【習作・ネタ】狂気無双   作:モーリン

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18話

 

 

 

北郷一刀は日常生活を送っていた筈であった。

何時もの朝、何時もの学校、何時もの下校であったはずであったのだ。

しかし、その日に限っては何時も通りではなかった。

 

目の前が光ったと思ったら荒野に投げ出されていたのだ。

 

これには彼も取り乱した。コンクリートジャングルが荒野の更地へ変貌してしまったのだ。

何処の世紀末だと思ったのは彼だけの秘密である。

 

運が悪く、三人組の賊に目を付けられたが、運が良く美少女三人組に助けられた。

 

そこで知る衝撃の真実。

この世界は北郷一刀が済んでいた地球の西暦2007年から約1800年も前の時代であったこと。

それを理解できたのは彼が三国志に付いて最低限の知識と、知恵、そして勇気と度胸があったからであろう。

 

「天の御遣い」

 

そんな聞きなれない…いや、彼が知っている知識にない単語が彼女達から出てきた。

その御遣いは天の国から流星にのってやってきて大陸の平和をもたらすと言う御伽噺みたいな、そんな存在。

北郷一刀という存在は彼女達三人組…劉備、関羽、張飛にとってはそう見えたのだ。

 

服の素材はこの時代にはない筈のもので、分けの解らない単語を使っている。それだけでそう判断したのだ。

いや、劉備にとって彼が天の御遣いかどうかはさして重要ではない。

現状彼女達の力はたったの三人である。それも、世間では全く名も知られていない、無名の三人。

 

何処から力を持ってくるか、劉備は悩んだ。

確かに、劉備を慕ってくれている関羽と張飛の武力は抜きん出ている。しかし、それでも彼女以上の威圧は感じなかった。

いや、彼女以上の禍々しい覇気を身につけている人間はこの世には存在しないだろう。

 

事実、関羽、張飛の威圧は確かに気圧される位には威圧感がある。しかしそれだけだ。

だが、この二人には自身と同じ志がある。それだけでも劉備にとっては心強かった。

しかし、それで何かが出来るほどこの世界は甘くはない。

 

少数の賊退治が自分達には精一杯であった。

どんなに頭を捻ろうとも、どんなに武を振るおうとも、彼女達の名は埋もれたままであったのだ。

 

そんな中聞いた占いの話。そう。「天の御遣い」だ

 

「天の御遣い」のネームバリューを利用し旗を揚げ、この国を救う為に動く。

自身の理想の為に様々な人間を殺すことになるだろう。しかし、それは絶対に避けれない現実である。

その事は当の昔に理解している。

 

彼女に……徐晃に守られたその日に。

 

自惚れでも自己満足でも、その先に人の笑顔があればそれだけでいいのだ。わがままでもいい。何と言ってくれてもいい。

だけど、理想は譲れない。その日に誓ったのだ、世を正すと、彼女を救うと。

 

「…つまり、神輿になってほしいという訳か」

 

劉備と関羽、張飛は飯所で彼を説得した。その中で気付いたのだろう、そして北郷一刀は承諾したのだ。神輿になるということを

ちくりと劉備の心が痛む。彼は自分の理想の為に犠牲になってしまうのだと。

 

だが、それは思い違いであった。

 

この世界は歪んでいる。それを真摯に受け止めた彼は劉備の理想に賛同し、自身の立場を大いに利用してほしいと宣言したのだ。

この度量の広さには驚いた。いや、彼が本当に「天の御遣い」だったのかもしれない。そんな思いが劉備の胸中を埋め尽くした。

 

彼なら、本当の意味で自身たちを受け入れてくれるかもしれない。

 

そんな希望を孕んで、今後の方針を話し合った。

そして劉備の旧友である公孫賛をたずねて、客将として雇ってもらい、実践を経験した。

自身達が相手に出来なかったほどの規模の賊。初めての兵を引き連れての戦争。

 

しかし、関羽、張飛、そして趙雲の活躍で難なく賊を撃破し、街の平和を守れた。

向かい入れてくれたのは街の人の笑顔。その笑顔を見て改めて決意を固めたのだ。

 

絶対に笑顔を絶やさない国にすると。

 

その決意を自分達を認めてくれた北郷一刀に話した。ここだけではなく、この国中の笑顔を取り戻したいと。

そして彼は認め、公孫賛の所から義勇兵を徴兵し、武具などを支給してもらい、旅に出た。

 

その際にかの名軍師、諸葛亮と鳳統を仲間に入れて。

 

旅は順調であった。劉備軍は類稀なるブレーンを二人も手に入れて、義勇軍と天の御遣いという事を生かして各地の賊を討伐して行った。

 

そして現在、たった5里先には今暴れている黄巾賊……別名、黄巾党の重要拠点が陣を張っている。

ここを義勇軍だけで落とせば、劉備という名は各地へと広まる。しかし、リスクが大きい。相手は20000に及ぶ軍である。

対する劉備軍は10000そこそこ。邑からも義勇兵として戦ってくれる者たちが付いてきてくれたお陰だが、二倍も兵力差がある。

 

だが、やるしかない。

 

ここで躍進しなければ劉備の理想は叶えられないからだ。

よって二人の軍師は策を練る。国中の地形は彼女達の頭の中に入っており、ここの地形も大まかに把握している。

とった策は荀彧が曹操軍へと献策したものと殆ど同じ、深く引き寄せての挟み撃ちである。

 

そして作戦が開始された。

 

囮役を関羽。そしてもう一方の隊は張飛での挟み撃ちである。

作戦はギリギリであった。黄巾党のその物量で関羽隊は徐々に押し込まれていく。しかし、ここで救援に行くのは策が成らないのと同義。

黄巾賊の殆どを街道までおびき寄せなければならないのだ。そうしないと逆に挟み撃ちに合い、劉備軍は壊滅の危険性が飛躍的に高まる。

 

それは軍師としてはナンセンスである。

 

だが

 

「雛里……愛紗を救援しにいこう」

「ご主人様!?」

 

雛里と呼ばれた彼女…鳳統はご主人様…北郷一刀の方向へと体を向ける。

彼の表情は渋い。その渋い表情の原因は最前列で戦っている関羽隊が今にも敗走しそうだからである。

4000にまで割いた関羽隊は既に2500を切っている。何時背走しても可笑しくはない状況なのだ。

 

「…駄目でしゅ。今愛紗さんを救援に行く事は軍の敗北を意味します。…信じてあげてください」

「でも!?」

「ご主人様」

 

彼は声がしたほうへと振り向くと、桃色の髪を風に靡かせて抜刀している劉備の姿が目に飛び込んできた。

その表情は険しい。

 

「桃香…」

「ご主人様。今は耐えなきゃいけない時だよ。それに、仲間を信じる事はとっても大切だよ?…大丈夫。天は私たちに」

 

そこまで言って瞳を閉じ、そしてあける。爛々と輝くその瞳には迷いは無い。

その視線の先は北郷一刀を見ているのだろうか、それとも別の何かを見ているのだろうか。

傍で見ていた鳳統には解らなかった。

 

「味方している」

 

その言葉が一刀の耳に届いた瞬間、関羽隊と相対している黄巾賊の部隊の半分が一気に陣がある所へと戻っていった。

そしてその隙に張飛隊が街道へ躍り出て一気に残った賊軍を殲滅しだした。

正に怒涛の勢い、今まで我慢していた鬱憤を晴らすかのように関羽と張飛が暴れだす。

 

「…ふふ」

 

一気に形勢が逆転した義勇軍の士気は高い。関羽と張飛の無双で敵は吹き飛び、相手の士気を下げていく。

その光景をぽかんとした表情で眺める北郷一刀。その胸中は驚きでいっぱいであった。

 

「さぁ、ご主人様!反撃開始だよ!!全軍反転!攻撃態勢をとれ!」

「「「「おおー!!」」」」

 

関羽隊に混じり、総大将の劉備隊も賊を殲滅するため戦線に加わる。完全に戦場は劉備軍へと傾いていた。

 

「桃香」

「ん?何?ご主人様?」

 

驚きから漸く立ち直った北郷が劉備に声を掛ける。

その声に首を傾げて彼の方を見る劉備は先ほどまでの爛々とした瞳はなりを潜めていた。

 

「一体、何があったんだ?」

 

当然の疑問であった。

余りにもタイミングが良すぎる。劉備に何かが舞い降りて来たと思わせるほど、当初会った劉備とはかけ離れていた。

まるで、正史に出てくる劉玄徳その人のような、付いていきたくなるカリスマ。

 

しかし、それは北郷一刀にとっては勘違いであった。

 

そう、彼女こそが「劉玄徳」なのだ。

 

「ん~…女の子はね秘密が多いの」

「は?

余りにも意味不明な答えを聞いて北郷は目が点になった。

くすくすと笑いながら賊の方向を見る劉備は、小悪魔を連想する様だ。

 

「んふふ~…なーんてね」

 

ぺろっと舌を出して北郷を見る劉備。

 

「ただ、朱里ちゃんの献策で「危なくなったら偽の情報を掴ませて引き返させ、その間に敵を殲滅いたしましょう」だって」

 

そう、かなり深くまで引き寄せたのは張飛隊が挟み撃ちにならないようにする為。

だから関羽隊はぎりぎりまで戦線を保つ必要があった。しかし、一旦分離してしまえば後は烏合の衆である。

早期殲滅で向かってきた残りの賊を高い士気のまま迎え撃ち陣を占領する手筈なのだ。

 

張飛隊の参軍に諸葛亮をつけた理由は保険の為である。

ギリギリを見極めて、相手が掛かるであろう時間を算出し、偽報を出す。

彼女にしてみればそれ位造作でもないのだ。

 

「は、はは…流石朱里だ」

 

安心したのか、納得いったのか。力ない笑みを零しながら既に残り少ない賊達を見る。

 

「うん!流石だよね」

 

にこにこしながらそう返事をする劉備。しかし、彼女が見せた輝きは本物だ。

だが北郷はまだ気付かない。その輝きは勘違いだったのかと思っているのだ。

あの一瞬の輝きは刹那の如くであった。そう思うのも無理は無い。

 

「あわわ、ご主人様。私たちの軍の向こう側から旗印が」

 

隣の鳳統が魔法使いのような帽子が落ちないように両手で押さえ、慌てたように二人に伝える。

その声に反応して北郷と劉備は関羽たちがいるその先を見つめると、確かに旗印が見える。

 

ここからだと見えるが、敵と相対している関羽隊とその背の張飛隊は見えていないか、気付いてないか。

何れにせよ素早く近づいてくるその旗印にはとある漢字が一つ使われていた。

遠めでも確認できる蒼い旗印の下に輝いている一つの字それは

 

「…曹?」

 

その文字にピンと来る北郷。この時代で曹で有名どころといえば

 

「あれは、曹操しゃまの軍でしゅ!…噛んじゃった」

 

彼の胸中を読み取ったと思われるタイミングで鳳統がそう伝える。途中で噛んだのはご愛嬌という奴である。

 

「我らが盟主、曹孟徳様が剣!夏候元譲が助太刀いたす!全軍、突撃ー!!」

「「「おおおおおお!!」」」

 

あっという間に賊を関羽隊と張飛隊と協力していって殲滅した。

その際、張飛隊は諸葛亮の指示で曹操軍を邪魔しないように動き、関羽隊と合流した。

 

「「ご主人様!桃香様!」」

「お兄ちゃん!桃香!」

 

前方から軍を率いて劉備たちの元へと駆けてくる関羽、張飛、諸葛亮の三人。

三人が怪我も無く、無事だとわかってほっと一息を付く。いくら彼らが強く、知略に長けていても心配なものは心配なのであった。

 

「皆!」

 

それに呼応するように劉備達もかけてきた三人へと駆け寄る。

 

「ご無事で何よりです」

「愛紗達こそ、無事でよかったよ」

「鈴々は強いから負けないのだー!」

「はわわ…」

 

皆で手にとり、しっかりと生きていることを確認する。あんな死が行きかうところにこんな少女達を投入するなぞ、北郷がいた天の世界

すなわち、未来の世界では決してありえない。それがいくら力があろうとも。だが、この世界はそんな悠長なことを言ってられないほど切羽詰っているのだ。

誰にも悟られないようにほっと息を吐く北郷。その内心は本当に彼女達が生きていて良かったという安心感でいっぱいであった。

 

「伝令、劉備様」

 

そんな中一人の伝令兵が彼女達の元へと駆け込んできた。臣下の礼を取り伝言を伝える為、口を開く。

 

「どうしたの?」

 

全員が伝令兵の言葉に耳を傾けるように静かになる。

その様に伝令兵は緊張してしまい、若干冷や汗を垂らすが仕事はしなければならない。

 

「曹操様が劉備様へと取り次いでもらえないかと」

 

その言葉を聴いて、諸葛亮と鳳統は真剣な顔つきへと変化する。

かの曹猛徳は何をもってして自分達の義勇軍の長、劉備と会いたがっているのか。

真意は解らないがメリットデメリットで考えると、ここは彼女と会っていた方が今後の為だと、判断し互いに頷く。

 

そして口を開こうとしたとき

 

「いいよ」

 

軽く返事をする劉備。あたかもちょっとそこの店で饅頭買うね。といった具合の軽さである。それに驚く面々

 

「と、桃香様。いいのでしゅか?」

 

確かにあっておいて損は無い。しかし、それはまだ自分の…諸葛亮と鳳統の意見であり、主君が頷くかどうかはまだわからなかったのだ。

だからこそ問うたのだ。本当にいいのかと。

 

「うん。会って損は無いし……って、それよりも曹操さんってどんな人物なんだろう?」

 

全身で、私。わかりません。といった具合にクエッションマークを表現する劉備は天然なのだろう。

その姿で全員の力が抜けた。

 

「ええとでしゅね…」

 

そうして諸葛亮や鳳統が曹孟徳という人物に付いて説明をする。

州牧としても有名で、その政治手腕は見事の一言、覇道を歩むものにして、それを誇りとする。

人、金、物と全て揃っている完璧超人なのだ。……と言っても、大きさで言えば公孫賛。財力でいったら袁紹の方が長けているが、それでも特筆するくらいの規模である。

 

「ほえー…すっごいんだね」

「そうでしゅ…すね。彼女の誇り高さは尊いものです」

 

諸葛亮は曹操の誇りを認めている。劉備と思想は違えど、この国を憂いその力で世を太平へと導くその生き様は

どんな人間が見ても鮮烈に映るほど、輝かしい。

 

「あら、褒めて頂けるとは光栄ね」

「何奴!?」

 

この陣営では聞きなれない声。その声に反応した関羽がすぐさま音源の方へと刃を向ける。

 

「控えろ!このお方こそ我らが盟主、曹孟徳様であるぞ!」

 

だが、その刃を向けた関羽に叱咤の声が入る。

全員が振り返ると、そこには金髪のツインテールを風に靡かせ、堂々と歩く一人の少女。曹操。

その両隣には夏候惇と夏候淵を引きつれ、劉備陣営と顔を合わせる。

 

「始めまして、劉備殿。我が名は曹操。覇道を往く者よ」

 

噴出する覇気。もはや形になっているのではないのかという威圧感。それに若干怯んだ関羽と張飛。

諸葛亮と鳳統は北郷の後ろへとじりじりと下がるほどである。その北郷も、冷や汗を垂らして曹操の一挙一動に固唾を呑むほどである。

 

だが、この場でその覇気を正面から受け止める人物がいた

 

「はじめまして曹操さん。私の名前は劉備。劉玄徳と言います。宜しくお願いします」

 

にっこりと笑ってお辞儀をする。その細められた瞳から覗くのは不敵に燃える信念の炎。

その瞳を見た瞬間曹操は、にやりと笑い、思う。

 

 

ああ、ここに居た。ここにも居たのだ…………英雄が。

 

 

それが曹操と、劉備の初めての邂逅であった。

 

 

 

 

 

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