ある快晴な日。
街を丸々一望しながら、エアマンタが飛行する。
ラバック「治療の帝具?」
ナジェンダ「村の生き残りの少女が使用者だ。」
心地よい風を浴びながら、今回の任務の詳細を聞く。
ラバック「生き残りって…」
ナジェンダ「大臣が村を襲わせ、その帝具の奪取を図ったようだ。持ち主の少女だけが逃げ延びて、国内を渡り歩いて治療活動をしているらしい。」
ラバック「で、その子はいまだ大臣に狙われてるってわけか。」
ナジェンダ「回復の力を持つというのは、いざという時有利になるからな。表沙汰にはしていないが、密かに付け狙っているだろう。」
ラバック「なるほど…。それを革命軍側で保護するために、俺たちが向かってる、と。」
聞く限り、戦闘訓練を受けているわけじゃないみたいだし…いくら帝具持ちとはいえ、女の子一人じゃ危険だな。
ナジェンダ「あぁ。…まぁ"保護"という名目ではあるが、正直こちらにも欲しい力ではあるからな。下心がないとは言えん。」
ラバック「任せてよナジェンダさん。相手が女の子なら、俺が口説き落としてみせる!」
ぐっとガッツポーズを作る。
ナジェンダ「ハハ…頼りにしているぞ。」
こんな俺のテンションにもきっちり付き合ってくれるナジェンダさん。やっぱ優しいぜ。
そうこうしている内に、帝都からやや南東にある海沿いの町に近付いた。
ラバック「思った通りではあるけど…けっこうひでーもんだね。」
損壊している住居や店、生気のない草木。
風が吹けば土埃が舞い、とても人が住んでいるような村には見えなかった。
ナジェンダ「ここも、帝都の厳しい徴収で村人はほとんどいないようだな。」
ラバック「逃げ出した…ってこと?」
ナジェンダ「…そうすることすらも出来なかっただろう。」
こんな村がいくつもあるっていうのかよ…。
ナジェンダ「この村に少女が訪れていると情報が入っている。手分けして探すぞ。」
ラバック「了解。」
ナジェンダさんは村を中心に、俺はクローステールの力を頼りに、人気のない森を探す。
ラバック「念のためとはいえ、さすがに女の子がこんなトコにいるわけない…か。」
暫く歩き回り、女の子どころか村人にすら出会えずにいた俺は、村の捜索に合流しようかと考え始めていた。
その時だった。
クンッ
!!
糸に反応がある…こっちか!
導かれるように走りだした。
反応の先に近づくごとに、キリキリと激しく糸が軋む。
長く茂った草を掻き分け、ようやく辿り着いたそこには、一頭の危険種が蠢いていた。
ラバック「くそっ、なんだってこんなトコに…!」
キシャアァァァ!!
こちらの気配に気付いたのか、ぐるりと振り返ると、両手を大きく広げて威嚇する。
ラバック「危険種相手に容赦はしないぜ!」
シュルルルル…
周囲に張り巡らせた糸を危険種の首元へと向かわせる。
ゴキッ!
左手で糸を引くと、危険種は膝から崩れ落ち、息絶えた。
ラバック「あ〜ぁ、結局出会ったのは人ですらなかったか… ん?」
影に隠れて気付かなかったが…
倒れた危険種の先に、同い年くらいの女の子が小さく震えながら座り込んでいた。
ラバック「君は…もしかして…。」
シュッ!
…シュ?
決して心地良くはない音が耳元を通り過ぎると、左頬から生暖かいものが流れ落ちた。
ラバック「うぎゃあぁぁ!!」
リン「ちっ、近寄らないで下さい!」
俺の叫びに驚いたのか、ビクッとしながら声を張り上げる。その手には、手術でよく使うメスが握られていた。
な、なんか想像してた雰囲気と違うような…。
ラバック「あ、あのさ…」
リン「貴方も帝都の方ですか!?何度言われても、このネックレスは渡しません!」
あぁ…そういうことね。
ポリポリと頭を掻く。
大臣が密かに狙ってたってのは本当だったんだな。こんなに怯えるまで襲われてちゃあ、疑心暗鬼にもなるか…。
ラバック「ごめんごめん、これ以上は近寄らないよ。でも、村には戻らなきゃいけないんだろ?」
さっきから大事そうに抱えている籠の中には、森の中で摘んだらしい草が収まっている。
リン「そ、それは…」
ラバック「またさっきみたいに危険種が出てくるかもしれないし、俺も村に行く用事があるんでね。一緒に戻った方が安全だと思うけど…」
一度進行方向に向けた頭を、少女へと戻す。
だいぶ迷っていたようだが、俯いたまま「わかりました。」と呟いた。
しっかし、随分鬱蒼としてる森だよなぁ…木の枝は好き勝手に形作ってるし、草は俺の腰まで伸びてやがる。
ラバック「毎回こんな所に来てるの?…えっと…、」
リン「…リンです。」
少しの沈黙の後、自身の名前を告げる。
教えてくれたってことは、多少は警戒を解いてくれたのかな?
リン「この森でしか採れない薬草があるんです。」
ラバック「へぇ…治療活動をしてるってのは本当なんだね。でも、リンちゃんはそこに所縁があるわけじゃないんだろ?」
リン「そうですけど…でも、どこかで傷ついている人がいるなら助けてあげたい。私に出来ることなら、力になりたいんです。」
いくら帝国内でも、帝都の外は圧政によって廃れた街が多く、荒んでいった人間が暴徒と化すことだって少なくない。
見知らぬ土地を巡り歩くってのは…並みな信念じゃ出来ないことだよな。
ラバック「優しいんだね、リンちゃんは。」
リン「…あなただって、私を助けてくれました。」
それは…結果オーライだったんだけどね、ハハハ…。
リン「強いんですね。兵士さんには見えないですけど…何かされているんですか?」
その純粋な眼差しに、少し心が痛んだ。
ラバック「俺は…リンちゃんがしてることと真逆のことだよ。」
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リン「あなた達が私を探してくださっていたことはわかりました。…でも、私には暗殺なんて…。」
村から離れた茂みの中に、治療を終えたリンちゃんを呼び出した。
ナジェンダ「人々を救ってきたお前だ。答えは当然そうなるだろうな…。だが、諸悪の根源を絶たないことには、民の千辛万苦は止まらない。」
ナジェンダさんの意に、言葉を詰まらせている。
そりゃそうだよな。イキナリ暗殺者にならないか?なんて、二つ返事で答えられるわけがない。
「平和な国に創り変えるため」なんて言っても、俺らがやっていることは"コロシ"だ。
ナジェンダ「すぐに答えをくれとは言わない。…だが、この国のためにお前の力が必要だということは心に留めておいて欲しい。」
煙草に火を付け、スッと立ち上がる。
ナジェンダ「私も、諦めは悪い方でな。3日間ここで待っている。もし誘いに乗る気があれば、またここへ来てくれ。」
リン「…わかりました。」
真剣な瞳でナジェンダさんを見つめた後、ぺこりと頭を下げて村へ戻って行った。
ナジェンダ「口説くのは任せろと言っていたが?」
ギク!
ナジェンダ「…惚れたか?」
煙を一吹きし、俺を見てニヤリと笑う。
ラバ「なっ!お、俺はナジェンダさん一筋に決まってるじゃないですか!」
慌てて言ったせいか、うまく呂律が回っていない。
そんな俺を見て、ハハハとナジェンダさんが笑っている。
でも、そんな一時の柔らかい時間はあっさりと終わりを告げた。
キリキリキリ!
糸に反応が起こる。この方向は…
ラバック「ナジェンダさん…!」
ナジェンダ「すぐに向かおう。」