は芋太郎の考えを理解してくれたのか、来た道を帰っていった。
赤城を見送った芋太郎は、耕し終えたウネに種芋を埋め始めたのだった。
芋太郎は仕事を終えたが、寮へ戻る事は無く、弁当を作った倉庫へ帰っていた。
かまどに火をつけ鍋を置く、中には水と馬鈴薯だけが入っていた。
芋太郎は鍋が沸騰するまでの間、木箱に腰を掛け待っていた。
一方、赤城は提督から芋太郎の情報を聞き、彼が居るだろうと思われる部屋を訪れていた。
コンッコンッ
近藤と書かれた扉をノックする。
返事は無かった。
「寝ているのでしょうか…」
そう言い引き返そうとするも、赤城は立ち止まり思い切ってドアノブを捻った。
以外にもカギは掛かっておらず、ドアはあっさりと開いた。
しかし、明かりは灯っておらず、廊下からの隙間明かりで部屋が照らされた。
そこは、埃にまみれており、人が生活している痕跡はなかった。
それを見た赤城は自室へ戻り、一つの思考を巡らし、明日に備え眠りに着いた。
赤城が眠りについた頃、芋太郎の方は出来上がった茹で芋を食べていた。
右手に芋を持ち、左手にはヒビの入った湯呑みに透明な液体が注がれていた。
芋を齧り、湯呑みに口を付ける。
「あぁー旨い…」
芋太郎は短い感想を言うと、芋を液体で流し込むようにして早食いをしたのだった。
芋太郎は食事を食べ終え食器を片付けると、倉庫端に敷いてある布の上で眠りについた。
芋太郎がいつもの様に朝早くに畑へ向かうと、昨日とは様子が違っていた。
なんと、芋の苗という苗が全て引っこ抜かれていたのだ。
犯行者はすぐに予想がつくのだが、芋太郎は当人を気に掛ける事無く。
いま、起きている被害の収拾にのみ、思考を巡らした。
応急処置的に、葉が枯れていない苗を埋め直し、肥料を与える事で様子を見る事にした。
今日の朝はその作業に追われる事になり、いつものような音は響かなかった。
そして時間が過ぎていき昼になる。
芋太郎は太陽の向きから時間を判断し、作業を止め。
いつもの木陰へ向かう。
そこには、芋太郎の弁当包を揺らす赤城の姿があった。
「昨日も言っただろう、ここに来ない方が良いと。どうして今日も来たんだ?」
溜め息まじりに問いつめる。
「昼食が物足りなくて、ここなら分けてもらえると思いまして」
少し顔を赤らめながら、理由を話す赤城。
その理由を聞いた芋太郎は、一瞬目を丸くしたが。
再度溜め息をし、赤城の持つ包みを取ると、中にある甘薯を取り出し、赤城へ手渡す。
「今日はサツマイモだ、ほれ」
「ありがとうございます」
笑顔でお礼を述べる赤城。
その笑顔を見てフッと笑う芋太郎、昨日の様に木陰で座りながら共に食事をしたのだった。
サツマイモを食べながら、芋太郎は訪ねる。
「ここに、芋を食べに来ただけじゃないだろう?その程度の理由ならわざわざ、ここに来る事は無い」
「やっぱりバレていましたか」
「理由が単調すぎるからな」
「そうですね、単調でした」
「でも、今話すことは嘘ではありません」
「ただ単にお礼が言いたかったんです」
「昨晩、提督に聞いて芋太郎さんの部屋を訪れたのですが」
「そこで芋太郎さんが生活してるような跡がなかったので、今日もここに来たのです」
「そうか…」
芋太郎は少し納得した様子で畑へ目を見やる。
それに、釣られてか赤城も畑へ目を移した。
そして、昨日とは様子が違うのに気づいたのか、芋太郎へ問いかける。
「昨日より苗が減っているようですが…何かあったのですか?」
「俺が寝ている間に、誰かが全部抜いていったらしい。犯人の見当はついてるがな…」
「どうして、報告しないのですか?」
「報告程度で済むなら、俺だってすぐにやってる」
「しかし、どう考えてもやめそうに無い」
「そんな…」
「だから、今から夜に掛けて冊を作ろうと思ってる、特別な冊をな」
芋太郎はそう言いながら立ち上がると、倉庫の方に歩いていった。
「あの、まだお弁当残っていますよ?」
赤城が叫ぶ。
「食欲が無いから、お前にやるよ」
背を向けながらそう伝えると、そのまま倉庫の中に姿を消した。
しばらくして何本かの杭と木槌、そして茶色く錆びた金属が棒に固定されている物と麻紐を、何度か往復して揃えていった。
芋太郎は最初に、杭を苗が残るウネの角へ木槌を使い打っていった。
次に、杭の隙間へ錆びた金属物を埋めていき、飛び出しているリングへ麻紐を括り付け、杭の低い所へもう片方の紐を結びつけていった。
「その錆びている金属はなんでしょうか?」
その物質が気になるのか赤城が訪ねる。
「地雷だ」
芋太郎は隠す事無くキッパリ答えた。
「えっ?地雷?」
赤城は動揺しながら確認するように声を漏らす。
「ここ最近の奴らは、どんどん嫌がらせが酷くなって来ている」
「何度か忠告をしたにも関わらずに」
「そんな奴らは本当に痛い目にあわないと、やめないと判断しただけだ」
「それじゃ、芋太郎さんが人殺しになってしまうじゃないですか!」
赤城はそれを止めようと、人殺しという言葉を使い止めさせようと促した。
「地雷は人殺しの兵器じゃない、あくまで傷つけるのに特化した兵器だ」
「それに、この程度の大きさじゃ、転んで起爆させない限り死ぬ事は無い」
これを使う理由を述べた。
「俺はこれから、進んで人を傷つけようとしている」
「お前は、そんな俺とは違って人を守る立場にある」
「だから赤城、こんな俺に2度と関わらないでくれ」
「そう言う訳で、もう帰ってくれ…」
芋太郎は自分の目的の為に、赤城にすぐさまここから立ち去るように促した。
しかし、赤城は立ち去らず畑へ足を踏み入れ、芋太郎と同じように地雷を設置し始めた。
「赤城…お前…」
「これで同じ立場ですね」
赤城は笑いながら麻紐を結んでいく。
「お前も虐げられるかもしれないぞ?」
「覚悟はできています。それに、どちらが悪いかは明らかではないですか」
赤城はそう言い、次の地雷設置に取り掛かっていた。
全ての作業が終わる頃、日は完全に傾いていた。
赤城は夕食へ向かうため、帰ろうとしていたが、芋太郎へ叫んだ。
「あなたはどこで、生活をしているのですか?」
「そこの倉庫だ」
芋太郎は答えたが、その後しまったという顔になっていった。
「ありがとうございます」
本来の目的を達成したのか、お礼を言いそのまま本部へ帰っていった。
小さくなる赤城の背を眺めながら芋太郎はこう返す。
「だからといって、夜に来るんじゃないぞ!」
夜になり、芋太郎はいつものように夕食を作っていた。
しかし、近くで爆音が響き渡った。
その爆音を聞きすぐさま畑へ駆け寄る芋太郎。
そこには一人の憲兵が片足を抑えながら倒れていた。
「いつまでも俺が警告だけで済ますと思っていたのか?」
芋太郎は軽蔑するような声で憲兵に声を掛ける。
「痛い…助けて…」
憲兵は虐げていた本人に助けを乞う。
「虐げておいて、それは虫が良すぎると思わないか?」
芋太郎は問いかける。
「そ…そんな、こっちは怪我してるんだぞ」
憲兵はその問いかけに思いつく言い訳を言う。
「こっちも怪我してるぞ、んん?」
そう言い後頭部を見せる。
「それについては謝罪する…だから、助けて…」
芋太郎はしばらく無言で佇んでいた。
「はやく助けて…」
憲兵が救援を促す。
芋太郎は溜め息をつきこう述べた。
「条件がある。それは2度と畑を荒らさない事、仲間にも伝えとけ、それだけだ」
「わかった、だから助けて…」
憲兵はなおも助けてと言い続ける。
芋太郎はそんな憲兵を背負うと、本部の医務室へ運んだ。
医務室へ運ばれた憲兵はすぐさま破片の除去と傷の処置が施された。
憲兵の診断結果としては、長期安静とされた。
憲兵を送り届けた芋太郎は、倉庫へ帰り鍋にある芋の確認をした。
しかし、芋は鍋の底で焦げ付いてしまっていたのだ。
焦げ付いた芋を見ると、芋太郎はこう呟いた。
「本当についてないな…」
そして、湯呑みにビンの液体を注ぎグイッと呷ると、すぐに床についたのだった。
今日も朝日が昇る。芋太郎も目を覚まし作業をしていた。
今日行っている作業は、昨日作ったばかりの冊の撤去だった。
ハサミを使い、麻紐を切断し、紐を纏めていく。
次に、地雷を抜いていき、雷管を手慣れた手付きで外していった。
最後にシャベルで杭の土を掘り返し、杭が揺れるようになってから一気に引っこ抜き
纏めておいた麻紐で縛って集めたのだった。
冊の撤去が終わると、じょうろに水を並々に貯め、芽吹いている芋の苗へ水を掛けていく。
今、芽吹いている芋のウネ一列につき、そのじょうろ1杯で終わった。
ウネはまだ十数列あり、芋太郎は水が無くなる度に、倉庫付近にある井戸でじょうろを水で満たしに行ったのだった。
これらの作業を昼前に終わらせ、身体に残る熱を冷ますため、芋太郎は木陰でじょうろに残る水を被っていた。
そこへ、近づく足音が迫っていた。
芋太郎は足音の数から、赤城でないと判断し、音が来る方向を見る。
そこには芋太郎を斬りつけた憲兵とその仲間、さらに上級憲兵が来ていた。
初めて会う上等憲兵が、内ポケットから一枚の紙を取り出し、芋太郎へ見せた。
「貴様には傷害の罪状が掛かっている、おとなしく同行してもらう」
そう述べると同時に、周りの憲兵が芋太郎の腕を掴み、連れる様にして本部へ向かった。
本部につき、芋太郎は提督の前へ突きつけられた。
「こいつが地雷を散布し、我が仲間を傷つけた者です」
「証拠はコイツの倉庫を洗えばすぐ出てくるでしょう」
「そうか…」
提督は憲兵の言い分を聞く。
「君、名はなんと言う?」
「近藤 和太郎です」
「そうか、では憲兵の言い分に対して、何か言う事はあるか?」
「いくつかあります」
「まず、私はあそこで芋類を育てています。しかし憲兵に邪魔される事が多々ありました」
「ふむ」
「それに、この傷はそれが原因で喧嘩になった時につけられた傷です」
そう言い、頭の包帯を指差す。
「喧嘩の腹いせか。次の日、苗が全て抜かれていたため、あのような事をしました」
「そうか、だがそれを示す証拠はあるかね?」
「斬りつけた剣は私が反撃して折りました。ここに属する憲兵を調べれば証拠はでるかと」
「そうか」
そう言う訳で、鎮守負に属する憲兵数百名の剣が調べられた。
しかし、折れた剣は見つかる事はなかったのだった。
それにより、芋太郎の立場は不利になっていった。
「ふむ…近藤君の証言は嘘だったようだな」
提督により審判が下されそうになる。
コンコン
唐突にノックが響いたのだった。
「赤城です、失礼します」
扉を開けて赤城が入ってくる。
「赤城、何の用だ?私はこの男の取り調べで忙しいのだが」
「折れた剣先を探していると聞きまして…これを」
そう言いながら、布に包んであった折れた刃先を提督に見せる。
土こそ着いていたが、紛れも無く探していた刃先であった。
提督・上級憲兵はその刃先をまじまじと見ていたが、芋太郎は赤城の手が汚れている方に気がいっていた。
「ふむふむ…確かに血痕が見てとれる…それにこの形状は…」
提督は刃先から読み取れる情報を呟いていく。
上等憲兵も同じように見てとれたのか。
「秩序を保つ為の憲兵が、逆に被害を与えていたとは…」
「とりあえずは、この件は終了かな?」
提督は上級憲兵に訪ねる。
「はっ、これにて終了であります。誠に遺憾ではありますが、今後このような事態にならないよう、厳しく指導していく次第であります」
「よろしく頼むよ」
提督は一連のやり取りを終えると、退室していく憲兵を見送る。
「さて、近藤君。君も戻りたまえ」
「わかりました」
芋太郎は促されて、提督室を後にした。
「芋太郎さん」
後ろから呼ぶ声が響く。芋太郎は振り返り声の主を捉える。
「どうして、俺にそこまでするんだ?」
それを聞いた赤城は目を丸くして驚いていた。
「余計なお世話でしたか?」
「いや、実際赤城のおかげで、刑罰は逃れた。それには感謝してる」
「しかし、今回の件でお前にも矛先が向いたかもしれない」
「それが、嫌だった」
「だから、これで最後にしてくれ…」
そう言うと、芋太郎は倉庫へ戻っていった。
赤城はその背中を悲しそうに見つめているのだった。
夜になり、倉庫では炊煙があがっていた。
炊煙を起こす犯人は紛れもなく芋太郎であったが、普段とは様子が違っていた。
いつもは茹で芋とビンの液体だけで食事を済ます芋太郎であったが。
本日の刑罰回避が嬉しかったのか、料理が豪華になっていた。
白飯・茹で芋・ジャガイモのみそ汁・茹で蛸・干し芋と、やはり芋中心ではあったが、品数が圧倒的に増えていたのだった。
これらの料理が完成するころ。
コン コン
倉庫の引戸がノックされた。
芋太郎は、引戸のつっかえ棒を外し、引戸を開けた。
そこには赤城が立っていた。
「ああ言ったが、来るとは思っていた。ちょうど飯も完成したとこだ、食ってくか?」
「いただきます!」
赤城は笑顔でそれに答えた。
芋太郎は赤城を倉庫へ招くと、木箱を2つ運んできた。
そして、赤城を木箱へ座らせると、次に料理の乗った皿や白飯・汁の入ったお椀を空いている木箱の上に乗せていった。
大方の料理を運び終えると、芋太郎も木箱へ腰を下ろした。
芋太郎は手を合わせると。
「いただきます」
そう言い、料理に箸をつけていった。
赤城もそれに見習い、箸をつける。
「やっぱり、芋太郎さんの料理はおいしいです」
数個の料理を口に運んだ赤城は感想を述べた。
「おいしいか、嬉しいよ。いつも一人だから、感想なんて聞いた事も無かった」
赤城の率直な感想に気分を良くしたのか。
芋太郎は立ち上がり倉庫の奥へ歩いていった。
「芋太郎さん?」
なにをする為に立ち上がったのか分からない赤城は心配そうに声を掛ける。
芋太郎はさほど時間が立たないうちに戻ってきた。
その手には、2つの湯呑みと1本のビンがあった。
「赤城、酒も飲むか?」
芋太郎は訪ねる。
「一杯だけいただきます」
「そうか」
芋太郎はビンの栓を抜き、湯呑みへ注ぐと赤城へ手渡した。
「ありがとうございます」
赤城は両手で湯呑みを受け取ると、その液体を口へ含んだ。
「げほげほっ…すみません…」
赤城は予想外だった酒の刺激によってむせてしまった。
「いや、気にしなくてもいい。強い酒だと伝えなかった俺が悪い」
芋太郎はそう言い、湯呑みを傾けた。
「あぁー旨い…」
芋太郎は再度、湯呑みを傾ける。
赤城も同じように飲もうとするが。
「無茶して飲まなくて良い」
そう言われ、飲むのは諦めたのだった。
料理もあらかた無くなり、時間も過ぎた頃。
「今日はもう遅い、そろそろ帰った方がいい」
「そうですね、お邪魔しました」
赤城はお辞儀をし、本部へ帰っていった。
赤城は今日の昼も倉庫を訪れていた。
しかし、目的の人物はいつもの所には居なかった。
赤城は夜に再度倉庫を訪れた。
コンコンッ
「芋太郎さん、いますか?」
返事はなかった。
赤城は目的の人物に会うのを諦め引き返そうとする。
ガタッ
倉庫内で何か物音がした。
それに気付き、赤城は再度入り口へ戻った。
「芋太郎さん、居るのですね?開けて下さい」
「えれ…」
「え?」
「今日は調子が悪い…帰ってくれ」
「どうやら、風邪を拗らせたらしい。うつるかもしれないから、今日は帰ってくれ…」
「そうですか…お大事になさってください」
そう言い赤城は帰っていった。
倉庫の中では、身体を引き攣らせながら床に倒れる芋太郎がいたのだった。
その日の夜。赤城は眠れないでいた。
気分転換のため窓を開け、空を眺めていたのだ。
いつものように香る潮風が窓を吹き抜けていった。
その中に漂う焦げ臭さに気づいたのか、赤城は窓を見渡す。
匂いの元はすぐに発見出来た。
夜なのに海岸付近の、ある場所だけ妙に明るくなっていたのだ。
それを見ると、赤城はある場所目指して駆け出した。
目指していた場所に着くと、窓からも見えた通り、倉庫に火が回っていた。
「芋太郎さん、大丈夫ですかー」
赤城は叫んだが、返事はなかった。
外に居なくて夜、それらから判断し、赤城は引戸へ向かう。
幸いにも、倉庫の外にはそれほど火が回っておらず、安易に近づく事が出来た。
赤城は引戸を引く。
しかし、中から抑えられているのか、ガタッと言う音が聞こえるだけで開く事は無かった。
ドンッドンッドンッ
「芋太郎さん中に居ませんかー」
赤城は再度叫ぶ。
ガシャーンッ
倉庫内からガラスが割れる音が聞こえた。
赤城はその音を聞いて中に人が居る事を確信した。
赤城は引戸からはなれ艦載機を放つ。
「どうか、当たりませんように…」
艦載機は飛行していき、引戸へ射撃を加えた。
木製の扉は安易に貫通され、強度が落ちる。
そこへ体当たりを仕掛け、赤城は倉庫内へ入る事に成功したのだった。
倉庫内では煙が蔓延しており、更に全体的に火が回っていた。
その中に倒れる芋太郎を見つけると、すぐに駆け寄った。
芋太郎の片腕には割れたビンが握られており、それで音を出したのだと推測できた。
赤城は芋太郎を背負うと、すぐに倉庫を脱出したのだった。
だが、侵入する際に、何も対策を取らなかったせいか。
衣服に焦げがついていおり、軽い火傷を負う事になった。
しかし、助けられた芋太郎は全身に軽い火傷を負っていた。
赤城はそんな芋太郎を背負い続け、本部の医務室へ運んだのだった。
それから、芋太郎が目を覚ましたのは数日後のことだった。
「…ここは?」
「医務室ですよ、芋太郎さん」
「そうか、痛ッ…」
「全身に火傷を負っていますので、無理はしないでください」
赤城は芋太郎に動かないようにと声を掛けた。
「それで、1つお聞きしたいことがあります」
「どうしてこのような事に?まさか、自殺なされるおつもりだったんじゃ…」
赤城は詰め寄る。
「いや、違う…俺はいつもの様に夕食を作っていただけだ」
「だが、その途中で身体が引き攣って、ビンを落としてしまった…」
「それが、引火したんで消化の為に、水を汲んで来ようとしたら」
「今度は更に強い引き攣りが起こり、動けなかったんだ」
「その後は覚えてない」
芋太郎は経緯を話した。
「そうですか…とりあえずは安心しました」
赤城はそれを聞きホッと胸を撫で下ろした。
……その後も軍医の懸命な治療により、芋太郎は退院した。
本部からいつもの倉庫へ戻るため、芋太郎は歩いていた。
その隣には赤城がついてきており、話していた。
「今思えば、本当に死んでいても可笑しくなかった」
「あそこには、数こそ少ないものの爆発物もあったからな」
「赤城、お前は命の恩人だ」
「この恩は返しきれるものではないが、何かお礼をさせてほしい」
「お礼なんて…そんな」
赤城は謙遜な態度をとりながら、しばらく考える。
しばらくして、考えがまとまったのか、赤城は口を開いた。
「1つだけ、守ってほしい事があります」
「もう、一人で抱え込まないでほしいのです」
「今の貴方には、私もいます」
「それに、私と過ごしていれば、あの子達も信用してくれるでしょう」
「だから、もう一度言います。一人で抱え込まないでください」
赤城はまっすぐ芋太郎を捉え、そう言う。
「分かった、何かあったら赤城に相談するよ」
そう言い、芋太郎は赤城と別れ、倉庫へ戻っていった。
その後、芋太郎は赤城に言われた通り、全てを一人で解決するような事は無くなり。
少しばかり手の掛かる事などは赤城を通して提督へ伝えられた。
昼食の時間。芋太郎はいつもの木陰にはおらず、本部食堂で昼食をとっていた。
その隣には赤城も座っており、一緒に食事をとる形となっていた。
本日のメインメニューは肉じゃがであり、芋太郎と赤城は同じように箸を運ぶ。
「旨いな」
「そうですね」
2人とも感想を述べる。
「しかし、私としましては、芋太郎さんが作る芋料理の方が好きですね」
「それは、お世辞か?」
「いいえ、本心です」
赤城は笑いながら言った。
2人が食事をする最中、提督が背後から話しかける。
「お食事中失礼、後で2人に話したい事がある」
「食べ終えたら、私の部屋に来るように」
それだけ、伝えると提督は提督室方面へと戻っていった。
食事を終え、2人は提督室を訪れていた。
芋太郎はコンコンッとノックをする。
「空いてる、入れ」
提督の声がする。
そして、2人は中に入った。
そこには、提督と陸奥がいた。
提督は2人が入ってきたのを確認すると。
「陸奥、大事な話があるから席をはずしてくれ」と言い、陸奥を部屋から出した。
3人だけとなった部屋で、提督は口を開く。
「君たちを呼んだのは、別に問い詰めようと言う訳ではない」
「赤城、単刀直入に聞く、君は和太郎の事をどう思っている?」
「そ…それは…」
赤城は頬を赤らめながら言い淀む。
「ふむ、その様子じゃ満更でもないようだね」
「では、和太郎君、君はどうかね?」
芋太郎へ質問が移る。
「嫌いではありません。しかし、赤城には提督がいるのでは?」
芋太郎は答えた。
その答えに対し提督は左薬指を見せる。
「私はすでに陸奥と結婚していてね」
笑いながら、そう言った。
「だから、2人さえ良ければだが、付き合うのを許可する」
「その先をどうするかは、2人で決めてくれ」
「私からの話は以上だ。戻って良い」
そう言い、提督は元々見ていた書類へ目を通し始めた。
提督室を後にした2人は、お互いに何を言えば良いのか分からず。
ただ、静かに廊下を進んでいた。
「あの…」
赤城が先に口を開く。
「あの…不束者ですが、よろしくお願いいたします」
赤城は頭を下げた。
「俺の方こそつまらない男だが、よろしく頼む」
芋太郎は赤城に答えるように、そう言った。
それを聞いた赤城は、顔を上げ笑顔になり。
「はい!」
力強く返事をした。そして、芋太郎の腕を掴むと、廊下を駆ける。
「おっおい、赤城いきなり何を?」
「皆さんに、報告にいくのです」
「まだ、決まった訳じゃないだろ!」
そう言われながらも、赤城は嬉しそうに廊下を駆ける。
引っ張られる芋太郎も満更な様子ではなかった。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
ここからは、私的に読者様が読み取りにくいだろうなぁ…と思った所を補完していく所です。
まず、赤城がお酒でむせる所ですが。
あのお酒、ポティーンというじゃがいもから作られるお酒という設定にしています。
アルコール度数が60超えという凄く強いお酒でして。
飲んだ事が無いはずの赤城さんは、むせてしまうと言う訳です。
次に、芋太郎が倉庫で引き攣ってる所ですが。
あれは破傷風になったという設定にしています。
この破傷風とやら、感染してから最短で3日で症状が出るらしく。
主な症状は身体の引き攣りというわけです。
それが原因で火災が発生し全身に火傷を負いますが。
火傷の恐ろしい所は、その後の感染症と言うのは聞いた事があると思います。
なので、軍医さんはありったけの抗生物質を使う訳ですね。
抗生物質で破傷風菌は殲滅されますが、破傷風菌が生成した毒素は消えないので。
その後の懸命な治療で、毒素の中和を行ったという感じです。
あまり、興味ないかもしれませんが、芋太郎の豪勢な食事の中にタコが出て来たと思います。
それは、海岸に近い畑だと、タコが陸に上がって来た時に芋にかじりついていたと言うのを、海 ジャガイモで調べたらたまたま目にした記事を元にタコと言う言葉を使いました。
長々と、解説しましたが。
読んで下さりありがとうございました。