歩きだした時間   作:えいぷりる

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必然 〜リンside 2〜

アジトに案内された後、初めての任務を課された。

"任務"と聞いてドキッとしたけど、最初の仕事は自分たちのテリトリーを把握するということみたいで、少しホッとした。

 

ラバックと名乗る男の子に連れられ帝都で初めに案内されたのは、彼が働いているというお店。

表向きは貸本屋だけど、ナイトレイドの隠れ家も兼ねているらしい。

 

ラバック「普段はここで働いて、情報収集したりしてる。他のメンバーも体が空いている時はここで待機したり呑んだりしてるよ。」

リン「貸本屋ですか。」

ラバック「本も貴重な情報源だからね、好きな時に読めるしけっこういい仕事だよ。俺の帝具の使い道も、漫画を参考にしてるしね。」

リン「漫画…ですか。」

 

確かに、レジカウンターの上には読みかけで伏せられた漫画が置かれている。

文献とかじゃないところがこの人らしくて妙に頷けた。

 

ラバック「俺の夢はさ、この店をでっかくすること。で、さらには全国に出店する!」

リン「素敵な夢をお持ちなんですね。」

ラバック「きっと全国にはロマンを求めてる野郎どもが沢山いるはずなんだ…!俺はそんなやつらに救いの手を差し伸べたい!!」

 

ロ、ロマン…?

突っ込みたかったけれど、きっと想像通りの答えが返ってくる気がしたのでやめておいた。

 

ラバック「で、ここが隠れ家。」

 

本棚の裏にある隠し扉から地下に降りると、目に入ったテーブルの上には、空になった酒瓶が数本転がっている。

 

ラバック「あ、散らかっててゴメンね。昨日レオーネ姐さんが仕事終わりにひっかけてったみたいで。いつもはちゃんと綺麗にしてるんだけどね。」

リン「隠れ家って、もっと重苦しい雰囲気なのかと思ってましたけど…そうでもないんですね。」

ラバック「まぁね。あんまり堅苦しいのは俺ららしくないっていうか…まぁみんな自由なわけさ。リンちゃんもいつでも来て大丈夫だから!」

 

親指を立ててニカっと笑う彼。

暗殺集団と名乗るからには、厳重な警備だとかフォーマルな服装だとかをイメージしてたけど…

彼らといいアジトや隠れ家の雰囲気といい、そういったものとはかけ離れているように思う。

でも、私にとってはその空気がとても心地よく感じた。

 

 

 

中心街を一通り歩いた後は、街外れの道を案内してくれた。

 

リン「やっぱり、帝都は広いんですね。宮殿があんなに小さく見えます。」

 

20万平方キロにも及ぶ帝都一帯を活動場所とするナイトレイド。中心街はもちろんだが、それ以外の場所も自由に動き回れることが必須だという。

しばらく歩いて後ろを振り返った時には、あんなに巨大に見えた宮殿も小さく見えていた。

 

他のメンバーのことや帝具のこと、お互いのことを話しながら歩く。

驚いたことに、彼は生まれ育った大商人の家を出て兵士になり、そこから今に至るという。

兵士になった理由も、当時帝国軍にいたボスに恋をして側に仕えるためだったとか。

…最初の印象通り、不思議な男の子だ。

でも、そういう風に相手を一途に想えるのは、とても素敵だと思った。

 

 

ふと、視界が白ける。

よく見ると、青々とした草の中に沢山の白い花が咲いていた。

 

リン「いろんな町を歩いてきたけど、こんな花初めて見ます。」

ラバ「帝都でもこの辺りにしか咲かないんだってさ。」

リン「へぇ…。」

 

近くで見ようとしゃがみ込むと、背中から優しい声が聞こえた。

 

ラバ「…似てるよな、リンちゃんに。」

リン「私に…ですか?」

ラバ「人通りも多くて風当たりも強い、決していい環境とはいえないけど、それでも健気に咲き続ける…ってとこがさ。」

リン「そう…ですか。」

 

そんな風に見ていてくれたことがなんだか恥ずかしくて、少し熱くなった頬を隠すように俯いた。

でも、熱くなったのは頬だけじゃなく、

"もう一人じゃない。"

そんな思いが、心も温かくさせた。

 

熱の余韻に浸っていると、急に背後で焦り出す。

 

ラバ「ごっごめん!別に悪い意味で言ったわけじゃなくて!その…」

 

私が俯いたのを別の意味に捉えたのか、必死に言葉を繋ごうとしている。

その仕草が可笑しくて、つい笑ってしまう。

 

リン「なんでそんなに慌ててるんですか?」

ラバ「あ、いや…怒らせちゃったのかなって…。」

リン「ふふっ、褒めてくれたのに怒るわけないですよ。」

 

なーんだ、と安心したように彼も笑う。

 

 

こんな風に誰かと笑ったの…何年ぶりだろう。

 

 

ーーー--------------------

 

 

任務でペアを組むことが増えて、いつの間にか彼のことを、彼の愛称である「ラバ」と呼んでいた。

 

たぶん、私は出会った頃から特別な気持ちが生まれていたんだろう。

でも、叶うことのない想いだから、仲間として居れるだけで良い。

私の幸せは、ナイトレイドの皆と一緒に居ることなんだ。

…そう言い聞かせていた。

 

 

 

ラバック「長期任務?」

ナジェンダ「あぁ。革命軍本部の周辺で未確認の危険種が複数暴れているらしい。」

 

ボスからの指令は突然だった。

ここから遠く南に離れた革命軍本部が大きな被害にあっているという。

 

ラバック「それなら俺が…」

ナジェンダ「立て直しをするにはリンの能力が必須なんだ。…ただ、本部でも手こずるヤマだ。危険な任務と言ってもいい。」

 

ここから本部へ向かうだけでも、決して安全な道のりではない。

もし、本部を襲っているのが危険種だけではなかったら?道中や本部現地で、こちらからの援軍を待ち構えている罠かもしれない。

でも…

 

リン「ボス、事は急ぎます。本部なくして革命の成功はあり得ません。今夜にでも出発します。」

ナジェンダ「頼んだぞ。」

 

ボスがじっと見つめる。

 

ナジェンダ「必ず戻ってきてくれ…リン。」

 

その強い眼差しに、笑顔で返事をした。

 

 

準備を終えたその夜、会議室に集まる皆に任務の出発を告げたが、たった一人だけ姿を見せない。

私は思い当たるあの場所へと向かった。

 

夜風が涼しく、見下ろす景色もまた壮大で美しい、アジト裏にある崖。その景色の前に佇む後ろ姿を見つけた。

 

リン「やっぱりここに居た。」

ラバック「!」

リン「悩みごとがあると、いつもここに来るものね。」

 

予想通りの展開に吹き出しながら、ラバの横に立つ。

 

ラバック「いつもって…声かけてくれればいいのに…。」

 

知られていたことが恥ずかしかったのか、ポリポリと鼻を掻いている。

 

ラバがここにいた理由はなんとなくわかる。

きっと、心配してくれているのだろう。

それは"仲間として"なんだろうけど、ラバの気持ちが素直に嬉しかった。

 

リン「心配しなくても、絶対に戻ってくるわ。」

ラバ「…。」

リン「…私には、帰ってこなくちゃいけない理由があるしね。」

ラバック「理由…?」

 

そう、私には生きる理由がある。

この国を変えるという使命があるし、一人だった私に救いの手を差し伸べてくれた皆とずっと一緒に居たい。

 

でもきっと…一番は…

 

リン「誰かさんが女の子のお風呂覗くの、阻止しないとですから。」

ラバック「はぁ!?」

 

彼を想ってくすぐったくなった気持ちを、冗談でごまかした。

当の本人は私の理由に納得がいっていないようだけど、「ちぇっ」と言って笑っていた。

 

 

 

本部の被害は甚大で、任務は当初の予定よりも時間がかかっていた。

でも、ここでの経験は糧になる。私ももっと力をつけて、ナイトレイドに戻る時には皆を守れるようになってみせる。

皆の顔を思い出した時、ふっと一筋の風を感じた。

振り返ると、それはアジトのある方角。

誰かが応援してくれているような気がして、「頑張るよ。」と小さく返事をした。

 

 

 

 

そして長期任務に出てから一年後。

立っていたのは、懐かしい私の居場所。

私がいない間に色々な変化があったようだけれど、昔と変わらない空気に、"戻って来た"と実感した。

 

アカメとタツミが夕食の準備をしてくれている間、ほとんどのメンバーはいい匂いの立ち込めるダイニングに集まっていた。けれどまた一人、姿がない。

思い当たる場所は一つだったが、この時間にいるのは今までに見たことがなくて、半信半疑でそこへ向かった。

 

 

リン「まさかとは思ったけど…」

 

手をポケットにつっこみ、いつもの場所で黄昏ている背中。私の声に振り返ったその顔は、夕日に眩しく照らされていた。

 

リン「悩んでなくてもここにいるのかな?まだまだ読めないなぁ…ラバのこと。」

 

ラバと同じ景色を見下ろすと、夕暮れに映し出された木々がキラキラと輝いていた。

あの頃と同じように同じ場所に立てている。そう思うと、嬉しくなった。

 

そして私はこっそりと、"彼の隣に"という意味を込めて伝える。

 

リン「…ただいま、ラバ。」

ラバック「おかえり、リン。」

 

忍ばせた気持ちに気付いているかはわからないけど、オレンジ色の暖かい景色のように、柔らかく応えてくれる。

 

 

止まっていた時間が、再び動き出した瞬間だった。

 

 

 

【完】

 

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