鎮守府内食品部農産課の男   作:馬鈴薯

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またもや約1月ぶりの更新、本当に遅れてすみません。どうも、芋です。
できたてホヤホヤですよ?
ネットに繋ぎにくい状況に陥ってしまい、唯でさえ遅いというのに何ということでしょう…状態な芋です。


演習2日目(下) 戦艦長門

四方のバルーンが各個炎上し、小さくなりながら高度を下ろし始めた時。

ビーンの指揮する艦隊へ次の司令が飛んだ。

 

「長門、全速前進。敵潜伏地点となる孤島を目指し、駆逐二名、長門のカバー対潜警戒を厳に。赤城は爆撃隊を出し強行偵察、艦攻・戦闘機は長門に付かせろ。先ほどの情報も活かしながら収納も忘れるな…護衛は要らない、強行偵察だ。残りの艦は赤城の防衛」

編成は六名、戦艦1、駆逐4、空母1のやや火力を抑えた感じで。

目論見としては、長門一人で対応できれば万々歳、その波状攻撃に赤城の艦攻編隊と駆逐2名の雷撃。

攻撃面ではその手筈だが、防御面では長門が技量を出せるか…そして、駆逐艦達が対潜警戒を厳にできるかによって、対処が変わってくる。

そして、何よりも避けたいことは相手編成が空母機動部隊で無いこと…それも考え、先の戦闘機を除く、残った戦闘機は先行する長門へ付くことになっているが、その場合の数的不利は歪めない。

例の防衛手段を持ってしても、制空権を失うばかりで問題の延長程度にしか効果は無いと思われるのだった。

 

「了解した…護衛の者は私に続け」

長門が叫び、隊が2つに別れる。

攻撃隊の現場指揮は長門、後方支援兼防衛は赤城と艦種からして見れば妥当点。

ビーンの頭には最悪のパターンも想像できているだろうが、判断を待つ彼女らは目視はおろか、レーダーにすら映っておらず、知る由もなかった。

また、それは指揮者にも言えることで、想定こそ出来ても確信には至らない、そんな状態であった。

だが、現実相手の編成は最悪のパターン……空母機動部隊であり、気球が落ちる前に得た情報を元に、今なお中規模な索敵・強襲をせんと、空を轟々と飛行していたのだった。

 

相手方は多少の工作こそあれど、既に所属艦種などの公式に出された所属表から大きく見える弱点を突いたに過ぎない。問題はそこまで導き出すのに何人の手・思考を借りたか…その手を貸した人々こそがビーンの排除しようとしている存在である。

今の体制…自らに都合のいいポストへ居座り、体制の変化を遅らせ、組織の形骸化へと導いた人々。

だが、彼らとて行動に出ていると知っており、その鎮守府が脅威として見ているからこそ、対策を練ってきたのだった。

 

しかし、情報網を展開しているビーンとて対策を練っていないわけでは無い。

ある意味、裏工作の排除がそれの一環でもあったが、それをやった後の正攻法についていくのがやっとの状態で、それも標的の絞込などが遅れた結果といえば結果だが、潜む後方支援の量・質が劣っているのも加わり、ある意味湾曲した蹂躙という言葉をあてても些細なく。

少しの油断で一気に崩壊する……そんな状態だった。

 

 

「まったく、文明の利器とは素晴らしい物じゃ無いか。運用出来たからと評価は無いが…」

戦闘が始まらず、ザワつく客席の影……隠しているが一人将官クラスの肩章見える男が一人。

初日から非公式な席で見ていた彼だが、一番の楽しみとしていた基地の演習が始まるやいなや、呆れたようにそう呟いたのだった。

 

「さてさて、コレは私からの試練だ、負ければそこまで、勝てば次へ…単純単純」

そう言うと、2つの端末を取り出し、ボタンを押して4秒後……端末の電源を切り、会場を後にした。

男が4秒間ボタンを押してから数秒後、ガキンという異音がビーンとその部下の居るテントに響いた。

 

「隊長、無線が!」

 

「分かってる……チィ、ここまでやってくるか」

ビーンは現状の改善策を考える。

だが、どれだけ策を巡らそうとも、決まりの一文がそれらを打ち砕いていく。

 

「規定で、指揮所入場後の退場は終わるまで禁止…この場でなんとか凌ぐか……奴らを信じるか」

ビーンは怒りと苦痛で顔を歪ませた。

本来、敵の動きを聞いてからどう動くかを判断してきたので、それが当人にとって苦痛となった。

自己のやり方で戦えない、欠点になり得るが。この方法が彼にとって一番応用の効く方法だった。

大穴の空いた、箱状の無線機を眺める彼の真後ろ、無線機へ近づく影が横を通り過ぎた。

 

「開けます…中身さえ見れれば希望はまだある、工具をくれ…無いなら素手でもやってやりますよ」

穴から中身へ目を通す人物……先まで集音器を弄っていたマイクだった。

彼は自らの専門知識を持ってして、これらの機材を調整、改良を加えてきた人物で、無線機も知識の一端であったがため、名乗り出たのだった。

幸いにも破損は一直線上に並ぶ感じで、見事に貫通された状態であった。

それをパッと見で判断した所で、彼の手にあるだけの工具が渡された。

それらを、まるで手術でもするかのように綺麗に並べ手首を鳴らす。

 

「基盤さえ壊れてなければなんとか、ケーブル類は持ち寄りの機材で代用出来る…」

自分に言い聞かせるかのように呟いた瞬間、ネジを手早く外し、バキリとケースを開いた。

中身は飛来物の衝撃で砕け抉れた外枠・配線などでゴチャゴチャとしていたが、その中でも最重要な基盤を見つけ、被害が出ていないのを確認すると安息の溜息を吐くと共に、修復の作業に入ったのだった。

 

 

「定時報告、敵影未だ無し……指示を待つ」

長門は報告こそすれど、何も変化の無い向こう側へ違和感を感じ始めていた。

なんせ、最後の通信から3度目の報告となりながら、うんともすんとも言わない通信機に耳を澄まし続けていたのだが、聞こえるのは艦隊が立てる波音と海風の音だけだった。

 

「どうしたというのだ?不利とは言っていたが、通信妨害の類…考えるよりも行動が先だな、寧ろ少数対多という場面に出くわす良いチャンスとも見て取れるが……」

長門は自身の実力を見れるチャンスと僅かに心を踊らせるが、それとは逆の仲間への気遣いが、あと一歩を踏みとどまらせていた。

彼女は戦艦で砲撃戦……いわば殴り合いは得意だが、彼女の近くを護衛として駆ける2名は駆逐艦、つまり、殴り合いは得意とは言えない。

それに、長門が実際に出くわしたい状況は彼女が想像できる範囲では薄いものだった。

 

「赤城、艦載機の往復を考えず、短期決戦に持ち込もうと思うのだがどう思う?」

長門は鬱憤にも似た感情からか攻め急ぐ。

 

「承諾しかねます。まだ、敵の編成も把握できていませんので」

逆に、赤城は性格と数多の艦載機という、多数の目を持つことで情報を集めるのにも長けており。

それ故、攻めることに対して一つ手を引いた感じだった。

その理由として、本来の敵である深海棲艦との戦いを待ち受ける…つまり、待ち伏せという手段が多かった事に由来していた。

 

「だが、奴との無線は切れた。この状況で指示を仰ぐのは行動の停止と同義……その間に襲撃でもされてみろ、確実に負けるぞ」

両者の言い分はどちら共、賭けであった。

長門の場合は艦載機を捨て石として先攻を掛けさせ、射程距離内に入れば撃ちこみながら更に接近そして魚雷と、言わば漸減作戦を含む3段構えと言った所。

待ち伏せを受ければ効果は薄い。

対して赤城のは攻撃手段こそ変わらずとも、敵を見てから情報を集めたいという慎重さからでたものであった。

これもまた、艦載機が落とされすぎれば破綻の種と成りかねない。

赤城一人が詰める艦載機には当然上限があるのだから。

 

「待て、敵艦載機だ。赤城発艦急げ、コチラもやれるだけやってはみるが……いかんせん数が多い」

その言葉が表す通り、長門の目先には編隊の組まれた大規模な航空部隊が接近していた。

 

「長門さん、後退してください!時間を稼いで態勢を整えます」

 

「馬鹿を言え、航空機の次に来るのは砲弾だ……逃げた所で事態は悪化するだけ」

長門は経験から推測を述べるが、遠目に破裂音が響く。紛れも無い大砲の音だった。

それは飛来し、長門のいる場所から後方へ着弾した。

 

「補足されただけか。吹雪、響を連れ赤城と合流、ここは私が受け止める」

吹雪は返事をせずに、指示に従った。

彼女をそうさせたのは、長門の目が刺すように要求してきた事と、現場指揮艦という位置による拘束力によるものであった。決して本心では無い。

普通なら、対空射撃に加わり防衛としての役割を果たすのがベスト……しかし、負けられないからこそ体制を立て直すために頭数が必要となる現実。

その事実を見据えたからこそ、言葉も掛けずに背を向けた。

逃げたわけでも、見捨てたわけでもない。

『私なら問題ない』と……長門の目が彼女へ告げていたからだった。

それを見たからこそ、信じ。仲間と合流するため海を掛けた。

一方、引かれる響は普段より焦った表情を見せたが、吹雪の力強く握る手を振り解こうとは思えないでいたのだった。

 

 

「一対多……向こうから来てくれるとは有り難い」

長門は待ち望んだとばかりに呟いた。

戦艦故に、大きな作戦ばかりに出撃し、大きい故に数が少なく退屈し。

戦艦故に、仲間にも手心を加えた演習で、自らを計るのが難しく。

それら故に、長門は心踊り、歯を見せた。

兵器としての本懐が……戦場の音が、目に見える敵機に闘争心を滾らせ。

孤立したが故に誰も見ることの無い、戦闘狂いが姿を表した。

 

砲を構え、迫る敵機へ照準を定める。

装填されているのは模擬三式弾、敵の距離・密集度からして撃てばまず当たる状態。

そんな状態を逃すこと無く、長門は全主砲に込められた三式弾を打ち上げた。

それらは火の玉となり、敵機を襲う。

もともと装甲の無い艦載機の内部へ破片が装甲を穿ち、ベットリと燃えるゴムを内部へ引き込み発火させた。

燃えた艦載機は姿勢を保つのすら難しくなったのか、自ら無理な回転を始め、装甲を撒き散らす。

しかし、その光景に長門は驚くばかりであった。

 

「実弾……だと!?」

長門は一瞬目を疑ったが、敵機の被害は思ったほど大きくなく。

敵もまた、それが普通と異常に気がつくこと無く、攻撃を開始した。

当然なのか、敵が落とした爆弾も炎となり、長門の周りを包む。

破片が装甲を傷つけ、爆炎が装甲を抉っていく。

 

「ふざけるな……」

長門は言うが、周りには敵も味方もなく一人。

爆発音だけが長門に呼応するように響くだけだった。

 

「ふざけるなー!」

再度叫び、長門は天を仰ぐ。

対空機銃で威嚇、時に撃墜をしながら攻撃を仕掛ける艦載機を払いのけ、状況把握に務める。

すると、攻撃を終え先に撤退する敵機の影を見つけ、追うように海を進む。

その足元には魚雷が迫っていた。

艦爆隊の爆炎などから雷撃隊が選んだ死角へ投下していったものだが、長門は頭に血が登りながらも、それを察知した。

そして、海を跳ねるように波を蹴って回避し、戦艦とは思えない速度で海を跳ねて追いかけはじめた。

彼女の頭は怒り……戦場では良くある光景に支配された状態であった。

怒りの矛先は、公認した背後の人々に向くのが普通だが、実弾での攻撃を受けたことで、その矛先は演習相手へ向いていたのだった。

 

 

「孤立した長門に損害を与えたって、やったじゃん日向」

 

「騒ぐな伊勢、まだ仕留めたわけではない」

 

「そうはいってもさぁ、残りの主力は空母だから、数的有利じゃん?」

そう話すのは敵旗艦日向と、姉妹艦伊勢。彼女たちは既に実弾で演習を行うということを知っており、今回が特別なだけと思い、なんの違和感も感じていなかった。

 

「む?伊勢、回避行動をとれ。、敵観測機だ、敵弾来るぞ」

 

「はいはーい」

伊勢は適当に言葉を返し、従ったが、その時に艦載機軍が戻ってきた。

そして、視線は自然に空へ向くが、日向は水平線を見つめていた。

 

「戦艦の動きではない?!伊勢、収納は後だ、ここで止めを刺す。空母は後退、巡洋艦は私に続け」

日向は迎え撃つため指示を飛ばすが、その合間には両者の有効射程範囲となった。

そのうえ、長門は止まること無く接近し続ける。

 

「相手から来てくれるとは有り難い、砲撃戦始め。全砲門斉射」

その指示で4名の砲門が順次火を吹き、砲弾が長門へ迫る。

有効射程といっても、まだ間接的な射撃で当たれば万歳な状況だが、程よく散った砲弾は長門を捉えていた。

それらは海面へ着弾し、柱を作り煙をあげた。

 

「命中……か?」

発生した煙に紛れ、標的となった長門の姿は見えなくなっていた。

だが確認もせずとも致命傷、攻撃を仕掛けた4名は各々で多少のズレこそあれど、似たようなことを思っていた。

しかし、波が砕ける音に戦闘慣れしていると思しき二人は目を向ける。

 

「動けば撃つ……」

巨砲を接近戦、もとい殴り合いが出来る4名へ1門ずつ向け佇む人、長門であった。

距離にして直接射撃が可能な距離……つまり、ほぼ直線で砲弾が命中可能な距離。

長門は煙に紛れ、並の技量では出来ない行動を起こし、戦艦とは思えない速度で距離を詰めたのだった。

そして、表情は阿修羅の如く、怒り顔。

少しでも不審な動きを見せれば辞さないといった雰囲気を纏い、睨んでいた。

 

「どうするよ、日向?」

 

「伊勢……お前も自分で考える事をしたらどうなんだ?」

話しながら日向は砲塔を下へ向ける。

一時的ではあるが、敵意が無いことを示していた。

 

「隙あり」

 

「伊勢!?」

伊勢は日向とは逆に、さも当たり前といった表情で、未だ向けられる砲門の対処もせずに、賭け事のように体を捻り、無理やりな体制で砲弾を放った。

距離は変わらず、条件は同じ、当たれば当然致命傷かそれ以上。

先の航空戦により傷を追った長門にはつらい状況と思われた。

だが、彼女は伊勢の直接射撃を弾いた。

体を捻り、砲塔に角度を付け跳ね除け。右手を唸らせ、砲弾の横腹を捉え方向を変えた。

 

「悪い冗談……笑えないね、こりゃ」

伊勢が惨状を見据え呟いた瞬間、彼女の肩・腰の砲塔が爆炎をあげた。

理由は長門の反撃を食らったに他ならない。

投降勧告に似た状況下で、反撃を行った代償を受けたのだった。

しかし、真敵ならいざ知らず、組織上は友軍……味方であり、コレでも加減をした方ではあった。

 

「勝手なことを……だが、全砲塔は装填中、今が勝機か」

日向は伊勢が作った時間を活かそうと、照準を定める。

だが、次にはまたもや急接近を許し、距離数十センチまで詰められていた。

そして、感じる暴風。大型艦特有の重い一撃、素手による拳が人体に当たる鳩尾……艦船における防郭へ寸止めされていた。

しかし、寸止め……そこからの打撃は、距離的問題でエネルギー不足。

それを見ぬいた日向は反撃しようと、拳から標的へ視線を移したが、直ぐに諦め両手をあげた。

理由は相手の体勢にあった。

相手は左手を後ろへと、構えておりコチラが構えた頃には、ソレは解かれ自身を襲う。

また、砲弾と違い修正も容易、更には海上というフィールドの特性、慣性により回避のしようが無く。

受け止めようにも寸止めされた逆の手が、手先を妨害しており考えるだけ無駄だった。

そして、なんとか止まれた所で、日向は伊勢を見やる。

 

「伊勢、なぜあのような無茶を?」

自身も諦め、無茶な行動を取らざる終えない状況を作りだした本人に日向は問い詰める。

伊勢は被弾による連爆で受けた、傷を抑えながら口を開いた。

 

「投降するんでしょ?本人前で言うのは気が引けるけどさ。実際、無力化できれば私達の勝利は見えてた、だから私はそれに掛けてみた……でも、結果は残念」

当人は次の一手は無い、敗北を認めると声のトーンからも聞いて取れるような言葉を述べた。

それに続いて、遠目に見ていた空母2名も諦めの言葉を聞いてか、敵意を無いことを示し旗艦の付近へ合流をし、最後に多数決に従うといった形で護衛の巡洋艦も投降をしたのだった。

 

「そちらから、司令官へ伝えてくれ。投降すると」

 

「それがだな……数十分前から司令の無線は無力化されていて、通信はできない」

それを聞いた長門は、またもや怒りを含んだ、しかめっ面を作る。

司令部の報告によれば、敵は集団による工作の恩賞を確かに得ていたはず。

しかし、投降まで追い込み情報を聞き出してみると、解除した工作は問題ないが、両者の無線無力化は不審点ばかりが浮かんでくる。

長門が考えている合間に無線へ、ザッザーッザッと短く1秒次に2秒というテンポでノイズが走った。

それが続いた後はランダムにそれらが続く。

最初こそただのノイズと思えるが数十秒も続き、さらには艦娘、もとい前世は軍艦、気付かない道理は無かった。

 

モールス信号、それこそがノイズの正体であった。

ビーン隊のマイクは技量を活かし、なんとか通信が出来るところまで復旧させたのだった。

しかし、音声による通信は変換器がやられ、復旧はできず、思いついた手段がコレしか無かったのだった。

 

『コチラ シブ ジョウキョウ ホウコク サレタシ』

 

「こちら長門、感度良好」

 

『オナジク カンド リョウコウ』

両方共に最低限のやり取りは出来ることに長門は少し気を緩めた。

しかし、状況はよろしいとは言えない。

模擬戦をしている、艦娘たちの手の及ばない範囲での妨害、更には警戒を重ねてもなお遂行された妨害。

見えない相手の方が一枚上手で、状況を理解していても、対処が出来ていない。

管轄外なのは重々承知だが、どうしてもコチラに関わってくることなので、考えずにはいられなかった。

 

『長門さん、無事ですか?』

仲間たちの声に長門は安堵する。

その声からして、逃がした二人も無傷で合流出来た証であり、敵機の注意も引け、被害を受けたのは長門だけであった証拠であったからだった。

それに続いて、もしもの時の為に編隊された航空機が、長門の頭上を通過していく。

しかし、もしもの時は長門一人で解決しており、艦載機の出番は無かった。

 

「無事……と言うには程遠いが、我々の勝利だ」

長門は自軍の勝利を、合流したばかりで現状を把握できていないと思われる、友軍へ告げる。

それによって、リーダ間のみならず無線を通じて護衛艦達の歓声があがる。

その歓声に釣られ、彼女も一瞬緩むが、直ぐに自らの行動に後悔を覚える。

仕方がないとはいえ、友軍。

怒りで当初は気にも掛けなかったが、落ち着き始めてから波のように押し寄せていたのだった。

 

「赤城、すまないが事後処理を任せたい……司令部への報告も含めてな」

 

『……任されました、ゆっくりと休んでください』

 

 

その後の処理は、両陣とも満足のいく通信が出来ないため、共に戻り説明するという手段が取られた。

最初、戻った時は問題でも起こったのかと観客が勘違いしたのかざわついたが、各陣が指揮者へ説明をした後、本部への報告の結果、ビーンの陣営の勝利となった。

そうなった要因は、被害を受けた艦娘の戦闘持続能力による判断で行われた。

長門は装甲部分こそ欠損しているものの、四門の砲は健在。

対して伊勢は砲塔全てが爆砕されており、機能しておらず、また日向も自身が危なかったことを、提督へ告げたらしく。それを、聞いた提督は怒りのあまり罵声ばかりを吐き捨て、労うこともせずに退場してしまった。

それを見た面々は不服そうに、そこに所属する艦娘たちへ提督に変わり労いの言葉を掛けようとしたが、静止の腕が行く先を拒んだ。

 

「気持ちは分からなくもねぇが、遠くない先に報われるだろうさ、奴はしっかり汚点を残してくれた……どれだけ高い地位でも失脚する程度のな……それより、長門はどこに行った?施設の許可はおりていないが?」

彼が皆にそう問うと、バツが悪そうに目線を背ける。

知ってはいるが、一人にしてやって欲しいといった、心情の現れであった。

だが、ビーンは面倒くさそうな顔で彼女達を見やる。

 

「ま……時間はあるんだ、勝手に探すさ」

 

 

ビーンが彼女達の様子を見ている合間、長門は提督の元を訪れていた。

駆逐艦達がどれだけはしゃごうと、動じず書類を読み続け。

比較的大人な対応ができる艦種が声を掛ければ、書類片手に聞き逃すことをせず、維持ばかりに重きをおいている提督の元をだ。

維持ばかりというが、無意味な出撃をせず平常時と異常時の境界が薄いというのが彼のやり口だった。

その名称は、あまりよく評価していない上からの名称で、言わば腰抜けというのを湾曲して付けられたものだった。

当然、情報筋をもっている彼はそれを聞いても方針を変えることは無かった。

結局のところ、目的を持って備え・準備をして居るか、ただ平然と従い、備えのみを行っているかの違いで、評価が反転しているのだった。

 

「提督……私は今日、はじめて戦いというのが嫌だと思ってしまった……」

長門は言うが、反応は無い。彼は寝ているわけでも、無理に黙らされているわけでもない。

ペラリと紙をめくる音が響く。その音を聞く度、答えてくれと長門は心の奥底で叫ぶ。

だが彼は口を開く仕草すら見せない。

 

「……すまない、気分を害したな」

 

「気分を害した訳ではないんだ。ただ、悩んでいた……どう声を掛ければ良いのかと」

その声を聞いて、長門は立ち止まる。この場を去ろうとしていた気持ちが、一気に消え去ったからだった。

そして、次には何が来るかと待ち構える。

やっとのことで開いた口を閉ざす真似をするほど、場数を踏んでは来ていない。

彼女とて経験者であり、数多の指揮下に入り、その数だけ多様な指揮官を見てきているのだ。

 

「だが、私は何を言えば良いのかが分からない。励まして欲しい訳でもないだろうに?」

励ましという言葉に長門は頷いた。それは彼の言葉がそうだと認識しているが為であり。事実、望んでいることでは無い。

 

「……話をしよう」

 

「いや、別に良い……あまりいい話では無いのだろう?」

 

「話そうと思わせたのは、お前だ」

そのような事を言われ、長門は従う他に無いと思ったのか正面向かう。

提督も首を椅子へ向け動かし、催促すると、それに従い彼女は腰を下ろした。

 

「英雄とは一部を除き、皆孤独である…何かの本に書いてあった。力ある故に必要とされれば喝采を受けるが、用が無くなれば畏怖され孤立する、それを無意識に思っているんじゃないか?」

 

「英雄とは讃えられるものだ……讃えられてこそ英雄と呼ばれる」

 

「確かに。だが、期間は短い……」

 

「結局、何がいいたいのだ?提督」

分かるようで実感し難い言葉に、長門は結論を急ぐ。だが、提督は言葉を続ける。

数年の間だが、軍事に関わってきた事で、初めて会った時とは行動が変わっていたのだった。

 

「今は平時か?」

 

「襲撃も無く、演習ができてる以上は平時なのだろう」

 

「いや、非常時だ…脅威が消えた訳ではない。それに目立ってこそ無いが内乱状態、原因は私にあるが…」

提督は後悔していた。当時の無知故にこんな事になるとは思っても見なかったからだった。

だが過去を悔やんだ所で変わることはない。それ故に流れに従うことに徹していた。

その基本が維持に務める事だったに過ぎない。

その行動が、奴らの隠れ蓑となり外圧から守り事を運ばせる。

提督はそう信じこむことで、自己を保っていた。

だが、保つための要因として彼女達も含めているのは言うまでもない。

彼女たちが迎え入れたこそ、提督はココに残っているのだから。

 

「話が逸れたな。私は提督である以上見捨てない、望むなら讃えよう、望まぬ事を望むなら口を閉ざそう……だが上官として言わせてくれ、今日の演習…良くやった」

その言葉を聞いて、長門は安堵した。純粋に褒められたのだから、誰も悪く思うことは無い。

しかし、部屋を出たところにはそれを良しとしない人物が立っていたのだが、二人は気付くはずもなかった。




この世界の長門は強い(確信)速度は3倍くらいだしそうな……

最後の英雄云々は完全な私見です。
国の英雄と呼ばれた人が反旗を覆すこともあるだろうな、と思ったがために書いてみました。あくまで軍人に限った話ですがね。
彼らに必要なのは英雄と呼ばれることではなく、良き理解者だと思うの。
どれだけそう呼ばれようと、事をした罪悪感などは消えませんしね。
たとえそれが自国を救うことであっても…
なんて突拍子もなく浮かんだことを書いてみた。書いた私ですら数日で忘れるでしょう。

それと、残り2回勝ち抜きで優勝の予定。次の相手はどんなスタイルにしようか?
繋がるかどうかはともかく、次話じゃない所で筆が進むー。

だから春になったら芽吹きたい(根腐れするとは言ってない

誤字脱字・分かりにくい所あれば指摘くださいな。
頭にある限りの言い訳チャンスを……
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