「ねえ、大地君」
少年が帰る準備をしていると横に居た少女が少年に声を掛けた。
「ん?どうしたの菜実?」
少年は幼馴染の方を向く。
「大地君は何部に入るつもり?」
「ん~、俺はや・・・・・・」
自分が言おうとした事に少年が固まった。
「やっぱり未練があるんでしょ?」
「・・・・・・」
「野球部に入りなよ、大地君、まだ野球がやりたいんでしょ?」
「無理だよ・・・・」
彼の右肩はこのまま投げ続ければ、いずれ右肩の爆弾が爆発し、再起不能になると言われていた。
「出来るって」
「・・・・・・」
沈黙した少年にため息をつくと立ち上がり、彼の手を取る。
「見に行こうよ」
そう言うと彼を半分引きづりながらグランドに向かった。
響く金属バットの音、選手たちの大きな掛け声に少年は一瞬目を輝かせる。
「(ほらっ。ああ言ってても、大地君は野球が大好きなんだよ?)」
菜実は横で齧りつくようにバックネット裏から見ている少年に心の中で呟く。
「ん、お前等どうした?」
「あ、根津先生」
「おう、川井・・・だったか?」
「はい、先生は野球部の顧問をやられていらっしゃるんですね?」
「おう、と言っても全然勝てない古豪というにもおこがましい野球部のだがな」
そう監督が笑うと、すぐそこに居る選手たちが「違いない」と笑っている。
「で、お前等は何か用があるのか?」
「え~っと・・・・」
菜実は少年の方を横眼で見ながら言葉に詰まる。
「・・・右肩を壊していても練習に参加していいですか?」
「えっ!?」
少年は監督の目をまっすぐ見て言った。
「よし分かった!!今からでも参加するか?」
「お願いします」
そう言うと少年はバックの中からスパイクと練習用のユニフォームを取り出すとすぐに着替える。
「やっぱりやる気あったんじゃん・・・・」
ジト目で睨んで来る菜実の視線に恐恐としながらも練習に加わろうとしてある事を思い出す。
「根津監督っ、左利き用のグローブってあります?」
「おお、ちょっと待ってろっ」
監督は部室内に入って行くとすぐに数個の左利き用のグローブを持って来た。
「じゃあ、これをかして貰っていいですか?」
「おうっ、もってけもってけ」
「ありがとうございますっ」
そのグローブを持って練習に嬉々として加わって行った少年に菜実は苦笑する。
「ま、これでよかったのかな?」
輪の中に混ざって行った少年の後ろ姿に安心しながら、彼女は自分の要件を監督に伝えた。