村の境界をくぐり俺達が見たものは、立ち尽くすリンちゃんの姿と、おびただしい血で染まった地面だった。
唯一の村人達は全滅。中には酷く拷問を受けたような傷跡が残る者もいる。
ラバック「これは…」
賊「やーっと見つけたぜェ…おネェちゃん。」
ほとんど形を残していない民家から賊が顔を出し、俺とナジェンダさんは咄嗟に身構える。
5人…か。こいつらが大臣の…?
賊「こいつら中々吐かねェから使いモンにならなくて困ったぜ。」
足元に倒れていた村人の死体を蹴り飛ばす。
リン「また…私のせいで…?」
リンちゃんを見ると、瞳に涙をため震えている。
"また"って…こんなことが何度も起こってたってのかよ!
シャッ!
クローステールで賊の指を切り落とした。
ラバック「可愛い女のコ泣かすなんて感心しねぇなぁ…」
賊「てめェ!」
片手の指を全て奪われた賊が、もう一方の腕を振るい殴りかかってきた。
瞬時に糸を張り、防御へと転じる。そのまま腕に糸を絡め、へし折った。
賊「ぐぎゃァ!」
怯んだ隙に、腰から引き抜いたナイフをストンと首に落とすと、賊は声を出すこともなく地面に沈んだ。
賊「ヤロォ!!」
1人がやられた姿を見て、俺の背後から斧を構えた賊が襲いかかる。
ドシュ!!
だが、そいつは俺に到達する前に崩れ落ちた。
ナジェンダ「悪いな、あいつは涙にはめっぽう弱いんだ。」
ナジェンダさんの義手がクリーンヒットしたらしく、賊の頬にはくっきりと拳の跡がついていた。
少しだけ同情していると、残党が武器を振るいこちらへ飛びかかる。
今度は二人掛かりかよ…まぁ、関係ないけどね。
キュルキュルキュル!
あらゆる方向に這わせてあった糸で賊二人を縛り上げる。
首やら胴やら、至る所をギリギリと締め上げられた賊は、最後の一引きで完全に息絶えた。
賊「余所見してていいのかなァ?」
ラバック「!」
振り向くと、リーダーらしき最後の一人がリンちゃんを捉え、腕で首を締め上げる。
リン「う…!」
賊「俺らが依頼されてんのは首飾りだけだからなぁ…この女をどうしようと、俺の自由なんだぜ?」
ラバック「くっ…!」
下手に手を出すとリンちゃんにまで危害が及ぶ…どうする?
次の一手を踏み切れずにいると、小さく震える声が耳に届いた。
リン「どうして…村人達を…」
賊「あぁん?使えねぇからだよ。俺らが優し〜く聞いてやってんのに、女のことなんか知らねぇ、知ってても教えるかときたもんだ。」
リン「!」
賊「使えねぇガラクタはゴミ箱行き…。そうゆうモンだろ?」
この外道…!
リン「そんな…ことで…」
賊の腕の中で、リンちゃんの声がか細く小さくなる。
リン「…せない…。」
賊「あァ!?」
リン「絶対に許せない!!」
ブシュウゥゥ!!
動脈から深く切れたのか、腕からは血が勢い良く吹き出す。賊は突然の痛みに叫びながら、慌ててリンちゃんを突き離した。
シュッ!
賊「…ッ!?」
解放されたリンちゃんは、振り向きざまに首元にメスを滑らせ、賊を完全に黙らせる。
その華麗な手さばきに、ナジェンダさんと俺はただただ息を飲んだ。
ラバ「すげぇ…。」
ナジェンダ「フッ、ますます欲しい人材だ。」
リンちゃんは、自分が仕留めた賊の傍でしばらく沈黙を貫いていたが、ゆっくりとこちらを見上げて言った。
リン「…私、みんなが辛くて悲しい思いをするのはもう嫌です…。私にも出来るなら、この国を変えたい…!」
段々と瞳に強い輝きが増し、決心したように告げた。
リン「私も、ナイトレイドに入れて下さい!」
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ナジェンダ「さぁ、歓迎しよう。」
ナジェンダさんと俺は、リンちゃんをアジトへと招いた。
ラバック「今は皆仕事で出ちゃってるけどね、帰ってきたら紹介するよ。」
ナジェンダ「そうだな。ではメンバーが帰って来る前に、リンには最初の任務を与えよう。」
"任務"と聞き、ドキッとした仕草を見せるリンちゃん。
ナジェンダ「帝都内の地図を頭に入れてもらう。我々は基本、帝都での任務を担っているからな。…ラバ、案内してやれ。」
ラバック「了解!」
任務が帝都の探索と知り、胸を撫で下ろしている。
さっきは勢いもあったとはいえ…殺しとは縁遠いとこにいたんだもんな。
ラバック「じゃあ行こっか。」
少しでも元気付けてあげることが、今の俺の仕事かな。
リン「やっぱり、帝都は広いんですね。宮殿があんなに小さく見えます。」
帝都中心街の案内はあらかた終え、今は帝都と帝都外の境である堀の近くまで来ていた。
俺たちの仕事は人通りのある中心街よりも、街から離れた場所で行われることが多い。
鬱蒼とした木や草が生えた迷路のような場所もあるため、ここ近辺を自由に動き回れるようになることがナイトレイドとしての大事な任務である。
ラバック「ところで、リンちゃんは回復の能力を持つ帝具ってことでいいのかな?」
仲間の力を知っておくことももちろん必須事項。
リン「ええ、
ラバック「…が?」
リン「器具に殺意の精神エネルギーを込めて、武器として使用することも出来ます。」
ラバック「へぇ〜攻撃タイプでもあるんだね。」
リン「いえ、攻撃なんてほどではないです。ほんの少し、傷をつけられる程度ですし…」
って遠慮してる割りには、賊一人倒してるんだけどネ…。
ふと、リンちゃんが足を止めた。
リン「いろんな町を歩いてきたけど、こんな花初めて見ます。」
あぁ、その白い花…。
ラバ「帝都でもこの辺りにしか咲かないんだってさ。」
リン「へぇ…。」
しゃがんで花を見つめている。
ラバ「…似てるよな、リンちゃんに。」
リン「私に…ですか?」
ラバ「人通りも多くて風当たりも強い、決していい環境とはいえないけど、それでも健気に咲き続ける…ってとこがさ。」
リン「そう…ですか。」
えっ!俯いちゃったけど、もしかして俺まずいこと言っちゃったんじゃ…!?
ラバ「ごっごめん!別に悪い意味で言ったわけじゃなくて!その…」
クスクスクス…
あ、あれ?笑って…る?
手で口元を覆い、こぼれる笑いを隠しながらこちらに振り向く。
リン「なんでそんなに慌ててるんですか?」
ラバ「あ、いや…怒らせちゃったのかなって…。」
リン「ふふっ、褒めてくれたのに怒るわけないですよ。」
それが、初めて見た彼女の笑顔。
強い日差しのせいだろうか?
とても、眩しかった。
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その後の任務は、得意分野や戦闘スタイルが近いということで、俺とリンが組むことが多かった。
小さいヤマから大きなヤマまで、助け合いながら過ごしていった俺らの間には、気づかない間に深い絆が生まれていたのかもしれない。
ラバック「長期任務?」
ナジェンダ「あぁ。革命軍本部の周辺で未確認の危険種が複数暴れているらしい。」
ラバック「それなら俺が…」
ナジェンダ「本部自体もかなりの被害にあっていると聞く。立て直しをするにはリンの能力が必須なんだ。」
確かに、俺は撃退することは出来ても機能を回復することは出来ない。
けど…
ナジェンダ「本部でも手こずるヤマだ。危険な任務と言ってもいい…」
リン「ボス。」
リンがナジェンダさんの言葉を遮る。
リン「事は急ぎます。本部なくして革命の成功はあり得ません。今夜にでも出発します。」
ラバック「…」
ナジェンダ「頼んだぞ。」
リンをまっすぐ見つめて伝える。
ナジェンダ「必ず戻ってきてくれ…リン。」
アジトの側にある、見晴らしのいいこの場所。
空に近いからか星はキレイに見えるし、崖下には壮大な景色が広がる。
もうすぐ…出発か。
何て声をかけていいのかわからず、冷たい夜風に当たって気持ちを整理していた。
今までだって、仲間を見送ったことはある。
なのに、なんであいつに対してはこんな気持ちになるんだろーな。
リン「やっぱりここに居た。」
ラバック「!」
リン「悩みごとがあると、いつもここに来るものね。」
クスクス笑いながら、俺の隣で同じ景色を見下ろす。
ラバック「いつもって…声かけてくれればいいのに…。」
前から知られていたことに恥ずかしくなり、ポリポリと鼻を掻く。
リン「心配しなくても、絶対に戻ってくるわ。」
ラバック「…。」
リン「…私には、帰ってこなくちゃいけない理由があるしね。」
ラバック「理由…?」
尋ねると、恥ずかしそうに一つ咳払いをした。
リン「誰かさんが女の子のお風呂覗くの、阻止しないとですから。」
ラバック「はぁ!?」
なんだその理由!
それが本当なのかはわからなかったけど…楽しそうに笑う彼女を見て、ホッとしたんだ。
リンがいなくなってからは、レオーネ姐さんにやけにからかわれたり、戦闘でアカメちゃんと組むことが増えたり、同年代のタツミが入って2人で悪巧みしたり…
悲しいこともあったけど、色んな変化が起こった。
でも相変わらず俺は、たまにこの場所で夜風に吹かれてる。
ラバック「頑張れよ、リン。」
この景色のずっと先にいる彼女に向けて、小さくエールを送った。
アカメ「タツミ、ラバ!急いで戻ってくれ!」
アカメちゃんからの緊急招集を受けたのは、彼女にエールを送った数ヶ月後。
鬼気迫るそのオーラに、大きな仕事が入ったのかとタツミと共に唾を飲む。
…だが、フッと緩んだ表情から発せられたのは、心の奥でずっと待ち望んでいた言葉だった。
リン「まさかとは思ったけど…」
手をポケットにつっこみ、いつもの場所で黄昏ている俺を見つけて少しビックリしている。
リン「悩んでなくてもここにいるのかな?まだまだ読めないなぁ…ラバのこと。」
首を傾げながら俺の隣に立つ。
たったそれだけだけど、途端に心が穏やかになったのが自分でもわかった。
彼女がいるのは、もうこの景色の先じゃない。
あの頃のように、二人で笑いながら同じ景色を眺める。
この居心地の良さ。
それが仕事のパートナーとしての付き合いが長いからなのかー
リン「…ただいま、ラバ。」
それとも別の何かがあるのかー
ラバ「おかえり、リン。」
自分の気持ちに向き合うのは、あとちょっと先の話。