また、こんなことが起こるなら…
私はどこにもいない方がいいのかもしれない…
目を開けると、半分ほど朽ちた天井が映る。
屋根もなく青い空が覗いているそこには、日差しが入らないようにボロボロの布が覆われていた。
決して良くはない環境だったけど、それに反比例するかのように、穴から漏れる光が幻想的で可笑しかった。
私がこの村へ訪れて2日が経つ。
軋むベットから起き上がり、いつものように支度をした。
コト「ゴホッ…すまないねぇ…何の恩返しも出来ずに…。」
リン「そんなことはないです。家に置いていただいている。十分に恩を受けています。」
民家の外は荒れ果てた土地。とても人が生き抜いていけるような状態ではない。
それでも、生き残っている村人の一人、コトおばあさんは私を迎え入れてくれた。
ここにいる人達を助けたい。
もう、誰かが死ぬなんて嫌だ…。
胸元で揺れる十字架を握りしめる。
お母さんからもらったこのネックレスには不思議な力が備わっていた。
けれど、その力を我が物にせんとする帝都によって、私の育った村は滅亡した。
もうあんな思いはしたくない。だからこの力で、多くの人を助けるんだ!
その思いで今日までいくつかの村を周り歩いていた。
けれど、私の脳裏に鮮明に焼き付いていたのは、ヤツらが再び襲ってきたことだった。
村長「ここから逃げるんじゃ!」
リン「でもっ…!」
村長「あいつらはお前さんを狙っておる!ここに居ては危険じゃ!」
リン「でも…みんなは…!」
ここに来る前にいた村。
"テイグ"と呼ばれるこのネックレスを狙った大臣は、私の村だけでなく、私が訪れた村までも襲わせた。
…何も関係のない人たちを巻き込み、葬ったのだ。
本当は、今だって怯えてる。
私がしていることは正しいのか?
助けているつもりで、不幸を呼び寄せているだけなのかもしれない。
私は…どこにも居てはいけないのかもしれない…
闇に堕ちて行きそうになる心を、頭を振って必死に取り戻す。
違う!今度こそ全部守る!
そのために対抗する術だって見つけたんじゃない…!
私は既に、力の使い方が治療だけではないことを知っていた。
この力は、私の精神一つで治癒にも攻撃にもなる。
武器としてはまだ頼りないけど…守られてるばかりじゃ、もうダメだから。
草木が鬱蒼と生い茂る森の中を進んでいく。
ほとんど光の通らない不気味さはなかなか慣れないが、ここでしか手に入らない薬草がある。
さらに奥へと歩いて行くと、目印の岩に辿り着いた。
リン「ここも、もう余り残ってないわね…」
また別の場所を探さなければ。
そう思いながら詰んでいると、近くでガサガサと音がした。
リン「…だれ?」
不意の出来事に、身を固める。
ゆっくり振り向くと、荒い息遣いと共に現れたのは怪物だった。
リン「っ!?」
怪物のようなものは出会ったことはある。
けれど、これまでのものよりも大きい上に、足場が悪い。たとえ不意打ちが出来たとしても、私の攻撃が通用するかどうか…。
メスを手に取るも、カタカタと小さく震えてしまう。
グォォォ!
怪物は大きな手を振り上げ、攻撃の意を示した。
誰か…!!
ラバック「くそっ、なんだってこんなトコに!」
キシャアァァァ!!
ほんの一瞬の出来事だった。
怪物の殺気がなくなり、ゆっくりと目を開けると、私の目の前にいたのは緑色の髪の男の子だった。
この人…助けてくれたの…?
倒れた怪物越しに私に気付くと、ハッとした表情で言った。
ラバック「君は…もしかして…」
私のこと、知ってる…!?
瞬時に、握っていたメスを投げた。
ラバック「うぎゃあぁぁ!!」
リン「ちっ、近寄らないで下さい!」
フラッシュバックするのは、優しいカオをした悪魔達のこと。
私のことを知って近づいて来た者は、皆このネックレスを狙うやつらばかりだった。
ラバック「あ、あのさ…」
リン「貴方も帝都の方ですか!?何度言われても、このネックレスは渡しません!」
呆気にとられた顔をする男の子。
あんな怪物を倒すくらいだ。力ずくで来られたら太刀打ち出来ないだろう。それでも、このネックレスは守らなければ…!
すると、男の子は何かを察したようにポリポリと頭を掻いた。
ラバック「ごめんごめん、これ以上は近寄らないよ。でも、村には戻らなきゃいけないんだろ?」
彼の視線が、抱えていた薬草に注がれる。
リン「そ、それは…。」
ラバック「またさっきみたいに危険種が出てくるかもしれないし、俺も村に行く用事があるんでね。一緒に戻った方が安全だと思うけど…」
あ、れ…?
"この人は違う"
私の中の何かがそう囁いた。
リン「…わかりました。」
大丈夫かもしれない。
そう答えを出すまでに少し間があいてしまったけど、彼はそんなことを気にするそぶりもなく、「じゃ、行こっか。」と前を歩き始めた。
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リン「暗…殺…?」
村人達の治療を終えた私は、緑色の髪の彼とその上司だという女性に呼ばれていた。
彼らが私を探しにここまで来た理由はわかったけれど…
ラバック「さっきはちゃんと答えられなくてゴメンね。 ただでさえ怪しいやつに怪しいこと言われたら、怖がらせちゃうと思ってさ。」
私が仕事を尋ねた時に言葉を濁したのはそういうことだったのね…。
信念があって行っていることだというのは理解できる。そして、それがこの国のためになるだろうことも。
でも…
リン「私には…暗殺なんて…。」
ナジェンダ「人々を救ってきたお前だ。答えは当然そうなるだろうな…。だが、諸悪の根源を絶たないことには、民の千辛万苦は止まらない。」
悪政を正さなければ、私がしていることだってなんの意味もないのかもしれない。
革命を起こさない限り、皆が幸せになる未来は見えないのかもしれない。
さまざまな思いが巡り、言葉を発することが出来ずにいた。
ナジェンダ「すぐに答えをくれとは言わない。…だが、この国のためにお前の力が必要だということは心に留めておいて欲しい。」
ナジェンダと名乗る女性は、煙草に火を付けて立ち上がった。
ナジェンダ「私も、諦めは悪い方でな。3日間ここで待っている。もし誘いに乗る気があれば…またここへ来てくれ。」
リン「…わかりました。」
3日間…それまでには見つけなければいけない。
私が出来る最善の方法を。
そして、私が生きる意味を…。
"私の望む未来"。
帰り道はそればかり考えていた。
でも、何度考えても浮かんでくるのは、父さまや母さま、これまでに出会った人々、そしてコトおばあさんの笑顔。
「皆が笑って暮らせること。」
そうだ。それが…私の望む世界。
けれど、村に戻った私を待ち受けていたのは、あの時と同じ惨劇だった。
リン「ど…して…?」
足元に広がる血の海。
唯一生き延びていた村人達は物言わぬ死体と化し、その凄惨な光景に、その場から動くことが出来なかった。
ラバック「…これは!」
さっきの男の子の声がぼんやりと聞こえる。
賊「やーっと見つけたぜ?オネェちゃん。」
リン「!」
賊「こいつら中々吐かねェから使いモンにならなくて困ったぜ。」
そばに倒れていたコトおばあさんの亡骸を蹴り飛ばす。
そんな…そんな…!
リン「また…私のせいで…?」
体中が震え出す。
私が来たせいで皆が…
私が…皆を殺してしまった…!
真っ暗になった頭を覚ましたのは、男の子の放った糸だった。
ラバック「可愛い女のコ泣かすなんて感心しねぇなぁ…」
糸は刺客の指を削げ落とす。
賊「てめぇ!」
危ない!
そう思ったのも束の間、男の子とその上司である女性は、襲いかかる刺客を次々と倒して行く。
有無を言わさぬ圧倒的な強さに見入っていると、背後から突然自由を奪われた。
賊「余所見してていいのかなァ?」
ラバック「!」
しまった、油断してた…!
賊「俺らが依頼されてんのは首飾りだけだからなぁ…この女をどうしようと、俺の自由なんだぜ?」
狙っていたのはネックレスだけ…
それなら…
リン「どうして…村人達を…」
つい口をついて出た言葉に、あざ笑うかのような声が耳に届く。
賊「あぁん?使えねぇからだよ。俺らが優し〜く聞いてやってんのに、女のことなんか知らねぇ、知ってても教えるかときたもんだ。」
リン「!」
賊「使えねぇガラクタはゴミ箱行き…。そうゆうモンだろ?」
リン「そんな…ことで…」
こんなことで、尊い命が理不尽に奪われ続けていくというの?
全ては為政者の私利私欲で…
じゃあ、一体誰が国民を守るの?
私はこんな国、もう見たくない!!
リン「…せない…。」
賊「あァ!?」
リン「絶対に許せない!!」
全ての感情が遮断された。
どんな風に動いたかなんて、自分でも覚えていない。
我に返った時には、私の足元に、首と腕から血を流した刺客が静かに横たわっていた。
圧政を変えなければ誰も救えない。
なら、見つけた。
私の生き方ーーー
リン「…私、みんなが辛くて悲しい思いをするのはもう嫌です…。私にも出来るなら、この国を変えたい…!」
スカートの裾を、きゅっと握る。
もう、決めたんだ…!
リン「私も、ナイトレイドに入れて下さい!」