【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

11 / 29
11話

 

「黄色い布を被った暴徒…か」

「はい、我らが鎮圧した暴徒は皆黄色い布を頭に纏っておりました」

 

許緒と徐晃が真名を交換し合った日から数週間のことであった。

活発していた暴徒や賊が更に活発化していき、民が安心して夜も眠れない日々が続いている。

そんな中、普通の賊や暴徒とは違った一団が活発に邑などで略奪行為を行っていた。

 

その一団全員が黄色い布を頭に纏っているというのだ。

 

王座の間にて、夏候惇と許緒の報告を受ける曹操の表情は動かない。しかし内心では頭をフル回転させ、その共通する項目の真意が何なのか、頭を悩ませていた。

今この場に居るのは、曹操、夏候惇、夏候淵、荀彧、許緒、徐晃。そして夏候惇隊に付き従っていた武官である。

 

そして同じく、暴徒の鎮圧から既に帰還している夏候淵のほうへとちらりと曹操は目線を向けた。

それを見て夏候淵は口を開いた。

 

「こちらも同じく、黄色い布を持っておりました」

 

夏候淵も夏候惇と同じ報告。

 

「黄色い布を持った…ね」

 

曹操はそれを吟味する。が、すぐさま夏候淵のほうへ視線を向けた。

 

「それで、暴徒達はどれほどの抵抗をみせたの?」

「それが、殆ど抵抗無く、すぐさま鎮圧できる程です」

「そう…」

 

目を伏せて曹操は思案する。

そしてその隣の荀彧もまた険しい顔つきである。

 

「桂花、そちらはどうだった?」

「はっ。面識ある諸侯に連絡を取ってみましたが、こちらと同じような状況でした」

「地域は?」

「は!では、失礼します」

 

そうして一言断り、荀彧が目の前に地図を広げて各諸侯からの情報を元に、出現した暴徒の出現箇所に印を置いていく。

この時代、地図は物凄く高価で貴重なもので、こういった場面でしか中々お目にかかれない。

それもそのはず、紙自体が高級なものであるからだ。

 

しかし、こういった軍には絶対に欠かせないものであり、地理の情報は荀彧に集まっていく。

それらをまとめて荀彧が地図を起こしていくのだ。物凄い技術である。

勿論その広さを凡そに測る測量も行っているが、それは何か物を使うのではなく、人間が歩いて記録していくのだ。

 

よって、そこまで精密な地図を作るのはこの時代では不可能である。

 

ただ、凡そその位置に何があるのか、高低差はどれくらいか。この程度が分かればそれだけで作戦を立てやすくなることは明白である。

 

「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいですが、名前以外全くの不明だそうです」

「不明…?」

 

荀彧からの情報を耳にして曹操は怪訝な声質で聞きかえした。

 

「同じ集団だと思われる人物を尋問したのですが、遂にその情報は漏らさなかったようです」

「ふむ…弱いくせに、中々根性がある」

 

余りにも味気なかったがそういった情報を知った夏候惇は彼らの評価を少し上げた。

その言葉に夏候淵は何ともいえない視線を夏候惇へ向けるが、すぐさま切り替える。

 

「華琳様。この一連の騒動。何か大きな背景があると見ます」

「ええ、私もそう思うわ。各集団は一息で鎮圧できるというのに、その首魁の事は黙して語らず…か」

 

一団となって何かの糸口が無いかうんうんと考える。

その様子を徐晃はただただ見つめているだけである。徐晃はこういったことには基本口を挟まない。

というより、余り興味が無いからである。曹操が命じた討伐を楽しむだけ。徐晃はそれが一番大事であった。

 

「…あなたも、少しは考えなさいよ」

 

む、っとした表情でその猫耳フードを揺らしながら若干上の空であった徐晃に的を当てる。

 

「……といわれても、私が考え付くことは殆ど無いのですが」

「あら、殆どという事は何か考え付いたのかしら?徐晃」

 

話を振られ、返事をする徐晃に対して、曹操が目ざとく言葉を拾い投げかける。

 

「…ここで唸っていても仕方が無いということですよ」

「では、どうするべきなのかしら?」

「簡単です。軍備を整えるべきです。尋問をして口を割らなければ彼らを捕らえても仕方が無いはず」

 

曹操の質問に答える徐晃。その返答に目線で続きを促す。

 

「であれば、軍備を整えつつ、集団が発生した邑や近辺の邑で何が起こったのかを聞き込みをしたほうが建設的かと」

「なるほど…一理あるわね。ここでこうやっていても事は進まない…か。分かったわ、桂花!」

 

曹操は徐晃の話を聞いて内心物凄く喜んでいた。

頭は回ると荀彧から話を聞いていたが、まさかここまで回るとは思いもよらなかった。

徐晃の言葉。確かに、それしか選択肢は残されていない。

 

しかし、そこにたどり着く為の頭の回転の速さであれば、荀彧に引けを取らない。

といっても、知識量で遥かに負けているので今回は偶々という事か、徐晃の賊討伐の経験が生かされているのか

どちらにせよ、事を速く進めるに至ったのだから、文句は無い。

 

「はっ」

「糧食、武具の管理、後方の部隊の編成は任せるわ」

「はは!」

「春蘭、秋蘭は軍の編成を急ぎなさい。何時でも出撃できるよう仕上げるのよ」

「「はっ!」

「そして、徐晃と季衣は春蘭、秋蘭の手伝いを」

 

そう、曹操が言いかけたとき、王座の間の扉が勢い良く開き、伝令が走ってくる。

 

「会議中失礼します!」

 

慌しく入ってくる伝令兵を見て、若干曹操の機嫌が悪くなる。

基本この部屋に立ち入る際は静かに、入室するべきであると、曹操は考えているからだ。

しかし、それを表には出さない。何故ならそれほど急を要する案件を運んできたのだと瞬時に判断したからだ。

 

「何事だ!」

 

曹操の意を汲んだのか、それとも夏候惇の中でそれをあまり許容できなかったのか、声を張り上げて伝令兵を迎え入れた。

 

「は!南西の邑にて、新たな暴徒の発生。黄色い布を携えている一団です!」

「ふむ」

 

その報告の後、曹操が小さくため息をついた

 

「はぁ…休む暇も無いわね。さて、この討伐を誰に行かせたものか…」

 

そう、悩む曹操へと向かって一人の少女が元気良く返事をした

 

「はい!ボクが行きます!!」

 

そう、許緒である。

 

「季衣ね…」

 

そして悩む曹操。彼女は今朝方も賊討伐で夏候惇隊の副将として働いたばかりであった。

曹操はちらっと徐晃に目を向ける。その徐晃は本日ゆっくりと起きて軽く文官の仕事をして、ゆっくりと朝食を食べた実績がある。

それを知っている曹操は、色々な意味を含んで徐晃を見た。

 

「…季衣、お前は最近、働きすぎだぞ。ここ最近休んでおらんだろう。それに、この前の一件も在る。確りと休め」

 

曹操が不在だった際の許緒の働きは既に報告をしている。

本人は疲れていないの一点張りだったが、徐晃が報告する内容を省みると凡ミスが多数見受けられたのは事実である。

だからこそ、許緒は言葉に詰まったが、それでも彼女は困っている人が居たら助けたいと思っている。

 

「…うう。でも、春蘭様!」

「華琳様、この件。私が」

 

それでも食いつこうとする許緒を尻目に、夏候惇が礼をとり、曹操へと進言した。

 

「…この件は徐晃、あなたに任せるわ」

「…え?」

「な、何故ですか!?華琳様!?」

 

徐晃はああいっている夏候惇が賊討伐を行うだろうと思っていたが、曹操は徐晃を指した。

それにじゃっかん戸惑いを見せる徐晃と反発する夏候惇。

 

「な、何でですか!?華琳様!私は行けます!その困っている人たちを助けれます!!」

「駄目よ。貴方は今は休みなさい。春蘭は軍の編成に当たってもらうわ」

 

納得したような表情で後ろへ下がる夏候惇。

だが、さらに食いつく許緒。彼女は賊に襲われていた所を曹操軍に助けてもらって現在に至っている。

だからこそ、同じ境遇に立っている人間が居るのが気に食わないのだろう。

 

しかし、それに待ったを掛ける人間がいた。

 

「…季衣は私を信じられないの?」

 

その言葉を発したのは徐晃である。その視線は冷たい。

 

「う…でも、皆が困っているのに……私だけ休むなんて」

「休むことはとても大事なこと。あの時季衣が何故大局を見誤ったか……季衣なら分かる筈」

「……ううー」

 

そう、許緒も馬鹿ではない。馬鹿であったら将なぞできないし、曹操がそこまで立てないだろう。

 

「その為に、季衣以外にも、夏候惇さん、夏候淵さん、他の武官の人たちが居るし…私も居る。そうでしょ?」

 

徐晃は許緒をじーっと見つめる。それを頬を膨らませながら見つめ返していたが、だんだん俯いてきて

 

「それは……うー。そう言われると、返す言葉がないよー」

 

かくんと、肩を落とし、徐晃の言葉に納得した。

 

「へぇ…」

 

それを興味深そうに見る曹操だが、次の言葉でその興味は霧散する。

 

 

 

 

 

「だいたい、殺しは私の領分。安心して季衣。一人残らず切り殺すから」

「なるほど…確かに、お前の分野だな」

「「「…」」」

 

相変わらずな殺人快楽者の徐晃を一同(一人除く)は見て、安心やら不安やら、色々な思いが胸中を渦巻いていった。

 

「…まぁ、いいわ。では徐晃!宜しく頼んだわよ」

「了解。一人残らずやりますよ……ふふ」

 

そうして徐晃はすこし未来を思い浮かべながら王座の間を静かに出て行った。

 

「…全く。それから季衣」

「は、はい!」

「今は休んで次の戦闘に備えること。いい季衣?貴方の肩には我が領内の民の命が乗っているの」

 

爛々とした瞳で許緒を見る曹操。先ほどの呆れていた雰囲気は無い。

その佇まいは正に覇王。

 

「私たちはそれを守る義務がある。季衣、貴方はその肩に乗っている重み。分かってくれるかしら?」

「私は…」

「季衣。大丈夫よ。その為に徐晃が行ったの。そして春蘭や秋蘭、桂花も次に起こる戦闘の準備をする。それは確りとその重みを受けるためにすること」

 

俯いた許緒に語りかける曹操。それを優しく見守る夏候惇と夏候淵。そして荀彧。

全員が全員、許緒に期待しているのだ。だからこそ、此れは必要なことである

 

「貴方は今、その重みを受け止めるには難しい状況なの。分かるかしら?」

「…私が休む事はその重みを受ける為?」

「そうよ。一人では受け止めきれない重み。それを皆で受け止める。それには全員が受け止めれるだけの状態を常に作っておかなければならない」

 

許緒は馬鹿ではない。そう。それは分かっていたが、やはり頑固なところはある。

だけど今、許緒は曹操が言わんとした事を理解した。その事に曹操は若干笑みを作り語り掛ける

 

「今日100人の民を救えても、明日10000の民を救えない。何故なら受け止める力が弱いから。受け止めるなら全て!全てを受け止め、民に安心して暮らせる国を作るのよ!」

「華琳様…」

「だから今の季衣には休息が必要なの、どんな鳥も羽を休めないと何時までも飛べない。そして飛んだら全力で大空を舞い上がるのよ」

「は、はい!」

「ふふ、いい子ね」

 

そうして王座の間の扉を曹操は見る

 

(…徐晃。あなたは何時私の下で羽を休めてくれるのかしら?)

 

そう胸中で思いながらこの場を解散するべく、声を上げたのであった。

 

 

 

 

 

「…あっけなさ過ぎる」

 

徐晃がぽつりと呟いたその一言。

伝令兵が伝えたとおりの場所へと赴き、賊を発見した。その数は1100名。一人で倒すと徐晃の最高記録となる。

徐晃は目算でその数を見極め、突貫して賊を笑いながら切り裂いていったが…

 

「はぁ、600人弱…584人って所かな」

 

そう、大半のものは徐晃が突貫して、すぐさま逃げ帰っていった。徐晃の余りにも現実離れしたその動きと狂気に飲まれたからだ。

その暴徒の肉を裂く感触は非常に快感を覚えていたが、相手にあまり殺意が無く、その殺しもそこまで興が乗らなかったのだ。

徐晃にとって初めて殺人でそんなに楽しくないと思わせたのは、此れが始めてであった。

 

「うーん…でも、このまま帰ったら曹操に何ていわれるか……」

 

正に一瞬で敵を切り殺した徐晃は、死体の山の中心でそう懸念する。

これがもうちょっと600人程度であれば一人も残さず殺せたかもしれなかったが、半分以上も取り逃がしたとなると、何故か嫌な予感がする。

しかも、あんな言葉を残しているお陰で更に帰るのも億劫になっていた。

 

「……そういえば、あれだけ人数が居たら糧食とかどうするんだろ?」

 

そうして徐晃はある一つの事に気付く。

 

食糧だ。

 

あの大人数をまかなう食糧はそれこそ街を襲撃しなければならない。しかし邑の襲撃は報告で上がっていたが街の襲撃はまだ上がっていない。

よって、その食糧の出所が気になったのだ。

 

「……ある程度は自由利くし、ちょっとつけていってみようかな」

 

そうして、一団が逃げ帰っていった方向を見る。

散り散りに逃げていったが、多くはある一定の方向に逃げていったのを徐晃は逃さなかった。

 

少しして、遅れて派遣された死体お片付け隊が到着した。

 

「あ、ちょっといいかな?」

「は、はい!如何なさいましたか?」

 

死体の山を築き返り血を若干浴びている徐晃に対して腰を引いている兵士だが、その事を気にせずに続ける

 

「ちょっと気になることが出来たって、曹操さんへ伝えてくれない?あ、食料は大丈夫ってことも」

「は、は!分かりました」

「では、お願いね」

 

そうして駿馬へと騎乗し、駆けて行った。

 

「…返り血が無ければなぁ……」

「お前の気持ち、よーく分かるぞ」

 

そうして、徐晃の美貌に返り血が掛かっていることに、若干残念という気持ちを乗せて兵士が愚痴る。

それを見かねて近くの兵士も同意する。

 

「まぁ、とりあえず俺たちはこの死体を全て片付けなきゃな」

「だな。徐晃様のお陰で俺たちもかなり助かっているしな」

 

そう。徐晃がいるから兵士達の死亡数が少なくなっている。

何故なら徐晃は兵士を連れて行かないから。

 

そうして徐晃が築いた死体を片付ける兵士達。

通称、死体お片づけ隊は持ってきた専用の物で地面を掘っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

徐晃が賊を追跡して行った道の20里先には、とある町が広がっていた。

通常であれば活気がある町だが、今はその面影は無い。黄巾を纏った賊の襲撃を受けているからだ。

 

その賊に対して奮戦している義勇軍のお陰で壊滅とまでは行かないが、それなりのダメージを受けている。

敵の数は義勇軍の優に4倍以上の数を誇っている。それに対して持ちこたえているのだ。たいしたものである。

そしてその事を可能にしているのが三人の女性である。

 

「くそ…真桜!西の門は大丈夫か!?」

 

そう叫ぶ体が傷だらけの銀髪の女性。その手には鉄製の篭手が装備されている。

 

「おう、うちの所はまだまだ持ちこたえられるでぇ!」

 

そう気合をこめて返事をしたのは巨乳の紫色の女性。上半身は鎧など着ておらず、ほぼ下着同然の格好である。

 

「沙和も大丈夫か!?」

「大丈夫なのー!まだまだいけそうなのー!」

 

間延びした声が特徴的なサイドポニーをした女性…沙和は東の門で義勇兵の指揮を執っている。

その手には二振りの剣が握られている。

 

「しかし、こうまで数が多いと…やはり打って出るしか」

「あかん!死にに行くようなもんや!」

「そうなのー!それに真桜ちゃんが作った柵はまだまだ持ちこたえられるのー!」

 

傷だらけの女性は柵の向こうに見える黄巾の賊達に対して特攻を仕掛けようと思っていた。

何故ならこのままでは確実にこの街は落ちるから。今は兵士達が何とか食いついている状況だ。

しかし、それも柵があって漸く食いついているといっても過言ではないほど状況は悪い。

 

しかし、後には引けない。既に街に篭城しているし、何より街の民を守るため。

だが、そんな無謀な突撃を止める二人の女性。彼女らは傷だらけの女性とは親友の仲である。

だからこそ止める。まだ諦めるには早いと。

 

「だが……」

「なぁに、もう少ししたら官軍様が来てちょちょいのちょいっとあんな賊何て締めるにきまっとるわ」

「あははは、そうなのー。だから私たちは最後まで頑張るのー」

「沙和…真桜……分かった!」

 

そうして、決意を新たにして三人はそれぞれの持ち場へ戻ろうとした。その時

 

「伝令!楽進隊長!」

「どうした!?」

 

必死の形相で東門からの伝令が三人に向かって走ってきて、簡易な礼を取る。

その焦りを感じ取り、語気を荒げてしまう傷だらけの女性…楽進。

 

「東門の先から何者かが此方へやってきます!」

「何!?…敵か!?味方か!?」

「恐らくお味方かと思うのですが…」

 

そう言い淀む伝令兵

 

「官軍なのー?」

 

その伝令兵に首を傾げながら質問をする沙和…改め千禁。

 

「それが……たった一人のようです」

「「「はぁ!?(なのー!?)」」

 

伝令兵の言葉に驚いた一同は、その真相を確かめるべくそれぞれの兵士に激励を送り、東門へと走っていった。

 

 

 

東門に着いた彼女達はその光景に絶句した。

 

「あっはははは!最高!最高だよー!!」

 

門の上から全員で見ると、黄巾の賊に対して容赦なく切り刻んでいる一人の女性。

 

神速を誇る剣閃に誰もが両断され、その抵抗する意志ごと全てを刈り取り、華を咲かす。

東門の人間は殆ど彼女に殺到している。されど、全く止まる気配は無い。その圧倒的な物量を物ともせずに彼女は笑い。殺していく。

たった一秒で片手で数える以上の人数を惨殺していくその様は、本当にこの世の出来事であるのか。

 

そう思わせる程の凄まじさであった。

 

「…なんてお方だ」

 

まさに狂気。しかし、楽進はその人物を見てその言葉を零したのだ。

楽進は武器を持っていない。いや、正確に言うと腕に装備している鉄製の篭手である。

そして、その他にも武器を持っている。

 

「気」である。

 

彼女は気の扱いに長けており、気の弾を打ち出して敵を倒すことが出来る。

 

その彼女をもってしても、敵を嬉々として切り裂いて血風を作っている女性の気の操作は感嘆の息を吐き出させるほどである。

全身を強化しているのは勿論。その武器にも薄く気を張り巡らせて武器の損壊の保護とその切れ味を増している。

事実、何の抵抗も無く賊が持っている鉄製の剣ですら豆腐を斬るように抵抗を感じない。

 

「…西と北に兵を集中させよう。東は最低限の兵と私だけで十分だ」

「……お、おお。ほな、わたしは西の方へ向かうで」

「わかったのー。沙和は北の方へ向かうのー」

 

そうして、東門の兵は二人に連れられてそれぞれの所へ守備についた。

楽進も柵の向こうからではなく、単身戦っている女性の下へと躍り出たのであった。

 

 

 

 

敵陣中の中を一人で踊るように敵を斬っていく女性。勿論徐晃である。

 

「おおお!」

「しねええ!」

 

そう口々に徐晃に対して殺気を飛ばすが、彼女にとっては赤子が泣くより軽いものである。

血化粧で染めたその顔をその言葉が聞こえた方を振り向いて、既に突出された二つの槍を一閃して切り、もう片方の刀で二人の胴体を切った。

 

「あぎゃあああ!?」

「がああああああ!!」

 

その断末魔は徐晃にとって、最高の媚薬であった。

 

「ふふ」

 

手が霞むような速さで敵陣を縦横無尽に駆け巡っていると、一際目立つ女性が賊と対峙し、その気を含んだ手足、そして気の弾で絶命させていく。

 

「みぃーっつっけた!」

 

徐晃の目が見開かれ、口は弧を描く。

その女性を目指しながら邪魔をする賊を尽く切り殺しながらその銀髪の女性の方へ疾走し、目の前を遮っていた賊を左右に両断しながら、銀髪の女性に切りかかった

その銀髪の女性…楽進は突然前方から、賊が文字通り切り開かれ、その赤い華の後ろから神速の踏み込みをもってして相手は自身へと切りかかってきた

 

「何!?」

 

楽進は自身の気を全開にして、徐晃の剣撃を紙一重でその篭手でガードに成功したが

 

「うわああああ!?」

 

その力で東門付近まで吹き飛ばされ、転がる。

 

「いいねぇ…いいよ!」

 

徐晃は自身の攻撃をガードされた事により、更なる情熱が燃えた。

仕掛けてくる賊はもはや眼中に無い。徐晃に繰り出される剣、槍、矢、戟は全て切り伏せられ、それを手にしていた賊も切り刻む。その方向をチラッと見ただけで。

そして、一歩踏み込んで、楽進が吹っ飛んだ距離の半分を詰め、もう一歩でジャンプをして、楽進が転がる所に狙いをつけて両方の刀で切りつける。

 

「!?」

 

徐晃の攻撃のダメージを転がりながら受け流していた楽進に影が差したと感じた瞬間

今までに無い程の自身の中で発する警告を感知し、それに従って宙へ向かって篭手での防御をする。

その目に映ったのは宙で回転しながら二振りの刀を振り下ろそうとしている徐晃の姿。

 

そして衝突。ついで遅れての衝撃音と、衝撃波

 

気と気のぶつかり合い。だが、僅かに楽進の方が気の扱いに長けていた。しかし、その力は徐晃の方が圧倒的に軍配が上がる。

 

「ごはぁ!?」

 

楽進を中心に地面が小さいクレーター状に陥没するほどの衝撃を受けた彼女の内臓は少なくないダメージを受けて、肺に溜まっていた酸素が全て口から吐き出される。

しかし、ここで力を抜いたら確実に死ぬ。その事が彼女に火事場の馬鹿力を発揮させ、ぎりぎり徐晃と拮抗させる。

 

 

「ぐあああああ!?」

 

その篭手が徐晃の力に耐え切れずにひび割れていく。そしてそれほどまでに力が掛かっている腕の骨も悲鳴を上げていった。

 

「ふふ…いいよ。貴方の肉と断末魔…凄く感じそうだよ」

 

そう言葉にしたが、その瞬間徐晃はその場を引いて、剣閃を振るった。

それは止めではなく、周りの賊達が楽進目掛けて槍を突き立てようとしていた残骸が楽進の目に映った。

そう、あの一瞬で四方から来た槍を全て斬り、その賊達も血を噴出させながら大地に還っていった。

 

「…キミ達さぁ……少しは空気を読んでよね」

 

それはお前だという突っ込みを楽進は内心余裕だな…と思いながら、その意識を失ったのであった。

 

 

 




誤字脱字等御座いましたらご一報ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。