「パーティー?」
ある昼下がりの会議室。
パンプキンの標準を合わせ、帝具の具合をみるマインの元へ、レオーネがやって来た。
「そ!ボスも気にしてたんだけどさ、リンのやつ、まだこの稼業に慣れてないっていうか…踏み切れてないっていうか。」
「フンッ、1ヶ月経つっていうのに"慣れてない"だなんて甘いこというのね。」
「まぁまぁ。んで、とりあえずナイトレイドに溶け込んでもらおうってことで、1ヶ月達成パーティーでもしよっかってわけさ。」
ま〜たおせっかいなことを…とでも言いたげにパンプキンをテーブルに置くが、パーティー自体は反対ではないようだ。
「まぁ、リンの能力にはだいぶ助けられてるし…。手伝ってやらないこともないけど?」
「よっしゃ決まりだな!リンが帰って来る前に準備してビックリさせようぜ!」
じとーっとした目でレオーネを見つめるマイン。
その視線に、さすがのレオーネも「なんだよ?」と聞き返せざるを得なかった。
「ラバね。」
「ご明察。」
「まったく、ラバの女好きにも困ったもんだわ。」
呆れるマインを前に、腰に手を当て「ハハハ」と軽く笑う。
「んじゃ、シェーレにも言っといてね〜!」
そう言いながら、右手をヒラヒラとさせて会議室から去って行った。
「シェーレねぇ…色んな意味でサプライズになりそうだわ。」
不安要素がよぎりつつも、パーティーのことを伝えるため、パンプキンを担ぎ会議室を後にした。
「パーティー、ですか?」
せせらぎが涼しげに聞こえる川辺。大きな岩の上で本を開いていたのは、紫色の髪の相方だった。
声を掛けると、ページをめくる手を止め、マインの話に聞き入る。
「とりあえず、各自料理でも一芸でも準備しろってさ。」
「いいですねぇ。」
読んでいた本をパタリと閉じ、ニッコリと笑う。
すんなり受け入れる彼女の反応に、レオーネへの自分の態度が恥ずかしくなる。
「ま、そういうことだから、私たちは私たちで準備するわよ。」
「マイン、なんだか楽しそうですね。」
「…ッ!はぁあ!?なに言ってんのよ、こんなの面倒に決まってんじゃない!」
顔を真っ赤にしながらプイッとそっぽを向くと、そのままズカズカと街の方へと歩き出した。
「ブラートはラバから伝わるだろうし、マインとシェーレはOKっと…あとはアカメか。」
アカメの匂いを頼りにアジト周辺を探す。
とはいえ、仕事がない時の彼女の行動パターンは大抵決まっている。
キッチンにも訓練所にもいないとなると、あとはあそこだ。
「アカメ〜!」
黒髪の後ろ姿に呼びかけるも、ジッと崖下の水面を見つめて動かない。
自分の声が届いていないようだが、もう一度呼びかけようとはしなかった。
バッ!!
束ねた髪をなびかせ、無言のまま湖に飛び降りる。
そんな親友の後ろ姿を見送り、レオーネはその場へと座り込んだ。
ほんの少し時が経ち、静かだった水面にプクプクと空気が浮かぶ。それと同時に、大量のコウガマグロが宙を舞った。
「お〜今日も大量だねぇ。」
自身の頭上で舞う魚たちを仰ぎ、賛辞の言葉を贈る。
すると、崖下からにょっきりとアカメが現れた。
「レオーネか。これは今日の夕食だ。今やるわけにはいかない。」
「アッハハ、アタシは酒があれば十分だよ。んで、アカメにも協力してほしいことがあるんだよね。」
キョトンとするアカメを前に、今日のパーティーのことを説明した。
「わかった。つまみ食いはほどほどにしておく。」
「そうしといてくれると助かるよ。じゃあ食材の調達は頼んだ!あと、リン達が早く帰ってきそうだったら足止めしといて〜!」
忙しそうな親友の背中に向かってコクリと頷くと、先ほど捉えたマグロ達を見つめて口元が緩む。
「…もう少し、葬る。」
踵を返し、再び湖の中へ消えていった。
「やべっ!」
「どうかしたんですか?」
「あぁ、いや…こっちの話。」
次の仕事のための情報収集を担当していた、リンとラバック。
偵察があらかた終えたころには西日が差し始め、辺りが薄っすらとオレンジ色に染まっている。
「にしても、あまりいい収穫はなかったね。寝ぐららしき場所は、すでにもぬけのカラ。それ以外もこれと言った情報は掴めなかったし。」
「でも、こんなに遠くまで来る任務は初めてなので、ちょっぴり不安でした。」
「心配ないよリンちゃん!なんかあっても俺が守ってあげるから!」
小川が流れるアーチ型の石橋の上。
夕日をバックにキメてみるも、リンは目をまん丸にして、2回ほどパチパチと瞬きをした。
「本当に面白い方ですね。」
「お、面白い…ね。」
なぜいつもこういう役回りなんだろうと嘆くも、先ほどまで強張っていたリンの表情が和らいだことにホッとする。
「ラバックさんは、このお仕事だいぶ長いんですよね。」
欄干に手をかけ、心地よく流れる川を見つめる。
「ナジェンダさんが帝国を抜けた頃からくっ付いてきてたからね。ナイトレイトの中じゃ古株になっちゃうのかな。」
「辛いこととか…きっと沢山経験してますよね。」
「まぁ、色々あったかな。でも、あいつらと一緒にいるといつの間にか辛い気持ちも吹っ飛んじまってるよ。」
あっけらかんと笑うラバックの姿は、それが本当だということを十分に表していた。
「それに、女の子達に囲まれて生活できるなんて早々ないし、俺は幸せ者だよ。」
うんうん。と真剣に頷くその姿に、思わず吹き出す。
「ふふっ。そんなこと言ってると、ボスに怒られちゃいますよ。」
「!! 俺…そんなにわかりやすいかな?」
「バレバレです。」
むしろ公言しているんじゃないかと思っていたくらいだ。今更慌てるラバックが、なおさら可笑しく感じた。
「私も、ふさぎこんでばっかりじゃダメですよね。みんなが笑って暮らせる国にしたいと思うなら…まずは自分が笑わなくちゃ。」
背筋を伸ばし、遠くを見据える。
少しだけ、吹っ切れたようだった。
「リンちゃんなら、大丈夫だよ。」
その背中を押すように、ラバックは最大級の笑顔で応えた。
「さぁ!みんなは何を準備してきたんだ?」
リビングに一同が会し、それぞれ持ち寄ったものを並べる。
食材や飾り付けなど、一瞬にしてテーブルの上が華やかに彩られた。
「アカメ…アタシが見た時より量減ってないか?」
「すまない…どうしても抑えきれなかった。」
「あーっ!ピーマン頼んだはずなのに、なんで青トウガラシ買ってんのよぉ!」
「確かに確認したのですが…。」
「ていうかレオーネお酒ばっかじゃない!しかも自分用が8割!」
「たはは…みんなにも分けるからさ、そんなに怒るなよ。」
「で!ブラートはどこにいんのよぉ!」
「おっかしいな〜。ブラートはラバが伝えるって言ってたんだけど。」
「随分賑やかだな。」
「ボス!」
振り向くと、ナイトレイドの主が獲物を担いで立っていた。
「こんなこともあろうかと、私も色々調達してきたぞ。」
「さっすが!やっぱり頼りになるのはボスだけね。」
「すいませんね〜アタシじゃ頼りにならなくて。」
口を尖らせスネるレオーネを「まぁまぁ」とたしなめるナジェンダ。
「さ!時間もないしちゃっちゃとやるわよ!」
各自、炊事班と飾り付け班に分かれて準備に取り掛かる。
炊事班のマインは、テーブルに並んだ食材をキッチンへと運び始めるが、ふと横を見ると佇んだまま動かない人物が一人。
「シェーレ?」
「青トウガラシとピーマン…交換してきた方がいいのでしょうか?」
この世の終わりのような顔で、青トウガラシを見つめている。
「そ、そんなに気にしなくていいわよ、なんとかするわ。」
さすがのマインも慰めるしかなかった。
「あっはははは、なにやってんのボスー!」
飾り付け班の方はというと、レオーネがボスを指差し大笑いしている。
その先には、輪っかが連なった紙飾りに捉えられた、ナジェンダの姿。
「義手に絡まってしまったようだ。」
「おっかしー!どうやったらそんなんなるのさ!」
紙を千切りまいと身動きの取れないナジェンダと、腹を抱え、涙を流しながら笑うレオーネ。もちろん、作業は3分の1も進んでいない。
「ちょっとぉ!早くしないと帰ってきちゃうわよー!」
ひょい、パク
ひょい、パク
ひょい、パク
レオーネ達に注意をしていたマインは、通常であれば聞くはずのない音を耳にし、慌てて振り返る。
「…うん、まだ新鮮だ。」
「アカメーーー!!!」
もぐもぐと口を動かすアカメの前には、マインとシェーレが買ってきたフルーツが置かれていた。
「すまない、リンに痛んでるものを食べさせるわけにはいかないから。」
「食べさせるものすらなくなっちゃうわよ、その勢いじゃ!」
鬼の形相でアカメの前からフルーツを奪うと、オモチャを取られた子供ような目で、マインの手の先を見つめ続ける。
「こ、このメンバーじゃ、まとめるの私しかいないじゃない…!」
最重要項目にやっと気付いたようであった。
ラバックとリンがアジトへ戻る頃には、月もくっきりと見えるほどに日が落ちていた。
アジトに着くなり、周辺の結界を張り直すと言い、ラバックは森の方へと歩いて行く。
「戻りました。」
リンは、先に入るよう促されたアジトの扉を開ける。だが、中は暗くしんとしていた。
「まさか…ね。」
ふいにフラッシュバックしたのは、殲滅された自分の村。
あの時も、私が帰って来た時にはもう…
嫌な汗が滲む。
報告もなくアジトに誰もいないことは、今までにはなかった。
あんなに強いみんなに限って…と思いつつも、不安な気持ちが拭い去れず、恐る恐る入っていく。
「あの…誰かいませんか?」
訓練所や会議室にも誰もいない。
一歩進むごとに、不安と恐怖が押し寄せる。
もしここにもいなかったら…
焦る気持ちを振り払うように、思い切りリビングの戸を開けた。
ビシャッ!!
「!?」
突如顔面に冷たい何かがかかり、体が強張る。
なに!?…血?
そう思った矢先だった。
「…ぷっ、アッハハハハハ!!」
リビング中に響く、聞き慣れた声たち。
「??」
かかったモノも、笑い声の理由もわからず困惑していると、フワッと柔らかいものが顔を包んだ。
「ホラ、早く拭きなさいよ。」
不器用な声の主は、マインだった。
ツンケンした表情ながらも、汚れを拭くその手つきは優しい。
タオルで拭き取られたものを見ると、どうやら生クリームのようだ。
「あ、ありがとうございます。」
自由になった目に映ったものは、絞り袋を手にしたシェーレがすまなそうに自分を見つめる姿や、生クリームがあちこちに飛び散っている飾り。どこかしら食べかけてある食事に、不格好なケーキだった。
そして、そのケーキの横には、少し溶けかけたチョコに書かれた"リンおめでとう"の文字。
「これ…」
「あ〜あ〜、予想以上に賑やかにやってるみたいだね。」
背後から聞こえたのは、さっきまで一緒にいたラバックだった。
「ラバックさん…?」
「ナイトレイドに来て一ヶ月!リンちゃんおめでとう!そしてこれからもよろしくな。」
満面の笑顔で祝福する。
ラバックに続き、他のメンバーからも声があがる。
「みんな…」
鼻がツンとして、視界がぼやけ始める。
そんなリンを横目に、ラバックが後ろを向きゴソゴソと何かを取り出した。
「ハイこれ、みんなから。」
差し出された紙袋が、カサッと音を立てる。
紙袋を受け取り中を覗くと、白い花の髪飾りが愛らしく収まっていた。
堪えていた涙が、ポロポロとこぼれ落ちる。
「あ〜ラバ泣かしてやんの〜!」
「ちょっ!人聞きの悪いこと言うなって!」
レオーネからのちゃちゃに、顔を真っ赤にして抗議するラバック。それを見て笑うマイン達。
暖かい仲間に囲まれて、リンの心にあった小さな不安は、ふっとは溶けていった。
「…これ、もう食べ始めてもいいか?」
アカメの一声で、リンへのケーキがまだ残っていることに気付く一同。
先ほどシェーレがクリームを絞るのを失敗したため、まだ未完成だったのだ。
「シェーレ、次こそ頼んだわよ。」
相方からの一押しに、「はい〜」と息をのみ、絞り袋を構える。
ニュルル…
今度はうまく乗ったようだ。
「せっかくこれもあるんだ。使おうじゃないか。」
ナジェンダがキッチンから数本のローソクを持ってきた。
「まるで誕生日みたいですね。」とニコニコしながらローソクを立てるシェーレと、少し照れ臭そうなリン。全て挿し終え火を灯すと、やっとケーキらしい形が整った。
それを合図に、レオーネが酒をかかげ、音頭を取る。
「じゃあ仕切り直しで!リン、これからもよろしく!」
火を吹き消そうと、リンが息を吸ったその時だった。
バン!!
「なんだ!こんなところにいたのか!!」
フッ…
突如煽られた風によって、ローソクの火は呆気なく消え去った。
「ブラート!!」
「ん?なんだなんだ、皆して。誰かの誕生日なのか?それとも、俺のトレーニング10万回達成記念日か?」
「アホみたいなこと言ってんじゃないわよ!タイミング悪すぎなのよ!」
「おいラバ…ブラートに伝えてたんじゃなかったのか?」
レオーネにこっそりと詰め寄られ、狼狽するラバック。
「その…ワスレテマシタ、ゴメンナサイ。」
「ったく…。」
クスクスクス…
「?」
声のする方へ向くと、リンが口に手を当てながら大笑いしている。
「みなさん…お、可笑しすぎて…!」
こんな風に声をあげて笑う彼女は、誰もが初めて見た姿だった。
「ハッハッハ、なんだかわからんが、リンが楽しそうなら何よりじゃないか!」
「まさかブラートが一番の
「その前にシェーレが生クリームぶっかけてるけどねぇ!」
「…ローソク、もう一回つけるか?」
色んなハプニングがありつつも、全員が揃ったところで、もう一度サプライズパーティーが仕切り直された。
それぞれがワイワイと盛り上がる中、レオーネに近づくリン。
「あの、本当にありがとうございます。レオーネさんが皆さんに掛け合ってくださったってお聞きしました。」
「あぁ、それならラバに言うといいよ。」
「え?」
「ラバが企画したんだよ。リンを元気づけたいって。」
二人の目線がラバックの背中に注がれる。
「そう…だったんですか。心配かけさせていたのですね。」
「アッハハ、心配なんていくらでもかけさせときなよ!アイツ、満更でもないからさ〜!それに…」
リンの耳元に近づき、小さな声で言った。
「皆でって言ってたけど、その髪飾り、アイツ選んでがきたんだぜ。」
「…!」
一瞬にして、リンの顔が赤に染まる。
「そーゆうの慣れてないみたいだな、リンも。」
アハハハと笑いながら、リンの背中をパシンと叩いた。
「ま、そういうことだ。それ、大事にしてやってくれよ〜。」
ウインクをしながらそう言い残すと、次の酒を探しに行った。
ーーこれは、"仲間"の印。
そう思ってみても、小さく鳴る鼓動がなかなかやまない。
ほとんど呑んでいなかったが、火照った頬はお酒のせいだと誤魔化すことにした。
ナイトレイドが、リンにとって"自分の居場所"だと本当に感じられた日。
この日のドンチャン騒ぎは、なかなか熱を冷ますことがなかった。
【完】