【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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12話

 

 

「……」

「…甘菜ちゃん」

「正直、申し訳ないと思っている」

 

あの後、楽進が気絶しているのを徐晃が気付き、舌打ちしながらも、殺さずに放置をしていたが彼女の仲間の李典と于禁が陣中へ飛び込んできて楽進を救出した。

一見すると楽進を守りながら戦っていた徐晃だが、楽進が気絶している位置…というより、周りの状況が異様であった。

 

まず、ばらばらにされている武器達に切り刻まれた死体。その中心に人が二人寝転べるような陥没…クレーターがあり、その中で楽進は気絶していた。

そして、楽進の篭手はぼろぼろになっており、且つ衣服もぼろぼろで体も所々痛んでいた。

 

しかし、咄嗟に徐晃がやったとは判断できないし、その判断をしている状況でもなかった為、すぐさま回収されたわけである。

 

結局徐晃は、官軍……許緒を将に置き、参軍として夏候淵を置いた部隊の援軍により、黄巾の賊が一旦拠点に戻るまで敵を尽く切り殺していた。

その数は800は下らない。取り逃がした賊以上の賊を殲滅している彼女の強さは相変わらずであった。

 

徐晃は兵を通して曹操に伝令を出していた。内容は簡単。

 

「気になることがあったので賊を追いかけます」

 

だけである。その後消息不明という事で曹操は若干怒りを感じていたが

そも、自分がある程度自由に動くことを許していたという事と客将扱いなのを理解していたためその程度に収まったのである。

此れが正式に曹操の配下であったならハードな夜のお仕置きであったのは確実であった。

 

そうして曹操軍も各将の下、軍備が着々と進んでいっていた中。

夏候惇が飛び込んできて街が襲われている件と、その襲われている街に化け物みたいな女性が暴れている報告も受けた。

 

「…徐晃ね」

 

確信的にだが、少し諦めの入った表情をして曹操が呟いた。

その言葉に荀彧、夏候淵、許緒の全てが曹操の心中を察した。

 

そうして、その街へと援軍を行うべく許緒と夏候淵が先発隊を率いて援軍に参ったという事なのだが

彼女達が見たのは見慣れた、されど見慣れてはならない光景を目にし、陣形を組んで突撃していった。

官軍が来ると少し抗戦をしていた賊だが、日も落ち始めており、若干の不利を悟ったのか、賊の拠点へと引き返していったのである。

 

その事に漸く気付いた徐晃は、満足したのか、刀の血糊を空を斬って全て飛ばし、鞘へと納刀して許緒隊へと合流を果たした。

その時、若干夏候淵から小言を言われたが、その活躍は目に見張るものがあったので大きな声では言えなかった。

 

その後、街へと入り、于禁、李典が率いている義勇軍を夏候淵が褒め称えた。

そこで楽進の状態を聞き、すぐさま治療をするべく数人の兵を連れて許緒、夏候淵、徐晃。于禁、李典が楽進が眠っている所へ行き

 

「…あれ?」

 

徐晃の一言で夏候淵が何かを悟り、問い詰めたところ

 

「……いやぁ、強そうな人物がこれまた気を扱っているから面白そうだなぁ…と」

 

という一言で全員徐晃に対して引いてしまい冒頭へと戻るのだ。

 

「…申し訳ないです。欲求に抗えませんでした」

「…はぁ。此れで彼女が義勇兵ではなければ刑罰ものだぞ……全く」

 

本当に反省しているように見える徐晃の姿に夏候淵は眉間の皺を深くしながら徐晃を見つめていたが、ため息を一ついた。

そう、楽進は正規の軍ではない。よって軍の法は適用されず、その集団は自己責任での行動が原則である。

また、戦闘中でもあり、徐晃は一応正規軍扱いなので、裁くとしたらそれほど罪は重くならない。義勇兵は一人も殺していないし(篭城していたため)楽進も死んでいないからである。

 

だが、それでも街の為に戦ってくれていた楽進が気絶したのは義勇兵の士気に関わっている。

現に、その士気も楽進の姿を見た兵士達中心に下がっていってしまっているのが現状である。

 

「…あの、欲求って……」

 

おずおずと徐晃に対して質問をしてくる李典

 

「…私、殺人快楽者なんですよ。それも極度の」

「……ホンマかい?」

「ええ、といっても大義名分があって官軍に追い回されないような相手じゃないと欲求は発散できませんが」

「むー!そうだとしても、凪を傷つけたことには変わりないのー!」

 

李典は徐晃の告白にドン引きしながら、その隣の于禁は楽進が受けた仕打ちに対して怒りを露にしている。

勿論、李典も内心は晴れないが、それがどんな原因であったかは聞くべきであろうと質問をした結果。ドン引きである。

 

「ふむ。しかし、ここで楽進が目覚めても戦場に出すわけにもいかん」

 

そうして夏候淵の視線が徐晃を射抜く。その徐晃は肩を上下に動かし

 

「じゃあ、代わりに私が戦場に出ますよ。…いや、次は大丈夫です」

「……まぁいい。我が軍の客将であるし、とやかく言うことは出来ん。だが、この件は華琳様には報告させてもらうぞ?」

 

射抜くような視線で徐晃を見ていた夏候淵は、怒気を露にしていた。

それはそうだ。守るべき人たちを守っていた勇敢な兵を徐晃の欲求と言う下らない事で失いそうになったのだ。

しかし、現状敵と義勇軍と曹操軍を見ると…

 

「それで、敵はどれくらいだったか?」

「あ、はい。ええと、敵の拠点にぎょうさん集合してたらしいのですけど10000はおるそうですわ」

「ううむ…敵は此方の三倍以上か…」

 

そう圧倒的にこちらの軍が負けている。因みに数は3600。曹操軍が3000と現在の義勇軍が600である。

もともと二倍以上居た義勇軍兵士はこの一日で半分以上も数が減ってしまっていたのだ。

だからこそ、徐晃の強さを利用しない手はないのだ。

 

「う…」

 

暗い顔の中軍儀を進めていくと、気絶していた楽進から呻き声が上がった。

 

「凪ちゃん!大丈夫なのー?」

 

その声にいち早く于禁が気付き、楽進の傍へ駆けつける

 

「おお!凪っち!いきてたんかい!」

 

そして李典も楽進の元へ駆け寄る。その顔は嬉しそうである。

そうして二人が楽進の顔を覗き見る。

 

「くっ…こ、ここは」

 

瞼をゆっくり開けた楽進は二人に体を支えられながらも上体を起こす。

それを見て、目線を同じ高さまで合わせた夏候淵が、申し訳なさそうに

 

「我が名は曹操軍の夏候淵と申す。楽進殿。この度は家の客将が迷惑掛けた…すまなかった」

「曹操…様!?っ!?」

 

その言葉を理解して律儀にも姿勢を正そうとするが、体がぼろぼろな為、その痛みに顔を顰める

 

「いや、そのままでいい。それで、此方が許緒だ」

「はい。楽進さん始めまして。余り無理しないでボクたちに任せてください」

 

許緒が楽進へ向けて礼をとり、身を案じる。

そして楽進に気絶から起きるまでの状況を説明する夏候淵。その表情は若干硬い。

 

「そして…貴殿を怪我させた人物……徐晃なんだが。実は我が軍の客将でな。本当に申し訳ないことをした」

「あ、いえ。此方も義勇軍の印等分かりやすいものを持っていなかったですし、怪我も自分の実力不足です」

「そういってもらえれば助かる。……ほら、徐晃」

 

そうして、徐晃が楽進の目線の高さまで膝をついた。

楽進は徐晃の瞳を見て、どこか吸い込まれそうな印象を受けた。

 

「言い訳はするつもりはありません。申し訳ありませんでした」

 

そうして真摯に頭を下げる徐晃の姿を見る楽進。

険しい顔であったがふっと表情が緩んだ。

 

「顔をおあげください。貴方がいたからこそ、西と北の門そして貴方がいた東の門は持ちこたえられました」

 

顔を上げる徐晃。目が伏せてあり、そのような姿を見たことが無い夏候淵と許緒は珍しそうにその表情を見る。

 

「それに、城門の上で貴方を見たとき、お声を掛けていればこのような事にはなってなかったかもしれません。なので、許します」

「…ありがとう」

 

伏せられた目を若干潤ませながらはにかんだその顔は見る者を魅了した。

そしてそういった魅力にあまりなれていない楽進は顔を真っ赤にさせて、ふいっと視線を外した。

 

「……本人が許すのなら私もとやかく言うつもりはない。良かったな徐晃」

「うんうん。皆仲良しが一番!」

 

その光景を見ていた夏候淵、許緒も本人が許しているのなら自分達も徐晃に対して怒りを露にしている事は、楽進に迷惑を掛けると思い引っ込める。

 

「于禁さんも、李典さんもごめんなさい」

「まぁーなんや。うちらもあの時みてたもんでな。確かに声を掛けるべきであったわ」

「うー…凪ちゃんがこういっているから、わかったのー」

 

于禁はしぶしぶであったが納得したのか、徐晃を許し、李典も楽進が言ったことを肯定し徐晃を許した。

そして、何ともいえない雰囲気が漂って来たところで夏候淵が、ぱんぱんと手を叩き。空気を入れ替えた。

 

「さて、皆が納得した所で本題に入ろう」

 

ぴりっとしたそれでいてじめっとした戦場独特の空気が軍儀をする場に漂う。

誰もがそれを感じ取り、楽進はそのままだが、円陣を組み互いに顔を見えるように立つ。

 

「まずは先ほども確認したように敵の数は詳細は不明だが此方の3倍以上と見ていいだろう」

 

夏候淵がこの場を仕切る。それはそうだ、彼女が一番適任だし、この状況で許緒の判断は正直完全に信を置けない。

 

「そして、我が軍は3000。義勇軍は…」

「600…明日動けて800位ですわ」

「合わせて3800…」

 

ぽつりと呟く許緒。今回の街は北、西、東の門があり、夏候淵たちは徐晃が切り開いた東門から街へと入ったのだ。

街の状況は倒壊している家屋は余り見当たらなかったが、火矢を入れられたのか、所々焼きただれた家屋が見受けられる。

その倒壊した家屋の材料などを使って李典が各門に柵を用意して徹底的な防衛線を敷いていたという。

 

「あすの昼頃には華琳様…曹操様が軍を率いて援軍に来るはずだ。それまで何としても持ちこたえなければ」

 

そう言い放ち全員の顔を見渡す。そこで徐晃が夏候淵の顔を見て

 

「私は一人なので遊撃で。危ないところの門の外へ出て賊達を惨殺しますね」

「…いやぁ確かに徐晃さんの強さは見たけど、次外へ出たら城の中へひけへんで?」

 

そう、明日の明朝から昼の時間まで持ちこたえれば確実に曹操の軍隊が来る。

夏候淵はそう見切っているし許緒、徐晃もそれは既に信じている。

そしてその彼女達の態度を見て他の三人もそれを信じているのだ。

 

だからこそ一度柵の外へ出たら隙を作るわけには行かないので、街へ引き返すのは難しいのである。

よって外へ出たら最後、6時間はぶっ通しで戦わないといけない。

いくら徐晃が馬鹿げた強さを誇っていても人間である。その時間ずっと戦い続けるのは不可能だ。

 

しかし

 

「12000を3に分けると……あー…」

 

宙を見ながら指を折って計算する徐晃。そうして計算がし終わったのか

 

「そう。4000ずつだとすれば、私でもそうですね…一刻すればそれくらいは殲滅できそうですよ……たぶん」

「ふむ。…それが理論的に可能でも、流石に一人でその数は…しかし、やってくれるのなら……任せた」

「了解」

 

徐晃は冷静に考えて流石に今回は死ぬかな?と思っている。

いくらなんでもそこまで長時間戦えば集中力が落ち体力が落ち集中力もかけてきそうだ。

よって半刻程度過ぎれば時間がたつごとに討たれる可能性も高くなっていくのだ。

 

それは徐晃も理解しているが、内心ではどうしようもなければずっと打って出るしかないと決心はしている。

 

…勿論、自身の欲求を満たす為。もあるが、守るのも一興と考えている徐晃も居た。

しかしその気持ちには気付かない。それもそのはず、その気持ちは楽進を怪我させてしまったという気持ちのせいだと思っているから。

 

「凪が動けへんから、私は今は柵の補修の指揮。で、明日は西門について指揮したほうがええと思うけど、どないしましょ?」

「そうなのー。私たちは今日と同じ動きの方が指揮も安定してできると思うのー」

「ふむ…よし、李典。柵の補修を頼む」

「よっしゃ!まかせとき」

 

そうして李典は軍儀の部屋から駆け足で出て行った。

 

そして、二人の意見に夏候淵は実際に戦場をシミュレートして考える。

まず割くのなら340ずつである。これで東と西は340の兵士がいることになる。

東はそうすると手薄になる徐晃に入ったほうがいいのか…と考えるが、夏候淵、許緒を別隊にして1500

それを二つの門に配置するのはナンセンスである。

 

であれば緊急対応として正規軍を割いて3分割したほうがまだましだ。つまり3800を三分割

約1200である。残りの兵は火矢が打ち込まれた際に消火活動にまわすと考えた。

徐晃は恐らく1000の働きを見せるであろうという予測から、やはりその場の状況に合わせて兵を配置したほうがいいが、基本1200という形に夏候淵の考えは落着いた。

 

「では、兵士を各門に1200人ずつ配置しよう。そこから斥候を出し、数が目測で多いほうに徐晃を投入し、徐晃がいった門の兵士を二つの門へと投入する」

「指揮はどうするのー?」

「指揮は私が中心で情報を管理したり、劣勢になった場合そちらの援軍。許緒は北門の指揮でいこう」

「了解!」

 

そうして細かい所も詰めて軍儀は終了した。

その間大人しくしていた楽進は、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「すみません…」

「いや、あの徐晃の攻撃から生き残っているだけで大手柄だ。そうだろ?徐晃」

「…そうなの?」

「甘菜ちゃんの攻撃に晒されて生きている人って殆ど居ないと思うよ!だって、甘菜ちゃん戦闘してるとき、華琳様と同じくらい怖いもん」

 

そういう許緒は徐晃が目の前で戦っていた光景を思い出す。あの時の覇気は曹操にも負けないほどであった。

ベクトルは違うであろうが、その殺しとしての才は本物であろう。

 

しかし徐晃は余り自覚は無い。確かに今この場の人間を殺すことは容易いであろう。

まず初速が違うし、この距離でいきなり殺しに掛かってきたら奇襲である。完全に徐晃が彼女達全員を血祭りに上げられるだろう。

…そんな事をしたら曹操と夏候惇に地の果てまで追いかけられそうだから絶対にやらないが。

 

「しかし、私もまだまだ修行不足でした」

「ふむ。その心掛けは立派だ。…それにしても、この兵数でここまで持っていたのだ、どうだ?此れが終わったら我が軍に入らないか?勿論三人とも全員だ」

「え?いいのー?」

「…私が、曹操様の軍へ?」

 

驚く于禁と楽進。それはそうだ。曹操軍といったらこの辺りでは有名な州牧である。

善政を敷き、その采配は見事しかいいようがなく、さらに軍も精強である。そんな有名な軍の右腕たる夏候淵が直々にスカウトしてきているのだ

驚くのも無理は無い。

 

「うむ。この戦が終わったら私が華琳様にお前達を推挙しよう。恐らく迎え入れられるだろうな」

「うんうん!李典さんも、于禁さんも楽進さんも、絶対大丈夫だよ!」

「が、その為にはここを生きて切り抜けるぞ!」

「「「おう!(なのー!)」」」

 

そうしてこの場は解散となり、明日の決戦へ向けて兵士一人ひとりに作戦を伝え、各々体を休めるのであった。

 

 

 

その夜中。楽進が体を休める部屋に一つの影が迫っていた。

 

静かに寝ている楽進の部屋に入った影、しかし

 

「何奴」

 

気配を感知した楽進はすぐに目を見開き、気を溜め、何時でも気の弾を打ち出せるように準備をした。

しかし、月の光に照らし出された姿。その正体は

 

「…徐晃殿でありましたか」

 

そうして安心して布団へと身を預けた。

 

「あ、吃驚させちゃったかな。ごめんね」

「いえ、それでどのような用件で?」

 

楽進は徐晃に対してそこまで恨んではいない。生粋の武人である彼女は正体不明の人物でも戦場のそれも刃で討たれるのであれば本望と思っているからだ。

それに、楽進は三人の中で一番強く、また楽進以上の強い人物に会った事はこの人生で無かった。

 

その自信が根底から覆されたのだ。徐晃によって。

起きて楽進が思ったのは修行不足という言葉であった。井の中の蛙。まさにこの言葉がお似合いであったのだ。

 

その自身の腐った常識を覆した人物。徐晃。それらの理由であまり恨んでいない。

それに楽進も負い目を若干感じているからである。普通であれば門の上からでも所属や此方の所属も表明できる。

といっても不手際は完全に徐晃にあったが、そこは真面目な楽進である。その事に若干の負い目を感じてしまっていた。

 

「あの、その篭手なんだけど…」

「ああ、これですか」

 

そうして机の上に目線を向けると、ひび割れた篭手が鎮座してあった。

気を纏っていたのにこの損壊具合は、楽進も初めてであった。それほど徐晃の力が強かったのだ。

 

「はい、知り合いに凄腕鍛冶師が居るのでこの戦が終わったら修理させてください」

「好意はありがたいのですが……そこまでして頂かなくても」

「そうですか」

 

そう返事をしてしゅんとなる徐晃。その姿が妙に楽進の心にダメージを与えた。

戦場であったときの気迫は何処へやったと言わんばかりの落ち込み具合に流石の楽進も戸惑った。

 

「あ、いや…その。お気持ちは凄い嬉しいのですが、その……」

「お金ですか?大丈夫です。これでもお金持ちなんですよ」

 

と、妙に生き生きした返事をして、流石の楽進もきらきらっと光っている目線に耐え切れず

 

「…それでしたら、ご好意に甘えさせていただきます。ただ、直すとしたら私の知り合いの鍛冶師へとお願いします」

「はい。任せてください」

 

徐晃は何故か嬉しかったのだ。人を殺すとは違った嬉しさ。

劉備との出会い、曹操との出会い。夏候惇、夏候淵、荀彧、許緒、そして三人の少女。

曹操軍へ入る前には面倒くさいという理由で殆ど人との接触を断ってきて、劉備との出会いを切欠に人々を観察した。

 

しかし、観察するだけでは殆ど何も分からない。人というのは難しく、しかし単純である。

その絶妙なバランスをとりながらコミュニティを広げていく。その輪に入らないとその人物がどういった者かは見極められない。

つまり、その新鮮な感覚に徐晃は嬉しさを感じていた。

 

と、同時に人に頼られるという感覚も嬉しく思ってきていた。

 

殺しとはまた違った嬉しさ。楽しさ。しかし、苦しさもある。

そう「不思議」な感覚なのだ。

 

でもまだ徐晃はそこまで理解していない。ただ、何となく嬉しく思っているという漠然とした感覚。

 

12歳の時徐晃は生まれたのだ。初めての殺人で。親に見離されて、信頼されていた人たちからも見放されて。

 

何処かで怖がっていたのだ。徐晃は、人との係わり合いを、自分を拒否する相手の目を。

関係ないと切り捨てていたのだ。しかし、今は漸くその「不思議」な感覚が掴めて来たのだ。

 

楽進の部屋を出て徐晃は空を見る。

 

満面の星空は劉備の故郷に滞在した夜の時と同じ表情を見せている。

 

「…うん。やっぱり不思議だな」

 

そうして自身に宛がわれた部屋に戻っていった。その後姿を星達が暖かく照らしていた。

 

 

 

 




誤字脱字等御座いましたら、ご指摘などをよろしくお願いします

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