キリトに連れてこられたのは11層の《タフト》と言う町だった。
「これからギルドメンバーを紹介するけど俺のレベルの事とか前線のことは黙っててくれ。」
ギルドメンバーの溜まり場らしい酒場の前でキリトは俺にそう釘を刺した。理由はよく分からなかったがキリトの視線があまりに真剣だったのでそこは頷いておく。
「おお。」
俺の返事を待ってからキリトは酒場の扉を開いた。すると奥の方からキリトを呼ぶ声が聞こえる。
「どーこ行ってたんだよ!」
「遅かったな。」
「あれ? 隣の人は?」
わいわいと飛んでくる言葉にそのメンバーの仲の良さを感じさせられる。なんだか学校の教室にでもいるような気分と錯覚する。
それも束の間、その声の中に知っている響きを見つけてしまった。
「ヒナ! ヒナなのか!?」
ヒナとは違う短い髪。でもここがゲームの中だと言うのならそれも変えることができるだろう。なにより、その声は間違えるはずがない、ヒナの声だった。
しかし黒髪の少女は驚いて、目を白黒させるばかりだった。
「え、えぇ!?」
そして挙げ句の果てにキリトに頭をひっぱたかれる。パシンじゃなくてバッチンと良い音をさせて。…こう言うところ、俄にゲームの中とは信じがたい。痛いし全然現実と変わらない。
「アオバ! なにやってんだよ!」
キリトにヘッドロックをかけられる。何より地味に痛いのが締め上げられてることじゃなくて、コートやらベルトやらの金具が刺さることだ。
「キリト、刺さる! 刺さる! ギブギブー」
そんな俺たちにやり取りに少女以外のメンバーは盛り上がりを見せた。…ぜんぜん楽しくなんかない。
「キリト、また賑やかなヤツを連れてきたな。」
そんな中落ち着いてコメントをしたのは茶色い賑やかな髪がさわやかなヤツだった。多分年は同じぐらいだろう。運動部のキャプテンとかが似合いそうな感じだ。
「ケイタ。」
キリトにそう呼ばれた青年はゆっくり笑った。
「《月夜の黒猫団》にようこそ。ギルドリーダーのケイタだ。」
彼らは曰く、現実世界でも知り合いで、同じ高校のパソコン部の仲間、と言うことだった。どうみても運動部っぽい外見なのに…まぁキリトの話が本当ならネットゲームの世界な訳だしそれも当然かと思った。
「俺はわ…じゃなかった、アオバ、よろしく。」
自分も名乗りケイタたちと握手を交わすとキリトが注釈を加えてくれる。
「アオバは何でか知らないけどSAOのことを知らないんだ。レベルも1…さっき2にあがったトコか…だし、暫く面倒見てやれないか。」
キリトがそう言うと、メンバーたちは概ね好意的に俺を受け入れてくれた。良いやつらなんだな。どこのどいつとも分からない俺を受け入れてくれたシグナスの人たちといい、出会い運にはめぐまれているらしい。
「暫くと言わずずっといれば良いさ。」
「そうだよ! 慢性的に俺ら人員不足だもんな。」
「年も同じぐらいだしすぐに仲良くなれるさ。」
その中、少女はおずおずと声をあげた。
「あの、その…ヒナって?」
その自信のなさげな瞳。
よく見ると似ているのは声だけでおとなしそうな雰囲気もヒナとは全く持って違った。彼女はもっと勝ち気で教室にいたときも大人しくはあったがまとうオーラには揺るがないものがあった。
「あぁ、悪い。ちょっと知っている子と声が似てたから。」
「そっか、なぁーんだ。ビックリした!」
簡単に理由を言うとようやく彼女も笑顔を見せてくれた。
「私はサチ。よろしくね。」
差し出された右手。やっぱり声だけがどうしようもなく似ていてそこに妙な安心感を抱く。
「アオバーその子って彼女ー?」
「声でそう思うなんて結構なレベルでご執心?」
「んー…未来の彼女、かな。」
そう冷やかされても、ヒナとの関係は難しく適当な説明はできそうになかった。あの時見たヒナの記憶によると、本当は大学で出会うはずのようだ。そして…。しかしそんなことがうまく伝えられるはずはなく、これから彼女にする予定、と捉えられたようでがんばれよと言う言葉をもらうことになった。不本意だけど仕方ない。
「ま、なんにせよ新しいメンバーに乾杯!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」
よく分からない世界に来てしまったのは不運だとしても、良いやつらに会えたことは幸運だ。
翌日、皆に連れられて11層のフィールドに出ていた。キリトのレベルは40だと言っていたが、他のメンバーのレベルはどうやら20そこそこらしい。キリトが黙っててくれと言ったのはこの辺りなのか。なんにせよ俺のレベルはと言えば最弱の1。誰だって俺よりは強い。モンスターで言うなればスライムレベル。そんな俺のために戦闘をレクチャーしてくれるのだと言うからありがたい。
当然金もない俺にキリトが適当なアイテムをくれた。スモールソードにバックラーと言う二つのアイテムしか入っていなかった俺のアイテムストレージはほんのちょっとだけ充実した。…例えそれがキリトのお下がりだったとしても。
「なんかちょっと重いなー。」
「文句言うなよ。結構良い剣なんだぞ。」
剣の名前はシルバリック・ブレードと言うらしい。同じように片手剣装備で、覚え始めたばかりのサチが装備しているものよりどうやら攻撃力が高いとか。
「だったらサチにあげればいいだろ。」
「サチには重いからなー」
「俺の方がレベル低いっつの!」
ぶつぶつ文句を言ったものの、装備品には全て要求値と言うものが設定されており、今の俺、最弱の俺でも装備できる一番強いものを見繕ってくれたらしい。…キリトって何者なんだろう。一番最初にこの世界で出会ったのがこいつで俺は幸運だったのかもしれない。
「まぁ、その装備で5、6レベルは底上げされてるから俺たちのサポートがあればこの層の敵も倒せるよ。」
そう言ってキリトは慣れた手つきで腰に差していたピックを抜き取ると、赤いカーソルに向かって投げた。昨日の二足歩行の狼とは違い正に獣…。こっちの方が俺には怖い。
「昨日のやつとは違ってこいつはソードスキルを使わない。弱点は…腹だ。」
向かってくる敵の足をきれいに切り上げ、HPを半分ほど削ぎ落とした。ご丁寧に仰向けに転倒までさせてくれている。
「脇に構えて少し溜めを作るんだ。スキルエフェクトが発動してから動け。」
キリトの指示通りにまるで必殺技でも出すように俺は剣を構えた。すると青く右手と剣が光だす。
「そうだ、それを敵に向かって…。」
「うっわわわわわ!!!」
言われるがままに体を動かすとそれは勝手にモンスターの元に導かれていった。通常ではあり得ない速度。いくら防具を装備しても獣に近付くのは怖い。
剣は勢いそのままに
そして目の前には白いウィンドウ。経験値と獲得コルの表示。どうやら敵を倒すとこうなる仕様らしい。
「今のが《スラント》。片手直剣の基本技だよ。」
腕を組んで当たり前のようにキリトは言うがこっちは訳が分からず心労だけがたまった。俺のレベルには随分と高い層の敵には違いないため、レベルは一気に3を数えた。
「毎回こんな思いしてちゃいくら俺の神経が太くてももたねぇよ…。」
一回の戦闘でどっと疲れてその場に座り込む俺の肩を優しく叩いたのはサチだった。
「スゴいよアオバ! 私そんなにすぐにスキル使えなかったもん。」
そう言って目をキラキラさせるサチ。女の子にそう言われるのは悪い気はしない。
「お前は怖がりだもんなー。」
「もー、ケイタはそうやってすぐ私をバカにしてー」
「じゃぁ次はサチがアオバにレクチャーだな。」
「えぇ! キリトみたいには私できないよ。」
二人のやり取りはなんだか兄弟のようで、妹の翼はどうしてるかなと思った。未来に行ってたから随分家を空けてしまった…元の時間にうまく帰れれば良いが、今度はクリアしないと出られないゲーム。
「強くなるしかないか。」
サチとケイタを横目に2体目のモンスターを探すことにした。
これがやりたいがために書き始めたコレ。
ゆるゆると続きます。